Neetel Inside 文芸新都
表紙

クリスマスイブ
まとめて読む

見開き   最大化      

ひらひら、ひらひら……
ヒラヒラ、ヒラヒラ……
 桜の花びらのように舞い降る雪。
 今年、十二月二十四日。待ってもいないクリスマスというイベントが来てしまった。
 (なんで、こんな事に……)
 そう。俺はこんな日にサンタに出会った。

 俺――黒須湊(クロスミナト)はフラフラ街を歩いていた。特に目的があるわけではない。いや、本当はあったと言うべきだろう。高校の友達とクリスマスを過ごす予定だったのだが『彼女が出来た』とか『家族の用事』とか『彼女が出来た』とか、彼女、彼女、彼女……
 「そんなに彼女がいいのかぁ~~!!」
 黒須の叫びに周りにいる人たちが奇異の目を向けるが気にしない。周りはクリスマスのイルミネーションを見に来ているカップルばっかりだ。
 (ふん、リア充は滅べばいい)
 フラフラしていても仕方ないので帰ろうと自宅に足を向けた。
その間も周りはイチャイチャカップル。イライラが爆発しそうだ。特にさっき見つけた友達カップル(クリスマスを過ごす予定だった男友達)を見た時は殺意が湧いた。が、考えれば考えるほど気分がブルーになっていく。
 黒須の隣では同じくらいやる気のなさそうなサンタが子供たちに囲まれていた。
 「ちょ、まって! お兄さんバイト中だから」
 そう言うが子供たちにもみくちゃされるサンタ。
 (だめだろ、サンタがバイト中とか……。てか、なんか可哀そう)


 黒須は自宅付近まで着いた。周りの家からは楽しそうな声が聞えてくる。黒須の家には今、誰もいない。母は海外、父は仕事で殆んど家にいることが無い。だから、今日は朝まで帰らず遊んでいるつもりでいたが、予定が無くなったので帰宅。
 と、言いたいが帰れない。帰りたくても帰れない。
 なぜなら家の前に不審者がいる。真っ赤な服を着て真っ赤な三角帽をかぶっている。ここまでならギリギリセーフだ。しかし問題はそこじゃない。三角帽から見える金髪、大きく開いた胸元には髑髏のシルバーネックレス。手首や指にもシルバーアクセサリーがジャラジャラ付いている。しかも煙草も吸っている
 (あやしい…あやしすぎる)
 遠くから覗いていると目が合ってしまった。ヤバいと思ったらサンタ?はいきなり跪いた。
「あぁ、どうしよ~、困ったな~、本当に困った。誰か助けてくれないかな~?」
 ちらちらこっちを見てくる。明らかに声を掛けてほしそうだ。
(どうしよ。こっちが困った。声をかけた方がいいのか? そもそも人ん家の前で何やってんの?)
 「誰か、誰か助けてくれないかな~」
 声がどんどん大きくなっていく。
 「誰かいないかな~! 困ったな~!」
 「うっせぇよ! 人ん家の前で!」
 「お~、やっと来てくれたか」
 「なんだよ、さっきから! 近所迷惑なんだよ」
 「まぁまぁ、家にでも入って話をしようではないか」
 軽く膝を払って黒須の家に向かっていく。
 「え、俺ん家? 勝手に入んな。てか、鍵掛かってて入れないから……えっ?」
 サンタ?は普通にドアを開けて黒須の家に入って行った
 (鍵、かけ忘れたっけ……)


