Neetel Inside ニートノベル
表紙

紅月の夜
5夜目 陰謀・開戦(前)・また、間に合わなかったようですね。

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下着姿の男、斉藤が部屋のカーテンを開けると朝の眩しい陽射しが薄暗い部屋に差し込む。
明け方の街は薄い霧が貼っていた。
そこに太陽の光が反射してキラキラと輝いて幻想的な世界を作り上げている。
そんな風景を男は力一杯に背伸びをして眺めていた。

斉藤「ん~いい朝だ。実にいい朝だ。・・・でそんな朝早くになんの御用かな黒美くん。」

斉藤がそういうと陽射しの影から黒美と呼ばれた喪服のような服装の少女が現れた。

黒美「・・・命令・・・無視。」
斉藤「計画のことかい?」

斉藤は服を着ながら自分の後ろにいる黒美に言った。
黒美は静かに頷く。

斉藤「なぁ気にすることはない。実に気にしなくていい。私はこの計画で神になるのだからなぁ!!アレが手に入ればこちらに怖いものは何もなくなる。」
黒美「政府・・・黙っていない。」
斉藤「それも気にすることではないよ黒美くん。君たちは私の言われたとおりにしていればいいだ。あぁ実にいい。」
黒美「・・・・わかった。」
斉藤「さて、食事の時間だ。君の働きには期待しているよ。今日の夜はしっかりと働いてくれ。ははははははははははは、はああぁはははははははは。」黒美「・・・命令?」
斉藤「いや、誘っているだけさ。」

そう言って斉藤は黒美の肩軽く叩いてから先に部屋を出て行った。

黒美「・・・一緒に・・・行く」

黒美も斉藤の後を追うようにして部屋を出る。
・・


太陽が丁度、真上にある。
時計の針は昼過ぎを回っていた。

百鬼「お腹が減ったであります・・・。」
十紀人「百鬼。もう少し待っていろ。もうすぐ昼食が出来上がるはずだ・・。」
白雪「ご主人様!!鍋が泡を吹いているぞ!!」
十紀人「なに!!」

俺は慌てて鍋の火を消す。
蓋から溢れ出した泡は火を止めると同時に急激に収まっていく。

十紀人「セーフか?」
白雪「多分な・・・。」

本来なら俺が台所に立つことは無いのだが朝早くに静が『今日は図書委員の仕事があるので一日帰ってこれません』などと言って学校に行ってしまった為に俺はこうしてみんなの昼食を作っているのだ。
今にいたるまでにはそれは山あり谷ありで語るには涙が欠かせないと言ってもいいだろうが話すと長くなりそうなのでやめておこう。
メニューはというと、このサルでも分かる簡単お料理とタイトルにデカデカと書かれた本のメニューの中から一番簡単そうなミートスパゲティを選んで作っているのだ。
それにしてもサルでもわかるというタイトルは人に対して失礼ではないだろうか・・・。
現に料理が全くわからない俺がこの本を持ちいてもかなり苦戦しているのが現状だ。
いや、このタイトルからすればこれを持ちいても苦戦しているお前は猿以下だと間接的に言われているようなものなのだ。
実に不愉快きまわりない。
しかし、俺はそんなことではめげずに今こうして白雪に手伝ってもらいながらゆっくりとではあるが猿から人間に昇格しようとしているのだ。

十紀人「ふぅ~麺はゆであがったな・・。とはミートソースだな。」

まずニンニクを香りが出るまで炒めて白雪にみじん切りにしてもらった、たまねぎ、にんじん、ピーマンを一緒に焦げない程度で炒める。
そのあとでトマトソースを入れるだけだ。

十紀人「なんだ、意外と行けるじゃないか・・・。」
白雪「ご主人様!!フライパンから火が出ているぞ!!」
十紀人「なに!!」

ちょっと目を話した隙にフライパンからは当すればこのような炎が上がるか教えてほしいほどの火柱が立ち上がっていた。
俺は慌てて火を止めようとしたが熱くて火に近づけない。

十紀人「っちょ!!白雪!!」
白雪「あぁ!!任せろご主人様!!大氷結!!」

白雪はそのままフライパンごと凍らせてしまった。

白雪「ふぅ~なんとか・・・って!!ご主人様まで凍らせてしまったではないか!!」

あぁ~とても冷たいです・・・・。
・・


十紀人「まぁなんだ・・・。なれないことはするなってことで・・・。」
白雪「そ、そうだな。」
百鬼「はじめからこうすれば良かったであります。」

結局のところ俺たちは出前を取ることとなったのだった。
台所をみるとこれは静が帰ってきたらこうられるだろうと言うくらい荒れている。
俺と白雪は空笑いをしながらただただ無残な台所を見つめて昼食をとっていた。
昼食を食べ終わり自分で淹れた珈琲が入ったティーカップを片手にソファーにもたれかかる。
一口飲むとやけに薄い珈琲が口の中に広がる。
これはお世辞にも上手いとは言えないだろうなぁ。

十紀人「やっぱり静が入れてくれる。珈琲の方がうまいな・・。」

縁側では白雪がデバイスのメンテナンスをしているのが見える。
百鬼はお腹を膨らましながらソファに寝そべり気持よさそうに寝ている。
そんな平和な風景にも関わらず何故か俺の気持ちは朝から落ち着かないのだ。
それがなんなのか俺には分からないが無性に胸騒ぎがしてならない。
何もなければいいのだが・・・。
・・


黒川「見たところ一般の企業にも見えますが・・・。」
粋「そうだね。」

粋たちはカフェテラスで紅茶を飲みながら向かい側にある高層ビルを眺めていた。
時計の針は午後2時を指している。
オフィス街とあってこのカフェテリアはさっきまでランチが目当ての一般客で賑わっていた。
客足も減ってきてカフェテリアは落ち着きを取り戻し始める。
店内ではさっきまで騒がしかったためかあまり耳に入ってこなかったジャズ系の音楽がゆったり流れていた。
ティーカップを口元からはなしてテーブルに置く。
それを見計らったように黒川は口を開いた。

