Neetel Inside ニートノベル
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 内藤は柳田に相手にされず、自分の駒が動くこともなく、
もてあまして一文字に無線をかけた。
「聞いたぞ、クイーンはなんかすごく大切な駒らしいじゃなねーか。
 直前で気まぐれに代ってくれなんて言うから、おかしいと思ったんだ。
 お前はすぐ楽しようとして。」
もともと内藤の駒はナイトであり一文字がクイーンの駒で、
一文字の提案により入れ替わったのだ。
であるから今は内藤がクイーンで一文字がナイトである。
ついでに言うならばもう一つのナイトの駒は井上で、
ビショップは杉村と佐野、ルックは山口と倉木心太、
当然キングは本部長の大久保である。
「アハハ。僕は喘息持ちなんですから、勘弁してくださいよ。
 内藤さんだって自分の駒がダジャレで決まったみたいで
 いやだっていってたじゃないですか。
 あっ、僕の駒が動くみたいなんできりますね。」
そう言って一文字は無線をきった。
 またもや話相手を失った内藤は、今度は井上に無線をかける。
尋問したあの男の言葉がまだ耳に残っている。
警察の中に裏切り者がいるという。
思えばできすぎている。
犯人の手がかりが井上の趣味のクロスワードだったり、
佐野の前の管轄が今回の舞台の京都だったり。
「どうしても一問だけわからないんだ。"最後に残った。"ヒントはこれだけなんだ。」
内藤が疑いの目を向けているとも知らずに、井上はのんきなことを言っている。
「他は全部埋まってるんだろ。そこから犯人の手がかりはつかめないのか?」
井上は黙ってしまった。
おそらく何もつかめていないのだろう。
そもそもクロスワードが解けたところで何が手がかりになるというのか。
しかし内藤の疑いは、思わぬ形で晴れることとなった。
今ゲームが動こうとしている。
 皮肉にも井上を一番見ていた内藤は、誰よりも先に井上の駒が取られることに気が付いた。
犯人は駒を取られた場合その役の人間がどうなるのか明言していない。
胸騒ぎがした。
「鉄ちゃん、動くな。」
内藤は叫びながら井上のもとへと急ぐ。
「来るな。」
井上は強い語気で内藤をたしなめる。
「そこから動けば、人質の命はどうなる。」
乾いた破裂音がして無線はそこできれてしまった。
しかし内藤はあきらめず柳田に無線をかける。
「柳田、クイーンで鉄ちゃんの駒を取ったナイトを取れ。」
あまりの剣幕に押され、柳田は言うとおりに"Qh4"と書き込む。
内藤は急行し、
まだ近くに狙撃した犯人が潜んでいるのもおかまいなしに井上のもとに駆け寄る。
井上の銃創はひどいが急所はすべて外れていた。
「すまない。俺はあんたを疑っていた。疑っていたんだ。」
井上はまだ意識が残っていた。
「いいんだよ。内藤、希望はまだ……残って……いる……ぞ。」
内藤が来るのを待っていたかのように、井上はそれだけ言うと力尽きた。

       

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