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2-omake『立川はるかの妄想』

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 2-append『救世主あらわる』の2(立川さんが妄想してベッドインする話)のその後の話です。
 立川さんがどんなこと考えていたのかなー? みたいな感じですかね。
 
 
 ひとまず本編のほうは置いときまして、番外編ってことでお楽しみください。
 
 
 R15ぐらいの描写がありますのでご注意を。
 
 
 彼女が彼とお付き合いを初めて3ヶ月。
 感極まって号泣、その末の告白を、彼は最高の形で応えた。彼女はそんな彼の為にすべてを捧げたいと思った。
 
 
 
「おはよーはよー」
 朝の挨拶。彼女はとびっきりの笑顔を彼に見せる。彼も嬉しそうに「おはよう、立川」と返す。
 
「今日は寒いねー」
「そうだね」
 付き合い始めてすぐ、通学は時間を合わせ、いっしょに行くことにしていた。
 あと呼び方。彼女はまだ『アサダくん』だが、彼は『立川』に変わっていた。
「…………」
「どうしたの?」
「……んっ」
 彼女は右手を突き出す。
 グーパーグーパー。
 
 ……もうっ。
 
 彼に聞こえないよう、心の中で悪態をつく。
 
「右手が」
 
 ……どうして、気が利かないのかなぁ。
 
「右手がお留守なの、なんとかしてっ」
 
 歌詞になぞって要求。頬が少し熱い。ちょっと恥ずかしい。
 
「……はいはい」
 
 彼は苦笑いと共にそれを叶える。
「えへへ、あったかい」
 ようやく彼を感じることができ、笑みがこぼれた。
 
 
 
 彼女にとって、暇で暇でしょうがない数学の授業。
「…………」
 授業を受けるフリをしつつ、彼の顔をちらりと見る。
 手紙のやりとり。付き合い始めてからは、すっかりしなくなった。
 授業はちゃんと受けなさい。彼からそう咎められた、というのもあるけれど。
 
『前に烏龍先生の小説を勧めたけど、またいいの見つけたよ。
“死んだ世界の勇者様”ていう家鴨先生の作品。
 文章はちょっとアレだけど、キャラが生き生きしてるの。読んでほしいな』
 
『最近始まった中では“マックで!”ていうのがおすすめだよ。
 よくあるユルユル系な話だけどおもしろいよ!』
 
『昨日教えてくれた“箱庭から見える空”。あれのマンガ、見つけたよ。
 要さん、美人だよねっ』
 
 昔なら手紙に書いていたような話。今はそれを頭の中で整理する、それだけ。
 わざわざ授業中に言う必要はない。だってもう、話すタイミングなんていくらでも作れるんだから。
「……ふふふっ」
 彼の横顔を見ると自然に笑みを浮かべてしまう。
「おやすみ」と、心の中でつぶやき、眠りにつく。
 
 
 
 放課後の勉強は変わらず続いていた。その後の寄り道(2人の関係からすると帰宅デートなんだろうけど)も……
 
「これおもしろいよ、『戦闘義手と彼女の日常』!」
「『ワークオブゴッド』『ワークオブジーニアス』とかのWOシリーズを忘れてもらっては困るな」
 
 なんてやりとりを本屋で交わす。
 
 が、この日はすぐに学校を出て、寄り道もしなかった。
 帰る先は彼女の家。
「…………」
「…………」
 お互い交わす言葉はない。いや、話したいことはいろいろあった。特に彼女は、授業中にたくさん考えていた。
 それなのに、何も言えない、口が動かない。頭が真っ白。
 
 彼女が彼を家に招くのは初めてだった。
 付き合い始めて3ヶ月目。
 2人は、なんとなく意識していた。
 そろそろ、もう少し歩み寄るタイミング、ということを。
 
 ぎゅ。彼女の手に力が入る。彼も、彼女を安心させるよう、握り返した。
 
 
 
「ど、どうぞ、ごゆるりと」
「……おじゃまします」
 彼女の家、学生マンションの一室。彼女はどこか不自然に彼を招き入れ、彼はびくびくしながら招い入れられた。
「えとえと、お茶入れてくるから……そのへんの本読んでゆっくりしというぇっ」
 小走りで(しかも最後は噛み噛みで)キッチンに向かう。コップを出してお茶を入れるだけの簡単なこと。なのに。
「う、うう」
 手が震えている。怖いのか、不安なのか。
 
 ようやくお茶が入った。そこでふと思い出す。
 
『そのへん』で指した本棚。たしかあそこのエリアは!
 