黒川「調べたところ、このオフィスビルは政府が経営しているそうです。」
粋「なるほどね。忍びこむ意味はありそうだね。侵入経路として最適なのは?」
黒川「そうですね。最上階からの潜入が好ましいと思われます。」
粋「たしかに見た目的にもそれが妥当だね。結構時刻とかの調整は黒川に任せるよ」
黒川「はい。畏まりました。主。」

粋は再びテーブルからティーカップを取り口元へと運ぶ。
黒川はそんな彼の様子をただ見つめていた。

粋「そんなに見つめられると恥ずかしいよ。黒川。」
黒川「!!。いえ、私はそんなただ主の身の安全を確認していただけです。」

そういって黒川は下を向きモジモジと肩を揺らす。
粋は薄く紅く染まった頬を確認してにこやかに微笑んだ。

粋「さて、おやつの時間にはちょっと早いけど何か食べていくかい?」
黒川「いえ、私は。」
粋「遠慮なんてしなくても大丈夫だよ。そういえば黒川はモンブランが好きだったよね?」
黒川「え?あっはい・・。」
粋「じゃぁ僕はチーズケーキにしようかな。」

そう言って粋はテーブルに置いてある呼び出し用の鈴を鳴らす。
鈴が鳴ると音を聞きつけたウェイトレスが足早に近づいてきて注文を取る。
ウェイトレスがバックヤードに入ってから数分後に粋たち目の前にケーキが運んでこられた。

粋「うん。美味しそうだね。」
黒川「はい。ありがとうございます。」
粋「いやいや、これくらいお安い御用だよ。」

フォークでひとくちサイズに切って口元に運ぶ。
生クリームの甘さが口の中に広がりふんわりとしたスポンジにほろ苦いチョコレートチップが入っているせいか生クリームの甘さと溶け合って丁度いい甘さになっている。
黒川を見ると美味しそうにモンブランケーキを食べていて満足そうな顔になっていた。

粋「おいしいかい?」
黒川「は、はい。とてもおいしいですよ。」

見られているのがわかったのか黒川は再びフォークを加えたまま下の方を向いてしまった。
ふと黒川は真剣な顔をして口を開く。

黒川「主。本当に十紀人様たちの協力を仰がなくてよろしいのですか?」
粋「・・・僕はね彼らを巻き込みたくないんだよ。あそこは僕達の帰る場所だから。」
黒川「主・・・。」
粋「さて、それを食べ終えたら家に帰って今夜の作戦でも立てようか。」
黒川「はい。わかりました。」

ゆっくりとケーキを食べ終わり二人は店を出て帰路に着く。
それぞれの思惑を、それぞれの思いを乗せて太陽は沈んでいった。
運命の夜に向けて・・・・。
・・


夜、紅月の満月が夜の世界を照らしていた。
月明かりのせいで周りの星の輝きが失われ空にはその月が一つだけ浮かんでいる。
手を伸ばせば届くのではと錯覚してしまうほど月を近くに感じられる。
俺はそんな月を縁側に座りながら眺めていた。

十紀人「紅色の月か・・・。」
百鬼「はぁ静遅いであります。」

俺の横でゴロゴロしていた百鬼はそう呟いた。
たしかにいつもなら帰ってきて夕食の時間だ。
しかし、静が帰ってくる気配がない。
さっきから何度か携帯電話を鳴らすが留守番電話に繋がってしまう。

十紀人「仕方ない。ちょっと学校を見てくるか・・。」
白雪「私も行こう。」

リビングのソファに座って小説を読んでいた白雪は小説をパタンと閉じて立ち上がった。

百鬼「ん~っじゃぁ百鬼はお留守番でありますか。」

ぼんやりとしていた百鬼は背の日をしてそう答える。
たしかに家に誰かいないともし行き違いになったとき困ってしまう。

十紀人「頼めるか?」
百鬼「仕方ないであります。百鬼は家で待ってるでありますよ。」
十紀人「じゃぁ学校に様子を見に行くか。」

俺達は百鬼を残して家を出る。
・・



オフィスビルの屋上に影が二つ。

粋「潜入成功だね。」
黒川「はい。思いの外、警備が手薄ですね。」
粋「まぁ屋上だからね。さて、ここからの出入口は一つみたいだね。」
黒川「調べたとおりです。」

粋はゆっくりと出入口に近づくいてドアノブを回す。

粋「流石に開いてないか・・。」
黒川「おまかせを」

黒川はさっとドアノブの形状を確認した後に懐からなにやら道具を取り出す。
そして慣れた手際で閉まっていた鍵を開ける。

粋「流石だね。」
黒川「これぐらいどうということではないです。」
粋「そうだ。黒川。この件が終わったら君に伝えたい事があるだよ。」
黒川「なんでしょうか?」
粋「ふふ。この件が終わったら伝えるといったじゃないか。」
黒川「なんだか気になりますね。!!。」

黒川は何かの気配に気がついて粋を庇うようにして振り返る。

黒美「予測・・・通り。」

振り向いた先には真っ黒な喪服のような服に身を包んだ幼い少女がフェンスの上に座っていた。

黒川「いつのまに・・」

一般人とは考えられない。
こんな時間に幼い少女がこんな場所にいるだろうか・・いや居るはずがない。
なによりこの歳の子がこんな殺気を持っているわけがないのだ。

粋「黒にかわったね。」
黒川「そうですね。」

幼い少女はフェンスから飛び降りて一歩一歩粋たちに近づいていく。

黒美「念のため・・・確認・・・お前は・・・伊集院粋か?」
粋「そうだと言ったら?」
黒美「お前の・・・体内に・・ある・・コアデバイス・・・渡せ。」
粋「無理な相談だね。」
黒美「なら・・・実力・・・行使」
黒川「来ます!!」

