目を開けると見慣れない天井が目に入った。
あたりを見渡すと十畳ほどの和室で俺はその中央に敷いてある布団の中にいる。
この部屋は見覚えがる。
いや、見覚えがあるというかみんなと暮らしている家に逝く前にここに住んでいた。
おそらくここは道明家の本家だろう。どこか懐かしい臭が俺の鼻をくすぶった。
十紀人「っく！！」
体を起こそうとすると全身に電流を流されるような痛みを感じて俺は布団に倒れこむ。
それでも俺は無理矢理に体を起こして障子の所まで歩く。
一歩一歩、歩くたびに体の筋肉が悲鳴を上げて引きちぎれていくようだ。
障子を開けるとそこには綺麗に手入れをされている日本庭園のような無駄に広い庭が目に入る。
どうやら本家で間違いないようだ。
俺はただ庭に面した廊下をゆっくりと歩く。
どこに向かっているかは俺にもわからない。
ただジッとしていられないのだ。
アレから何が起きたのか・・粋や白雪、百鬼、黒川それに静は無事なのか、もしかしたら・・・。
それにどうして俺は本家にいるのか全くと言っていいほど状況がわからない。
十紀人「っぐ！」
体に激痛が走り俺はその場に倒れこんだ。
起き上がろうと腕に力を入れるがうまく力が入らずに再びその場に倒れこむ。
静「お兄ちゃん！！」
その声に顔を前に向けるとトレーに何かを乗せた静が俺に駆け寄って来る。
静が無事なのを確認してひとまず胸をなで下ろす。
十紀人「静。」
静「何をしているんですか！！お兄ちゃんの体は今絶対安静なんですよ！！」
十紀人「静、無事だったか。よかった。っく！！」
静「私の心配より自分の体を心配してください！！」
十紀人「みんなは？」
静「お兄ちゃん・・・。」
十紀人「静。みんなは無事なのか？」
静「大丈夫ですよ。みんな道明家が保護しました。」
十紀人「そうか。良かった。みんなに会わせてくれ。」
静「今はダメです。大丈夫とは言っても予断を許さない状態なんです。それにお兄ちゃんも絶対安静なんですよ！！」
十紀人「でも！！」
静「でももヘチマもありません！！・・・絶対助かりますから！!道明家の力はお兄ちゃんも分かっているはずです！！絶対に助けますから今はお兄ちゃんも安静にしてください。」
静の俺の服を掴む手に力が入るのがわかった。
十紀人「わかった。」
静「今車椅子をもってきますね。大人しく待っててくださいよ。」
そう言って静は俺を柱にもたれかからして足早にどこかに行ってしまった。
庭を見ると鹿威しが一定間隔ごとに音を鳴らしている。
体が疲れているせいなのかみんながひとまず無事と知って安心したのかだんだんと意識が薄れていく。
・・・
・・
・
どれくらい寝ていたのだろう。
何度か静に起こされた気がするが記憶が曖昧だ。
目を開けると丁度静が俺の体を起こそうとするところだった。
静「起こしてしまいましたか？」
十紀人「いや、大丈夫だ。」
アレだけ痛かった体も随分と痛みが引いたみたいで体を起こしても以前のような痛みは感じられなかった。
静「お薬です。」
そう言って静は俺に薬の乗った紙と水の入ったコップを手渡してくれる。
俺は言われるがままにその薬を一気に口に含みそれを一気に水で流し込む。
十紀人「苦いな。」
静「良薬口に苦しっていいますよ。」
十紀人「そうだな。・・・静外の空気が吸いたい。」
静「はい。」
静は障子を開けて部屋の空気を入れ替えてくれる。
心地良い風が部屋の中に入ってきて、俺の頬を撫でる。
十紀人「俺はアレからどれくらい寝ていたんだ。」
静「一週間ほどですね。」
十紀人「そんなにか・・。」
いつの間にかそんなにたっていたのか。
開けられた障子の間から庭をながめていると、廊下をどたどたと大きい音でこちらに向かって走ってくる音がする。
白雪「ご主人様！！」
百鬼「マスター！！」
二人同時に俺の前に現れた。
十紀人「お前ら！！」
静「百鬼さん！！白雪さん！！」
白雪や百鬼の体には至る所に包帯が巻かれていて痛々しい姿をしている。
しかし、そんなことより俺は彼女たちが無事だとしたことに安堵した。
3人が居れの顔を見て驚いているよな顔をする。
静「・・お兄ちゃん」
白雪「・・・ご主人様。」
百鬼「・・・マスター」
久しぶりに会った彼女たちは痛々しい姿をしているが元気そうだ。
俺の頬を温かい雫が流れるのがわかった。
あぁ、俺は泣いているんだ。
しかし、俺はその涙を拭おうとはしなかった。
いやそうしたくなかったのだ。
静「お兄ちゃん。涙が出ていますよ。」
十紀人「あぁわかっているよ。なんだか嬉しくて・・。よかった。本当に良かった。」