『この身体はキモチイイ……!』
『人妻の独白』
『マンネリガール』
 
 マズいマズいマズい! そこはマズい! 持ってる自分もちょっとアレだけど!
 見られるのはかなりマズい!
 
「ちょっと待ったぁ!」
 止めに入る! が、遅かった。テーブルの上には3冊のうち2冊が、そして彼の手には残りの1冊。
 
 あちゃー、パラ読みしちゃってますかー……
 
「えへ、えへへ、へー」
 無理だと思いつつも、笑って誤魔化してみた。当然無理だった。彼は苦い顔をしている。
「こういう本も、読むんだね……」
「あ、あはは……」
 本を奪い取り、書き集め、さっさと本棚に突っ込む。
 よほど動揺していたのか、彼女はバランスを崩し倒れそうになった。
 そこに。
「……と」
 彼が受け止める。いや、抱きとめた。
「あわ、わわ」
 初めて体験する距離感。彼の香り、温もり。それが伝わってくる!
 お互いが反応に困り、時間が止まったかのように沈黙。
 沈黙。
 硬直。
 そろそろどうにかしないと! と彼女が思い始めたとき。
 彼の腕の力が強くなった。
「く、苦しいよぉ」
 彼に沈めば沈むほど。
「……立川」
「やめてよぉ……」
 気持ちがもやもやしていく
 変になっていく。
 ……離れたくない。
「立川」
「ふわ、わっ」
 ずる、ずる。ベッドに連れて行かれる。
 抵抗は、しない。
 
 ぽすん。
 
 ベッドに投げ出され、カラダを重ねられた。
 
 
49, 48

  

 
「立川、立川っ」
「待って、ねぇ、待ってよっ……ひゃんっ」
 彼女のお願いは首筋へのキスで断られた。彼の唇、柔らかで、少しカサカサな感触がカラダに走る。
「ねぇ、せめて、シャワー浴びさせ」
「ダメ」
「はわ、わわわっ」
 彼の手が彼女のカラダを勝手に這い回る。ほとんど膨らみのない胸を、彼の手がすっぽりと覆い包む。
 ぐり、グリ。円を描くような動きで愛撫が始まる。
「気持ちいい?」
「わかんないよぅ……くすぐったい、だけ……」
「へえ、そうなんだ」
 彼は笑う。くすぐったい部位は性感帯となる可能性がある、ということぐらい、彼女だって知っている。意地悪そうな彼の笑みにドキリとしてしまった。
 指先がかりかりと引っ掻いてくる。彼女の慎ましい胸の突起を狙ってのことだろうが、下着が邪魔して届かなかった。なのに、届いてもいないのにその指の動きに気持ちだけが焦らされていく。
「やめてよう、私、胸に……自信、なくって……ちっさいし……」
「そう? 可愛いけど?」
 
 なんて恥ずかしいことを言うのだろう。でもダメ、胸はダメ!
 
「だ、メぇぇぇぇ」
 両手で彼を押しのける。それぐらいの抵抗、彼は物ともしないはずだが、素直に引っ込んだ。
 なぜなら、他に攻めたい箇所、彼のフェチズムのポイントがあったのだ。
 
 つぅ。
 
「ひゃうっ!」
 彼の指が彼女の内ももをなぞる。下から上へ、膝あたりから股関節あたりへ。
「そこ、そこヤダっ」
「可愛い声で鳴くね。たまらないよ」
「はう、はぅ」
 脚からやってくる刺激が彼女の思考を鈍らせる。その隙をつき、空いた手による胸への愛撫も再開される。
 じわじわと性的な心地良さが身体に浸透していく。と、そんなとき。
「ふぇ?」
 彼がじぃっとこちらを見ている。
「な、に?」
「いや、可愛い顔だなぁって」
 口の端を触れられた。知らないうちに涎が垂れていたらしく、彼の指が濡れている。
 
 ……恥ずかしい。
 涎が垂れていたことではない、「可愛い」という言葉。聞いてるこっちが恥ずかしくなる。
 
 なんて嬉しがっていると、彼は何食わぬ顔で彼女にキスをした。
 これが2人のファーストキス。
 
 ――え、あれ、あれ?
 