黒美はそう言い終わると一瞬で二人の前に移動する。
粋と黒川は二手に分かっるように両方に散った。

黒美「・・・・。」
粋「教えてくれないかな?君たちはここで何をしているんだい?」
黒美「教える・・必要・・ない。」
斉藤「教えてあげればいいじゃないか黒美くん。」
黒美「・・・斉藤。」

黒川が鍵を開けた扉が開け放たれる。
扉からは黒いスーツに白衣を来た男が姿を現した。

斉藤「本日は我が研究所ようこそ。粋くんだったかな?」
粋「・・・」
黒川「・・・」
斉藤「これこれは失礼した。実に失礼した。私は斉藤健吾。この国の兵器開発を担当している者だ。」
粋「兵器・・・」

斉藤は臨戦態勢に入っている黒美の周りをゆっくりと歩きながら話し始めた。

斉藤「そう・・・兵器開発。君たちもそれをわかってここにきたのだろ?あぁそうそう君には感謝しているよ。実に感謝している。君の作ったドールズだったかな?あれは実に素晴らしい研究結果だよ。あぁ実に素晴らしい。」
粋「ドールズ!?・・・No.666・・やっぱり」
斉藤「あぁ君の考えているところで当たっているよ。君のドールズを回収したのも私たちだ。いやぁ爆発する前にネットワークを切断するのは手こずったよ」
粋「・・・」

粋は黙って拳を握りしめた。

斉藤「感謝してるよ。粋くん。コアデバイスのこと・・・。素晴らしい技術だとは思わないか?あぁ実に素晴らしい。生命力を糧として人間の潜在的能力を高める装置。その他にも能力と呼ばれる第六感の開花。これを人間が付けたらすごい兵士が出来上がる。ふふふふ、まぁある程度までは私一人でも解読できたんだが・・。しかし、根本となる生命力の供給の仕組みがわからなくてね。だが、それも君が作ったドールズのお陰でその問題も解決できた。そして実用化まで漕ぎ着けた。けど、未だにわからないことがある。それは武器の製造・・デバイスの強さの象徴である武器のね。それと装置を使わないで対象者から生命力を吸い取る方法。君たちの中では契約とでもいっているのかな?・・いやぁそれがわからなくて結果的には何人も人を捕まえて体内に供給装置を勝手に埋めこませてしまったよ。はっはっはっはっは。」
粋「なんてことを・・・」
斉藤「粋くん・・・君はもうわかってるんだろ?」
粋「なんのことかな?」
斉藤「しらばっくれなくてもいい。君の家のデータベースは何度も拝見させてもらっているからね。」
粋「なぜ!?」
斉藤「たかが高校生が政府の力に勝てると思っていたのかい?・・だとしたら思い上がりだ。あぁ実に思い上がりだ。まぁそれはいい・・そこでだ」

斉藤は立ち止まりまっすぐに粋を見た。

斉藤「私と一緒に来ないか?」
粋「・・・・」
斉藤「君の能力を私は買っている。あぁ実に買っている。その年でオリジナルをそこまで研究したのだから大したものだよ。君と私が組めば怖いものはない。なんだったらそこにいるオリジナルも保護しようではないか。どうだい?悪話ではないだろう。あぁ実に悪い話ではない。」
粋「そうだね。貴方ともうちょっと先に会っていたらその話本当に面白い話だっただろうね。」
斉藤「・・・・」
粋「でもね、今の僕には守りたいと思う大事なモノがあるんだよ。」

粋はそう言って黒川を見た。

黒川「主・・・。」
斉藤「交渉決裂か・・・。しかたない。実に仕方がない。手荒なことは嫌いなんだが・・・。黒美くんあとは任せたよ。」
黒美「わかった・・・回収・・・する。」

斉藤はそのまま出入口に戻っていた。

斉藤「そうそう。君の友達の十紀人くんかな?彼は興味深いね。彼にも協力を仰ごうとしているんだ。今私の部下が数人、彼のところに向かっている。彼の周りにいる邪魔なオリジナルの破壊も含めてね。君は隠していたみたいだがもうずっと前から知っていたよ。それじゃぁ僕は忙しいのでこれで失礼するよ。」
粋「なっ!!まて!!」
黒美「動くな。」
粋「っく!!」

追いかけようとしたが黒美に阻止される。
そのまま斉藤の背中は消えて行った。
そして黒美はゆっくり懐から小刀を取り出した。

粋「黒川。この子を阻止してすぐに十紀人たちのところにいくよ。僕達だけの問題じゃなくなってしまった。」
黒川「わかりました。」
黒美「私を・・・止める・・・と?」
粋「2対1でこちらが有利だよ。それに斉藤さんだったかな彼の言っていたことは正しい。僕は既に武器の製造の仕組みを解析したんだよ。精製・・。」

粋は瞳を閉じると粋の手に何かが浮かびはじめる。

粋「錬金・・・構成・・・形状の固定。・・・。」
黒川「主あまり力を使われたら・・・。」
粋「ここを乗り切るためだから・・。それに時間が惜しい。黒川も最初から本気でいくよ。」
黒川「わ、わかりました。デバイス・・・オン。影結。」

