(0)
遠くに見える鉄橋の骨組みが、その背後に沈んでいく夕日を切り取り、光を散らしていた。その一筋が、曇った窓ガラスを通して、この部屋に淡い陰影をつくっている。
部屋――そこは、部屋と呼ぶことに簡単には賛成できない有様だったが、むしろ廃墟の一角と称したほうがしっくりくるような様相だったが、上下左右前後をコンクリートで固められた箱のことを部屋と呼ぶのなら、そこは確かに部屋だった。
「…………」
革のソファに腰かけていた男が、足を組み替えた。ライターを取り出しながら、煙草をくわえたあごを持ち上げて瞳を左右に振る。
今、ここには自分を含めて三人の人間がいる。
右側の長椅子に座っているのは、老いた男だった。人生の酸いも甘いも酸いも酸いも噛み尽くしたようなしわの刻まれ方をしていて、じっとタイルを見つめている。
つづいて、男は左側を見た。
大人ひとりくらいは横になれそうな大きなソファの上。
そこに――女の子がいた。
両手両足をガムテープで固定され、小さな口も同じくぴったりと封じられている。一時は抵抗したものの、今は涙を溜めた瞳をこちらにむけているだけだ。善人であるのなら、それを見ただけで良心の呵責に潰されてしまうであろう、そんな表情だった。
しかし。
しかし――どうしてこんなことになってしまったのか。
男は誰かに、もしくは自分自身に説明を求めるように天井を仰いで、煙草に火を灯した。