Neetel Inside ニートノベル
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カインド・オブ・ブルー
第七話『雷速(ライトニング・ブースト)』

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 先を歩くアズマの背中を、ボルトは何の気なしに眺めていた。真白い廊下を、まるで我が家のように迷いない足取りで歩くアズマ。その後ろをただただ歩きくボルト。
「……なあ、アズマ」
「なんです?」
「クアの嬢ちゃんはどこにいる」
「一階に、裏切り者を閉じ込めておく牢屋があります。そこにいるのが、一番考えやすいかと」
「そうかい。……もしかして、お前も閉じ込められてたことがあったとか?」
「はは。……まさか。僕はそこまで弱くないつもりですよ」
 ボルトへと振り向き、自嘲気味に笑うアズマ。そして、腰に提げられた日本刀を握り締めると、また前を向いて歩き出した。
「どこに向かっている?」
「とりあえず、この階を一周しようかと」振り向かないまま、アズマが答える。
 ボルトは、そのアズマに黙ってついて行った。


  ■


「こッ――んのぉぉぉ!!」
 ミーシャのナイフが的確にカリンの急所へと飛ぶ。だが、カリンの針金で作られた巨大レンチが、その斬撃全てを叩き落とす。
「ひひひっ! お姉さん、速いねぇ」
「全部叩き落としてから言うなんて、イヤミがうまいわね……!!」
 自分の頭から、どんどん冷静さが失われていくのをミーシャは実感していた。二振りのナイフを握る手に、どんどん力が籠もる。このカリンという少年が、どれだけ自分をバカにしているかわかっているからだ。
「もっと本気でやってもいいんだよ? あれ、もしかして、あのお兄さんが使ってた武器じゃ、やりにくいかな?」
「ハッ……別に」
「強がり言っちゃって。わかるんだよねえ。お姉さん、怒ってるでしょ。僕に腹が立ってるのかな? 愛しのお兄さんの武器使われて」
「別に? そんなことで怒るほど、狭い心はしてないわ」
「へぇ。――じゃ、なにで怒ってんの?」
「まず一つ。あたしをバカにしたこと。二つ、あんたが調子乗ってるから。三つ目は、あたしが十年以上隠してた恋心にすぐ気づいたからだ!!」
 そう言って、再びカリンに向かって踏み込むミーシャ。
「そんなことで怒ってたの? わかりやすすぎるよ、お姉さん!」
 レンチがミーシャの足元を横切る。空中に跳んでそれを避け、カリンの後ろに回り首を襟足をかっ斬ろうとする。が、カリンはしゃがみこんで回避し、体を回転させ、たっぷり遠心力を加えた針金レンチでミーシャの体を凪いだ。
「くぁっ!?」
 壁に肩を打ち、レンチで殴られたわき腹に激痛が走る。壁に打ちつけた肩はおそらく打撲。レンチで殴られたわき腹は、おそらく骨が折れている。壁に背を預け、床に腰が落ちてしまう。
「さて、チェックメイト」
 カリンは、レンチを頭の上へと振りかぶる。しかし、ミーシャはストラトスをカリンの顔目掛けて投げる。首を傾け、それを躱すと、ミーシャはその隙を突いてカリンへと体当たり。そのままマウントポジションを取る。
「……逆チェックメイト」
 残ったキャスターをカリンの首もとに添える。
「ひひひひ」
 カリンは、ミーシャの腹を掴んで、筋肉と筋肉の隙間に、指を思い切りねじ込んだ。
「あああッ!!」
 激痛に思わず飛び退き、マウントからカリンを開放してしまう。
「ひひひひ。甘いよお姉さん。ちょっと、僕をナメ過ぎたね」
「っち……。まだまだァ!!」
 傍らに落ちていたストラトスを拾おうとするが、それより速くカリンがレンチでミーシャの頬を撃ち抜く。
「はぐっ……!」
「お姉さん。スピード自慢みたいだけど……」立ち上がったカリンは、地面に倒れたミーシャを踏みつけた。「僕から言わせたら、まだまだ遅いよ」
「……遅い、ですって?」
「そうだよ? 僕にすら勝てないんじゃ、遅いって言うしかないよ」
 呆れて、見下して、すべてに置いてこいつより勝っている。そんな優越感を含んだ目線でミーシャを見下すカリン。確かに、今は彼の足蹴にされているし、そんな目で見られてもしかたないかもしれない。
「けど、ね。……カリンつったっけ?」
「ん?」
「あたしは、狂乱春雷(クレイジーサンダーロード)って呼ばれてんのよ」
「……だから? まあ、異名があるってことは、そこそこの実力はあるんだろうけど」
「そんなあたしが、動いてこの程度なわけないじゃない」
「なにを負け惜しみ言ってるのさ」
「負け惜しみかどうか、試してみる……?」
 どうぞ、とカリンが言った瞬間。ミーシャはすでにカリンの後ろに立っていた。足元から消えたミーシャを探し、後ろに気づいたカリンは素早くミーシャから離れる。
「はっ……ちょっとは速いみたいだけど」
「ちょっと? 見えないスピードはちょっとなの?」
 にやりと笑ったミーシャが鶏冠に来たのか、カリンは針金レンチでミーシャを殴った。
 だが、手応えはない。
「はっ?」
 ミーシャの姿が消える。そして、カリンの背中にキャスターが刺さった。
「……っ。な、どうして」
 引き抜くと、カリンは膝から崩れ、うつ伏せに床へと倒れた。
「そこまで速く動けるなら、どうして……最初から」
「……時間制限付きなのよ。私の『雷速(ライトニング・ブースト)』は」
 それに、体への負担も大きい。雷ほどのスピードで動けるが、時間は三秒だけ。終わった後は、全身が酷い痛みで動けなくなる。だが、ここまでは言わない。最後の力を振り絞られたら、負けが決定するからだ。
「はっ……それじゃまるで、僕はピエロだ」
 それだけ言うと、カリンは意識を無くし、目を閉じた。
「……はぁっ。ゼン、追わないと」
 足を引きずり、ゼンが走って行った方へ歩いていく。だが、膝の間接に小石が入り込んだような激痛が走り、ミーシャも倒れてしまった。先ほどカリンに殴られた場所や、今床に打った場所などが悲鳴を上げ、意識が蝕まれていく。
「くっそ……。ゼン、あたしが行くまで、なんとか……」
 そこで、ミーシャの意識は途絶えた。