粋の手には弓が握られ黒川の手には大鎌が握られる。
それでも黒美の表情が変わることがなかった。
ただ冷い眼差しで二人を眺めていた。

黒美「準備は・・・・いい?」
粋「いつでも・・」
黒美「・・・そう。」
黒川「私が抑えます。主は隙をみて攻撃してください。」
粋「わかった。」

黒川は大鎌を振り上げて黒美に突進していく。

黒美「・・・甘い。」
黒川「え!?」

黒川は自分が何をされたのか理解できなかった。
黒川の体は宙を舞って粋の目の前に倒れこむ。

粋「黒川!!」
黒川「っぐ!!」
黒美「影・・・」
粋「っく!!」

粋は黒川を抱えて黒美から距離を取る。
そして粋はさっきまでいた自分たちがいるところを見て背筋をぞっとさせる。
黒美の影が変にうねっているのだ。まるで生き物のように・・・。
そして、その影は地面から起き上がる。

黒美「これで・・・2対2・・・。」
黒川「まずいですね。」
粋「黒川!!怪我は?」
黒川「大丈夫です。」

黒川はゆっくりと起き上がり黒美の方を見る。

黒川「油断しましたがもう大丈夫です。」
粋「無理をしたらだめだよ」
黒川「はい。本当に大丈夫です。」
粋「じゃぁ、2ラウンド目行こうか。」
黒川「はい。」

この時、二人は黒美の影の本当の怖さを知らなかったのだ。
いや知るはずもなかった・・・。
・・


十紀人「無駄足か。」
白雪「どうやらそのようだな。」

学校に着くと既に学校暗なっていて校門は固く閉じられていた。
もしやとも思い図書室が見える方にも回ってみたが図書室の電気は付いていなかった。

十紀人『百鬼。静は戻った?』
百鬼『ん?マスターでありますか。静はまだ帰ってきていないであります。』
十紀人『わかった。今から帰るよ』
百鬼『わかったであります。それよりお腹が減ったであります。』
十紀人『はは。帰りにコンビニでなにか買って帰るよ。』
百鬼『待ってるであります。』

静はまだ家にも帰っていないみたいだ。
静がこんなに遅くなるはずがない。
胸の不安が膨れ上がっていく。

白雪「ご主人様。」

白雪が心配そうに顔を覗き込んでくる。

十紀人「いや、大丈夫。静も子供じゃないんだしそれに今帰っている途中かも知れないしな。」
白雪「そうか・・・」
十紀人「さて、帰ろうか」
白雪「そうだな。あまり遅くなると百鬼がまたゴネるからな」

俺達は校舎を後にしようと振り返る。

十紀人「え?」

そこには刀を持った和服姿の楓と木の棒を持ったエメラルドグリーンの瞳をしたボーイッシュな少女立っていた。
楓はいつもと雰囲気が違う。
その異変にいが付いたのは白雪だった。

白雪「ご主人様。様子がおかしい。」

楓はゆっくりと俺たちに近づいてくる。

十紀人「楓・・・。」
楓「お久しぶりです。ご主人様。」
十紀人「ご主人様??」

楓は今俺の事をご主人様と呼んだ・・。なぜだ?

白雪「ご主人様。」

白雪が俺を庇うように前に出る。

楓「どきなさい。」
白雪「え!?っく!!」
十紀人「白雪!!」

楓が軽く手を振ると白雪は吹き飛んで地面を転がった。
何が起きたのか俺はにはわからなかった。

白雪「ご主人様!!」

白雪はすぐに起き上がり俺のところに駆け寄ろうとしたが翠に遮られる。

翠「楓お姉様の邪魔はさせない。」
白雪「邪魔をするならば容赦はせぬぞ!!」
翠「しばらくおとなしくしていろ!!」

翠は持っていた棒で白雪を抑えつける。
楓は白雪の方から俺の方に向き直り再び俺の方に足をすすめる。

十紀人「楓!!これはどういう事だ!!」
楓「ご主人様。私たちはただご主人様をお迎えに来たのです。」
十紀人「迎え?」
楓「はい。貴方は我々のご主人様になられる方なのです・・。」
十紀人「どういう事なんだ。説明してくれ楓!!」

その時風が吹いて楓の前髪が舞い上がる。
そして俺は初めて楓の瞳を見たのだ。

十紀人「・・・紅色。」

楓は白雪たちと同じ赤色の瞳をしている。

楓「ご主人様。貴方の特別なのです。ご主人様の生命力は通常の生命力より膨大で密度が濃い。」
十紀人「・・・・。」
楓「政府の力を使えばこのようなことは容易く調べられます。」

俺達は甘かった。いや甘く見ていたのだ。政府の力を・・・・。
考えて見れば当然だ。高校生の子供である俺達が政府という巨大な組織に敵うはずがない。
当たり前なことだろう。最初から俺達は全てにおいて負けていたのだ・・。
粋との戦いもすべて見られていたのかも知れない。
けど、今はそんなことはどうでもいい。なんで・・・なんで楓が政府に関わっているのだ。

楓「ご主人様。私たちに付いてきてください。」
十紀人「楓、お前は俺達の友達じゃないのか?」
楓「・・・・。」

楓は黙って空を見上げる。
その顔はどこか切なげで悲しみを隠しているように見える。
紅月の光は彼女を優しく包み込むように照らしている。

楓「ご主人様の回収と今後驚異になるであろう白雪、百鬼、両名を排除しろそれが私たちに与えられた命令です。」

楓は表情を変えないでそう言ってのける。
しかし、十紀人の目にはその表情がどこか悲しそうに見えてならなかった。

十紀人「たのむ楓、教えてくれ。なんでお前が政府なんかに!?」
楓「・・・そうするしかなかったのです。」
十紀人「事情を話してくれれば俺達だって楓「私は!!!私たちはあまりにちっぽけで無力なんです!!」