白雪「・・な、なんだ。久しぶりだな。ご主人様。」
百鬼「百鬼たちもついさっき目覚めたばかりでありますよ。マスター」
白雪は下を向いて頬を人差し指で掻いている。
百鬼は斜め上を向きながら爪先で畳に丸を書いていた。
二人とも照れているのか頬がほんのりと紅くなっているのがわかった。
俺はこのなかに粋や黒川がいないことに気が付く。
十紀人「静。粋や黒川は？」
静「・・・峠は越えて今は安定しています。」
静はお茶を濁すような歯切りの悪い言い方をした。
十紀人「今会えないか？」
静「今は会わないほうがいいかと・・・。」
白雪「静、いずれは会うことになるんだ。それに私も会いたい。」
百鬼「百鬼も会いたいであります。」
静「・・・・・」
静はゆっくりと頷き覚悟を決める様に「わかりました」と言った。
俺達は静に後について屋敷の中をゆっくりと歩く。
廊下を歩いていると懐かしさが込み上げてくる。
昔はよくこの廊下を走り回って親父に怒られていたものだ。
しばらく歩くとある障子の前で静が足をとめる。
静「ここです。」
俺は恐る恐る障子を開ける。
部屋の中は薄暗くこの和室の部屋には似つかわしくない折りたたみ式のベットとその横には心電図が置いてある。
ベットの上には粋が横たわっていた。
そしてその横にはやはりベットに横たわった包帯で顔の半分を巻かれた黒川がいた。
俺は何も言わずに部屋の中に入って粋の横に行く。
粋は安らかに寝ているようで部屋の中にはピッピッという音が虚しく響いていた。
静「粋さんは命を取り留めたものの生命力が低下しているため起きることはありません。このまま生命力が低下し続ければ粋さんは・・・。」
十紀人「どうすれば粋は目を覚ます。」
静「わかりません。」
十紀人「俺は何をすればいい。」
静「わかりません。」
十紀人「粋を助ける方法は。」
静「わかりません。」
十紀人「どうすればいい！！」
静「わかりません！！」
俺は静の両肩を握りしめる。
静は痛みに耐えているのだろうか表情が歪んていた。
それに気付いて手の力を緩める。
十紀人「頼む教えてくれ。静。俺はどうすれば粋を助けられるんだ。」
静の肩をつかんだまま力なくその場に座り込む。
静「ごめんなさい。お兄ちゃん。生命力に関しては私たちよりお兄ちゃんたちの方が詳しいんです。そのお兄ちゃんたちにわからないなら私たちはただ粋さんを信じて目覚めを待つしかありません。」
十紀人「そうか・・・。わかったよ。静。ありがとう。」
座り込み柱にもたれかかりながらぼんやりと粋の寝顔を眺める。
静「・・・・部屋に戻りましょう。」
十紀人「・・・・」
白雪「静。私たちは戻ろう。」
静「・・・でも」
百鬼「察してやるでありますよ。静。」
静「・・・・わかりました。」
そう言ってみんなはこの部屋を出て行った。
俺は部屋に残されてただその場に蹲ることしか出来なかった。
何が正義の味方だ。
聞いて呆れる。何も抵抗出来ずに気がついたときにはこの有様だ。
俺はこの時初めて自分が負けたことに気がついた。
大切な人を大切な場所を壊されたことに・・・・。
守れなかったのだ。粋を黒川を白雪も百鬼も静もみんな傷ついていた。
俺のせいだ・・・。
俺が弱いから・・。弱いから何も守れない。弱いから・・・もっと力があれば・・・もっと力が・・。
もっと・・・。
・・・
・・・
・・・
どれだけ時間がたっだろうかあたりは暗くなっていてこの部屋はより一層闇が濃くなる。
窓から外を眺めると分厚い雲が空を覆っていた。
部屋の中にはただ虚しく心電図の音が鳴り響いている。
俺は静かに立ち上げりもう一度粋と黒川を見る。
粋や黒川が目覚める様子はこれっポチもなかった。
十紀人「粋、今から仇を取ってきてやるからな。」
俺は拳を握りしめながら部屋を出て玄関えと向かう。
今が何時なのかはわからない。
廊下やあたりからは人の気配がまたくしない。
無駄に広い玄関に着くと俺の靴が置いてあった。
無造作に靴を履いて玄関を出る。
そのまま門があるところまで走りぬけようとしたとき、門の前に人影を見つけて俺は立ち止まる。
百鬼「マスター。こんな夜遅くにどこにいくでありますか？」
十紀人「百鬼。そこをどけ。」
百鬼「らしくないでありますね。どうしたでありますか？」
十紀人「いいからそこをどけ！！」
百鬼「はぁ～粋や黒川を守れなかったことが悔しいでありますか？」
十紀人「黙ってそこをどくんだ百鬼。」
百鬼「それで一人で敵地に乗り込んで何をするきでありますか。マスター。」
十紀人「どけ！！」
百鬼「答えろであります！！」
百鬼は俺を睨みつけて叫んだ。
