Neetel Inside ニートノベル
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 犯人は目白でまた"1"を出し、池袋で降りた。
まだ内藤のほうが先行している。
犯人のトリックが分かったからか、内藤の心には余裕が生じた。
案外、携帯には細工はないのかも知れない。
イカサマがなくても、並走する京浜東北線を使えば説明がつくのだから。
 その裏付けがとれたのだろう。
本部待機組の井上から電話がかかってきた。
「山の手線と京浜東北線は上野、秋葉原、東京で駅に着くタイミングが同じになる。」
「これで犯人が京浜東北線からオレに電話をかけ、
東京駅で山の手線に乗り換えたことがわかった。
助かったよ、鉄ちゃん。」
「ところで内藤、山の手線と京浜東北線の車内アナウンスには違いがあるんだが。
犯人の電話から聞こえてきたアナウンスを覚えてないか。」
「確か"次は神田"だったかな。」
「内藤、それは山の手線のアナウンスだ。
京浜東北線は快速だから神田には止まらない。
なんで気付かなかった。」
「おいおい、オレは鉄ちゃんと違って鉄ヲタじゃないからわからねーよ。」
内藤はそう言って電話をきった。
推理はふりだしに戻ってしまったが、落胆しているヒマはない。
 犯人は池袋で"6"を出し日暮里に向かった。
次に"4"がでればあがりである。
駒込で降りた内藤もサイを振った。
"1"ということは田端。
次に"6"がでればあがりである。
どちらかがあがれば決着がつく。
そうすると犯人はこの場から消えるだろう。
ゲームが終わる前に犯人を見つけなくてはならない。
どうすれば犯人を確定することができるだろう。
 田端駅で内藤はサイを振る。
"5"。
「御徒町か。」
あと1足りなかった。
次に1がでればあがりだが、他の目なら2周目ということになる。
日暮里で犯人はサイを振る。
"2"
上野に向かって動き出す。
 内藤は犯人の現在地を確認していると、あることに気付いて目を疑った。
自分の現在地と犯人の現在地が重なっている。
犯人が日暮里から乗ったのは内藤が乗っている電車だったのだ。
不思議なものである。
犯人がこの電車にいるのは分かっているのに手が出せないなんて。
いや、確かめる方法はある。
携帯にはリダイヤルという機能があるではないか。
これで犯人に逆にこちらから電話をかければどうなるだろう。
犯人はとらないかも知れないが、この電車の中で着信音が鳴るはずである。
その音をたどれば犯人を特定することができるはず。
早く気付けば良かった。
そうすれば、こんな茶番にも付き合わなくてすんだのだ。
 内藤は犯人に電話をかけた。
やはり、出ない。
内藤は電話を鳴らしながら車両を移動した。
わずかな音にも耳をすませながら。
前から3両目にきたときに、こもったバイブ音が聞こえた。
音のほうに近づいていく。
面長の青白い顔をした30代の男。
その男のズボンのポケットから音が聞こえる。
「電話鳴ってますけど、でなくていいんですか。」
内藤は白々しく話しかけた。
男は青白い顔をさらに青くさせたが、取り乱す様子もなく、無視を決め込んだ。
内藤は試みに電話を切ってみた。
すると男から聞こえていた音もピタリとやんだ。
間違いない。
 そのとき、上野駅に着きドアが開いた。
しまった。
男はドアが開くや否や飛び出した。
内藤もそれを追う。
男はこの期に及んでも、まだゲームを続けようとした。
サイを振ったのだ。
「2。勝ったーーーーー。」
男は急に奇声を上げた。
内藤は男をねじ伏せ、手錠をかける。
終わった。
そう思った。
そして安堵した。
しかし、違った。
始まったのだ。
 「よくやったな。」と本部長に言われ、
「いや、今回は野口の活躍が大きい。」と内藤は正直に述べた。
一瞬、本部長の顔が曇る。
「ああ。それなんだが、野口な、・・・殉職したんだ。」
内藤は何を言われたのか理解できない。
「野口はあの後クハE230-518を一通り調べ終わり、
こっちに電話をかけてきた。
電話の最中、野口の声が途絶えたんだ。
何者かに注射器で腹を刺され、
ショック症状のまま息をひきとったそうだ。」

我々は勝ったのだろうか。

       

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