楓の表情が緩み何かを求めている様にこちらを見てくる。

楓「私には翠「楓お姉様!!」
楓「!!」

翠の声で楓の表情はまた元の無表情にもどる。

楓「ご主人様。なにも言わずに私に付いてきてください。」

俺は真剣に楓を見つめて口を開く。

十紀人「楓。事情は言ってもらえないのか?」
楓「お願いです。大人しく私たちについてきてください。」

楓はただそれを繰り返し呟く。

十紀人「楓、俺は白雪、百鬼と離れるつもりはないよ。」
楓「そうですか・・・残念です。」
白雪「いい加減にしろおおぉぉぉぉ!!」
翠「っく!!」

白雪は押さえ込んでいた翠を跳ね除ける。

白雪「楓。貴様とはいい友になれると思ったのになぁ・・。残念だ。・・・デバイス・オン。来い雪風。」

白雪の手には一振りの刀が握られる。

翠「楓お姉様。」
楓「白雪さんは私が相手をしましょう。楓、貴方はご主人様を頼みます。」
白雪「ほぉ私を止めれると思っているのか?」
楓「止めてみせます。」

楓は持っていた刀の鞘を抜く。

十紀人「二人ともやめろおおぉぉぉ!!」
翠「あんたの相手は私だ。怪我をしたくないなら大人しくしていろ。」

二人の元に行こうとするが翠がその間に割って入る。
二人がほぼ同時に振り下ろした武器は激しくぶつかり合い。
夜の闇が包み込んだグランドにその音が轟き渡る。
・・


百鬼「はぁ~遅いでありますね。」

百鬼はソファに寝転びながら暇を持てあましていた。
テーブルの上に置いてをリモコンを手に取りテレビを付ける。
画面ではお笑い芸人がショートコントらしきものをしていた。
これをみんなで見たらきっと笑えるのだろうが一人でこれを見ても正直あまり面白くないのだ。

百鬼「はぁみんな遅いでありますね。」

リモコンでテレビを消して百鬼は再びソファの上を転がる。
突如、家の扉を激しくノックする音が聞こえた。

百鬼「ん?」

百鬼は起き上がり玄関を目指す。
ノックの音はうるさく廊下に響いていった。

百鬼「はいはい、今いくであります。」

そして靴を履いてドアを開ける。
そうすると何かが百鬼の方に倒れこんできた。
百鬼はとっさにそれを抱きとめる。

百鬼「黒川でありますか!?」
黒川「主を・・・主を・・・助けてください・・。十紀人様・・主を助けてください・・・・・・公園です。」

黒川はそれだけ言い終わると気を失ってしまった。
百鬼は気がついた黒川がボロボロになっていていたるところから出血している事に。

百鬼「黒川。良くここまで頑張ったであります。後は百鬼たちに任せるであります。」

百鬼は黒川を廊下に寝かせる。

百鬼「きっと静がもうすぐ帰ってくるであります。そしたらすぐ手当をしてくれるハズであります。黒川。もうちょっとの我慢であります。百鬼は・・・」

百鬼は立ち上がり外に出る。

百鬼「そこにいるのはわかってるであります。隠れてないで出て来いであります。」
赤「見つかったみたいっすね。」
百鬼「何者であります・・。」
赤「人の名前を聞く前に自分の名前を言うのが礼儀じゃないっスか?」
百鬼「百鬼はマスター・・道明十紀人のデバイス、百鬼であります。」
赤「デバイスナンバー005上坂 赤っス。初めましてっスね」
百鬼「デバイス・・・・。」
赤「詳しいことは知る必要ないっスよ」
百鬼「どでもいいであります。そんことより黒川はお前がやったでありますか。」
赤「そうっス。命令だからしかたないっスよ。あんまり気持ちいいとは言えないっスけどね。」
百鬼「お前たちは何が目的でありますか。」
赤「伊集院粋のコアデバイスと道明十紀人の回収っスよ。あぁもう一つあるっス・・・旧デバイスの破壊っス」
百鬼「そうでありますか。」
赤「そうでありますっスよ」
百鬼「覚悟はいいでありますか?」
赤「ん?何言ってるっスか?」
百鬼「デバイス・オン鬼金棒。殺すであります!!」

百鬼は一瞬で赤の正面に突っ込み大きく振り上げた拳をまっすぐに振り下ろす。
しかし、その拳は空振りしてアスファルトの地面に当たる。
その衝撃で地面は一瞬揺れる。
アスファルトは百鬼の拳を中心に20センチが粉々に砕けていた。

赤「こんな街中で能力をつったらだめっスよ。・・それにしてもすごい威力っスね。当たったら即死するかもっスよ。まぁ~あたならければ意味がないっスけどね。」
百鬼「少しは黙れであります。」

またも百鬼の攻撃は空振りに終わった。
赤は、百鬼の攻撃をかわしながら逃げるように動きまわる。
百鬼はそれを追うようにして赤に着いて行った。
・・


黒川「う・・・っつ!!。」

黒川は朦朧とする意識の中目を開ける。

???「痛かったですかすぐに終わりますからもうちょっと我慢してください。」

黒川はその声の主と以前会った気がする。
視界がぼやけていてはっきりと見えないが間違えない。
昔、十紀人との戦闘後に死を覚悟で政府の人と抗争をしよとしたときに助けてくれた人だ。
顔を頭巾で隠しているためはっきりとはわからないがこの人で間違えないだろう。

黒川「・・・・」
???「これでひとまず安心です。黒川さんはここで休んでください。私はできるだけ被害が出ないように手を回します。きっといい結果になるように私も動きますから・・。」
黒川「ありがとう・・・ございます。」