俺は静かに口を開く。
十紀人「仲間がやられたんだ。奴らの全部を壊しにいく。全部だ。何もかも壊してやる。同じを思いをさせてやる！！」
百鬼「はぁ～。今行ったことろでマスターは犬死するだけでありますよ。頭を冷やすであります。」
十紀人「黙れ！！百鬼いいかこれは命令だ。そこをどけ。」
百鬼「っぐ！！」
デバイスに取って主である俺の命令は絶対だ。
しかし、百鬼は体がどきそうになるのをグッとこらえて俺の方をまっすぐに見る。
百鬼「マスター。いい加減にしないと怒るでありますよ。」
十紀人「・・・俺の命令がきけないのか百鬼。」
百鬼「きけないじゃないであります。きかないんでありますよ！！」
十紀人「命令無視か・・。」
俺は歩いて百鬼にゆっくりと近づいていく。
百鬼「どうしちゃったでありますか。マスターはそんなことする奴じゃないであります。」
十紀人「俺は俺だ百鬼。仲間の仇を取るんだ。粋や黒川や白雪やお前をこんな目に合わせた奴に同じ思いをさせてやるんだ。」
百鬼「ふざけるなああああぁぁぁぁぁぁ！！」
百鬼の隣を通りすぎようとしたとき百鬼の拳が俺の顔面をしっかりと捉えた。
俺はそのまま地面に転がり何が起きたか分からずすぐに起き上がる。
百鬼「ふざけるなであります。何が粋や黒川や白雪やお前をこんな目に合わせた奴に同じ思いをさせてやるんだでありますか。誰がいつ、どこでそんなお願いをしたでありますか！！」
十紀人「・・・・」
百鬼「戦う理由を他人に押し付けるなであります！！」
十紀人「・・・・」
百鬼「一人で行って何にができるでありますか！！そんな状態で戦って誰がすくえるでありますか！！今マスターがしようとしていることは誰もすくえないであります！！だれも望んでないであります！！それのどこに正義があるでありますか！！今マスターがしようとしていることは奴らとなにも変わらないでありますよ！！」
十紀人「いいから。どいてくれ百鬼。」
俺はゆっくりを立ち上がり門を目指して足を進める。
百鬼「どうやら本当に頭を冷やす必要があるでありますね。マスター歯をくいしばるであります。」
十紀人「もう一度言う。命令だそこをどけ！！」
百鬼「断るであります！！。」
十紀人「っぐ！！」
百鬼は拳を振り上げて俺を殴る。
俺は再び地面を転がることとなった。
そして百鬼を睨みつける。
十紀人「・・・」
百鬼「一発や二発で目が冷めないようでありますね。だったら何発でも殴ってやるでありますよ。」
空は分厚い曇が覆い星などは全く見えない。
向こうの方でで雷が鳴り始めて一瞬だけあたりを照らす。
空から一滴の雫が地面を落ちた。
俺も拳を握りしめて百鬼に突進を仕掛ける。
百鬼も拳を振り上げて俺に向かってくる。
十紀人「ひゃっきいいいいいぃぃぃぃ！！」
百鬼「マスタアアアアアァァァァァッァァァァ」
二つの拳がぶつかり合い衝撃派生まれる。
・・
・
静「本格的に降ってきましたね。」
静が部屋を出ると外は雨が振りはじめていた。
静はそのまま自室に戻るために廊下を歩く。
その途中で玄関を通った時に玄関が開けっ放しになっていることに気がついた。
静「あれ？」
玄関を閉めようとすると門の手前に二つの影があることに気がついてそれを眺める。
静「お兄ちゃん！！それに百鬼さん！！どうして・・・。」
二人が殴り合いをしているの気がついて静は驚いた。
いや、たしかに二人はよく鍛錬とかで殴り合いはしているが、いつもと違う。二人とも手加減なしで殴り合っているのだ。
静「止めないと！！」
静は急いで外履きを履いて二人を止めようと玄関をでる。
白雪「静。止まれ。」
静「え？」
その声で静は立ち止まり振り返ると玄関の柱にもたれかかりながら殴り合っている二人を眺める白雪がいた。
静「白雪さん！！なにをしているんですか！！。早く二人を止めないと！！」
白雪「今二人を止めたところで何の解決にもならない。」
静「何をいっているんですか！！」
白雪「静よ。私たちの中で今一番心を痛めているのは誰だと思う？」
静「どして今そんな質問をするんですか！！今は二人を止めるのが先じゃないのですか！？」
白雪「ただ単に殴り合っているだけなら私が止めている。答えよ静。誰が一番心を痛めている。」
静「そんなのお兄ちゃんに決まっているじゃないですか！！」
白雪「冷静になってあの二人をよく見ろ静。」
白雪に言われて静は殴り合っている二人を今一度見る。
雨が激しさをましたせいで分かりづらいが百鬼の瞳からはこの雨に負けないくらいの涙が溢れ出ていた。
静「・・・・。」
白雪「ご主人様が一人で奴らを壊しに行こうとしたのを百鬼は止めているんだ。」
