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5ページ 五大誌と五大ジャンル

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『北方:だからあ!! なんでここでいきなり眼鏡の仕草の話なんて出てくるんですか!? せめて前振り入れたりしてないと夕子のセリフが不自然すぎるでしょ!! そして括弧の終わりに句点はつけない!!』
『TAKITA:な、なるほど』
『北方:良いですか? 間違っても、あえて文章作法を崩すことを個性だと思ったりしちゃ駄目です。ちゃんと覚えて下さい』
『TAKITA:は、はい』
『北方:そうですね……後はまた昨日挙げた箇所を直してきていただいて、文章作法等に問題がなければ連載しても大丈夫だと思います』
『TAKITA:あ、はい、ありがとうございます』
(長かった……)
『北方:あ、新人の作品は全部“文芸NEW都”に載せることになってるけど問題ないよね? まあ、もし文句があっても決まってることだからどうしようもないんだけどさ』
『TAKITA:なんですか、それ』
 現代の新都社では、新都社創世記を支えた“文芸新都”、“ニートノベル”の二大誌は消え、作風ではなく作品のレベルで雑誌分けされている。創世記当時と比べ何十倍何百倍にもなった膨大な作品量に対し、読者に無駄な手間をとらせない為だ。
 現新都社文芸には5つの雑誌があり、まず、まったくの新人が作品を連載させるのが“文芸NEW都”という新人新作専用誌である。まず作家はこの雑誌で己の力を試され、その結果によってその後様々な雑誌へと異動することができる。

 1・【文芸あかがね】(ランクC雑誌)
 文芸NEW都を除けば最低ランクの雑誌であるが、とは言え多くの作家はこの雑誌を経験している。顎男、崩条リリヤといった現在のトップクラス作家もこの雑誌で長い期間を経ているのだ。
 ●現看板作家 はまらん

 2・【文芸しろがね】(ランクB雑誌)
 その名の通り、文芸あかがねより一つランクの高い上位誌。最も多くの作家を抱えているのがこの雑誌であり、この雑誌を経験していないという作家は稀である。
 ●現看板作家 NAECO

 3・【文芸こがね】(ランクA雑誌)
 準豪賞作家、それに次ぐ作家達のみが作品を載せることができる人気誌。掲載作品の選考は厳しく、ここに作品を載せることが一つのステータスとなっている。また通例として、文芸こがねの看板作家は更なる上位誌に作品を掲載してもらえるしきたりとなっている。
 ●現看板作家 顎男

 4・【文芸しらがな】(ランクS雑誌)
 そして新都社文芸の最強誌が“文芸しらがな”であり、商業関係者からも強い視線が集まっている。ここに作品を載せられるのはそれこそ一握りの作家だけであり、一般の読者も一番多い。ちなみに、文芸こがね以下の雑誌を経ずにいきなり文芸しらがなに作品を掲載するのは一つの“偉業”として知られているが、近年でもその達成者は伊瀬カツラ、後藤ニコの二名しかいない。
 また、“しらがな作家”でも作品が不評だったり編集長の判断によっては文芸こがね以下の雑誌に掲載されることがあり、それを“天下り”と言う。現在では後藤ニコ、橘圭郎、青谷ハスカの3名が文芸こがねにも人気作の連載を持っている。なにはともあれ、文芸しらがなに作品を載せることが新都社文芸作家にとって最大の光栄であることは間違いない。
 ●現掲載作家 伊瀬カツラ 後藤ニコ 橘圭郎 泥辺五郎 青谷ハスカ 顎男 織姫

