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1st article Law And Order

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Royal Warrant 1st article

Law And Order

 窓から入る日差しが僕を起こしてくれた。
 現在時刻AM 7:00。いかにも平均的な起床時間であり、かつ健康的だ。それでも、昨日の寝た時を思うともう少し寝てもいいくらいなのだが。
 まだ頭が働かない。なれない場所だとどこか緊張してしまい、普通うまく寝れないものだが、僕はぐっすり眠ってしまったみたいだ。
 とりあえず、洗面台のところへ向かう。場所は覚えたつもりだったが、途中で通路を間違える。ここの部屋数は正直不便だ。
 鏡には自分のまだ目覚めきってないボケーっとした顔。そして長い髪。昨日、お風呂の後に即ベッド行きをしてしまったせいで、爆発していた。それはもう、重力を無視するぐらいに。アホ毛とかいうレベルじゃなかった。そして顔にまとわりつく。
 この髪は親の形見であるからうかつに切れない。
 親がまだいる時、頭を撫でてもらってうれしかった。その時のものを切り捨てることができずにそのままだ。サーシャもほぼ同じ髪型だが、僕の方が長い。そしてどういう訳か、今まで1本とも抜けたこともない。これも自分の「確率操作」と関わるのだろうか。
 このアートな髪をとりあえず整髪。ついでに洗顔するために蛇口をひねりぬるま湯をためた。
 蛇口を止める。ところがいくらたっても水面は波打ったままで落ち着かないままだ。正直さっきから地面が揺れている。地震ならサーシャが感知して知らせてくるから違う。
 気になって、外をのぞいてみた。3階からなので一望できる。そこには、ナナさんと2人の人が戦ってるみたいで、

「けーにー!とりあえず合成して水素爆弾用意して!」
「分かってるって!そんなことより総長止めろって!これ以上、戦ったら合成する分の魔力が残らねーよ。」
「オッケー。30秒だけよ」
 2人で作戦会議後、女の人は筒らしき物を抱えてナナさんの後方へ回る。男の人はナナさんと対峙しているみたいだった。
 男の人は190cmぐらいありそうで、槍による攻撃。圧倒的なリーチだが、ナナさんには回避されている。―――――と思う。僕には早すぎてよくわからない。
 それに対してナナさんは素手。相手との間合いに入り腹部に軽くジャブ。触れたようにしか見えなかったが、相手は吹き飛ばされ、後の壁面に衝突する。
「・・・くっ。白露、時間はとったぞ。最後の賭けだ!」
 そう告げた後、男の人の体は透明になり、水になった。その場には水が残るのみ。最初からこれはみがわりだったようだ。
「これで終わりよ!」
 後方から女性がそう告げる。手には例の筒が。というかあれはレーザー砲では?
 僕の主要な装備は銃なので、そういったものに対しては知っているつもりだ。あれはそもそも軍艦付属の物だから人の魔力では使用が不可能だとおもうのだが。
 僕の推測に反して、筒から明るい光が。ちょ、それこっちの方向!
 今僕の前にナナさん。その奥に筒の人。男性は―――横の壁面にもたれかかっていた。
 このままじゃ、当たる。というか塵一つとなく消滅する!
 なんでこんな朝早くからゲームオーバーなことになってるのか。考えが遅いからなのだろうか。僕の頭はそんなに起動にすぐれないのでやめてくだい。
 まぶしさから目を手で覆う。ナナさんの様子に変化は見られない。
 光が漏れ出し、発射される。こちら側に紫のレーザーがとんで―――来ない?
 紫の極太レーザーはナナさんの前で止まっている。左手を手前に出すだけの動作だけで完全に防がれていた。
 砲撃が終了し、まぶしさが抑えられる。ナナさんの周りには焼け焦げた跡が。その中に丸いきれいな箇所があり、そこにナナさんは立っていた。
「ハーちゃん。レーザーは大量破壊専用って前教えたでしょ」
「それはちゃんと覚えてますよっ」
 その返事とともに投げられたのは、四角い箱?だが明らかに危険なカオリがする。おそらく、さきほど言ってた爆弾なのだろう。
 その箱が地面に墜落、そして発光。相手への殺傷ではなく目くらましが目的であったみたいだ。その直後、空気を切るように激しい突風がナナさんっを襲う。
 ようやく目を開けれるレベルになったので、様子を確認する。
 そこには、ナナさんを目の前にして横たわる女性の姿が。
「ハーちゃん。前よりもかなり攻撃パターンが増えていいですよ。圧倒的なパワー、それをあえて主力にせず本命はカマイタチ。その発動を2階の閃光の中で溜めることができている」
「ぐっ・・・でも攻撃が届かなかった」
 苦しみながらも女性は答える。
「そのスピード攻撃を回避するには2種類方法がある。1つはあらかじめ使ってくることがわかっている場合。もう1つは、その速さ以上の判断力と行動力がある場合。前者はほとんど可能性はない。なぜならたいてい、そのカマイタチをくらったら死ぬからね。後者の場合、行動後のスキで君が死んでる。今回は後者の場合だよ」
「―――そうですか。今日も組手、ありがとうございます」
「ま、詳しい考察は朝食とりながらするよ。」
 そうして、戦闘が終わる。朝の静けさが戻る。
 何事もなかったように。
 僕は震えた。うれしいのだろうか。恐怖からなのだろうか。
 あんなに強いひとがたくさんいてうれしい。そんな人と実践もできるのだろうから。
 そして、昨日ランクで☆☆☆であったあの2人を無傷で倒す総長。明らかに、その人間離れした力。その力とぶつかりたい気持ちもあったが、圧倒的な力量差により恐怖感もあった。
 そんな気持ちを胸に含め、僕も朝食の会場へいく。ロイワラは基本食事は全員で食べるのがモットーらしい。全員集合しやすいからだとか。
 とりあえず、隣の部屋のサーシャの部屋へ行く。あいつは不規則生活すぎるからなぁ・・・。

