Neetel Inside ニートノベル
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 帰る家と家族を突如奪われた光田には、
宛も無く、只さ迷うことしか出来無かった。


 暫く裏通りを歩いていると、あることに気付いた。
人が全く居ないのだ。それどころか犬や猫や鳥さえも。
「何かが起こってる。俺にはわからない、何かが」
段々と自分の置かれている状況を理解した光田は、
とりあえず一晩安全に過ごせる場所を探そうと、
ある場所に向かっていった。


――1時間後、午後7時半頃。某公園。
 相変わらず人っ子一人居ず、公園で噴水が水を上下しているさまが、
なんとも不気味な光景に見える。
そんな中、光田は鳥のような人のような奇怪な生物と対峙していた。
「すいません……ここで休ませてください」
 恐怖の中、なんとか言葉を発するが、
鳥人のような生物は意味の分からない言葉を話すだけで、
埒が明かなくなっている。
(駄目だ、やっぱり言葉が通じない)
 少しずつだが確実に間合いを詰め寄ってくる鳥人。
(どうせ殺されるんなら、少しでも抵抗してやる)
 そう思い、ここに来る途中にたまたま見つけた血塗れの鉄パイプを両手で握り締め、
自分のほうからも鳥人に擦り寄る。

ジリ……ジリ……

一人と一体は間合いを3メートル程までに詰める。
すると、鳥人は歩みを止め、右手の指先を突き出した。
それを好機と見て「いまだ!!」と光田が飛び掛ろうとした時、


ビィィィィィィイイイイイイ


 突如、光田からみて右の道路側から警報音が鳴り響いた。
そこには男が居て、リュックサックをからった40ぐらいのいかにも中年の体系をしていた。
その男の頭と手にそれぞれ奇妙な装置が取り付けられている。
「待て!坊主!戦っちゃ駄目だ、離れろ!」
 それを聞いた光田は鳥人から目を離さずにゆっくりと距離を10メートルぐらいに開いた。
「アンドラス、そうだそいつはアンドラスだ!」
「アンドラス?」
 男は手の機械を操作すると、光田と鳥人の間に割って入り、
“光田ではなく鳥人”と話を始めた。
「おじさん、そいつに話しかけても無駄だって!」
「いいから見てろ」
 厳しい口調でそう言い放つと、話を続けた。
なんとも珍しい光景だ。中年と鳥人が神妙な顔つきで話をしている。
「ですから、俺はただ通り掛かっただけで……」


 それから10分後、話がまとまったのか、二人は話すのを止めた。
そして、男が何かゆらゆらと光る石を差し出すと、
鳥人……アンドラスはそれを受け取り、一度頷くと空へ飛びだって行った。
姿が見えなくなると、男はほっとしたように胸を撫で下ろしていた。


「大丈夫だったか坊主。悪魔と対峙するなんて無茶はもうやめろよ」
 男はベンチに座りながら優しくなだめた。
「おじさん、あれって一体何なの」
「ああ、あれは悪魔……といっても俄かに信じられんだろうが、正真正銘の悪魔だ」
 光田はちょっと前なら信じていなかったが、今になってみると
悪魔が居るとなっても不思議には感じなかった。
「悪魔はとんでもない力を持っている。人じゃ適わんよ」

「その口ぶりだと……おじさん他にも悪魔と対峙したの?」

「ああ、それはもう生きているのが不思議なぐらいにな」


 そうして話をしている事1時間、色々なことが分かった。
男の名前は石腹 伸太郎、独身で、
悪魔が他にも沢山居る事、
男が装着している装置、COMPが悪魔と話すための道具である事や、
他の生き残った人が居る確立が絶望的に低いという事を。
「この町だけじゃねえ。どこにいっても悪魔がいやがる」
「どこにいっても……あ!悪い、石腹さん。俺行くとこがあるんだった」
「そうか……じゃぁこれを持っていけ」
 持っていたリュックサックから自分が着けている物より、
かなり小さめのCOMPと光った石を取り出し、光田に手渡した。
「COMPはもうわかるな。一応説明書も渡しといてやるから目を通しとけよ」
「有難うございます。ところでさっきも使ってたこの石は?」
「この石は“魔石”って言うんだ。奴らとの交渉の切り札になる。大事に使えよ」
 そう言うと石腹はベンチから立ち上がり、道路側に出てまた歩き出していった。
「石腹さん、お気をつけて!」
「おう、坊主も達者でな」


 こうして不安と期待が入り混じりつつ光田もある場所に向け歩き出した。

       

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