Neetel Inside ニートノベル
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 「気兼ねなく喋れる相手いる」というのが友人である事の条件としていいのならば、なるほど確かに俺には友人と呼べる人間がいない訳ではない。
 昨日見たテレビの話題で盛り上がったり、昼飯を一緒に食べたり、連れションしたり、教科書忘れたら借りたり、体育の2人組になれと言われればなれる相手もいる。先の条件で友人である事が認められるのならばこれらはより友人である条件と成り得るだろう。
 ならば、決して多くはないが友人と呼べる存在はいるのだ。
 しかし、俺はこんな条件、実に薄っぺらく、上辺だけの関係にしか見えてならない。
 つまり何が言いたいのかといえば俺には親友と呼ばれる類の人間は恐らくいない。
 というよりそもそも親友という定義は一体どの領域に入って初めてその友人と呼べる存在を親友と呼ぶ事が可能となるのだろうか。
 週に3回以上遊んでいたら? 1日1回メールをしていたら? お互いの秘密を話しあえる仲なら? 相手に直接「○○の事を俺は親友だと思っている」って言われたら?
 もしかしたら、親友というのは気づかぬ間に自然と出来てしまうものなのだろうか。
 まあ、そんな事が分からない時点で俺に親友がいないのは自明の理であろう。
 だから自信を持って言えるのだ。
 俺は当たり障りの無い人間関係しか持っていないと。
 誹謗中傷も罵詈雑言も飛短流長もする事もされる事も無いのだと。
 その過程に至る事も至られる事も――ないのだ。

「安心し給え、もちろん僕は聡ちゃんの味方だ」
 しかし何と言うか犯人は自分では無い、陰謀だとは頭で分かっていても、パトカーが横を通り過ぎると何も悪い事はしていないのに思わず緊張してしまうように、何故か最近の記憶を探りながら明らかに挙動が不審になってしまっている俺がいた。
 そしてそれに気づいた咲乃は俺に対し優しくそう言った。
「咲乃……」
「だから正直に言いなさい、自分がやりましたって」
「ちょっと待て」
「正直に言ったら、咲乃怒らないから」
「とかいって正直に言ったら途端にキレる先生の王道の台詞じゃねーか」
「謝る時は僕も一緒に付き添ってあげるから」
「オカンか」
「これから一緒に謝りに行こうか」
「これから一緒に殴りに行こうかみたいに言うな」
 てっきり恋愛の対象として付き合おうと言われたものかと思っていたが、もしかしたら実は漫才のコンビとして付き合おうという意味で告白されたのかもしれない気がしてきた。
 M-1去年でラストイヤーなんですけど。
 いや、そうじゃなくて。
「安心し給え、まだキングオブコントが残っているじゃないか」
「そうじゃなくて!」
 ていうか読心術は他作品(同作者)のキャラが既にやっているからパクっちゃイカンですよ。
 え? 更新してない癖に宣伝するなだって?
 はい、すみません。調子に乗り過ぎました。
「さて、冗談はこれくらいにして」
 冗談にしては随分悪質な気がするが、そう前置くと、咲乃は続けた。
「聡ちゃんが犯人でした、だなんて馬鹿げた事は流石に思ってはいない。大体、もし君がそんな人間であったとしたら僕は現在に至るまで君を愛し、そしてその募りに募った積年の愛を君に披瀝などしたりしない。それぐらい君の顔なら見れば分かる」
 毎度ながら何故コイツはストーカーまがいの台詞をこうサラリと言えるのだろうか。
 いや、嬉しく無いといえば嘘になるのだが、言われたこっちが恥ずかしいわ。
「しかし、そうは言っても証拠ないのは事実だ。問題解決の上で『私は彼が好きだから彼は犯人ではありません』というのではお話にならない。今年の流行語大賞にノミネートされてもおかしくはないレベルの見事なギャグだよ」
「相当のノロケカップルなら案外言っていそうな気がするけどな」
「いずれにしても、そうなると聡ちゃんが犯人でなく、真犯人が別にいると考えて行動して行かなければならない。そしてその真犯人は聡ちゃんと同学年の人間であり、尚且つ君の事をある程度知っている人物に限られる。つまり、君の知り合いの犯行である可能性が高い」
「え? ちょっと待て、何でそんな事が分かるんだよ」
「簡単な事さ、まず学校裏サイトにおける、いじめに関してのスレッドでここ最近一番盛り上がっていたのが高3の板だけであったという点、そしてもう1つはたいして友人がいなく、人気度も下から数えた方が早い筈の聡ちゃんをピンポイントで狙っている点だ」
 何か腑に落ちない事を言われた気がしたが否定は出来ないので黙っておく事にする。
 ていうかそれ以前に何故コイツは俺に友人が少ない事実を知っている。
 ……だが、言われてみれば確かにそうだ。学園の人気者に嫉妬して根も葉もない噂を流すのはまあ不本意ではあるが分かる、だが俺は――帰宅部故に先輩後輩と言った上下の関係などある訳もなく、ましてや3年間を通しても同級生の友人など指折り出来る数しかいないような人間なのだ。それにも関わらず――狙われたのは俺だった――クラスの集合写真で一番端に写るような――俺だったのだ。
 そうなれば、必然的に、すべからく、否応なしに犯人が絞られてしまう。
「……でも、そうだとしたらおかしくないか? だって、依頼内容に矛盾が生じるじゃないか、現にその依頼者はいじめという行為を受けているから咲乃に相談をして来た訳なんだろ? 俺が犯人じゃないとなってしまったら、一体その依頼者は誰にいじめられていたんだ?」
「そう、問題の真髄はそこだよ。嫌な言い方ではあるが仮に聡ちゃんが犯人であったならこの依頼は一瞬で片付く程の取るに足らないものだった。しかし、犯人が別にいると考えた以上この依頼は実に妙な事になる。別の者がいじめ行為をしていたというのなら学校裏サイトに真犯人を記述した内容が載っていてもおかしくはない筈、なのに現実は聡ちゃんの悪行を記述した内容しか載っていない、ならば依頼者は一体誰にいじめられているというのか、そしてわざわざ聡ちゃんを嵌める為に書かれたこの内容の真意は一体何となるのか、少し見方を変えただけで繋がっていた筈のピースか突然糸が切れたかのようにバラバラになるという、矛盾した状況に陥ってしまっているのだよ」
 何か色々と言いたかったけれど、恐らく何を言った所で結局行き着く場所は一緒な気しかしなかったので全て飲み込んでしまった。そして1つだけ尋ねる。
「なら……これからどうしたらいいんだ?」
「僕はこれから依頼者から何か情報を引き出せないかやってみる。そして聡ちゃんは知り合い以外の犯行も視野に入れながら、主に君の知り合いに探りを入れていってくれ」
「その知り合い以外の可能性は……高くはないのか?」
「限りなく低い、と言った方がいいかもね、悪いけれど。もちろん聡ちゃん以外の人間がいじめを行っているというレスが1つでもあればその可能性はむしろ高いと言ってもよかった。けれどね、いじめを行っている人間として名が挙がっていたのは君だけしかいないのだよ、それも余計なぐらい沢山ね、まるで君が犯人では無いと言っているかのように」
「……」
「だから……後は分かっているね」
 そう言って淡く微笑んだ彼女の顔はちょー可愛いというには程遠く、むしろ悲愴感漂う実に哀れむかのような面持ちで――俺は思わず頷く事しか出来なかった。
 別に、友人を疑わなければならない事に痛みを感じていた訳ではない。
 むしろ、上っ面の関係なのにどうしてこうなったのか疑問に思っているくらいだ。
 ただ少し、腹が立っただけだ。
 知らぬ間に、咲乃の社会復帰に俺が妨げのようになっていた事が。
 ほんの少し、苛立っただけだ。

       

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