それだけ言って黒川は再び目を閉じる。
・・


白雪「はああぁぁぁぁ!!」
楓「っく!!流石ですね。」
白雪「はっ!!はあぁぁぁ!!はっ!!!」

白雪の攻撃を楓は受けている一方だった。

白雪「どうした?受けているだけでは私は止めれんぞ!!」
楓「まだ、攻めどきではないだけです。」
白雪「ほざけ!!氷結弾!!」

楓と距離を取り尖った氷を楓に放つ。

楓「疾風波!!」

楓が腕を振ると白雪が放った氷は砕け散った。

白雪「風か・・。」
楓「ご慧眼恐れ入ります。」
白雪「眼に見えないのが厄介だな。」

白雪は呼吸を整えながら横目で十紀人の方を見る。
あちらでも既に対戦が始まっているようだ。

楓「ご主人様が気になりますか。」
白雪「ご主人様は強い私が心配するまでもないだろ。しかし、気に入らんな。」
楓「何がでしょうか?」
白雪「貴様がご主人様をご主人様と呼ぶことだ。」
楓「それで結構なことですね。」

二人は睨みあいながら間合いを取る。

十紀人「防御障壁!!」
翠「うざったい盾だ!!やああぁぁぁぁ!!」

障壁に振動が伝わる。
彼女の武器は棒なのだが・・・。
けどただの棒じゃない、伸びたり縮んだりする棒なのだ。
まさに如意棒といっていいだろう
伸び縮みするのはおそらく彼女の能力だろうが・・・。
それを察するに多分政府は作り出せたのだろう。
コアデバイスに変わる何かを・・いやコアデバイスその物を作ってしまったのかも知れない。
でも、彼女からは白雪や百鬼みたいな感じが伝わってこない・・今白雪と戦っている楓もそうだ。
似てるけどどこかが違う。
それがなんなのか俺にはわからない。

翠「壊れろ!!」

翠の攻撃で障壁が壊される。
俺はバックステップで距離を取る。
相手は伸び縮みする棒で俺は素手なのだ。
棒が伸び縮みするということは間合いを自在に操れるということだ。
長い武器であれば懐に入ればいいし短いのであれば距離をとればいいが今回はそうもいかない。
なら、その間を取れるような攻撃をすればいい。
相手の不意を付けるような攻撃を・・・。

十紀人「あんまり。女の子は殴りたくないんだけどなぁ」
翠「甘く見られたものだな。」

翠は棒をクルクルと回しながら俺に近づいてくる。
俺はちらっと横目で白雪の方を見る。
白雪は楓と交戦中のようだ。

翠「なめられたものだな!!」
十紀人「障壁!!」

翠の攻撃を防御障壁を掌だけに展開して受け流し体制を崩し一気に間合いを詰める。

翠「なっ!!」
十紀人「ごめん!!」

俺は拳に生命力を溜めて当て身を打ち込む。

翠「っぐ!!」

怯んだ隙を付いて俺は白雪のもとへ走る。
楓は今白雪に集中している。だったら後ろはガラ空きだ・・。
俺は楓に体当たりをする為に勢いを付ける。

翠「楓お姉様!!」
楓「え!?」

トップスピードに乗ったまま楓に体当たりをする。
楓は防御取るが体制が大きく崩れる。
俺はそっと掌を楓の腹部に押し当てる。

十紀人「楓ごめんな。・・掌底波!!」
楓「っかは!!」
翠「楓お姉様!!!」

楓は腹部を押さえてその場に蹲る。
俺は白雪の方に駆け寄った。

白雪「ご主人様。」
十紀人「白雪。」
白雪「見事な技だな。生命力を直接相手に撃ち放つとは。奴はしばらく動けなくなるだろうな。」
十紀人「あんまり使いたくなかったけど・・・。」

俺の腕は技を使った反動で痺れている。

十紀人「それより百鬼や粋たちが心配だ。」
白雪「そうだな。ご主人様は先に行ってくれ。」
十紀人「でも!!」
白雪「案ずるな。ご主人様のお陰で戦況はこちらに有利だ。楓はしばらく動けない。楓が動けるようになるまでに翠とかいう女を倒せばいいだけだ。」
十紀人「一人じゃ危険だ!!」
白雪「私の強さは知っているだろ。それにいざとなればご主人様の生命力を使わせてもらう。大丈夫だ。それに静の件もあるだろ。」
十紀人「・・・わかった。絶対に無茶はするなよ。危なくなったら逃げろ。」
白雪「心得た。」
十紀人「じゃぁ先に行く。」

白雪は黙って頷く。
それを確認して俺は校門へと走り出す。

翠「大丈夫ですか。」
楓「えぇ。ちょっと効いただけ。」
翠「無理をしたらダメです。」
楓「それより翠貴方はご主人様を追いなさい。」
翠「しかし!!」
楓「私は大丈夫です。」

楓はゆっくりと立ち上がる。

楓「翠。命令です。行きなさい。」
翠「・・・・わかりました。ご無理をなさらないでください。」
楓「はい。心配してくれてありがとうございます。」
翠「では・・・。」

翠が走りだろうとするが目の前には白雪が立ちはだかっていた。

楓「翠。走り抜けなさい。私が援護します。」
翠「はい。」

翠は構わず立ちはだかる白雪に目掛けて走りだす。

白雪「臆せずか・・・。ならば!!」
楓「疾風・・・睦月。」

楓がそう唱えると白雪をつむじ風が襲う。

白雪「っく!!小ざかしい風め!!」
楓「今のうちに行きなさい!!」
翠「はい!!」

楓は翠の背中見送った。
眼を戻すと白雪は体制を立てなおしていた。

白雪「行かれてしまったか・・。」
楓「追わないのですね。」
白雪「そうだな。追いたいがお前が邪魔をするだろう。」
楓「ゴメンなさい。」
白雪「聞かせてくれ。なぜこのような真似を・・。」
楓「貴方には関係ありません。」
白雪「そうか・・・。悲しいものだな。お前と過ごした時間は少しだったが楽しい物だった。」
楓「言わないでください。白雪さん・・・。政府の人たちは貴方たちが考えているほど弱いものでは無いんです・・・。もっと恐ろしく、強い。」

