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1.いかにして私がそのような願望を抱くようになったのか。そして

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 どうしても叶えたい願望があるのなら、常日頃からそれを口に出しておくことをお勧めする。思わぬときに、人知を超えた何かによって、その願いは叶うかもしれないから。

     ☆

 私にも願望があった。叶わぬまま死んだらきっと未練にがんじがらめにされて、霊魂のまま地上を彷徨うことになるのではないかと思うほどの強い願望である。
 私は乳を揉みたかった。もちろん人間の――当たり前だが女性の――さらに言えばふくよかな――最低でもDカップ以上の大きさの乳を揉みたかった。母から授かった健康な両手を存分に動かして、女性のたわわな乳を揉みしだきたかったのだ。

 思えば物ごころついたときから乳が好きだった。巨乳が大好きだった。
 私は生まれついての巨乳好きなのである。これは親戚一同からドがつくほどの助平と称される祖父と父――どちらも巨乳好きである――の遺伝子をしっかりと受け継いでいるからなのでは、と自身が巨乳好きである理由を私はそう分析している(ちなみに私の祖母は巨乳で、母もまた巨乳である。祖父と父は人生の伴侶にしっかりと巨乳を選んでいるのである)。
 乳が好きということはその人はエロいということ。エロいというのはとても恥ずかしいこと。そういった認識が幼い頃の私の中にあった。だから、いくら純粋な気持ちであろうと、乳が好きということを公言できなかったし、その気持ちのままに行動を起こすこともできなかった。
 テレビにグラビアアイドルが映っても、その姿を両目で堪能することはできなかった。いくらその胸が強調されてようとも、むしろ目をそらして過剰なまでに乳に興味が無いというそぶりを見せていた。それは完全に不自然というレベルに達していたが、当時の私は完璧にごまかせているとばかり思っていた。
 そういうこともあって、視覚で乳を堪能するには親の目のないところが必要だった。幸運なことに我が一家が住んでいる貸家の一室が子供部屋としてあてがわれていた。
 残念ながら私一人の部屋ではなく妹との共用であったが、まだ言葉すらおぼつかなかった妹は基本的に子供部屋に来ることは少なかった。なので、妹がある程度成長するまでは実質私一人の部屋のようなものだった。
 扉を閉め切ってしまえば、乳を堪能するにはもってこいの部屋だった。だが、そのためには何らかの媒体が必要となる。アダルトビデオやポルノ雑誌があればよかったのだが幼い私がそれを用意するのは不可能だった。
 ドがつくほどの助平である我が父君の部屋をサルベージすれば何かしら見つけられたはずだが、バレたときのことを考えると恥ずかしくて手が出せなかった。生まれついての小心者である。
 そんな私にもバイブルと呼ぶに値する本があった。幼い私をさらに巨乳好きにした偉大な漫画。かの有名な少年ジャンプで連載していた『地獄先生ぬ~べ~』である。
 ぬ~べ~との出会いはテレビアニメ版だった。偶然テレビでそれを視聴した私は、主人公のぬ~べ~こと鵺野鳴介の左手にある鬼の手に惚れこんだのである。
 すっかりぬ~べ~の虜になった私は、巨乳の母君と一緒にブックオフに行った際に漫画を数冊買ってほしいとねだった。店内でじたばたと暴れかねない勢いの説得が功を奏し、買ってもらえることになったので、すぐさま私は少年漫画が置いてある棚に向かいぬ~べ~の単行本を探した。
 悲しいかな古本屋に並ぶのは客から売られた古本ばかり。普通の本屋のようにシリーズ物が綺麗に揃っているとは限らない。ぬ~べ~もその例に漏れず、とても中途半端な揃い方をしていた。
 一巻から集めたかったのだが、一巻から三巻を飛ばして四巻と五巻、六巻が飛んで七巻、またいくつか飛んで……と完全にバラバラだったが、ぬ~べ~を読みたいと言う衝動には勝てず、四巻と五巻、七巻の三冊を手に取り、母親の元へと戻った。
 しかしこれはむしろ幸運だったと、今では思っている。
 帰宅した私はすぐさまぬ~べ~を持って子供部屋に籠った。どうせ一巻から読まないならどこから読んでも同じだろうと、適当に袋の中から一冊取り出す。七巻だった。運命の七巻である。この七巻が、ぬ~べ~をバイブルと呼ぶきっかけとなるものだったのだ。
 七巻の最初の収録されている「夢喰いバク」という話がある。そこで登場人物の細川美樹(巨乳)が、夢の中でアイドルになるものの枕営業を強制され、衣服を引きちぎられるというシーンがあったのだ。
 私は激しく興奮した。破かれる衣服、露出する乳。幼い私の股間に熱い何かを呼び起こすには十分だった。
 その興奮を維持したまま七巻を読み進める。他にも少年誌にしてはエロティックなシーンのある話はあったが、その中でも「妖怪あかなめ」という回は私を狂わせた。
 登場人物たちが大勢で銭湯に行くのだが、そこに妖怪あかなめが現れて女性陣が一斉に風呂場から飛び出すシーンがある。
 風呂場から飛び出すのである。妖怪から逃げるために、だ。服を着る余裕はおろか、タオルを巻くことすらできない。一糸まとわぬ姿で飛びだすのである。律子先生(Fカップ)を先頭に女性たちが乳をさらけ出すのである。圧巻と言わざるを得ない光景なのである。
 その日、しばらくの間そのページばかりを凝視していたのを今でも覚えている。乳首が隠されていたのが残念だったがそれでも妖怪あかなめの回は素晴らしいものだった。十年以上経った今でも鮮明にそのページを思い出せる。
 そんなこんなで、私はぬ~べ~をバイブルと呼ぶようになったのである。バイブルという言葉を覚えたのはもっと先のことであるが。

