Neetel Inside ニートノベル
表紙

カインド・オブ・ブルー
第1話『空中庭園エボラ』

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 街の地下。幾重ものパイプが張り巡らされ、ジャングルのようだ。青年はそのパイプを下に下に降りていき、輝く光の玉を見つけた。青く淡い光を放ち、青年ほどはあろうかという大きさで、その玉からパイプが伸びている。
「ゼン! 五番バルブを締め直せるか!!」
 上からしわがれた力強い声が聞こえる。青年――ゼンは「了解!」と返事をし、玉から伸びるパイプ。それにぶら下がる札を一枚ずつ確認し、五番と書かれた物を見つける。そのバルブを、腰にぶら下げていたレンチでしっかり締め直す。
「じいちゃん終わったー!!」
「よし、早く上がってこい」
 ゼンは素早くパイプを掴んで、まるで猿の様に上へと登っていく。薄暗い中に、人一人が通れそうな四角い穴が開いており、ゼンはそこから外に出る。
「お疲れさん、ゼン」
 穴から頭を出すと、いきなり頭に手を置かれ、小さく悲鳴を漏らしてしまう。
「危ねえなじいちゃん!」
「はっは! いいじゃねえか。労いなんだしよ」
 穴から体を出すと、そこはカウンターの中だった。小さな室内に、石膏で固められ、ところどころ削れた壁と、木製のカウンターがある。その内側にゼンは出てきたのだ。
 ゼンの前に立つ男は、ボルト・プライマリー。日に焼けた黒い肌に、白髪を短く芝生の様に生やしている。白い髭も、同じ様に短い。ゼンと同じ灰色のつなぎを着ており、筋肉が岩山の様に盛り上がっている。顔は谷の様なシワが刻まれた精悍な顔つき。それとは対照的に、ゼンは白い肌をした華奢な体躯。ボサボサの金髪。その前髪をゴーグルで押し上げている。鼻筋も整い、目も大きくボルトとは対照的な顔つきをしている。
「ゼン。今日最後の仕事だ。外に積んであるパイプ、全部持って来い」
「はいよ」
 ゼンはカウンターから出て、ポツンと備えられたドアを押す。
 開けた瞬間、少し強い風がゼンを通りすぎていく。一瞬目を閉じ、次に目を開いた瞬間。見えたのは蒼く突き抜ける様な空だった。

 木でできた床に一歩踏み出す。そこはまるで、大きな船の甲板の様な場所だった。

 そこは空に浮く船の上。海の代わりに雲に浮く、都市船『エボラ』
 大きな海賊船の様な見た目だが、普通の船と違うのは、マストがあるべき場所にあるのは大樹。それも木の幹を掘り、街をその溝に建てたという、まさしくツリータウンだ。

「えーと。パイプパイプ……」
 首を動かし、パイプを探す。すると、甲板の端に丸太のようなパイプが三本重ねられていた。そのパイプを脇に挟み、先ほどゼンが出てきた民家の壁に立てかける。
「よしっ」と額の汗を袖で拭いて、民家の中に戻る。ボルトが、カウンターの中で座り、何かの書類を読みながらゼンを待っていた。
「ああ、終わったか」ボルトは書類から視線を上げ、ゼンを捉える。「どれ。そろそろ飯にするか」
「やっとか……。腹減りすぎてヤバいよ」
 二人は自宅から出て、石畳が敷き詰められた緩やかな坂道を歩いていく。一際大きな開けた場所――中央広場を抜け、少し行った所に、酒場『グリーングリーン』がある。そこまで大きな店ではないが、エボラ憩いの場として賑わっている。ボルトがドアを開ける。
「いらっしゃーい! プライマリー御一行さんっ」
 ダンスホールほどの広さを持つ、いくつものテーブルが規則性なく並ぶ店内。まばらに客入りもある中、忙しそうに動き回るエプロン姿の少女が笑顔で出迎えてくれた。
 短い茶髪を赤いリボンで結わえ、キャミソールとホットパンツという露出度の高い装いに白いエプロンをしているため、さらに扇状的な格好になってしまっているが、少女はまったく気にしていないのか、二人をカウンター席に案内する。彼女の名はミーシャ・スプリント。ゼンの幼なじみだ。
 ゼンとボルトの二人がカウンター席に並んで座ると、ミーシャが「ご注文は?」と、笑顔を固定したまま言う。
「いつもの」と二人は同時にミーシャを見る。
「おっけー」
 カウンターの中に入り、その奥の厨房へと引っ込んでいくミーシャ。取り残された二人は、どちらからともなく他愛のない話を始めた。基本的には仕事の話。この船の生活テクノロジーは、この二人が握っている。だからこそ、というわけではないが、彼らはそういう話は自然に出るのだ。