白雪は楓の瞳にうっすらと涙がたまるのが見えた。

白雪「そうか、でも私たちにも引けぬ理由がある。無駄話も終わりだ。さっさと終わらせてもらうぞ楓。」
楓「そう、ですね・・。」
白雪「ご主人様・・力を借りるぞ。」

白雪はゆっくりと瞳を閉じて再びゆっくりと瞳を開ける。
瞳は赤色から綺麗な銀色に変わった。
黒川と戦った時のように・・・。

白雪「道明十紀人のデバイス、白雪。推して参る!!」
楓「デバイスナンバー004隆条楓。行きます!!」

二人は武器と武器を激しくぶつけ合う。
・・


百鬼「ちょこまかと鬱陶しいでありますね。」
赤「こっちっスよ。」
百鬼「待つであります。」

赤は百鬼から逃げるように攻撃をかわす。

十紀人『百鬼!!聞こえるか!?』
百鬼『今忙しいであります!!話なら手短にお願いするであります!!』
十紀人『わかった。こっちが襲撃にあった。今は白雪が交戦中だ!!そっちの状況は!?』
百鬼『そっちもでありますか!!』
十紀人『てことはそっちにもきたのか?』
百鬼『はいであります。黒川がやられたであります!!』
十紀人『やられた!?』
百鬼『一様に死んではいないであります。それよりもマスターは公園に急ぐであります!!』
十紀人『公園に??』
百鬼『黒川が言ったであります。粋を助けて欲しいってであります。』
十紀人『わかった。白雪は今は学校で戦っている。白雪と合流してから公園に集合ってことで・・。』
百鬼『了解であります。』

百鬼が意識通信を終えて前を見ると赤が立ち止まっていた。

百鬼「鬼ごっこは終わりでありますか?」
赤「ここまで来れば思いっきりやっても大丈夫っスよ。」

そう言われて百鬼が周りを見ると住宅街から遠ざかって人気が少ない未開発のところに来ていた。

百鬼「そうでありますか・・なら本気でいくであります。」
赤「いいっスねぇ~。お手並み拝見っス。」

百鬼の瞳の赤色が一層濃くなる。

百鬼「はああぁぁぁぁぁぁ!!」

百鬼は拳を振り上げて思いっきり地面を叩く。
その衝撃で地面が大きく揺れた。

赤「え!?地面が!!」
百鬼「ちょこまか逃げるなら動けないようにするのが一番であります。」
赤「ちょっ!!反則っスよ!!」
百鬼「鬼力!!喰らえであります!!」

百鬼の拳は赤を完璧にとらえた筈だった。
しかし、百鬼の拳は空を斬るだけだったのだ。

赤「ってちょっと焦ってみただけっスよ。」

後ろかの声で百鬼はとっさに振り返る。

赤「遅いっスよ。」

赤の蹴りが百鬼の無防備な腹部をしっかりと捉える。

百鬼「ぐはっ!!」
赤「吹き飛べっす!!」

赤そのまま足を振りきって百鬼を蹴り飛ばす。
百鬼は為す術なく壁にぶつかり体がめり込む。

赤「力はいいっス。」

赤は倒れそうになった百鬼蹴り上げる。
百鬼は再び壁にめり込む。

赤「動きもいいっス。」

さらに追い打ちをかけるように膝蹴りを顔面に放つ。

赤「読みはそこそこっス。」

今度は倒れかかった百鬼の頭をつかみ上空に放り投げる。
百鬼の体は軽々と宙を舞う。

赤「けど、なにより」

空中にいた百鬼の横に一瞬で移動した。

赤「スピードが遅すぎっス!!」

そして百鬼の顔をつかみ一気に地面へと叩きつける。

赤「こんなもんっスか?つまんないっスね。・・・・はぁ、命令とは言え嫌な仕事っスよ本当に・・・。後は処理班に任せて帰るっス。」

赤は沈黙した百鬼をつまらなそうに見てその場を立ち去ろうとした。

百鬼「ま、待つであります。」

百鬼がゆっくりと起き上がる。
赤は振り返り驚いたような顔をして百鬼を見つめた。

百鬼「今のは効いたであります。」
赤「へぇ~アレだけまともに食らって起き上がるなんてすごいっスね。タフさも認めるっスよ。」
百鬼「本当にいちいち、五月蝿い奴であります。」
赤「まぁもう、実力はわかったっスよ。こっからは本気で相手をするっス。覚悟はいいっスか?」
百鬼「覚悟するのはお前の方であります。」
赤「自分の力を過信し過ぎっスよ。まぁめんどいっスからさっさと終わらせるっスよ。POSシステム起動・・・起動確認っス。第三ゲートまで解放っス。解放確認・・・出力30%・・・安定っス。ん~やっぱり制御が難しっスね。これを完璧制御とか・・・楓の姉貴はすごいっス。」
百鬼「な、なんでありますか・・・。」

あきらかに赤の雰囲気が変わるのを百鬼は肌で感じ取る。

赤「じゃぁ行くっスよ。」
百鬼「消えたであります!!」

赤が一瞬動いたと思った瞬間、赤が視界から消え去った。

赤「後ろっスよ。」
百鬼「早っがはっ!!」

赤の蹴りは百鬼の反応より先に顎をとらえていた。

赤「まだ止まらないっスよ!!」

一発目の攻撃で百鬼は完全に無防備の状態になる。
赤の連続蹴りは容赦なく無防備になった百鬼を襲う。
懸命に防御をしようとするが防御よりも早く赤の攻撃はしっかりと百鬼をとらえていた。