 「おい、茶くれ」
 「何が『茶くれ』だよ?! あんた誰だよ?」
 「おまえ、見てわかるだろ。サンタだよ」
 勝手に家に上がったサンタはリビングの椅子に図々しく座り、訳の分からないことを言い出した。
 「なに、おまえ、サンタ信じてないの? あちゃ~、心が荒んでるな~」
 「そんなこと聞いてねぇし、偽サンタ……いだだだ!」
 拳をぐりぐり頭に押し付け、黒須の目の前まで顔を寄せてきた。
 「何が偽サンタだ、あぁ? 俺は本物だ。それに俺の事知りたいのか? いいよ、教えてやるぜ。俺は新城(アラキ)。そんでもって正真正銘のサンタクロースだ、これで満足か黒須君」
 (ん、今なんと言った?サンタクロース……)
 「あんたがサンタクロース? あり得ない」
 黒須の上に拳が降って来た。
 「あんたじゃねぇ、新城さんだ。あと何を取って俺がサンタクロースじゃないと」
 「だってサンタっておじさんがやってるもんじゃないんですか?」
 「お前の頭は残念だな。じじいだって昔は若い時期だってあったんだよ。俺だってあと何十年もやったらじじいのサンタクロースだ。それにじじいだけで世界中の子供にプレゼント届けるだけの体力なんざ、ねぇよ」
 「じじいだけって……サンタって何人もいるんですか?」
 新城はため息交じりに煙を吐いた。
 「お前は本当に残念だな。一人で世界中の子供にどうやってプレゼント届けるよ。サンタは世界中にたくさんいるんだよ。ちなみに俺はこの地区担当な」
 新城の話を鵜呑みにしたわけではないが黒須は驚いた。サンタクロースが実在していたことに。それも世界中にたくさんいることに。しかし、ここで一つ疑問が浮かぶ。
 「あの、新城さ……」
 「さて、ここまで喋らしたんだ。お前にも手伝ってもらうぞ」
 「え、何をですか?」
 新城はリビングのカーテンを開き言い放った。
 「あれ、配るの」
 新城が指差した先には大きな白い袋があった。

 え、サンタの仕事でしょ?

     

 黒須は今、白い袋を背負って新城と並んで住宅街を歩きまわっている。
 なぜ? ちょっとだけ話を戻そう。


 「あれ、配るの手伝え」
 そう言って新城は大きな白い袋を指差した。
 「いやいやいや、それ新城さんの仕事でしょ?」
 「だって俺が困ってたから、家に入れてくれたんでしょ?」
 「おめぇが勝手に入ったんだろうが」
 拳が降って来た。
 「新城さんだ。それにあそこまでサンタの秘密を話したんだ。手伝ってもらうぞ」
 新城の断ることを許さないような強く鋭い眼をしている。
 (うわぁ、もうチンピラの目だよ、あれ)
 黒須はため息をつきながらもOKした。

 「で、どうやって配るんですか?」
 新城はなんだか言いづらそうにしている。それもそうかもしれない。サンタがプレゼントを配ると言えばソリにトナカイ。それはどのサンタも共通だろう。それをおいそれと、一般人に見せられないのだろう。
 「大丈夫ですよ、新城さん。誰にも喋りませんから」
 「…ほ…よ」
 「え、なんですか?よく聞こえないですよ」
 「徒歩だよ」
 「ん……、すいません。もう一回いいですか」
 「徒歩だっつってんだよ!!」
 新城さんがキレた。
 「なんで徒歩?」
 「うっせぇんだよ、ド素人が!! 俺だってオメェになんか頼みたくねえよ。でも、ソリがないんだよ。届かないんだよ」
 ソリが届かない? どういうこと?
 「サンタのソリっつーのは本部の協会から届けられるんだけどよ。んで、それに乗って配るんだよ」
 「トナカイはいないんですか?」
 「空飛ぶトナカイなんかいるわけないだろ。ソリ自体に飛ぶ能力があるんだよ。話を戻すが、なぜかそのソリが協会から届かない。だから、徒歩だ」