 時を同じころ、都市船エボラ近辺の空域。空中を滑走するバイクに跨った少女は、とにかく少しでも距離を稼ごうと躍起になり、アクセルを思い切り回す。彼女は被った黒いベレー帽が吹き飛ばされないよう押えつけ、雲の中に突っ込む。
「ぶはっ! ……ああ、もう最悪! 空賊のやつらめ……! 『アテナ』をあんな目に合わせて……」
 先程の光景が、彼女の脳裏によぎる。
 逃げ惑う人々。燃え盛る家屋。流れる血。その中には彼女の知り合い、家族がいた。それでも彼女は、皆に未来を託され逃げてきた。私以外の生き残りはいるだろうか? それを考えると、悲しくなる。自分が最後の生き残りだと考えると、孤独で押しつぶされ、涙が搾り出されそうだ。
 ふと、サイドミラーが目に入る。そこには、小型の飛行船が映っていた。真っ白に塗り潰され、バルカンなどで武装された、飛行船。まずい、と彼女は近くの雲に潜り込み、真下に向かって飛び出る。
 と、その時、エンジンから何かが引っかかった様な嫌な音がする。
「え、なに、ちょっと!」
 ブレーキをかけようとするが、効かない。古いバイクを引っ張り出し、突然フルスロットルで蒸かした結果だろう。
「うそでしょ……このまま、地上まで……!?」
 顔から血の気が引く、そこで、彼女の真下に一つの都市船が見えた。大樹が特徴的なその船は、エボラという名前だったはず。巻き込んでしまうのではないかと考えるが、そんな彼女の気持ちなど一切意に解さず、バイクは都市船エボラへと落ちた。


