Neetel Inside 文芸新都
表紙

人間戦隊ヒトレンジャー
第1話 魔法老婆、襲来

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「俺は、どうして戦っているんだろう」











 街中に警報が鳴り響く。商店街は軒並みシャッターを下ろして、出歩く人々も駆け足で家に帰る。
 そして、ちょうど5分後に。
 怪人が現れた。

「うひひひひ、今日こそこの街を征服してやるあげるわぁ」

 皺枯れた声。海辺の堤防に立ち、彼女はそう言った。
 怪人、魔法老婆。魔法少女の50年後の姿は、なんとも醜い。

「待てっ!」
「うひひ、来たねヒトレンジャー。いつもいつも私たちの邪魔をしおって」
「この街の平和は俺たちが守る。貴様らの好きにはさせんぞ!」

 水先町。ゴジラが初めて上陸した街として有名で、その後も怪人や悪者たちが続々と現れる、言わずと知れた日本侵略のメッカ。
 理由は定かではないが、とにかく悪者たちは毎回、この街から世界征服を狙うのだ。そして今回の侵略が、第88次征服戦争。その15戦目に当たる。

「うっひひひひ。ところでヒトレンジャー、今日は人手が少ないようだけれど」
「ヒトブルーはバイトがあってな。ヒトイエローはまた風邪を引いたというし、ヒトピンクは実家に帰省している。ヒトブラックはメール返してこないから知らん」

 88代目、戦隊ヒーロー。その名は人間戦隊ヒトレンジャー。リーダーであるヒトレッドは、ファイティングポーズを取った。

「だがな。貴様ごとき、俺一人で十分だ」
「うひひひ、たわけたことを。いくわよヒトレンジャー、我が魔法を受けるがいいわ!」

 防波堤に波の飛沫が弾け飛ぶ。
 魔法老婆はよぼよぼの手に掴んだステッキを天高く翳すと、皺だらけの口許を動かす。

「ピーリカピリララポポリカペーペルトッ、魔法火炎放射!」

 刹那。
 瞬くようにステッキから放射される、烈火のごとき炎。渦巻くそれは、数秒にして辺り一面を包み込み、ヒトレッドの退路を塞ぐ。

「ヒトウォーター!」

 だが。ヒトレンジャーの55の秘密兵器に抜かりはなかった。
 彼の掛け声によって、レッドの腰に巻いたベルトの四方八方から水が噴射し、僅かな間に炎が鎮火していく。

「おのれ、我が魔法火炎放射を防ぐとは。なかなかやるなヒトレッド」
「ふん。貴様のようなババア一人に手こずっていられないんだよ。俺には宿題が残っているんだっ!」

 ヒトレッドだけでなく、ヒトレンジャー全員は現役の高校生である。怪人を殺すことだけに、毎日を割くわけにはいかないのだ。

「秘技っ、」

 腕を交差させるヒトレッド。その様子を見て、魔法老婆の荒れた頬に冷や汗が流れる。彼女の死はすぐそこにあった。

「ヒトヒトのピストル!」

 魔法老婆の脚が震える。それは歳のせいではなく、対峙するヒトレッドの手に現れた、黒光りする拳銃を見たためだ。
 彼女が防御の呪文を唱えるよりも先に、銃口は確かに。魔法老婆の額を狙う。
 そして、ヒトレッドの人差し指が。ゆっくりと、それでいて確実に。引き金を弾いた。

「ぐぁっ、」

 それだけ。たったそれだけの、短い断末魔だった。言葉にならない悲鳴は、魔法老婆の長い人生に幕を降ろす。
 ぽっかりと額に空いた穴。競うように溢れ出す真っ赤な鮮血。魔法老婆の体は堤防の向こう、深い海中へと雪崩れ消えて、15回目の戦いは、またしてもヒトレンジャーの勝利に終わった。

「地球の平和は、俺たちが守るっ!」

 ヒトレッドの背後から、赤、青、黄、桃、そして黒い煙が上がる。いつもなら5人でやるはずの決めポーズを、今は彼一人でこなす。
 いつからだろうか。戦うことに嫌気が差してきたのは。5人全員が集まらなくなったのは。
 やがて硝煙が消え去った時、ヒトレッドは変身を解いて、波止場に背を向ける。

「俺は、どうして戦っているんだろう」

 逃げ水に揺れる彼の頭が、小さく俯いた。



       

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