 新城は大量にあるプレゼントを二つに分け黒須と一緒に最初の家を目指している。なぜか、袋に大量のプレゼントが入っているが重く感じない。新城に聞いてみたところ、袋にサンタ特有の細工がしてあるらしい。そんなこんなで一件目の家につい居た。
 「え~、ここが飯島リカちゃんの家か。年齢は七才。目がクリッとしていて将来有望なんだよな」
 (こ、ここに変態がいる)
 新城は危ない発言をしながら袋からプレゼントを取り出し、飯島家の玄関に向かっていく。
 「黒須、お前は待ってろ」
 「ちょ、新城さん」
 あぁっと言いたげ表情でこちらに顔を向けた。
 「どうやって入るんですか? 鍵なんか開いてるはずないでしょ」
 「ここはサンタの魔法を使うんだよ」
 (魔法?)
 そんなことを考えているうちに、新城は飯島家のドア開いて家の中に入っていった。まるで最初っから鍵なんか掛かっていないかのように。

 家から出てきて今度は隣の家に入ってプレゼント置いては、また隣の家へ。その繰り返しの途中で黒須は新城にサンタの魔法の事を聞いた。魔法は何個かあるらしい。
一、どんな鍵でも開けられる。
二、相手を眠らす。
三、相手に認識されない
 これらはサンタの仕事をするに絶対必須。さらにこれを使うにはアイテムがいるらしい。それは指輪だ。新城はアクセサリーを何個もしているから分かりずらいが、その中にダイヤが入っている指輪がある。なんでも大昔にキリストが死んだときに身体の一部をダイヤに埋めたものらしい。それがクリスマスになると魔法を与えてくれると、新城は語った。


 「新城さ~ん、あと何件回るんですか~?」
 黒須達は何十件もの家を回りプレゼントを配って来た。黒須はもうクタクタだ。
 「まだ三分の一が終わった位だ。モタモタしてると朝になっちまうぞ」
 新城はまだまだ元気そうだ。なんでこんなに元気なんだろうか。


 「あぁ~、もう限界疲れた~」
 三分の二が終わった位かとうとう黒須は限界を迎えた。
 「おい、あと少しだ。頑張れ」
 そう言う新城の顔にも疲れの色が見える。額の汗を袖で拭いながら次の家を見ている。
 「次は二つ隣だ。行くぞ」
 「ちょっと待ってくださいよ。休憩しましょう、休憩」
 「だめだ。時間がない」
 「でも……」
 「行くぞ」
 新城に腕を引っ張られ黒須はまた歩き出す。
 その時、前方から軽トラがすごい勢いで迫って来た。そして急ブレーキ。その中からサンタが降りてきた。
 「すいません、遅れました。ただいま、ソリをお持ちしました」
 「ちょっと待ってろ」
 黒須に言うと新城はもう一人のサンタの方に行き何かを話している。軽トラサンタは物凄く腰が低いみたいだ。さっきから謝りっぱなしだ。
 「あぁ! ソリ組み立てねえのかよ?」
 「す、すいません! 今やります!」
 急いで荷台に飛び移り何かを組み立てている。それを見て新城はこっちに戻って来た
 「いいんですか? 手伝わなくて」
 新城は煙草に火を点けながら言った。
 「いいんだよ、遅れたのは向こうのせいだからな。それより黒須。あれが終わるまで休憩だ」
 新城は近くの壁に背中を預けるように座り込んだ。黒須もすぐ横に同じように座り込む。
 黒須は新城を見ていて気になることがあった。それは…
 「新城さん、何でサンタになったんですか?」
 「あぁ」
 けげんそうな表情でこっちを向いた。
 「ん~、まぁいいか。ちょっと長くなるぞ。」
 煙草を一回大きく吸って吐いてから話し始めた。
 「俺はこんなんだが結構大きくなるまでサンタクロースってのを信じてたんだ。その時にな、サンタの仕事をやりたいってサンタに願いごとをしたわけよ。そしたらその晩、夢の中でサンタに会ったんだ。そしてサンタがこう言ったわけだ。『いつまでもサンタを信じていれば必ずチャンスがやってくる』ってさぁ。そしたら、今から五年前位かな、俺の所に一通の手紙が届いたんだ。その場所に行けばサンタになれるって。だからそこに行ってちょっとした試験を受けて俺はサンタになったんだ。
俺はサンタになって後悔はしてないぜ。子供たちに夢を配る。そんな仕事が出来て俺は嬉しい。サンタを信じてる子供たちがいるんだから、俺も頑張らなきゃならんしな。
おっと、なんかベラベラ喋り過ぎたかな」
 新城は頭を掻きながら照れくさそう笑っていた。

