Neetel Inside ニートノベル
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 犯人はまた、同じような書きこみをニュー速に残している。
違いは日にちが10日から15日に変わったという一点。
さすがに次はスルーできない。
すれば人質にその報復が加えられることは明らかだ。
犯人の目的のひとつには杉村の携帯の回収があるはずだ。
それはつまり、まだ犯人に関する手がかりがこの携帯の中に眠っているということである。
猶予は明日までしかない。
 焦りからか内藤の足は早足になり、もう来ることはないと思っていたのに、
吸い寄せられるようにあのキャバクラに入っていった。
気になることもあったし、なによりあの女の化けの皮をはいでやりたい欲求に駆られていた。
警官の本能だろうか。
内藤はわずらわしいネオンをくぐると、まず店長に話しかけた。
「おい、あのみゆきとかいう女、この店は長いのか。」
「いえいえ、まだ半年も。」
「前はどこで働いてたか分かるか?」
「名前は失念してしまいましたが、なんでも、高級クラブで働いていたとか。
 教養があって、気も利きますので、うちとしてはいい拾い物でした。」
店長はゲヘゲヘと下卑た笑顔で語った。
 どかりと席に座ると、すぐにみゆきが隣に座る、店長がいらぬ気を回したようだ。
「内藤さん、こんな話知ってます。
桜田総理が自分が身代わりになるから孫を返してくれって、
 掲示板に書き込んだらしいんですよ。
 そしたら犯人のレスが、
 
 ゲームで負ける前だったらかっこいいセリフだったのにね。
 人質を帰して欲しければ、ゲームに勝つことだ。
 早くチップを渡してくれないと次のゲームが始められないよ。

 だって。
 一国の総理大臣をかけ金扱い。」
みゆきは無邪気に笑いながら、内藤の気をひけそうな話題を振ってきた。
しかし、内藤は見向きもせずに携帯をいじっている。
「んもう、聞いてるんですか。」
みゆきは携帯を奪い取ると、キャミソールの大きく開いた胸元から谷間に滑り込ませた。
「おいっ、なにやってんだバカ、お前は不二子ちゃんか!
 それは大切な証拠品・・・、あっ。」
口をつぐんだがもう手遅れだった。
携帯はすでに不可侵の聖域にある。
内藤は犯人の携帯から明日までに手がかりを見つけねばならないことを白状して、
携帯を返してもらった。
「内藤さんがいけないんですよ。そんな大切なものお店に持ち込むから。」
正論すぎて言い返せないので、内藤は話題を変えた。
「メールも履歴も消されてて、あと調べられそうなところってなんかないか?」
「テキストメモに適当にひらがな打って予測変換をみるってのはどう?」
「なるほど。犯人がどんな言葉をよく使うか分かるかもな。」
内藤はテキストメモに"あ"と入力すると、使用頻度が多い順に変換候補が現れた。
 上から順に、あなたは、ありがとう、ある、アルバイト、アンソロジー、熱々、熱、明日、新しい、あげる
・・・。
めぼしいものはない。
い、います、いってね、いつでも、遺跡、いる、妹、行く、いね、いかも、いいよ。
う、ウェブ、うちに、鬱、うん、うれしい、上、うち、裏、後ろ、動き。
え、円、映画、駅、延長、絵、英語、影響、営業、延期、エロ。
お、お願いします、おやすみ、おはよう、音楽会、お茶、お金、お疲れ、お疲れ様、思う、思い。
30分以上こんなことを続けたが、"と"にさしかかって見覚えのある言葉に出会った。
"トリポクシルスディコトムス"
あのクロスワードのサイトと犯人は何か関係があるに違いない。
「でかした。お手柄だ。」
「じゃあ、お礼はデートでいいですよ。」
「は?普通逆だろ。」
「そうですよ。普通はお客さんがデートしたいって言うんですから。」
 内藤さんはラッキーなんですよ。」
「感謝状じゃダメ?」
「ダメです。証拠品持ち出したのバラしますよ。」
とてもいい笑顔で言うみゆきは、怒った内藤の顔よりよほど凄みがあった。
「警官を強請るとはいい根性してるな。まいった、まいった。
 じゃあ今度店に来たらにしよう。」
そう言って内藤は店を出た。
内藤の足どりは決して軽くはない。
遅れてきたモテ期にとまどっているのだろう。

       

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