赤「遅い!!遅いっスよ!!!」
百鬼「ぐは!!」
赤「アレだけ食らってよく立っていられるっスね。」
百鬼「・・・・」
赤「虫の息ってやつっスか・・・。本当にタフっスね。最後に見せてあげるっスよ。音速移動から放たれる音速の拳の驚異を・・・。」

言い終わった瞬間、再び赤の姿が消える。
一瞬あたりは静かになる。

百鬼「マ、ス・・・・タ・・・」

静けさを取り戻したかに思えたあたりにダイナマイトが爆発したかのよな激しい衝突音が轟く。
刹那・・・百鬼の体がくの字に曲がり地面を転がりながら吹き飛んでいく。

赤「っつ!!やっぱりまだ安定しないっすね。音速をだすと体がボロボロになるっス・・・後は処理班に任せるッスよ。」

赤はその場から立ち去っていった。
その後しばらくして地面に無残に転がる百鬼に近寄る黒尽くめ。

???「また、間に合いませんでしたか・・・。ごめんなさい・・・。」

黒尽くめはそっと百鬼を抱き抱える。

???「良かった・・・まだ息が・・・みなさん、この人を手当ののち搬送しないさい。」

黒尽くめがそう言うとどこからともなくたくさんの黒尽くめが現れて百鬼を取り囲む。

???「私は次に向かいます・・・」
・・


白雪「っく!!氷壁!!」

白雪は楓の攻撃を氷壁で防ぐ。
一旦、楓と距離を取り呼吸を整える。

楓「疲れが見えますよ。」
白雪「はぁ~はぁ~。その余裕もこれまでだ。氷夷結界。」

あたりの空気が凍てつき始める。

楓「いい能力ですね。では私もPOSシステム起動・・第四ゲート解放・・出力50%・・・制御安定・・・。」
白雪「お前もいい闘気だ。いくぞ!!氷鳥!!」

氷で出来た鳥が楓目掛けて飛んでいく。

楓「甘いです!!」

楓はそれを軽くかわす。

白雪「氷夷結界奥義!氷柱!!」

楓「っく!!」

地面から何本もの尖った氷が楓を襲う。

白雪「来い。氷の鞘よ!!」

そして武器を鞘にしまう。
楓は尖った氷もすべて避けてしまう。

白雪「すべて避けられてしまうとな・・・。」
楓「居合ですか・・・。」
白雪「なにを余裕ぶっている。鳥が追いかけてきているぞ。」
楓「え?」

楓は後ろを振り向くとさっき避けたはずの氷で出来た鳥が楓目がけて飛んできていた。

楓「っく!!」

今度は避けずに鳥を切り落とす。

白雪「甘いな・・・。」
楓「か、刀が・・・。」

鳥は砕けたが鳥を切った楓の刀徐々に氷始める。

白雪「これで最後だ。氷結・・・一閃!!!!」
楓「・・・・・・。」

二人の体が一瞬交差して入れ替わるようにまた離れる。
そしてあたりに沈黙が流れた。
最初に沈黙を破ったのは白雪だった。

白雪「・・・ば、ばかな・・。」
楓「驚きましたよ。まさかあの一瞬で12撃の攻撃が来るとは思いませんでした。いい剣速ですね。けど私の剣速の方が上です。」
白雪「全部止められただと・・・。」
楓「そんなに落ち込まなくていいですよ。貴方はたしかに強いです。だけどあなたじゃご主人様を守ることは出来ない。今までご主人様を守ってくれえてありがとうございます。今からは私たちがご主人様を守りぬいて見せます・・・・。では冥土の土産にとくとご覧あれ。」

楓は刀を鞘に戻す。

楓「疾風奥義・・・華蝶風月。」
白雪「まだだ!!氷壁!!」
楓「そんな壁じゃぁ受け止めきれませんよ。」
白雪「なっ!!」

楓の攻撃は氷で出来た壁を豆腐を着るように簡単に壊してしまった。
それと同時に白雪の雪風をはじき飛ばして白雪を無防備にする。

楓「最初の一撃は相手の防御を崩すための一撃で本番はこれからですよ。」

楓の持った刀一瞬歪む。
刹那。
目にも止まらぬ速さで無数の斬撃が白雪を襲う。
白雪の体には次々と切り傷が出来てそこから血が吹き出す。
その光景はまるで花びらが舞っているいるかのようだ。
そして次第に白雪の周りに風が起き始める。
楓が刀を止めて静かに鞘に戻す。

白雪「すまん・・・ご、主人様」

白雪は紅色に染まった月に向かって手を伸ばす。
楓が刀を鞘に戻し終わりカチンっと音と共に素早く鞘から刀を抜き取り風に鎌鼬を乗せて白雪を斬りつけて吹き飛ばす。
白雪は受身も取れずに校舎の壁にたたきつけられて力なく地面に倒れる。

楓「・・・・流石ですね。」

楓の頬に切り傷がありそこから血が流れだした。

楓「後はご主人様の回収だけですね。っく!!」

歩こうとしたが体の激痛で楓はその場にしゃがみ込む。

楓「やはり反動がすごいです・・。しばらくは使えなさそうですね。」

楓は立ち上がって刀をしまい走り去った。
楓と入れ違うように黒尽くめが白雪に近づく。

???「また、間に合わなかったようですね。」

黒尽くめは白雪の無数に入った切り傷を撫でる。

白雪「っく!!」
???「!!。よかったです。本当に良かったです・・。」

瞳にうっすらと涙がたまるのが分かる。
黒尽くめは懐から薬のような物を取り出して白雪の傷にそれを塗る。
紅いの月はそんな彼女たちをただただ空の上から見下ろしているかけだった。
・・


       

表紙

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