 そして、酒場グリーングリーン。
 ゼンとボルトは、ミーシャを加え、食事を初めていた。ゼンはハンバーグとパンプキンスープ。ボルトはステーキと赤ワイン。
「どう? 美味しい?」
 ミーシャがカウンターに肘を突き、ニコニコと二人を見る。
「美味い! 相変わらずミーシャの飯は美味いなあ」
 ハンバーグをナイフとフォークで丁寧に切り分け、大きな固まりを口に頬張る。ボルトも、同じ様にして黙々とステーキを食べる。レアに焼かれたステーキを口の中で咀嚼し、それを赤ワインで流しこむ。ワインはエボラ名産の物。空中庭園と呼ばれるだけあり、エボラでは農産が活発なのだ。
「いえいえ。ところで、私そろそろ騎士団の訓練に――」
 と、ミーシャの言葉を遮るように爆音。船全体が大きく揺れ、ゼン達の食事が床に落ち、皿が割れた。驚きに、思わずゼンはカウンターに突っ伏してしまうが、ボルトは訝しげに入り口の方を見るだけで代わりはない。ミーシャも、床に落ちた皿を心配擦る程度には余裕を見せている。
「な、なんだあ?」
「大きな揺れだが、重量はたいしてなさそうだな。位置は、恐らく甲板……」
「ほ、本当かよじいちゃん……」
 我が祖父ながらすげえな、と感心し、ボルトの顔を見るゼン。言うや否や、ボルトは立ち上がり、「行くぞ」とゼンの方も見ずに店から飛び出していった。
「行動早いなあじいちゃんは。……ミーシャはどうする?」
「もちろん、あたしも行く」
 カウンターから飛び出したミーシャは、エプロンを脱ぎ捨てボルトの後を追うようにして走っていく。ゼンもその背中を追い、ボルトの言う通り甲板へと向かった。
 石畳が敷かれた坂道を下り、甲板まで降りる。子どもが何十人で遊んでも足りない様な広いその場所に、ぽつんとバイクの残骸。そして、その横にはバイクを心配そうに見つめる一人の少女がいた。黒いベレー帽に、ゴスロリ。青い髪はまるで空のように鮮やかで眩しい。ゼンは、先についていたミーシャの肩越しに、その少女を見つめていた。――正確には、見惚れていたが正しい。少女の美しさは新鮮だった。そんなゼンの熱い視線に気がついたのか、少女が二人の方へ視線を向ける。
「あ……ご、ごめんなさい。落ちてきてしまって」
 ミーシャがゆっくりと彼女に近づく。そして、人懐っこい笑顔で「いいえ。気にしないで。ここは都市船エボラ。――あ、あたしはミーシャ・スプリントで、ここの自警団『エボラ・ハーツ』の一員です」
 それを聞くと、何故かバツの悪そうな顔をする彼女。
「私はクア・ロイツェ。……都市船アテナの、住人です」
「アテナ……。聞いたことないなあ」
「あ、俺はゼン・プライマリー」
 一瞬出遅れたとばかりに、ゼンは慌ててミーシャの横に立ち自己紹介。クアも「どうも」と頭を下げる。
「……そ、それより、すいませんけど。バイクを一台貸していただけませんか。私今、空賊に追われてて……!!」
「バイク? んなもん借りるより、ここに隠れた方がよくないかな?」
「そうねえ。……それに、貸せるバイクはないし。ゼンがあれ、修理してあげたら?」
 まるで丸めた紙の様にぐしゃぐしゃに潰れたバイクを指差し、割と真剣な表情を見せるミーシャ。しかし、ゼンにはもはや修理不可能に見える。
「いや、ミーシャ……。これは無理だって」
「壊れた物直すのが仕事でしょう?」
「直せる限度があるって! 医者だって、人を治すのが仕事だけど、死人は蘇らせられないだろ」
「ああなるほど。それはわかりやすい」
「……あの、だったら早くこの空域を離れないと! 空賊が来ちゃいます!!」
「……やー、今更遅いんじゃない?」
 ほら、と、ゼンはエボラの進行方向を指差す。白い飛行船が真っ直ぐエボラに向かって飛んで来る。
「来た……!! お二人は早く逃げてください!」
 遠慮なしに飛行船はエボラへと乗り付け、中から三人の男が現れた。両者一様に、バンダナと薄いベストを着ているので、下っ端だろう。
「いたな、クア・ロイツェ」下っ端の一人が、クアに近づいて行き、にやにやと嫌らしい笑みを浮かべる。
「我々と共に来い。船長がお待ちだ」
「ちょっと?」
 ミーシャは、太ももに巻かれた対のベルトの片方から小振りの鋭いナイフを取り出し、それを空賊の首もとに突き立てる。
「……ここの自警団を無視するなんて、いい度胸じゃない」
「じ、自警団……?」男の首筋に汗が伝う。おそらくはミーシャの動きが全く見えなかった事故の恐怖だろう。「そう。都市船エボラ自警団エボラ・ハーツ。その一員、ミーシャ・スプリント様を知らないのかしら?」
 男は一瞬だけ、思い出そうと努力したのか目だけで上を見た後、「知らん」と唇を釣り上げる。その瞬間、ミーシャはもう片方から大振りのナイフを抜き、雷のような速さで男の鳩尾へ柄を叩き付けた。
「ぐへ……っ!?」
 男は何をされたかわからない内に、鳩尾を押さえて膝から倒れ込み、気絶した。
「無知は罪なり。私を知らぬが運の尽き。覚えときなさい雑魚共!! 私の名前はミーシャ・スプリント。狂乱春雷(クレイジーサンダーロード)の異名を持つ女!!」
 そう叫び、残りの数人に突貫するミーシャ。
「こいつ、強いぞ!!」
 仲間に声をかけ、注意勧告。そして、全員が各々の得物を抜き、ミーシャへ襲いかかる。
「うらぁぁぁ!!」
 棍棒を持った男がミーシャへと突っ込む。振り下ろそうと頭の上に構えるが、それが下に落ちることはなく、ミーシャのハイキックが男の横っ面を捉え、吹っ飛ぶ。一瞬、ミーシャはその男を目で追ってしまい、迫り来るナイフの男にその隙を狙われてしまう。
「いただきだ」男のくの字に曲がったククリナイフがミーシャの腹へと飛んでくる。しかし、それを大きなナイフで受けガード。
「ばーか。あたしにナイフで挑むなんて。ずいぶん自信があるのね?」
 そうして、二人はナイフで打ち合う。金属同士がぶつかる甲高い音が辺りに響く。
「すごい……。何者ですか、あの人……」
 クアは、ミーシャと男の戦闘を感心した様に見つめている。
「アイツは、この都市船最強の女。大振りのナイフ『ストラトス』と小振りのナイフ『キャスター』を操る、俺の幼なじみだよ」
「へー……。って、あの、ゼンさんは?」
「ん? 俺? 俺はただの整備士」
 にっこりと、ミーシャに倣った笑みを見せる。警戒心を解かせる為の笑みだったのだが、それが成功したかはわからない。