静「百鬼さん」
白雪「お前がご主人様を大切に思っているのは分かっている。しかし、静。ご主人様を大切に思っているのはお前だけでは無いんだぞ。私も百鬼もご主人様が大好きなんだ。・・・あんなに傷ついている百鬼を見てどうして止められようか。」
静「・・・はい。」
静は飛び出したい気持ちをグッとこらえてただ二人が殴り合うのを見つめていた。
百鬼の拳が十紀人の顔面にもろに入り十紀人は地面を転がり泥だらけになる。
大の字で地面に倒れて十紀人は沈黙した。
百鬼「目は覚めたでありますか？」
十紀人「・・・・あぁスッキリだ。」
百鬼「マスターは馬鹿であります。」
十紀人「うるせぇ。俺は生まれつきの大馬鹿だ。」
百鬼「・・・百鬼は先にもどるであります。」
ずぶ濡れになった百鬼は下を向きながらその場を離れようとする。
俺はそんな百鬼を呼び止める。
十紀人「百鬼、迷惑をかけたな。」
百鬼「こんなこと二度とさせないでほしいであります。」
十紀人「すまん。」
百鬼はゆっくりをその場を離れて玄関に向かって行った。
百鬼の拳は痛かった。
俺の目からは自然と涙が零れ落ちて地面に出来た水たまりに雨と一緒に落ちていく。
鳴き声は雨音が優しく隠してくれる。
百鬼は玄関にたどり着くと二人がいることに気がついた。
静「百鬼さん。」
百鬼「静。お風呂に入りたいであります。」
静「わかりました。すぐ用意しますね。」
そう言って静は急いでお湯を沸かしに家の中へと入っていた。
白雪「嫌な役をやらせてしまったなぁ。」
百鬼「痛いであります。・・・どんな攻撃を受けるより、どんな物を殴るより・・・マスターと戦うのは拳が・・体が・・心が・・死にそうなくらい痛いであります。」
白雪「あぁ。」
白雪はそっと百鬼のずぶ濡れになった体を抱き締める。
百鬼は泣き声を隠すように白雪の胸の中で静かに泣いた。
十紀人は未だに大の字で地面に倒れていた。
ただどしゃ降りの雨の中で曇った空を眺めている。
・・・
・・
・
その雨は止むことは無く三日三晩振り続いている。
十紀人「今日も雨か・・・。」
あれ以来俺は、誰とも会っていない。
いや、たまに静がご飯を持ってきてくれるだけで会話はしていないのだ。
そして俺は縁側に座りただ振り続く雨を眺めている。
頭に血が登ったとは言え百鬼には辛い思いをさせてしまった。
本当に俺は大馬鹿だ。
殻に閉じこもった昔となにも変わっていない。
俺は拳を右手を握りしめて右の頬を思いっきり殴る。
十紀人「いってええええぇぇぇぇぇ！！くそ！！」
殴った頬はジンジンと痛み出して熱を帯びていく。
十紀人「・・・けど、百鬼のパンチのほうが一億倍痛かった・・・。」
白雪「ご主人様。いつまでそうしているつもりだ？」
十紀人「今日までだよ。白雪。」
白雪「ふふ。そうか。みなを集めようか？」
十紀人「頼んだ。」
どこからとも無くした白雪の声に俺はそう答える。
・・
・
数分後俺の目の前には静と百鬼それに白雪が並んでいた。
十紀人「最初に百鬼。辛い思いをさせて悪かった。」
俺は百鬼に向かって頭を下げる。
百鬼「もういいでありますよ。だから頭を上げるであります。」
そう言いながら百鬼は恥ずかしそうに頬をポリポリと掻きながらそっぽを向く。
十紀人「それと静。みんなを助けてくれてありがとな。」
静「いえ、とうぜんの事ですよ。」
十紀人「それに白雪もここ最近ずっと俺の側にいてくれてありがとな。」
白雪「っな！！気付いていたのか！？」
隠れていたがずっと俺の側にいてくれていたことは分かっていた。
たしかに感じた白雪の存在が俺をどれだけ救ってくれたことか・・。
十紀人「みんなには本当に感謝している。」
俺は再び頭を下げる。
静「頭を上げてください。お兄ちゃん。私たちはそうしたくてしているだけなのですから・・。」
十紀人「それでも感謝してもし尽くせないくらい感謝しているんだ。」
百鬼「マスターは大げさであります。」
白雪「全くだな。ご主人様。感謝しているのは私たちもだ。」
百鬼「そうでありますよ。マスターは百鬼たちを受け入れて守ってくれたであります。」
十紀人「俺の方こそ守ってもらってばっかりだ。」
静「お兄ちゃん。これは堂々巡りですよ。」
そう言って静はクスクスと笑って見せる。
俺たちも顔を目合わせて笑いあった。
十紀人「俺は、粋の体内にあったコアデバイスを取り戻したい。それとついでに兵器を開発するのをやめさせたい。」
前に一度だけ聞いたことがある。
粋のコアデバイスは身体能力を上げる働きとは別に生命意地に必要な生命力を溜めておくことも出来るらしい。
まだそれが残っているのであればもしかすると粋の意識を取り戻すことが出来るかも知れない。
俺はそれに掛けてみたいのだ。
白雪「面白いなぁ。」
百鬼「そういうことなら今度は止めないであります。」
十紀人「けど、今度の敵は強い。俺はたちは一度負けているし。どんな危険が待ち構えているかわからない。」
白雪「なぁに案ずるな。ご主人様。私たちは生命力の分強くなれる。」
百鬼「そうでありますよ。」
白雪「気がついているだろ？自分の中の生命力が跳ね上がっていることを・・。」
十紀人「うん。」
百鬼「百鬼も感じるでありますよ。マスターから来る生命力が以前にも増していることがこれなら百人いや、一億人力であります。」
白雪「で、いつごろ攻めようと思っているんだ？」
十紀人「まずは体と体力をもとに戻さないとなぁ。後訛った体をたたき直さないといけないからざっと見積もって3週間後かな。」
白雪「そうか。」
百鬼「それまで美味しいご飯を食べてしっかりと体力を付けるでありますよ。」
白雪「当日、食べ過ぎて動けませんとかいうなよ。」
百鬼「そんな事ないであります！！」
みんなの会話を聞いていた静が静かに口を開く。
静「みなさんに大事な話があります。」
百鬼と白雪がじゃれ合いをやめて静を見た。
俺も静の真剣な顔に驚いて黙って静を見る。
静「・・・私は政府の人間です。」
十紀人「・・・・。」
百鬼「どういう事であります。」
静「私は政府直属の御庭番です。現在私たちにくだされている命令は道明十紀人の警護及び監視です。私は道明十紀人様の妹として幼い頃からずっと道明十紀人様を監視していました。」
十紀人「なんでそんなことを？」
静「十紀人様はお気づきのはずです。自分の中に存在する物を・・・。政府も一枚岩ではありません。誰もが武器製造に賛成というわけではないのです。私たち御庭番は今反対派に所属しています。そこで私たち反対派の鍵となるのが十紀人様なのです。ですから十紀人様だけはどうしても賛成派に渡すことが出来ませんでした。」
十紀人「親父はそのこと知っていたのか？」
静「はい。知っていました。十紀人様のお父様も政府では反対派に属しています。」
十紀人「そうか。静。たまに図書委員の仕事と言って帰りが遅くなるのは？」
静「はい。定期の報告をするためです。」
十紀人「お前は敵か？味方か？」
静「どちらでもありません。私たちは政府の意志に従うだけです。」
十紀人「そうか。なぜ言おうと思った。」
静「なぜでしょうか・・・・私にもなぜだかわかりません。」
十紀人「静！！」
静「はいお兄ちゃん！！・・・あっ！」
静はビックと体を震わせてとっさに返事をする。
十紀人「ふっ・・。お前がどんな仕事をしているか、政府がどうとか反対派なんだたとか賛成派がいるとかそんなことは俺にしてみたらどうでもいいことだ。俺にあるのは仲間を救うことと俺の大切な場所を守ることただそれだけだ。静、お前はやっぱり俺の妹だよ。俺の仲間であって大切な場所の一つだ。」
静「お兄ちゃん・・・・。」
静の瞳に涙がたまる。
静はそれが落ちる前に拭い取る。
十紀人「お前と過ごした時間はしっかりと俺とお前の中にある。それを絆と言うもじゃないのか？その絆があるのを家族って言うじゃないのか？」
静「私は道明静でいいですね。お兄ちゃん」
十紀人「当たり前だ。」
静「・・・ありがとうございます。」
静の顔がパーっと明るくなり元気一杯にそう言った。
ぐ～～～。
突如、部屋にお腹のなる音がする。
白雪「百鬼。貴様と言う奴はせっかくの雰囲気が・・・。」
百鬼「だって仕方ないでありますよ。体は嘘をつけないでありますから。」
百鬼は顔を真赤にしてそういった。
十紀人「はははは。そういえば俺も腹減ってきたわ。」
静「ふふふ、では、食事の準備をしてきますね。」
そう言って静は部屋を出て行いった。
雨はいつの間にか上がり綺麗な三日月が空に浮かんでいた。
静は足早に台所を目指す。
静「虎。状況はどうですか？」
そう静が言うとどこからとも無く黒服が現れる静の後ろに付く。
虎「はい。はっきりと言いますとこのましくありません。このままでは反対派は飲み込まれてしまうかと。」
静「何としてでも食い止めてください。場合によっては猿と雉と犬を使ってもいいですから。」
虎「は！」
そう言うと虎と呼ばれた黒尽くめは闇に消えた。
静「私はお兄ちゃんの敵にはなりたくない。」
・・・
・・
・
十紀人「っく～～～！！」
俺は庭に出て朝の陽射しを浴びながら背伸びをする。
あれからさらに一週間の月日流れて体のほうも完治した。
静が調合したと言う薬のお陰だろうか・・。
包帯も取れて俺は試しに腕を振ってみたり足を曲げてみたりする。
十紀人「痛いところはないな。」
白雪「体の調子はどうだ？ご主人様。」
木刀を持って素振りをしていた白雪が俺を見て話しかけてくる。
十紀人「万全だ」
白雪も百鬼も既に包帯は取れている。
後は訛った体を万全にするだけだ。
そして俺の課題はあの時の戦いで見せた。
爆発的な生命力を安定して出せるようにすること。
政府の戦いの時までには習得しなくてはいけない。
十紀人「今度は負けない。」
いや、負けられないんだ。
粋の意識を取り戻すためにはあのコアデバイスが唯一の鍵なのだから・・。
百鬼『マスタ！！』
突如、百鬼から意識通信が飛んでくる。
十紀人『おう、どうした百鬼。』
百鬼『黒川が目を覚ましたであります！！すぐに来るであります！！』
十紀人『なに！！？すぐに行く！！』
十紀人「白雪！！黒川が目を覚ました！！すぐに行くぞ！！」
白雪「なに！？わかった！！」
俺は白雪を連れて慌てて粋と黒川が寝る部屋に急いだ。
部屋に入ると静と百鬼がいてベットには今だ目を覚まさない粋。
その横に状態を起こした顔の半分を包帯で巻かれた黒川がいた。
黒川はゆっくりと顔をこちらに向ける。
十紀人「黒川。」
黒川「十紀人様。私の意識がいつまで続くかわかりませんので早急に話したいことがります。」
十紀人「あ、あぁ。」
黒川「お願いです。主のコアデバイスを取り戻してください。それしか主を救う方法はありません・・。」
十紀人「わかった。必ず取り戻す。」
黒川「ありがとうございます、これを・・。」
そう言って差し出した黒川の手にはUSBメモリが置いてある。
俺はそれを受け取った。
黒川「お願いです。十紀人様、主を・・・主を助けてください・・・。」
黒川はそれだけ言い終わるとまた意識を失って眠りに付く。
時間にしたらほんの数秒だった。
しかし、それだけで十分なくらい黒川の言葉は俺の中にのこった。
十紀人「当たり前だ。俺は正義の味方だからな・・・」
俺は眠りに付く黒川に向かってそういった。
黒川が微笑んだように静かな寝息を立てて始めた。
十紀人「静。この家にパソコンはあるか？」
静「はい。今案内します。」
俺は黒川から受け取ったUSBメモリを手に静のあとを追う様にして部屋を出た。
パソコンを立ち上げてUSBメモリを差し込んで中身を見る。
そこには一つだけファイルがあった。
俺はダブルクリックをしてそのファイルを開く。
Dear 十紀人
十紀人がこれを読んでいると言うことは僕は死んでいるか瀕死の状態なんだろうね
僕は彼女たちの強さの象徴である。武器がどこから来てどういう風に構成されているかを突き止めた。
それを君に教えるよ。
十紀人は知っているかなオリハルコンって言う金属をよくゲームのRPGやSF小説とかでファンタジーで出て来るよね。
ロストテクノロジーや空想金属言われていいるものだよ。この世に存在しないという幻の金属。
それもそうだ何故ならオリハルコンと呼ばれる金属は空気中に漂う金属原子なの集合体なんだから簡単に言うと合成金属。
デバイスと呼ばれる彼女たちの武器はそれによって形成されたものなんだよ。
普段は空気中を漂い。生命力に反応して形成される。
これが彼女たちの武器となるみたいだ。強度だけで言えばどの金属よりも固いだろうろうね。
でも、生命力で形成されるから安定した生命力を送り込む必要があるだよ。
つまり形付けるために生命力を送り続けるから大量の生命力を消費してしまう。
調整はコアデバイスがある程度してくれるから仕組みさえ知ってしまえば思いのほか手軽に武器を精製出来るんだよ。
でも十紀人。生命力を操れる君ならコアデバイス無しで武器の精製ができるとおもう。
それはこれまで以上に強大な力を手に入れることになる。
でも君なら使い方を誤ることはないだろうね。あとは頼んだよ。
PS 黒川のことは頼んだよ。 By 粋
急いでまとめたのだろうか殴り書きで書かれた文章だった。
十紀人「武器の精製か・・・。」
たしかに生命力で制御するのならば俺にも出来るかも知れない。
それに俺が武器の精製に成功したら戦闘能力は今の倍にはねあがるだろう。
それこそ白雪や百鬼と渡り合えるくらいに・・・。
十紀人「やってみる価値はあるな。」
静「お兄ちゃん。」
静は心配そうな顔をして俺の方を見る。
俺はそっと静の頭に手を置いた。
十紀人「大丈夫だ。俺は負けない。」
そう言って静の頭を優しく撫でる。
決戦の日は着実に近付いている。すぐにでもこの技を習得する必要があるのだ。
それにあの生命力を自在に引き出す事ができるようにならなくてはいけない。
そこに勝希があるのだから。
俺は必ず粋や黒川を救ってみせる・・・それともう一人の俺達の仲間も・・・。
・・
・
十紀人「精製・・錬金・・形状の固定・・っく」
形になりかかった物質は空気中に散らばる。
思ったよりも難しい。
一歩間違えれば生命力を全部持って行かれそうにあるため製造している時は全くと言っていいほど気が抜けないのだ。
白雪「自分が扱いたい武器のイメージをもっとはっきりともつといいぞ。」
俺のコーチとして白雪が教えてくれている。
十紀人「扱いたい武器かぁ。」
俺は今まで格闘しかしてこなかった。
今更扱える武器などあるのだろうか？
白雪の様な刀？百鬼の様な腕や足の防具？いやそれらを付けたところで付け焼刃にしかならないだろう。
ならば簡単に使いこなせて付け焼刃でない武器にしないといけない。
口では簡単にいえるが実際にどんな武器とかと言われると難しいものだ。
それにそんな都合のいい武器があるとも思えない。
十紀人「はぁ～駄目だ。全然想像がつかない。」
ため息と共にその場に座り込む。
白雪「まぁ～後はイメージをしっかり持つことだな。まぁ焦る必要はないゆっくりすればいい。」
十紀人「それじゃぁダメなんだ。」
白雪「根を詰めてもいいことはないぞ。」
白雪の言っている事はわかる。
だけどどうしても焦りが出てしまう。
白雪「それに決まっていななら形の決まらないものを作ればいい。」
十紀人「どういう事？」
白雪「私にもわからん。考えるな感じろ。」
十紀人「なんだよそれ。」
白雪がむちゃくちゃなことを言い始めてしまった。
俺は座り込んだまま状態を倒して仰向けになる。
空は清々しいほどに蒼く晴れていた。
太陽が眩しくて右手の掌で太陽をさえぎると顔に影がかかる。
白雪「・・・・。」
白雪は無言で俺の隣に座って深呼吸をした。
胸が膨らむのが見て取れる。
それにしたがってけしからん胸がゆっくりと揺れて見ているだけやわらかさが伝わってくるよな気がする。
きっとあの胸はもふもふなのだろうな。うん。
白雪が急にバッと胸を隠す様に縮こまる。
白雪「そんなに胸ばかり見るな。恥ずかしいぞ。」
十紀人「あっ。すまん。」
白雪は恥ずかしそうに唇を尖らせて顔を赤くする。
俺は恥ずかしくなり目をそらした。
再び空を見上げると雲ひとつない青空に一羽の鳥が気持ちようさそうに飛んでいた。
束の間の休息となるのだろう。
十紀人「白雪。」
白雪「なんだ。」
十紀人「俺は今度こそちゃんと守れるのかな？」
白雪「無理だ。」
十紀人「え？」
白雪「一人でならばな。みんなで守れば不可能なことはない。そう思うだろ？」
そう言った白雪の顔はこの太陽より眩しい笑顔で俺はそれに吸い寄せられる。
十紀人「白雪。」
白雪「ご主人様。」
俺達は自然と見つめ合った。
白雪はゆっくりと目を閉じた。
そして徐々に俺達の顔の距離が短くなっていく。
翠「ごほん！！」
わざとらしい咳払いが聞こえる。
俺達はとっさに離れる。
翠「いや、何だ。邪魔するつもりはなかったのだがすまない。」
目を向けると翠が塀垣に座ってこちらを見ていた。
白雪「貴様は！！」
白雪はすぐに立ち上がり戦闘態勢に入る。
俺も驚いたが前会った時とは雰囲気が違うし全くと言っていいほど殺気が感じられないので座ったまま起き上がろうとはしなかった。
翠「構えるな。私は別に戦いに来たんじゃない。」
白雪「ならば、何をしに来た。」
翠「・・・・」
白雪「答えろ。」
翠「十紀人と話をしに来た。」
翠は何か怒ったような不満があるようにほっぺたを膨らませてそういった。
白雪「話？今更何を話すことある。」
翠「いいから話があるんだ。」
翠が塀垣から飛び降りてこちらに歩み寄ろうとする。
白雪が腰を落としていつでも飛びかかれるような体制に入った。
白雪「止まれ。それ以上近くに寄るなら今すぐその首たたき斬るぞ。」
白雪の手にデバイスの雪風が現れる。
それでも翠はまっすぐに俺を見て歩みを止めようとはしなかった。
刹那。
白雪は飛び出して翠に目掛けて雪風を振り下ろす。
翠はそれでも変わらずにまっすぐに俺を見ていた。
白雪「・・・・」
翠「・・・・」
雪風は翠の首に触れるか触れないのぎりぎりのところで止まっている。
白雪「なぜ避けない？」
翠「言葉にするまでもないだろ？」
白雪「論より証拠と言うわけか」
翠「・・・・。」
十紀人「白雪。」
俺の呼びかけで白雪は雪風をしまって俺の横に戻ってくる。
翠は俺の目の前に来てその場に正座した。
エメラルドグリーンの瞳を俺に向けて翠はそっと口を開く。
翠「道明十紀人殿。お前に折り入って頼みがある。」
十紀人「なんだ？」
翠「隆条楓お姉様を救ってほしい。」
白雪「っふ。今更だな。」
百鬼「白雪の言うとおりであります。どの面下げて今更そんなことがいえるでありますか。」
いつの間にか百鬼が廊下に立っていてこちらに歩いて来る。
その後ろには静もいた。
二人とも険しい顔で翠を睨みつける。
俺はただただ黙って翠を見つめていた。
翠も同じように俺から目をそらさずにいた。
翠「楓お姉様は、お前らと離れてから笑わなくなった。そして先の戦いで楓お姉様は深く傷つき毎日泣いていられる・・・たしかに私たちの前では平然としているが・・・。訓練の時も余裕が無いように感じられるのだ・・・ただひたすらにご自分を追い詰めていられるように・・・私は、私はあんなに苦しんでいられる楓お姉様をこれ以上みたくはない！！お願いだ道明十紀人！！楓お姉様を救ってくれ。私では無理のだ・・・救ってくれるなら私はなんでもしよう！！この身を焼くなり、煮るなり好きにしてくれて構わない。」
そう言って翠は地面に頭を付ける。
翠「頼む！！もう頼れるのはお前しかいないんだ。」
十紀人「一つだけいいか？」
翠「何だ。」
頭を地面につけたまま翠は返事をした。
十紀人「どうしてそこまで楓を救いたいと思う。」
翠「楓お姉様は私の唯一の家族だ。・・・いや、血はつながっていないが楓お姉様は私を妹のように可愛がってくれた。初めてだったんだ。人から受ける温かみというものが・・・嬉しかったんだ・・・」
翠の声が震え始める。
翠「楓お姉様だけなんだ。だから私は楓お姉様を本当の姉のように慕った。楓お姉様も私を本当の妹のように可愛がってくれた。私にはそれがとても嬉しかったんだ。お願いだ。お願いだから楓お姉様を救ってくれ。私はもうあの人のあんな辛いそうな顔を見たくない。」
十紀人「断る。」
翠「え？」
翠が顔を上げると顔は涙でぐじゃぐじゃになっていた。
十紀人「お前からの頼みで俺は楓を助けるんじゃない。あいつは俺達の友達だから助けるんだ。だから俺はお前の頼みを断る。そうだろみんな。」
白雪「ふむ、私はご主人様と同意だ。」
百鬼「ふん。百鬼はついでであります。それに百鬼たちを裏切ったことまだ謝ってもらってないでありますから・・・」
静「友達が減るということは悲しいです。それに楓さんがいないと学校でのお弁当が少し余っちゃいますし。」
翠の綺麗な瞳から大粒の涙が零れ落ちる。
翠「あ、あ"り"がどう"。・・あ"り"がどう"。」
翠はただその言葉を繰り返し繰り返し呟いた。
・・
・
その日の夜。
俺は庭に面した廊下の柱に座り夜空を見上げていた。
翠「お風呂、先によばれたぞ。」
十紀人「あぁ。」
翠「お前たちはどうして容易く私を受け入れたんだ？」
十紀人「どういう事だ？」
翠「私は敵だったはずだ。お前の友の粋だったか？あいつをあんなふうにしたの原因は私にもある。」
十紀人「・・・・」
翠「恨まれても仕方がないのに、なぜ私をこうもあっさりと受け入れられた？敵の策とは思わなかったのか？」
十紀人「あんな顔で頼まれたら敵だろうが味方だろうが関係ないだろ？」
翠「なっ！！」
翠はさっきの事を思い出したのか顔が真っ赤になる。
十紀人「それにお前が赤裸々に語った楓への思いは嘘なのか？」
翠「そんなことはない！！」
十紀人「だったら俺たちは信じる。いや、信じる価値がある。それにお前がどこにいたとか敵だとかそんなモノは小さいことだ。」
翠「甘いな。」
十紀人「あぁそうだな。」
翠「甘甘だ。・・・だが温かい。とっても甘くてとても温かい。今なら楓お姉様の気持ちが分かる・・・。」
月明かりに照らされる翠の顔が笑った。
十紀人「なんだ。お前も笑えるじゃん。」
翠「え？」
自分が微笑んでいたことに気付いていなかったのだろうか。
翠は自分の頬を触って自分が笑っているか確認する。
翠「そうか。そうだな・・。ちゃんと私は笑えたんだな・・・。そうだ十紀人殿。」
十紀人「なんだ？」
翠「もう一度言わせてくれ。・・・・ありがとう。」
そう言って翠は微笑んだ顔を俺に向けた。
月明かりに照らされたエメラルドグリーンの瞳がとても美しく輝いて今までみた彼女のどんな表情より美しかった。
こうして俺達には新たに仲間が出来た。
目が透き通るほどきれいな緑色の目をしたちょっとがさつで本当はこころの優しい少女名前は翠。
・・・
・・
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