Neetel Inside ニートノベル
表紙

アクティブニートと助手
2:大量の嫉妬は最荒のスパイスかもね

見開き   最大化      

「依頼が来た?」
 その後、親に対し色々と嘘を交えながら事の顛末を伝えると、何故か大いに喜びだし「絶対に逆玉を成功させろよ!」とか「立派な花婿になるのよ!」などと訳の分からない事を言われた俺は、名目上咲乃の世話役になる事をあっさり(というよりは両者の夫婦間でまるで最初から俺が世話役をする事が合意されていたかのように)認められてしまった。
 それから1週間、本格的な活動が始まるのかと思いきやそんな事は無く、それ処かビラ配りやサイトの開設といった広報活動すらしていなかったので、咲乃が事務所と称すこの家は、俺にはもはや老人ホームな訳で、まるで介護士の気分で毎日通っている状態であった。
「ああ、新都高校在籍の迷える子羊からのメールだ」
 そして今もまさに進行形でコイツの為に晩飯(こう言うのもなんだが俺の数少ない趣味の1つが料理だったりするので全国の主婦並に料理は出来るのだ)を作る事にいい加減ウンザリ(趣味とはいえ半ば義務的に料理を作らされるのは嫌な訳で)していたので、このままいけば介護が必要になる年まで世話させられるのではないかと、割とマジで思っていたので、この知らせには思わず「俺、働くよ」と社会復帰宣言をしたニートに対して感涙する親のように喜びそうになった――が、考えたら前回の内に社会復帰宣言はしていたので割とすぐに冷めた。
「ていうか、いつの間に活動なんてしていたんだよ、まさか俺が学校に行っている間に駅前で超アクティブに電話番号とかアドレスを書いたティッシュでも配っていたのか?」
「馬鹿を言わないでくれ、僕がどこの馬の骨かも分からない人間の密集地帯に長時間もいたら急性好酸球性肺炎になって一発であの世行きだよ」
 因みに、咲乃の部屋とリビングには計10台もの空気清浄機が設置してある。
 この事からも咲乃は病弱な身体をしている……と言いたい所だが、ただ単に潔癖なだけな気がしないでもない。別に頻繁に咳き込んだりしないし。
「まあそうでない事は流石に分かっていたけども……、だからと言って個人サイトを立ち上げていた訳でもなかっただろ?」
「そんな事をした所でサイトを制作するという労力が必要になるからね」
「だったらどうやって――」
「学校裏サイトに宣伝してきた」
「ダイレクト過ぎるだろ!」
 いや、確かに効率的かつ効果的な方法ではあるけど……。
「? ネットを介しているのだから間接的だろう? 全く聡ちゃんは不可解な事を言うね」
「いや、そういう意味ではなくて……」
 ほんと、ある意味すげーアクティブな奴だなコイツは……。
 でも、これで依頼は来たのは事実なだし、ここはポジティブに捉えるべきか。
「けど、それにしては1週間だなんて随分と遅かったじゃないか」
「基本的にこのようなサイトに群がるのは悩める人間とは真逆の人間が殆どだからね、まあ悩める人間がはけ口として悩める人間を作ったりする場合もあるのだが……いずれにしても最初から依頼が殺到するなんて事はこのタイプのサイトに限ってそれはない、当然、来るのは宣伝を揶揄するようなメールばかりだったよ」
 なるほど、一見すれば最良の方法のようだが、実際は入れ食いなんて事は有り得ないし、そもそもここを見ているような依頼者の警戒心が低い筈がないんだ。そりゃ、必然的に時間が掛かってしまう訳だ。
「大胆な行動をした割には随分と慎重にならないといけないのか」
「大胆な行動を取ったからこそ、だよ。インパクトというのは初手において重要ではあるが、それ以上に大事なのはその後をどう丁寧に進めるかだ。この場合は特にそう。その勢いにただ身を任せて事を運ぼうとするのは愚蒙のする事だよ」
「そういうものですか」
「僕がもう寝てしまったと勝手に思い込んで、見切り発車で御風呂から上がったままの姿で廊下を移動するのと同じ事だね」
「変な所を覗いてんじゃねーよ!!」
 ちっ、違いますよ! 肌着を持ってくるのを忘れただけですよ!?
 決して生まれたままの姿の方が開放的で快感とかそういうのじゃないです。
 ていうか覗くなら風呂の最中を覗けよ。
「失礼な、妙な物音がしたので強盗ではないかと思い確認しただけだ。まあ実際はただの火星人がブラブラしていただけだったのだが」
「確認の割にはえらく凝視していたように聞こえるのだが」
「安心し給え、常時がアメリカンドックはたいしたものだ」
「下ネタか」
 懐かしい突っ込みさせてんじゃねーよ。
 閑話休題。
「少々脱線してしまったがつまりはそういう事だ。地道な作業は次に繋げる大事な行為なのだよ、事実、迷える子羊との連絡を取り付けているだろう」
「確かにそうだな……」
 恐らく、特に、咲乃の場合はそうなのだろう、直接的な関係性を持ちづらい彼女にとっては、より難しい間接的な方法でなければ、相手の心に近づけられない。
「……それで、その依頼さんはどんな相談をしてきたんだ?」
「見事に学生の王道をついた悩みだよ、いじめだ」
「いじめ……ね」
 悩める人間がはけ口として悩める人間を作る――。
 咲乃が言っていたのは恐らくこれの意味を指しているだろう。
 矛盾撞着した言葉ではあるが、実に言い得て妙な言葉だと思った。
 そして、酷く虚しい言葉だとも。
「……咲乃ってさ、もしかして――」
「『いじめが原因で学校に行かなくなったのか?』と心配してくれているのかい? 相変わらず聡ちゃんは義務的に優しいね、昔からいつも僕の事を気に掛けてくれているそういう所、たまらなく好きだよ。でも心配する必要は全くない、学校に通っていた頃は存在感を意図的に無にして生活していたものでね、まずいじめるという過程に辿り着かれる事が無かった。あとね、学校に行かなくなったのは学校で授業を受ける必要性がないと判断したからだよ」
「は? 一体何を言って――」
「それだけ僕にとって義務教育が不要だったというだけの事だよ、疑わしいと思うなら次の進研模試で勝負でもしようか? そうだな……聡ちゃんが勝った暁には僕の処女をプレゼントしよう」
 え? 何この子、もしかして齢18にして悟っちゃったの?
 いや、そんな冗談さえも本当のように聞こえるほど。
 それはもちろん小学生以来お互いに顔も合わせる事すらしていなかったのだから、多少の変化にはむしろ納得するものだが、いくらなんでも流石に色々と変わり過ぎてやしないか?
 本当に何事もなく今まで過ごしてこれたのか?
「……いいだろう、ま、後で泣きを見るのは貴様の方だけどな」
 けれど、今は深く考えるのは止めておく事にしよう。考えた所で突然何かが変わる訳ではない、ましてや、何も知らない状態では何か訊く事さえ出来ない。
 無から有は作り出せないとはよく言ったものだ。
 ソレニヤッパリショジョホシイシネ。
 童帝の性欲を舐めるなよ。
「大した自信だね、これは好戦を期待してもいいということかな? では君が敗北した時は全裸で拍子木打ちながら町内を徘徊してもらう事にしよう」
「えっ?」
「えっ?」
 閑話休題。
「ところで、現時点で何か分かっている事はあるのか?」
「うむ、依頼が来たと知らせておいて悪いのだが、実は情報が極端に少なくてね、色々と質問はしているのだが如何せん未だ警戒されているのか歯切れの悪い返事しか来ないのだ」
「当然といえば当然の帰結か……、せめていじめの主犯者の名前だけでも分かれば少しは進められそうなのにな」
「いや、そこは流石の学校裏サイトだよ。そういう事に関しての情報は掃いて捨てるほど書き込まれているんだよ、だから、依頼者の証言と掲示板の書き込みを照らし合わせればある程度容疑者を絞る事は可能ではある。しかしね……」
 と、何故か歯切れが悪そうにする咲乃。
 何だ? 外部の情報収集は俺の役目じゃないのか?
「そういうことなら後は俺が学校で容疑者の動向を調べればいいんじゃないのか? そいつの名前を教えてくれれば明日にでも様子を見に――」
「北海堂聡一」
「何?」
「いや、名前を呼んだ訳ではなくて」
「は? じゃあ一体何の為に――」
「違うんだ、容疑者は聡ちゃん、君なんだよ」
「え?」
 えっ!?

       

表紙
Tweet

Neetsha