「んっ」
 触れるだけのキス。すぐに離れた。
 驚きが先行し、最後に生まれた気持ち、それは。
 
 ……もっと、したい。
 
「あぅ」
 舌を突き出す。唾液で濡れそぼった舌が彼を求める。
「キス?」
「あっ……」
 言葉はない。ただ舌で求めた。彼はそれをちゃんと理解し、舌を絡めた。
「んん、んぅ」
 彼の舌が暴れる。ああ、唾液が絡み合う。
「ふぁ、はぁぁぁ」
 長い長いキスを終え、離れる。溜まった唾液を飲み干すと、まるで彼が体内に入ってくる、そんな錯覚を覚えた。
 
「このぉ、なんだってこんな」
 
 彼女は、ファーストキスはロマンチックなシチュエーションで、自分から捧げたいと思っていた。
 けれど現実はまったく逆。こんな無理やりな感じで奪われた。
 
 しかも、舌を絡め合うような大人のキスまで……!(これは自分で求めたから自業自得)
 
 仕返しだ、リベンジだ、反撃だ!
 
 まず腹だ。腹を殴ってやる。
 次も腹だ。えぐるように打ってやる。
 最後も腹だ。最後は蹴ってやる。
 
「ごめん。我慢できなかったんだ。
 ……好き、ていう感情を抑えきれなかった。
 好きだよ、大好きだよ」
 
 そんなこと言われたら……!
 
「……嬉しいっ」
 
 文句なんてあらへんし!
 
 うっとりしてしまう甘い言葉。その言葉で彼女の思考はとろけてしまった。
 立川は、彼の胸板に触れた。そして上下に何度も撫でる。本能に身を委ねた結果の行動だった。
「……どうしたの?」
「触りたいの。すごくすごく、触れたいの」
 さすりさすり。何度も撫で、突起があるだろうところに擦る。
「んっ」

 あ、反応した。
 
 嬉しくなって何度も擦る。そうするたびに、彼が小さな声を出す。
 
 ……可愛い。
 
「あは、かぁわいい」
 小さな喘ぎ声と、ちょっと苦しそうな表情。それだけで昂ぶってしまう。
 しばらく続けていると、いよいよ彼も我慢できなくなった。
「な、なあ立川……」
 息が荒い。見るだけでわかる、彼の興奮。
 
 え、ほんとに、する……の?
 
「その、あの、まだ心の準備が……」

 でもでも、カラダはすごくできてる……! もう、気持ち悪いぐらいにネトネトに……あうあう。
 
「ダメ?」
「ダメって言うか、あの、えと」
 しどろもどろ。彼の願いを叶えてあげたいけれど、やっぱり少し怖い。
 どうしよう、何て答えよう。
 
 ……やっぱり無理、断ろう。
 
「はるか」

 ……どうして、このタイミングで。
 
「シたい」
 
 名前で呼んでくれるかなぁ。
 
「ダメ?」
 
 あれだけお願いしても呼んでくれなかったのに!
 ……断れるわけないし。
 
「……ううん、いいよ。きて」
 
 彼の手が、彼女の制服を脱がし始めた。
 
 
 
 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
 
「ん、ん……んっ!」
 びくり。ベッドの中、シーツの海で、立川は身体を震わせた。
 妄想の中で愛し合い、結ばれた。妄想の中で。
「はぁ、はぁ……はふ」
 全身をじっとりと包む汗。気持ち悪い、さっさとシャワーを浴びてしまおう。
 
 ……それにしても、自己嫌悪。
 
 彼女は自分を慰めるこの行為が好きではなかった。理由は特になく、生理的に嫌だった。しかも(意中の)相手のことを考えるだなんて。
 きっと次に顔を合わせるとき、気まずくなるに違いない。
 
 ああ、でも。
 
 いずれはそんな関係になれたなら。
 
 
 
 なんてことを考え、また、カラダが少し火照った。
 
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