『TAKITA:なるほど、色々雑誌があるんですね……』
『北方:ああ。まあ、何にせよTAKITA君はまず文芸NEW都からだ。その後、恐らくは文芸あかがねで連載を続けていくことになるだろうが、一つずつ頑張っていくしかない』
『TAKITA:文芸あかがねからというのは確定ですか??』
「…………」
『北方:運が良ければ“しろがね”で連載させてもらえるかもしれないけどね。まあ、正直それも厳しいだろう。君が思ってるほどハードルは低くないよ』
『TAKITA:例えば……、伊瀬カツラ先生や後藤ニコ先生のようにいきなり文芸しらがなで連載したいと思ったら、どのくらいのレベルの作品を書けばいいですか??』
(!! チッ、このガキ……また)
『北方:いや……君ねえ。そんなのやろうと思ってできることじゃないよ。少なくともこの【兄の聖戦】じゃそれはありえないね。何でもまずは一歩ずつだ』
『TAKITA:別に必ず“しらがな”じゃなくても良いんです。文芸こがねでも別に良いんです』
「…………。こいつ、一回ちゃんと分からせないとダメだな」
 北方はデスクトップの前で唖然とした。
『TAKITA:あれ?』
『北方:どうした?』
『TAKITA:そういえば、この織姫って人は何で文芸しらがなに連載できているんですか?? この人、ベストファイブじゃないどころか準豪賞作家でもないですよね』
『北方:ああ、織姫先生か。なんて言うか、普通ベストファイブや準豪賞っていうのは複数以上の作品の実績等から授与されるものなんだが、織姫先生は一作品しか新都社で公開していないからね。それも更新頻度はあまり良くないから、作家としては準豪賞すらちょっと厳しいかなってところなんだが、【アタシ地獄】という作品がそれ単体で高く評価されていてね。割と最近、文芸しらがなに連載が移ったんだ』
『TAKITA:……スゴイですね』
『北方:ああ、凄いな。他にも、宮崎早起き先生の【安価で人殺す】なんかも最近まで文芸しらがなで連載されてたんだぞ。まああれは作者の都合で連載が止まってるんで、今は文芸しろがねに置かれているが、とにかく面白い作品はそれ単体で文芸しらがなに連載できちゃうんだ。作家の実績関係なくね。だからそういう意味ではTAKITA君にもチャンスはあるんだが、……まあ、【兄の聖戦】じゃちょっとキツイかな』
『TAKITA:……分かりました』
『北方:分かってくれたか……。じゃあ君は【兄の聖戦】の推敲を――』
『TAKITA:じゃあ、僕は野球小説で文芸しらがなを目指します!』
『北方:はあ!?』
『北方:野球小説って君……昨日僕に見せてくれたもう一つのプロットがあるっていうアレか?』
 TAK☆ITAは【兄の聖戦】の他に、【折道野球道】という作品のプロットを北方に見せていた。
『北方:いきなり何言ってるんだ君は! せっかく【兄の聖戦】をここまで練り直してるんだからこっちで連載すべきだろ』
『TAKITA:でも北方さん、コレじゃ文芸しらがなは厳しいと言った』
『北方:そんなの、【折道野球道】でも同じだよ!! いいか、君は少し出世を焦りすぎている!! 何よりもまずは一つずつこなしていくのが大事なんだ!!』
『TAKITA:北方さん、僕がベストファイブを目指しているのは知ってますよね?』
『北方:それはまあ……聞いたが』
『TAKITA:だったら、やっぱり何か一つ大きな実績があった方が良いに決まってる。それどころか、その一つの作品がすごいヒットになればいきなり“入れ替え会議”でベストファイブになるのも夢じゃないはずです』
『北方:バカ言うな! 入れ替え会議でベストファイブになるというのは入れ替え戦以上に狭い門なんだ。現に、今の5人の中でも入れ替え会議でベストファイブになった作家というのは泥辺五郎先生だけだ』
『TAKITA:【折道野球道】がヒット作になれば、可能性はあるはずです』
『北方:…………。いいか? ベストファイブ、もしくは文芸しらがなに作品を載せようと思ったら、新都社における“5大ジャンル”のどれかで頂点を獲るのが望ましい』
 北方は息をつき、気持ちを落ち着かせてまた話し出した。
『北方:他に実績があるならばまだしも、各部門でも2位にしかなれないような作家、作品がそれだけでベストファイブや文芸しらがなを獲るということはない。織姫先生の場合、新都社にあまりないケータイ小説っぽさが有利にはたらいたと言えるんだ』
『TAKITA:なるほど』
『北方:それで……ハッキリ言うが、君のこの【折道野球道】が“スポーツ”のジャンルで1位になるということは絶対にありえない』
『TAKITA:…………。どうしてですか?』
『北方:青谷ハスカがいる』
「…………!」
『北方:現在の5大ジャンルにはベストファイブ作家がそれぞれ各部門の1位に君臨しているが、青谷ハスカは当時手薄だったスポーツのジャンルを突いたの大きかった。【凡人生まれの上本くん】であっという間にスポーツ部門の1位を獲ると、それを短編用にまとめた作品で入れ替え戦をあっさり勝ち抜いた』
『北方:両方読み比べた僕に言わせてもらうと、あまりにも差が大きすぎる。【折道野球道】ではスポーツ部門の1位にはなれない』
『TAKITA:…………』
『北方:同じ理由で、【兄の聖戦】も厳しい。大別すれば、橘圭郎先生とジャンルがかぶってしまう』
『TAKITA:!! 橘圭郎……ですか』
『北方:ああ。ハッキリ言って勝負にもならないね。まあ言ってしまえば、現ベストファイブ陣が5大ジャンルを占めている限り何やってもキツイんだよな~。そういう意味では、青谷ハスカ先生が相手の“スポーツ”はまだ希望があると言えばあるんだが……。他の四人に比べればね』
『TAKITA:……。分かりました』
『北方:な? 最初は焦らず一歩ずつやれば良いんだよ。これ、マジ。やはり最初の予定通り【兄の聖戦】を連載しよう。人気が出てちゃんと完結すれば、これも大きな実績になる。【折道野球道】はその後またやってみれば良い』
『TAKITA:……はい』
 デスクトップの前で、TAK☆ITAは震えた。
(くそっ……やはり力が足りないのか? ……早くベストファイブを獲りたい。何年かかる)

 ○   ○   ○

(ツイてる……久し振りにアタリを引いた)
 男は一人、ウィンドウに映る文章に身を震わせていた。
『もしもし。こんにちは』
 その文章の主が、チャットルームに入ってくる。男はすぐに画面を切り替えて応答した。
『初めまして。和田駄々先生の担当を務めさせていただくことになりました』
『和田駄々:初めまして。担当を買って出ていただいて光栄です』
『和田駄々:それもまさか、あの伊瀬カツラ先生の担当編集さんに選んでもらえるとは』
『落花生:はは、いやいや。カツラ先生と同じ編集だからって、何か変に意識することはないからね。力を合わせて頑張っていこう』
『和田駄々:はい。ありがとうございます』
(ふっ……一筋縄ではいかないなあ、これは)
 和田駄々は面白おかしいような苦虫を噛み潰すような、困ったように苦笑いをこぼした。
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