 一方のミーシャは、打ち合いを楽しんでいるかの様な笑みを見せながら、男のナイフを弾き飛ばし、ストラトスの峰で首筋を打ち、気絶させた。倒れた男を踏み、気絶しているか確認する。
「……あの、ミーシャさん――は、こういうの慣れてるんですか?」
「んー。まあ、このエボラは空中庭園って呼ばれてるくらいだからさ。農作物とか、名産ワインとか狙ってくる空賊もいるからさ」
「な、なるほど……」
 そこで、ゼンは気づいた。最初の鳩尾に一発もらった男が、這いずって飛行船まで行き、ドアをノックしている事に。
「た、隊長……! 大変です! ものすごい強さの女が……!!」
「もっと言っていいのよー。世界最強くらい」
 

     

 と、気づいていたのかミーシャは大したリアクションはせず、そう叫ぶだけ。
 飛行船のドアが男をぶっ飛ばして開き、中から酷く大柄な甲冑が出てくる。体長はゼンの二倍はあろう大きさで、甲冑によって頭部は隠されているが凄まじい殺気を込めた視線放っていた。
「……女ぁ。聞こえていたぞ……世界最強、とか言ってたなぁ」
「もちろん」
「ならばそれを、証明してもらおうかぁ……?」
 男は拳同士をぶつけ合い、構える。どうやら素手で戦うらしい。
「楽勝よ」
「そうかぁ……!! 我は空賊『ディライツ』所属。ダスロット・モンブラン。いざ尋常に――」

