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地球調査員ザマッチ

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 私は地球の遥か彼方、遠――い遠――い宇宙にある某星のそのまたずっと遥か向こう、一体何処まで行くんだこのやろう! と言うほど遠い所からやって来た宇宙人だ。
 地球人もまた宇宙人の内だが、ここでそんな意地悪突っ込みはよしてもらいたい。
 私は遠いところから来た事実意外、至って普通の純朴な宇宙人だ。何処にでもいるような、平凡で真面目で実直で。趣味は読書でお花を少々というくらい普通の宇宙人だ。
 本国でも私はただの庶民宇宙人なんだよ実際。
 見た目だって誰もが想像できる位当たり障りがない。はずだ。多分。きっと。
 とりあえずそういうことにしておく。

 私がわざわざ遠路はるばる宇宙を旅してこの星、地球までやって来たのには訳がある。
 それはこの星でいい歳過ぎても嫁一人見つけず、単身クサクサ隠れ住んでいる宇宙人息子に会いに来た。と言うのは仕事のついで。お話の隅に置いておこう。
 目的は列記とした地球調査のためだ。
 そう、これこそが私の仕事、立派な公務である。ここ、笑うところではない。
 来たるべき将来、宇宙に住まう我々宇宙人がこの星に永住することになった暁に備え、今からこの星を調査しておくのだ。
 それはもう綿密かつ訓細に。桃の毛を数えるが如く。
 元より我々は地球人との争いは望まない。
 血で血を洗う争いは常に憎しみと悲しみを伴い更なる争いを生む。その負の連鎖は永遠に癒える事のない深い傷となり、世代を越えて人々の心に刻まれる。
 それはこの星のアニメでも語っていた気がする。確かロボットみたいなやつの……。
 つまりはそんなこと起こってはいけない。
 それに我々の目指す「地球掌握大作戦」にはそぐわない。非効率的だし不合理だ。
 ならばいっそこの星と貿易でもして経済成長を遂げた末、金に物を言わせてこの星を買い取ってしまえばいい。枯れない花や蜂でも売り付ければいいんだ。
 まあ、この話は宇宙人である我々に金という概念があったらの話だが。
 とりあえず現在のところ我々には金という代物は存在しない。
 そんな質面倒臭い物、宇宙人には必要ない。ナンセンス。解るだろう。
 宇宙人というのはもっとインテリジェンスでクールかつスマート。金ではなく信頼で、心で物を交換する。
 以前そのことを友達になった地球人に話すと、それは「ブツブツ交換」と言う取引だと教わった。さすが発展遅れの星の響き。何とも肌触りが悪そうだこと。どうせなら「プトュプトュ交換」とか「ピュツピュツ交換」とかの方が可愛いだろうに。
 因みにその友達はせっかく私が宇宙人だと教えているのに、ちっとも信じようとしない。
 私を面白がって変態や変人扱いするばかりだ。まあ、彼はいい奴なんだがな。
 女の子にも優しうえ、ちょっと色っぽいナキボクロもある。

 話はそれたが、つまり私が組織の上から受けた任務はこの星の調査だ。
 この星で生活し、この星を知る。そしてこの星の情報を調書にまとめ本国又は地球司令部へ送る。
 単純なようだが大変重要な任務である。何せ一つの星について片っ端から情報をまとめていくのだから。何処から手をつけていいのやらゴミの山を漁るような心地だ。
 当たり前のことだが、こんな仕事一人でこなせるはずもない。当然だ。
 だから調査員は他にも沢山地球のあちこちに姿を変えて潜伏している。数だけでも世界中にざっと五万はいるだろう。
 私はたまたまヒトに姿を変えて日本に潜伏することになったが、者によっては犬だったり猫だったり、牛や馬、電化製品、植物に至るまで実に様々。
 我々は兎に角地球に存在する物に成りきり、その立場に立ってこの星を知る。そして成りきっている物独自の手法で組織へ情報を送致する。それが役目だ。
 こんな時、供に窮地を乗り越えていける相性最悪のパートナーですらいない。
 ああ、私はそんな地球産シネマが好きだ。
 それなのに現実は孤独なもだ。上は「テメーら個々に調書まとめて来いヤ」である。
 要は組織がそれだけ多くの情報を望んでいるとな。二人一組で一調書なんて甘いことをさせてくれる気はないらしい。けちな機関だ。おっと失言。
 何にせよこれから先私の作る調書には本国の宇宙人たち皆の命運がかかっている。だからこの作戦へ真面目に取り組まなくてはいけない。
 これは我々宇宙人の未来と存亡を賭けた一プロジェクトなのだから。

 さあそこで、私が姿を変えている地球人としてのなりを少し明かしておこう。
 名前は座間アミロウ 日本人。日本在住。
 肩書きはこの春めでたく芸術大学へ入学した芸大男。
 多分かなりの美男子だ。間違いない。私はそう信じている。
 アフロヘアーで鼻の下に髭を生やしている。中肉中背。
 誰が見ても宇宙人だと判るよう、星と土星のバネ付きカチューシャを被っている。
 大体こんなところだ。ではよろしく頼む。

 つづく
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