 朝食の場は、面接の時の場所だった。あの時と違うのはこのやたら長いテーブルがあるかないかだ。本当に全員集合しているみたい。
 テーブルにはすでに、ロイワラの面々が。僕はサーシャの手をひいて、とりあえず空いている席に座る。
「おはようございます。フィオさん、サーシャさん」
 隣の席に座っていた蘭子さんから朝の挨拶。表情も昨日と同じ、しっかりとしている。でもしっかりしているのはそこだけで、服装はパジャマだった。そしてその隣には、捕獲された愛さんも。そっちもパジャマでなんかすごい眠たそう。
「おはようございます。愛さんはまた眠そうですね・・・」
「そうそう。昨日寝る前にこの子がやってきて、何かと思えば『一人じゃ寝むれない』って言ってきてもう大変でした。その後いろいろお互いのことの話をしていたら遅くなっちゃって」
 僕でも2時だったんだ。眠いはずだ。
「えーじゃあ私もお兄ちゃんのところに行けばよかったよ。寂しかったし・・・グスン」
「たまには1人で過ごす経験も必要でしょ。いいかげん16歳なんだし独立してくれ」
 そんな話が弾む中、ナナさんか朝の挨拶。
「みんな、おはよう。いただきますの前に今年から新しく入った仲間がいるので紹介を。左からサーシャ君、フィオ君、蘭子君、チカ君だ。ちなみにフィオ君は男だから間違えないように」
ブフッ!!
 なんか僕の対面の人がなんかむせてる。そんなに驚くことないのに。
「で、新人たちに紹介を。私が総長のナナで、そこのメイド服なのがフミ」
 フミさんが一礼し、そして朝食の準備をしに行ってしまった。
「ならんで、そこのデカい男女が啓蟄と白露だ」
「一応、リーダーの啓蟄だ。まあ、ケーちゃんとかでも全然大丈夫だから、そう呼んでくれ」
「私はそのケーちゃんの妹の白露よ。まぁハーちゃんでいいかな?」
 そう2人は自己紹介してくれた。しかし、本当にデカい。デカいとは失礼なのかもしれないが、日本に来てこれだけ大きい人はあまりみなかった。特にケーさんは、さっき見た通り190cmはありそうだ。つまり自分よりも50cmも上。僕もそこまでとは言わないが平均はほしかったよ。
「そんで、そこの剣もってるバカ2人組が智士と慎次」
「私が神崎智士(かんざき さとし)だ。以後よろしく。ちなみにバカなのは、この慎次のことを代表していっているのだがな」
「って何デマ吐いてんの!?ったく、俺が柏尾慎次(かしお しんじ)。この智士のバカの言うことは聞かないように。ホント、身がもたねーから」
 なんかさっそくケンカしてた。フミさんの言ってた通りだった。なんか腰に手を近づけてるし。なんで両方とも刀もって来てるんだよ・・・。
「ま、こんな感じのギルドだ。分からないことがあれば、いろいろ聞くよーに。先輩はこたえるよーに。いいですかー?」
 ダルイ調子の問いかけだった。それでも先輩さんたちは
「はい」
「もちろん」
「承知した」
「了解っ」
返事がよかった。それだけナナさんは認められているんだなぁと思う。
「それじゃ、いただきます!」
 その掛け声で朝食を取り始める。さっきからきになってたパンを手に取ろうとしたら、サーシャと手がかぶった。あ、向こうデザートにいった。
 とりあえず朝の疑問点を解消すべく問いかける。
「あ、じゃあ1つ聞きたいのですが、さっきケーさんとハーさんとナナさんが戦ってましたけど、あれって実戦か何かですか?」
「あれは、朝の組手の練習。総長はみんなの能力把握のために、必ず戦闘し様子を知る。この朝食後に君たちにもやってもらうつもりだったけど」
 あれは組手なのか。そうなのか。あれが組手だったら、戦争ってことばいらないんじゃないかなぁ。
「ちなみに新人組はランクって何?」
 実にまっとうな質問である。この社会はランク重視。それを知ることは相手を知るのと同等なもの。
 よくある質問なので答えやすかった。
「僕とサーシャはCです」
 すぐに答える。
「私はBです」」
蘭子さんは僕たちの一個上だった。やっぱ年上っぽいし、ランクも上かぁ。「―――F。というかやったことない」
愛さんはそう言った。そんな経験をする必要のない子だし、仕方ないと思うけど、ナナさんはどう思うのだろう。
「うーん。みんなはそれいつ試験した?」
「8年前ですね。それから保証人がいなかったので、受けれていませんでしたし」
 僕たちは両親を失ったあと、別のところに引き取られて生活してきた。独立したのは1年前。その間、保証人対象となる人物がいなかったので試験を受けることができなかった。
「私は4年前です。いろいろとあって受けてません」
 蘭子さも彼女なりの事情があるみたいだった。特に気にならなかったし、聞くのもあんまりだったのでやめておく。
「それじゃあそれも後でやろう。愛、君も対象だよ」
「―――はい」
 あんまり元気がなさそうだった。そのランクがFなのか、単に眠いだけなのか。どっちにしろ低い返事だった。
「じゃ、今日はそういう予定で。10時からとりあえず実践」
「わかりました」
「ほーい」
「了解です」
「―――うん」
 そして朝食を再開。バイキングに近い感覚だったし、好きなのが食べれるのがこんなにもうれしいことか。朝食そんなにしっかりと取ったことがなかったからなのかもしれない。

 対面でさっきむせてた、智士さんの隣の慎次さんが話しかけてきた。容姿は袴をきており僕が歴史書でしった古の日本人のスタイルだった。
「そのー、フィオちゃんは本当の男なの?総長に無理やりそういう設定にされたとか?」
「いや、本当に男ですよ。いろいろ試してみましたが結局こんなのになっちゃって」
「うんうん!個性個性!気にしない気にしない。それじゃあこの後一緒に大浴場でも―――――」
 なんか誘われた。本当に気にしてないのか?
「おい慎次、フィオ君が困っているだろう。特にお前と2人で行動なんて危険すぎる」
 横から智士さんが助け舟を出してくれた。この人、しゃべり方からしてかなり知的な感じだもんな。信用できそうだし。
「変わりに、この私が一緒に大浴場に入ろうではないか。それなら問題なし―――――」
 前言撤回。この人もアウトだ。なんか危険なカオリがする。そうなんか暑苦しいような―――。
「そこの2人バカ。どうせあんたら変態行為でもするんでしょ。フィーちゃん困ってるんだからやめなさい」
 ハーさんが今度は加わってくる。そしてフィーちゃんか。なんでもいいので頼むから助けてください。
「ま、フィーちゃんは私と一緒に入浴入浴♪お姉さんとなら大丈夫だよー。ほーら一緒に―――――」
 全然ダメすぎる。ここは変態集団か何かなのか・・・。
 その発言に対し、ナナさんから一言。
「フィオ君はとりあえず扱いが面倒なので、『女』として扱います。なので、大浴場もそっちを使ってください」
 まさかの発言に、倒れ込む人と勝利のガッツポーズをする人が。もうこの決定は変えられなさそうだ。総長命令だし―――。

