Neetel Inside ニートノベル
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<吸血妖精 EL-FIRE>
Blood 3  わが名はリリス=ブラックヘッド

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 ディディルの森は主に魔法動植物を放して自然栽培させている区画で、なかには凶暴な生き物もいる。
 だから原則としては立ち入り禁止なわけで、いま私の前にもKEEP OUTの封がしてあったが手刀でぶった切ってやった。
 ひらひらとテープが夜空に舞い上がっていく。
 エルフは森から来た生きものだ。
 それを森へと誘うとはいい度胸してる。
 膝をたわめて、私は一息に木々の中へと潜り込んだ。
 頬を小さな葉がこすっていくのが気持ちいい。
 吸血鬼になる前は、一度三角飛びしなければ高い枝まで届かなかったが、いまなら瞬時に登れる。
 なんだか、より森に近づけた気がする。汚れた血になってしまったのに。
 ふふん。私らしくないか、こんな感傷?
 私は曲芸まがいの軌道で、吸血鬼のにおいを追った。
 パスのにおいには、少し血のにおいが混じっている。
 許さん。
 あれは私のものだ。
 森を切り裂く弾丸となった私の前に、黒いマントが閃いた。
 追いついた。
 やつだ。
 また人の形をとっているようで、パスは横抱きにされてぐったりしている。
 私はそばにあった枝を折ると、それを一直線に投げた。
 人が投げればただの嫌がらせだが、吸血鬼が投げればそれは立派な槍となる。
 即席の槍は木々をどかせる勢いで吸血鬼へと接近していく。
 首のない吸血鬼が身体だけで振り向いた。
 ザンッ!
 それは確かに吸血鬼の身体を貫いた。
 パスの腹を。
 貫かれたパスが、血を吐いた。
 首なし吸血鬼の側に霧が固まり、それが口の形をなした。
「ははは、バカが、俺が盾にしないとでも思ったか? 人質を? なぜ? 吸血鬼は迷わないッ! それは人間の特性なのだからッ!」
「つまりノータリンの考えなしってことだね」
「んだとォッ! ハッタリぬかすなッ!!!」
「ふふん。このリリス=ブラックヘッド、雑魚にハッタリかますほど脆弱じゃない」
 そのときには、もう事態は首なしが考えているほど悠長じゃなくなっていた。
 私の手には、つやつやとした赤い綱が握られていたのだから。
 それは、固くしなやかな綱で、パスの口元へと繋がっていた。
 高速で移動しているためブレる視界のなか、パスは確かに笑っていた。
<ビィ・ティ・ラー……!>
 私は綱を自分の身体に巻きつけて、そのまま地面へと落ちていった。
 回転しながら、糸巻き機のように。
 巻き取られる綱を握ったパスに引きずられて吸血鬼ががくんと姿勢を崩す。
 霧の口がさえずる。
「く……そ……液体硬化魔法か……こんな、こんな初歩的な手にィッ!!!」
「緑の国にいらっしゃーい♪」
 私たちは、真っ逆さまに草木茂る森の地面へと落ちていった……。




 ドンッ!



 お互い、足が沈み込むほどの衝撃を受けながらも、よろけもせずに対峙する。
「てめえ……味なまねをしてくれたな」
「ふふん、咄嗟に切断魔法も唱えられないとはね。あんた、魔法の腕はC級ってとこ? それがいやで吸血鬼になったとか?」
「べつに……」
 霧の口は少しまごついたようだった。
「ただ、生まれながら、人間はエルフの剣技に及ばない。それが嫌だっただけさ」
 吸血鬼は、何もない虚空に手を伸ばした。
 すると、夜空に輝く星に、黒い隙間が生まれた。
 闇だ。
 そこにずいっと手を突っ込むと、するすると一振りの剣を抜き放った。
「へえ、四次元魔法の使い手としては認めてあげてもいいよ」
「ほざくな」
 吸血鬼はパスの身体を脇へ放った。
 まだ腹の傷が癒えていないパスは苦しげに呻くと動かなくなった。
 すぐに治癒するだろうから心配はしない。
 吸血鬼は、剣を両手で構えた。
 脇をしめ膝をやわらかく使ったいい姿勢だ。
「我が名はデュランダル=ハーニービート。裏切り者の御首頂く」
「決闘のつもり? 無理しちゃって」
「うるせえッ! バラバラにして流水の上にさらしてやるぜッ!!!」
 吸血鬼は、たわめた膝をバネにして弾丸のように私へ一直線に突っ込んできた……。


       

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