 「ソリ、出来ました」
 新城は煙草を携帯灰皿に突っ込んで立ちあがった。
 「よし、行くか」
 新城の後を付いて行くように黒須も立ち上がった。それから、プレゼントをソリに詰め込み、新城と黒須はソリに乗り込んだ。
 「揺れるぞ、気をつけろ」
 そう言うとソリはフワッと浮いた。
 「う、浮いた」
 黒須は驚きを隠せなかった。下を覗き込むと確かに浮いていた。
 「おい、行くぞ。舌噛むなよ」

 ここからは比べ物にならないくらい早かった。ソリがあるだけで移動は楽になり直接子供部屋の窓から入ることが出来た。
 現在午前4時、ギリギリの所で何とか終わった。今は黒須の家の前にソリを停めている。
 「ふぅ~終わった、」
 「いや~、ソリ様さまだな。やっぱりこっちが楽だわ~。来年はちゃんと届いてくれよ」
 「新城さん、来年は巻き込まないで下さいよ」
 「せいぜいそうするさ。まぁ、今年は助かったよ。ありがとな」
 新城は黒須の頭に手を乗せてワシャワシャと乱暴に撫でる。
 「や、やめてくださいよ。恥ずかしいですよ」
 「俺の感謝の気持ちだ受け取れ」
 (あれ、なんか)
 「あら、き…さん」
 急に睡魔が襲ってきた。何だろう。疲れたのだろうか。それにしても急すぎる。
 「悪いな、黒須。サンタってのは姿を見られちゃいけないんだ。だからお前の……記憶を弄らせてもらう」
 (いじ、る?)
 「俺と会ってから今までの記憶を消す。」
  ドキッとした。
 「サンタには相手の記憶操作の魔法があるんだ。姿を見られちゃいけないからな」
 (なんで)
 「でも、嬉しかったぜ。サンタってのはサンタを信じてる奴にしか見えないからな。じゃあな、黒須。いつまでもサンタを信じていてくれよ」
 黒須には最後、新城の言い表しがたい笑顔が見えた。




 

     

朝、黒須はベットの上で目を覚ました。なんだか体中が痛いような気がする。
 (なにか、なにか忘れているような……)
 黒須はもう昨夜の出来事は記憶にない。だが、心に残る何かを貰ったような気がする。これから生きていくうえで忘れちゃいけない何かを。
 (なんだろう。でも、なんだかとても温か)
 そして、黒須は自室の部屋のカーテンを開け、朝日の光を浴びた。





 「………………」
 ベランダにサンタがいた。真っ赤な服を着て真っ赤な三角帽をかぶっている。ここまでならギリギリセーフだ。しかし問題はそこじゃない。三角帽から見える金髪、大きく開いた胸元には髑髏のシルバーネックレス。手首や指にもシルバーアクセサリーがジャラジャラ付いている。しかも雪で若干埋まっている。
 (なんだ、こいつ。でも………………………………………あっ!)
 「ちょ、新城さん!? 何してるんですか、死にますよ」
 「ぅん……あれ、黒須、何で覚えてんの」
 「さぁ? 分かりません。てか、それより新城さんこそ何してるんですか」
 新城は苦笑しながら答えた。
 「いや~、お前を部屋に入れたら体力尽きちゃって」
 黒須は大きくため息を吐いた。
 「そうだ、新城さん」
 「あぁ」 
 黒須は笑って言った。

 「メリークリスマス」

       

表紙

イルカバ [website] 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha