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last-2『主人公はただ1人』

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 ある日の夜。彼が自室のベッドでごろごろしていると、ケータイに電話がかかってきた。
 ディスプレイには彼の友人の名前が表示されている。さて何の用だろうと通話ボタンを押した。
 
 夏期講習をどうするか、という内容は簡単に脱線、そして雑談となり、ダラダラと時間だけが経っていく。そろそろ切ってしまおうか、なんて思っているとき、友人から驚きなことを聞いた。
 
「それで、立川さんとはどこまでいったんだ?」
 
 帰り道に本屋とか商店街とか。なんて答えを求められていないことぐらい、彼もわかる。友人が猥談的アルファベットな内容を欲していることぐらい、彼もわかる。
 そんな関係でないことを、そっと教えた。
 
「え、お前立川さんと付き合ってるんじゃないの?」
「付き合ってないし……て、そんな噂があるのか?」
「俺らのクラスどころか、うちの学年中、そんな話しになってるぜ?
 他のクラスのヤツが必死に攻めてるのに、まったく相手にされないらしいし」
「へぇ。そりゃ知らなかった」
「で、お前さんの気持ちはどうなんだい?」
 
 ツー、ツー。
 
 彼は電話を切った。かけ直されそうな気がしたので、電源も切った。
 
 
 
「え、まだ付き合ってなかったの?」
「お前もか」
 
 嵐のバラエティー番組を見ているとき(この日は録画じゃなくてリアルタイム)、CM中にそんな話しになり、妹までにも言われた。
 
「なんでなんで? 貧乳は好みじゃないの? それとも他のパーツなの? どこがいいの?」
「お前なに言ってんだ?」
 
 妹(Bカップの微乳)の言葉を、彼はあっさりと斬り捨てる。
 さすがに身内とフェチズム談義をするつもりはなく、可及的速やかなCM明けを願っていた。
 
「ま、まあそれはそれとして、てっきり、付き合っているもんだとばかり」
「付き合ってないし」
「そっかそっか。それはよかっ」
「でも告白はされた」
「早くそれを言えよバカ」
 
 CMが明けた。が、妹はそれどころではないらしく、彼に(物理的に)掴みかかっていた。
 
「で、で? 返事は? ねえ、おいっ」
「おい、おい」
「なんだよ、あの人のこと、認めるしかないの? ねえ、ねえっ」
「CM明けてるぞ?」
「お、おお、おー」
 
 そこで会話が途切れ、しばしテレビを見つめる時間になった。
 そしてCMになるとまた、再開した。しかし妹も多少落ち着いたのか、先ほどの暴力沙汰にはならなかった。
 
「ま、でも。高校生だもんね。それぐらい普通だよね」
 
 その言葉に違和感。「まあ私は、そこはすでに通過しているし」というニュアンスが感じられた。
 確かめずにいられなかった。
 
「お前……彼氏とか、いんの?」
「いた、よ?」
 
 過去形。
 
 計り知れないショックが彼を襲う。そりゃあおかしくもない話しかもしれないけれど(彼の中では驚きなことだが)、真っ向から過去形で言われるとさすがにショックが大きかった(何のかんの言いつつ、彼は妹思いなのだ)。
 
「どちらから別れを切り出したんだ?」
「私から」
「告白したのは?」
「私から」
「……それひどくないか?」
 
 告白した側が別れを切り出す。それは、燃え上がっていた感情が枯れました、と言っているようなものじゃあなかろうか。
 告白した側は別れを切り出さない、という価値観を持つ彼は、もはや理解できなかった。
 
「そういうもんだよ」
「マジかよ……」
「マジマジ。あははー。お兄ちゃんも気をつけなよ? 女の子の手のひら返しは怖いからねー。
 まあでも、あの人に限ってそれはないだろうし。
(あれだけ惚れてんだもんなー。OKしたらその日にヤれんじゃねーのクソが)←ここは小声
 良かったね、お兄ちゃんっ」
 
 
 
 そんなやりとりを友人、身内とした彼。
 
 彼も、返事をしないといけない、とは思っていた。
 返事は決まっていた。ただ、なかなか言い出す勇気がなかった。
 
 けれど、この2つのやりとりで、ようやく決心がついた。
 
 
 
「そんでなー、ジャンケン限定が文化祭と演算ジャンケン編でなー」
 ある日の帰り。立川は、あいもかわらず愛読書の話しをしていた。どうやらギャンブル漫画(しかも題材がジャンケンだけ)らしく、ところどころのパロディネタがすごくおもしろいようで、彼女はとても熱く話していた。
 しかし、この日の彼は心ここにあらずだった。聞いているような聞いていないような、どちらとも判断が難しい様子。
 
「……どしたん?」
 彼は止まる。
 
 
 彼は彼女を見つめる。
 
「ちょ、ちょっとぉ」
 
 惚れた相手に見つめられ、彼女の鼓動は高まる。意識してしまう。
 
「前の」
 
 彼は言う。
 
「ずいぶん前の、あのことなんだけど、さ」
「え……えっ?」
 
 何のことを言っているのか、わからなかった。が、彼女は気づく。あの日の告白のことだ、と。
 
「う、うんっ」
 
 彼女の緊張は最高潮に達する。しかしそれは彼も同じこと。呼吸さえ苦しいほどの緊張を2人は感じていた。
 
「立川さん」
 
「は、はい!」
 
 
 
「僕は、立川さんのこと――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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