『勝負!!』

 ダスロットとミーシャの声が重なる。
 互いにただ正面から突っ込み、ダスロットの拳が地面を叩く。先ほどまでそこにいたミーシャは高くジャンプし、ダスロットの肩関節部分にストラトスを刺す。
「おお!!」
 ゼンは刺せたと確信し、叫ぶ。が、ミーシャは訝しげな顔をして、急いでナイフを引いてダスロットから離れる。
「……気づいたかぁ、女ぁ」
「ちっ。キャスターだったら刃がダメになってるとこだわ」
「え、え?」訳のわからないゼン。思わずクアを見てしまう。
「多分、鎖かたびらってやつじゃないですかね……」
「……なにそれ?」
「都市船『サンライズ』に伝わる、鎖を編みこんだ服みたいなものです。それで刺突が防がれたんだと思います」
「そうだぁ……」
 甲冑越しではあるが、ダスロットがニヤついているのがはっきりとわかった。
「我は、鉄壁の防御力を持った男……。誰にも鉄壁は壊せん……!!」
「……確かに、ちょっと相性悪すぎるわね」
 でも! と、ミーシャはさらに突貫。キャスターをしまい、強度に優れたストラトスを何度もダスロットに向かって叩き付ける。まるで鍋を落とした時のような、低く籠もる音が辺りに響く。いくら効かないとはいえ、打たれればストレスを感じるらしく、ダスロットも反撃とばかりに拳を振るう。だが、雨の様なそれを避けながら、ミーシャは果敢に打ち込む。
「でもあれじゃあ、いつか捕まる……」
 基本的な実力なら、ミーシャは負けていない。が、これは装備の問題だ。現時点でどうにか出来ることではない。
「……仕方ない!」
 走り出そうとするゼン。しかし首根っこを掴まれ、視界がガクンと揺れ、首にシャツが食い込む。
「ぐへっ……!」
「なにしてんだゼン」後ろからゼンの首を掴んだのは、ボルトだった。突然現れたボルトに呆気を取られたのか、クアは口を開けて唖然としている。
「じ、じいちゃん……今までどこに居たんだよ!」
「悪いな。こいつを探してた」
 そう言ってボルトは、肩に担いでいた白い布に包まれた何かを叩く。それはゼンの身の丈ほどあった。
「なんだよ、それ」
「ただ事じゃねえなと思ったからな。ちょっとした武器だ」
 ほら、とそれをゼンに放り投げる。受け止り、白い布を剥ぐ。中にあったのは、巨大なレンチだった。
「ほれ、行ってこいゼン。ミーシャがやべえぞ」
「お、おう!」
 ゼンは、そのレンチを担ぎ上げ、ミーシャの元へ走る。
「どけミーシャッ!」
 ゼンはミーシャの背後まで行き、思い切りレンチを振りかぶる。それを察して、ミーシャはムーンサルトジャンプでゼンの後ろに回る。邪魔する物もなくなり、フルスイングしてダスロットの腹を打ち抜いた。鐘をついたような音が辺りに響き、
「ぐうう!!」
 それを受け止め、背を丸めるダスロット。甲冑は凹み、どうやら相当のダメージを受けたらしく身を震わせている。
「き、さまあ……! よくも邪魔を……!!」
「邪魔っていうか、助太刀、なんだけど……」
 ダスロットからレンチを引き、肩に担ぎなおすゼン。ミーシャがゼンの肩を叩き、笑顔でサムズアップ。
「サンキューゼン! 助かったけど……次邪魔したら殺す」
 と、背後からキャスターを首筋に突き立てられる。
「えー……助けたのに……」
「アンタねえ! あたしの生きがいはお客さんの笑顔と戦いだけって言ってるでしょうが!!」
「前者のだけならいい人なんだけどなあ……」
 この幼なじみはどこで生き方を間違えたのか、一度真剣に考える必要があるかもしれない。
 ゼンはちくちくと痛む首筋を無視しながら、ダスロットが抱えるレンチを引き抜く。
「ミーシャ。選手交代だ」
「……まあいいわ。あたしじゃ、相性悪いみたいだし」
 そう言って、二人はハイタッチをする。
 律儀にもそれを待っていたダスロットは、ゆっくりと立ち上がって、拳を構えた。
「うっしゃあ!!」
 ゼンは気合を入れ、突貫。それを迎え撃つ体勢を取るダスロット。向かってきたゼンへ右ストレート。しかしそれを、空いた方の手で受けるゼン。
「な、なに……?」
 止められたことがよほど信じられなかったのか、一瞬だけ固まるダスロット。その隙に、ゼンはレンチを捨て、拳を構える。
「うっしゃあああッ!!」
 その拳を、思い切りレンチで凹ませた部分に叩き込む。ゼンの拳に多少の痛みが帰ってくるが、それよりもダスロットのダメージの方が深いらしく。ふらふらと頭を揺すり、倒れそうになるがなんとか踏みとどまる。
「お前、その筋力、何者だぁ……?」
「何者って、俺はただの整備士だよ」
「でもねえ、そいつ、結構強いわよ」ニヤニヤと笑いながら、挑発するかのように言うミーシャ。「私も相当強いけど、そいつも相当よ」
「ふん。……やれば、わか、る」
 そう言って、ダスロットは倒れた。気絶寸前だったのだが、意地で立っていたのだろう。倒れたダスロットを見て、ゼンは「こいつら、どうする?」と三人を見る。

       

表紙

七瀬楓 [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha