「おい、このままじっとしてたら俺達危ないぞ」
話を切出したのは尾上のほうからだった。
この状況下、勇気を振り絞って話し出したのだろう。
少し引き攣ったような顔からは汗が止め処なく流れ続け、
身体も小刻みに震えている。
尾上が言い出したのは、ここを一緒に逃げ出す、という提案だった。
それを聞くや光田はすぐに断ったが、それでも何度も何度も賛同を煽ってくるので、
いい加減にしろ、と言おうと尾上の方を見た。
すると、尾上の顔がもう限界だ、と訴えているのに気付き、
これ以上何か言って刺激しないほうが良い、と口を積もらせた。
――それから5分が経った。
話がいつ終わるのかと見守る中、
痺れを切らしたのか尾上はグンッとその場に立ち上がった。
「生きてたらまたな」
そう言って薄っすらとした笑みを浮かべると、急に体育館の出口に向かって走り出した。
他の生徒も我慢の限界だったようで、それを見てつられて飛び出した。
異変に気付いた先生が止めにかかろうとするが、
それも虚しくあっという間にもぬけの殻になり、残るは光田一人になっていた。
最後になった光田は先生達に一度お辞儀をすると、そそくさと体育館から出ていった。
10分後、光田は学校を途中で抜け出した事に対する、
不思議と沸く胸の高鳴りと妙な開放感を感じていた。
それに気分を良くしていつもの帰路を歩いていると、
曲がり道の陰から手が伸びているのが見えた。子供ぐらいの大きさだ。
「大変だ……」
事件のこともあって恐る恐る手のあるほうに歩いてくと、
そこには想像もつかない、おぞましい光景が広がっていた
「……!」
光田は一人、騒然としていた。
最初は道端に子供が倒れているものだと思った。
しかし、近づいてみると、それは子供のものではなく、犬や猫、
しかもそのほとんどが骨のはみ出た手足だけしか残っていない状態だった。
恐怖の中、何が起こったのかと目を凝らして奥を見ると、
そこには奇妙な人影が血を滴り落としながらゆらゆらと蠢いていた。
「うぐっ……ふむぅっふっふっふっ……」
光田は目と口から出るものを抑えながら全速力で走った。
10分ほど全力で走ったところで後ろを振り返ると、いつもの通学風景が広がっていた。
それでも動悸が治まらず、緊張した赴きで家に帰って行った。
これから何が起こるとも知らずに……