Neetel Inside ニートノベル
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 “生き残っている人がいる確立は絶望的に低い。”
その言葉が頭をちらつく。あいつに限ってそれはないと信じ、光田はある場所に向かった。


ピンポーン
 ベルを鳴らす。
しかし、反応が無い。
しょうがないので、持っていた鉄パイプで、ドアを無理やり打ち破った。
そして、玄関に入った途端、光田を強烈な異臭が襲った。
嫌な予感がしつつ、細い通路を抜けリビングを覗くと、凄惨な光景が広がっていた。
棘のついた首輪を着けた赤い猛獣が、数匹で小学生……ぐらいの子供に群がり、
はらわたをむしゃむしゃと貪っていた。
その中の一匹がさっきの音に気付いたのか、周りを見回していた。

「おい……こっちだ」
 後ろから声が聞こえ、猛獣達を刺激しないよう静かに下がっていくと、
そこには尾上が手にバットを持って縮こまっていた。
 一階から物音がすると思い下の階を覗くと、
弟がまるで人形のように猛獣達に揉みくちゃにされている、
尾上は涙目になりながら、さっき起こった出来事を報告した。
「……弟はもう無理だ。奴らは食事に夢中になっているから、諦めて
俺たちだけでも逃げようぜ」
「食事ってお前!」
 尾上は激怒したが話す声はぐっと押し殺されていた。
しかし、その声は猛獣達が気付くには十分なものだった。
「悪かった。でも今は生き延びるのが先だ」
 そういって光田は尾上の手を持ち慎重に、一歩一歩下がっていった。
気付いた猛獣達も、二人に見つからないよう、死角から音を立てず、静かに近づく。
二人は壊した玄関のドアをそっと開けると、一気に抜け走り出した。
すると、その様子を見た猛獣達も、物凄い速さで追いかけてきた。
「おい、追いかけてきたぞ」
「そんなのわかってる」
 光田は走りつつもCOMPを起動させ、
猛獣達に持っている石を一つ投げつけたが、
一匹がそれを咥えると、何事もなかったように追い続ける。
「はっはっ……悪い光田、俺もう駄目だ」
 尾上は繋いでいた手を離しその場で崩れ落ちた。
無理もない、尾上は光田と違って始めて悪魔と対峙したのだ。
恐怖のあまり、腰が抜けてしまっていた。
「もう怖くて走れない。俺が食われている間にお前だけも逃げてくれ」
 そう言うと尾上はその場で大の字に寝転んだ。
それを好機と見たのか猛獣達はスピードを上げて突っ込んできた。
「くそおおおおおお」
 光田は逃げた。一度も振り返らずに。
それから少しして、後ろから叫び声が聞こえ、
それを黙殺できるわけもなく、涙を流しながら走っていった。


「これからどうしよう」
 光田は頭の中がぐちゃぐちゃだった。短期間で家族を失い、親友も失ったのだ。
 何も思いつかずにぼーっと歩いていると、かなり大きな商店街にでた。
実はこの商店街、物騒だと有名で、一般人ならまず、誰一人通らないような場所だ。
「しょうがない、行ってみるか」
 意を決して入っていくと、店の窓から光るものがチラチラしているのがわかった。
気になって近づいたその矢先、銃声と共に足に鋭い痛みが襲った。
「ぐああああ」
 叫び声を聞き、窓から人が飛び出してくる。
「おい!こいつ人間だぞ」
「本当だ!」
 数人の話し声が聞こえてくるが、足の痛みに耐え切れず光田は気絶してしまった。


 (いてえ……一体どうなって)
「おお目が覚めたか。悪かったな撃って」
 目の前には男が4人程、軍人のような服装をして立っていた。
その中に一人、見た事のある人が居た。
そう、石腹 伸太郎だ。
「おー坊主だったか。生き残ってて何よりだ。俺はてっきり死んでるだろうと思っていたがな。ははは」
「怖い事言わないでよ」
「それより、一人のようだが」
「それが……」
 光田はここに着くまでの経緯をはなした。
「そうか……。まぁ気を落とすな。」
「ところで、見たところ行く場所が無さそうだが、良かったら俺達と行動しないか?」
「そうですね……このまま一人でいても危険ですからね」
「じゃぁきまりだな」
 石腹は快く返事をしたが、後ろにいる3人は俯いているだけで最後まで何も話さなかった。


 それから、食事を取り、夜の見張りの時間になった。
「石腹さん、ちょっといいですか」
「なんだ?」
「あの3人はいつもああなんですか?」
「ああそうだ。」
 石腹の話によると、あの3人は光田と同じで家族を悪魔に殺され、
命からがらここまで逃げてきたということだった。
それを聞いた光田は家族と尾上のことを思い出し、
そのまま2人は、夜が明けるまでの間、ただ無言で見張りを続けるのであった。
そして、夜が明けた。

       

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