Neetel Inside ニートノベル
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 野口は2両目の連結部分のドアのそばにいる。
すなわち、ドアの窓ごしに先頭車両の中を見渡せる位置にいるのだ。
野口は携帯を見ている6人をマークしている。
内藤がいうには、犯人の電話にははっきりと、自分の車両と同じアナウンス、振動音が聞こえたという。
つまり、確実に犯人は先頭車両にいることになる。
総理大臣の孫を誘拐しておいて、マヌケにも自分で出向いてくるとは。
先頭車両はドア2つ隔てた目と鼻の先。
犯人をみつけ、しめあげて、孫と共犯のいるアジトの場所をはかせなくてはならない。
しかし、焦って先頭車両に乗りこみ、6人を確保するのは危険だ。
6人すべてが犯行グループの可能性があるからである。
いかに屈強な野口でも6人は相手にできない。
どうせ犯人は田町駅で降りる。
必然的にこの中から降りた奴が犯人であり、田町駅には他の警官が待機している。
今は泳がせたほうがいい。
 内藤は有楽町で降りて、次にきた電車に乗った。
そしてサイを振る。
目は2。
つまり、次は浜松町で降りればいいようだ。
さっきの電話以来、犯人からの電話はおろか掲示板へのかきこみもない。
だが、やじ馬たちは大量に書きこんでいる。
内藤はもはやそれに目を通すのもやめた。
ひどい警察への悪口が目立ったから、見るに耐えない。
こいつらも全員しょっぴいてやりたい気分だったが、さすがに文章であおっただけでは共謀罪にはしにくいだろう。
犯行予告でも書きこめば別だが。
内藤とは対象的に、野口はすべての書きこみをチェックし、6人のうち3人までは携帯のボタンをうつタイミングから、
どの書きこみをしているかわかった。
この3人は文脈からただのやじ馬と判断し、残りの3人のうちの1人も携帯を見たのが最初の1回だけなので除外する。
すなわち残りの2人のどちらか、あるいは両方が犯人。
そこまで絞りこんでいた。
気づけば電車は田町駅に着いている。
ところが不思議なことが起きた。
この車両から降りたのは4人だが、その中に携帯をいじっていた人間は1人もいなかったのである。
しかし野口は焦らない。
この車両の観察を続け、降りた4人は田町駅で待ちかまえていた警官たちに任せることにした。
 そのころ内藤は浜松町駅で降り、一服している。
隣の駅では他の警官が活躍し、事件はもうかたずいているだろう。
内藤はひとりかやの外におかれている。
これでノンキャリの自分たちも少しは見直されるだろう。
内藤は同じ境遇の本部待機組の3人に電話をした。
「はい、こちら首相着孫誘拐事件対策本部。」
弱々しい声。一文字菊だ。
「一文字か。種田に代わってくれ。」
種田進は色黒で長身。
剣道4段で文武両道の頼れる男である。
「種田さん忙しいです。書きこみのチェックしてます。」
「じゃあ、鉄ちゃんでいいや。」
「鉄ちゃんは時刻表や路線図とにらめっこしてますよ。」
「嘘付け、クロスワードやってるだけだろ。」
「なんでそんなに仲悪いんですか。僕は鉄ちゃんも内藤さんも好きなのに。」
「気持ち悪いこといってんじゃねぇよ。」
「僕も忙しいので切りますよ。」
井上虎鉄は40歳と対策本部のなかでは最年長であるのに、普段活躍している所を見たことがない。
それでよくクビにならないなと思うが、人徳があるからだろう。
とても警官には見えない柔和なものごし。
趣味は切符収集とクロスワードパズル。
そんな奴でも忙しいといっている。
「本当にかやの外はオレひとりか。」
そうつぶやくと、暇しのぎに携帯を見た。
犯人のサイコロが振られている。
目は6。
おかしい。

       

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