 それからも私は自分の手が届く範囲で乳を堪能し続けた。
 ここまで書いておいて何だが、いささか過去の話を掘り下げすぎたのではと反省している。この調子で今に至るまでのおっぱいにかける日々を書き連ねていったら文庫本一冊ほどの文章になってもおかしくない。別に書き続けてもいいのだが、大事なことはそれではないのだ。
 なので、私がなぜ巨乳好きで、どうやって乳を堪能してきたかという話はここまでにして、本題に入ろう。無駄な話に時間を使わせたのは申し訳ないが、書いてる私の方が時間を無駄にしているのでおあいこということにしていただきたい。

 私は巨乳好きの好青年に育った。品行方正、頭脳明晰、容姿端麗、というわけではなかったが――品行方正だけは当てはまるかもしれない、というか当てはまっていると信じたい――まっとうな人間として日々過ごしていた。
 そんな私には一つの大きな願望があった。女性のたわわな乳を揉みたいという願望が。
 今まででも十分に乳を堪能してきたが、所詮は視覚で堪能しただけ。乳そのものを触覚で堪能したことがなかったのだ。乳児の頃に母君(巨乳)の乳首にむしゃぶりついたくらいで――母曰く歯を立てて怪我をさせるくらいにむしゃぶりついていたとのこと――それ以外では一度も女性の乳に触れたことがなかったのだ。
 視覚で堪能するのはいいが、すればするほどにその感触を夢想し、揉みたいという衝動は強くなる。よく今まで堪えてきたと思う。
 乳を触ったことが無いのだがら、女性と交際したことだってない。どうして私のような好青年の前に好意を示す女性が現れないのかは今でも疑問である。
 とにかく、私は乳が揉みたかった。
 風俗に行けばいいのに、と諸君らは思うかもしれない。だが、駄目なのだ。中途半端なプライドがそれを邪魔する。さらに私は生まれついての小心者だ。正直風俗に行くことすらちょっと恐い。
 だから、乳を揉めずにいた。願望を叶えられずにいた。
 せめてその感触だけでも再現できないものかと、考えを巡らせたこともある。テレビでとあるお笑い芸人が「時速八十キロで走る車の窓から手を出すとCカップの感触がする」と言っていたのを見てそれを実践したこともある。
 確かに柔らかな感触を得ることができたが結局は空気。私の願望が叶ったとは言い難い。
 それでも結構気持ちよかったので何度か車で田舎道を走らせてエア乳揉みを楽しんだ。私はそういう人間である。

 どんな小細工をしても、結局本物の乳を揉みたいという願望が叶えられるわけではない。むしろどろどろとした欲望となって私の中に溜まっていく。
 大学生になる頃には口を開けば「乳を揉みたい」と呟き、女性と会っても乳ばかり凝視する、そんな人間になっていた。
 周囲からは完全に乳を揉みたがってる人と認識されているが、本当のことだから仕方が無い。いじめにならなかったのは奇跡である。私の周囲は良い人ばかりであった。乳を揉ませてくれる人はいなかったが。

 さて、ここまできて私がこの願望について語る時、過去形だったことにはお気づきだろうか。それがつまり、どういうことか。その願望が叶ったということである。
 そう! 紆余曲折あって私は乳を揉むことができたのである!
 常日頃から「乳を揉みたい」とばかり言っていた私だが、その願望が叶ったのである。――人知を超えた何かのおかげで。
 未だにそれが何なのか、私には分からない。ただ一つ言えることは「乳を揉めた」ということである。

     ☆

 それはいつだったか。大学の三回生のときか、それとも四回生のときか。あるいは社会人になってからだったか。細かいことはあまり覚えていない。その時の私は薄着だったから季節は夏だったと思う。

 何の前触れもなく、それは私の目の前に現れた。突然のことだった。
 それは、分かりやすく言うなら布を腰に巻いた幼い男児だった。だが、その背中には羽が生えていた。まさに空想上の天使のような、そんな姿をしていたのだ。
 突如現れたそれは驚く私の顔を見るとにこりと笑った。とりあえず私も会釈をする。
 目の前で、ぼんっという音と共に煙が立ち込めた。私はむせてせき込む。呼吸が落ち着く頃には煙も薄くなっていた。
 そしてその煙の場所には何かがいた。私は目を凝らす。

 煙の中から現れたのは――乳だった。
 それはそれは大きな乳だった。私の理想のサイズの乳。一瞬で私は虜になった。

 天使のような何かがまだ横で笑っていたが、なんだかどうでもよくなっていた。



 <つづく>
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