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冴草君3

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 ザマッチのいない座間家。
 親父さんと酒を交わし、妹と散歩して裏山の小屋でセックスをする。
 俺は友達の家族とかれこれ半年以上そんな付き合いをしている。
 ザマッチの伯父さんとも実はこの田舎の家で知り合った。
 当初俺は日焼け具合から伯父さんの仕事は農業だと想像していた。
 しかし伯父さんは町の公園にいるホームレスだった。
 ホームレスである諸事情は多々あるらしく、あまり突っ込んだことは知らない。
 てか、知る気もない。
「あん時ゃ、アミちゃんには世話んなった。わしゃ全財産あの子にやったって構ぁねぇ」 
 伯父さんはザマッチからガムテープをもらった時のことを思い出してはそう言う。
 その一件は俺にとっても忘れられない迷惑な思い出だ。
 が、座間家ではそんなこと、所詮酒の肴の笑い話で流されていく。
 にしても伯父さん、あんたの全財産って何もないだろ。おい。
 最近だって、またガムテープもらってたくせに。

「冴草君、いつもありがとうね」
 ザマッチの母ちゃんは俺が届けた息子のノートへ丁寧に目を通した。
 それから新しいノートを数冊出してきて俺に手渡す。
「いつまで続くのかしらね、これ。あの子は星の調書って言ってるけれど……」
 そんなこと俺にもさっぱりだ。
 どうして、また何のために書き続けるのか全く不明。
 あのバカの脳みそが正常に稼働しない限り一生終ないだろう。
「こればっかりは医者でも解らないらしいものね。なにせ頭のことですから。ふふふ」
 笑っているあたり母ちゃんは既に息子の現状へ開き直っているようだ。
 家族ともなるとそんなものなんだな。
 この家の長男は日頃変人や変態の類がなす奇行を働いている。
 しかし家族は誰一人そのことを嘆いてはいない様子だ。
 サッパリしているというか、潔いというか。そんなもんなのか?
 ま、俺はというと、どの道奴とは単なる友達付きあいしかしないつもりだ。
 こうして田舎へノートを運んでやるのもただの義理。
 妹とのセックスがなけりゃ、誰がこんな辺鄙な所へわざわざ。
 それにはたから見ているだけなら、ザマッチの存在は大学生活で美味いつまみになる。
 退屈しない。卒業まで精々面白がらせてもらうさ。
 それで充分なんだよ。そう、それでいいんだ。
 親切とか人助けとか、俺は正直どうでもいい。
 けどほら、俺って見た感じ良い人でもてるから色々断れないんだよな。
 苦労する。やれやれだ。
 ……。
「冴草君、来週に検診のお知らせ送るわね。赤色で。その時はまたあの子をお願い」
「あ、ええ。構いませんよ。お安い御用で」
 こうして俺はザマッチの定期検診へ付き合うことを約束した。
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 ザマッチは限られた特定の文字を除いて多くの字が読めない。
 なんでも、脳みそが認識しないんだそうだ。
 原因は誰にもわからない。
 ザマッチの母ちゃんいわく、字は読めないが不思議と書くことはできるらしい。
 が、書いた端から自分の字が読めないので、筆記の意味は殆どないのもまた事実とな。
 つまり奴が書く調書自体、本人にとって何の意味も成さない代物なんだそうだ。
 医者の見解ではザマッチの脳は単なる異常としか判断されておらず病名はない。
 高卒前、突然起こったこの病のおかげで、奴の進学は芸大へと決まった。
 その後トイレで知り合ったあの日から、俺はこの奇妙な男の友達(傍観者)となった。
 そして俺は初めて座間家に来て以来、何度か星の調書をこの家へ届けている。
 ザマッチは心底、自分がチェス版と小石で調書内容を座間家(地球司令部)へ送信していると信じている。困ったもんだ。まあ、いいけど別に。
 こんなノート、どうせなら郵送してもいいんだけどな。
 凶悪犯呼ばわりされてる妹、可愛いんだよな。だから俺、つい来ちゃう。

 それから後日。
 ザマッチの定期検診結果はまたも異常とでる。
 もはやそれが奴のノーマルだと医者は言った。
「冴草君、残念なことに私は、またも兵士には適さないそうだ」
「ほう、そりゃ結構」
 検診を兵士の適性検査だと思い込んで意気消沈しているザマッチの表情は面白い。
 脳波検査ではちゃんとカチューシャを外したんだろうか。
 何やら検査室で検査員のおっさんと揉めてたようだが。
 因みにこれは俺の見解だが、大抵こんな奴は、
「兵士が無理でも、ダリくらいにはなれるだろ。変人だしな」
 そうだ。そういうもんさね。そういう。
 変人ってのは大抵、紙一重で奇人で天才なんだ。大方な。
 どっちかってぇと俺は違うけどな。
「何を言うんだ冴草君。私は変人ではないよ。ただの宇宙人だよ、宇宙人」
 はいはい。
 またきたそれ。
 ずっと言ってろバカ。
 

 つづく
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