  ■


 ゼンは、まっすぐ伸びる廊下を歩いていた。何の変化もないそこを歩いていると、どんどん奈落に落ちているような、不思議な感覚に苛まれる。
 十字路にさしかかり、どっちに行こうか迷っていると、ゼンが歩いてきた通路の反対側から、見覚えのある鎧の男が歩いてきた。
「……あれは、ダスロット!」
 腰にぶら下がっていたレンチを引き抜き、歩いてくるダスロットを睨み付ける。
「貴様は……金髪」
 ゼンの倍はある身の丈で見下され、強制的にゼンは見上げる形になる。
「金髪じゃねえよ。ゼン・プライマリー。都市船エボラで整備士やってる」
「……プライマリー?」
「なんだよ」
「貴様。サイ・プライマリーを知っているか」
「親父の名前だけど――なんでお前が知ってる?」
「そうか。父親か……」
 何回か頷き、ダスロットはふんと鼻を鳴らす。
「まさか伝説の鬼神に、息子がいたとは。……意外な話だ」
「伝説の鬼神って……。なんだよそれ? 俺の親父は、俺と同じ整備士だぞ」
「そんなことはない。サイ・プライマリーは、お前と同じ巨大レンチを操り、先の大戦で活躍した英雄だ。――その英雄の息子と戦えるとは、光栄だ。この間の様には行かんぞ!」
「だから、俺の親父は……」
 しかし、ダスロットは聞く耳を持たないらしく、背中に刺さっていた巨大なダンベルを引き抜いた。
「さぁ……力比べと行こうか……」

       

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