 慌ただしいかった朝食を終え、とりあえず部屋に戻る。服装をどうするか朝食の時に考えていたが、ナナさんが「何でもいいよ」と言っていたので、今まで着ていた服にする。
 僕は単に外観がアレなだけであって女の子向けの服を持っているというわけではない。とりあえず頭に浮かんだコーディネートに従うようにした。まずは、クローゼットの扉を開ける。
 そのには自分の服ではないものがおいてあって。
 最初は間違えたのだと思った。
 サーシャとの取り違えをしたのかと。
 あいつの部屋に行ってみたが、荷物はあっているらしい。
 どこに行ってしまったのだろうか・・・。
 でも、自分のところにあったものは全部女物。しかもなんかフリフリが多いものばっかだった。
 あれはナナさんのじゃないのかと。
 一番考えられる結果だ。
 部屋の中に常設されている電話機から、ナナさんのところに掛ける。番号は00っと。
 なんでもこの電話機は500年前の技術からあまり変わってないらしい。当時は線で結ぶ必要があったらしいけど、今はそんなものはない。電話は数キロ離れた場合に使うもので、数百メートルのレベルなら魔法による会話のほうが使い勝手がいいものだ。
 なんて歴史のうんちくを考えてたら、つながった。
「はい、ナナですけど―――どした?」
「いや、僕の服どこに行ったのかなーっと」
 単刀直入に聞く。正直かなり困っている。
「ああ、あれは別館の倉庫のほうに。で、君には別に用意した服装があるだろ。昔私が使用していたものだがな」
「あれを着ろってことですかっ!」
「さっき言ったじゃないか。女として扱うと。それに、君にあげた衣装は普通のものじゃないのでね。これから実践する上で、どうしても摩装具は必要になってくるから」
 つまりあの服装はナナさんの使ってたもので、魔法耐性を付加したものだという。自分はそういったものを持っていないので、どのような効果があるのかは知らないが。
「まあ、君の妹さんのほうにもあげたから。着たいのがあればそっちでもいいよ」
「はぁ・・・」
「ちゃんとこれにも意味がある。そう思えばいいんじゃないかな?」
 たしかにそうである。無意味なら必要ない。
「はい、わかりました」
 とりあえず会話を終わらせ、着替えることにした。なるべく足が見えないものを―――――。
 1月1日午前10時。
 日本人は、この日から3日まではのんびり暮らすそうだ。
 僕のいたところでは、新年を迎えたら特にお祭りになることはなかったし、いつも通りだった。仕事はほとんど機械によるものが大半だったので、特に人手を要するものなどなかった。
 でも、自分の目の前にある光景はそんな日本文化なんてなかったもののように感じられる。昨日とほとんど変わらない日常がそこにはあった。

「では、これより実践を始めます。対戦相手としては、新人4名 対 総長1人でお願いします」
 フミさんの進行で予定通り実戦練習を行う。
 その他のルールとしては、

・時間制限なし
・武器、能力制限なし
・動けなくなったら戦闘不能で離脱
・勝敗はチーム全員が離脱または降参

 など普通のルールであった。
「開始前に、作戦の時間を5分用意します。その後、開始です」
 僕たちは、作戦会議を始める。
 もちろん一人でかなう相手ではない。4人でやってもおそらく無理だろう。戦闘上、複数人のほうが圧倒的に有利である。だが、チームワークが悪ければ、一人の時の方がましの場合もある。
「作戦会議したいんですけど、チカさんの能力ってなんですか?」
 まだよくわかっていないチカさんに関してまずは知る必要がある。
「私の能力【黄金札(こがねざね)】は戦闘向けではないです。申し訳ないです。あと、昨日はすみませんでした・・・」
 昨日と言えば、蹴られそうになったことか。別に気にしていなかったが、受け取っておくべきだろう。
 たしか、黄金札は名家特有の能力。お金の製造というまったくもって違法性丸出しの能力だけど、政府が特に規制していないのだから大丈夫だろう。
 お金があればなんでもできるのだから、この能力は現代社会では非常に強い。だから性格が傲慢になり、周りからは謙遜されやすい。
 チカさんも昨日まではそうだった。しかし、今の状態からしてみるとそうでもなさそうだ。ナナさんのあの言葉が変えたのだろう。
「いえ、僕は大丈夫ですよ。僕は【蓋然収斂(ビジブルデイ)】ってのと、もう1つ【n時間(アルタイム)】の2つの能力があります。といってもn時間はまだ全然使いこなせていないのですが・・・」
「私のより全然いいじゃないですか!しかも2つもあるなんて。うらやましいです」
 よほどうらやましかったのだろうか。能力は生まれてくると同時に所持し、普通2つ以上の能力を持つことはない。というか持てない。数十万人に一人の確率でいるらしいけど、僕もその一人だ。
「蓋然収斂は確率を有利な方向に持っていく能力ですが、必然的に0%または100%の値を変えることはできないです。n時間は時間を遅延または加速させる能力です」
「あ、私は【幾何処理(フェノメノン)】って能力だよ。言いにくいけどね。電算処理やネットワーク系の支配能力というのかな?」
 サーシャも追加で説明した。フェノメノン=天才。ほんとうにそうなのかは疑いが出てくるが・・・。
「私の能力は【在華(ざいか)】です。植物との意思疎通と、成長促進ぐらでしょうか」
 蘭子さんも紹介してくれた。成長促進もあるんだ。それは人体にでも有効なのかな―――。
「うーん難しいなぁ」
 正直どうやってこれを生かせばいいのかがわからない。
 能力とは別に各個人で使い慣れている武器もある。話をするなかで、みんな違うものを使っているみたいだった。
 僕は夢幻銃という武器を使用している。弾数に制限なしで、種類を自由に変えることができる。かえることができる種類は今まで自分が触れた物にかぎるけど、ロケットランチャーから核ミサイル、ましてや水鉄砲でも有効らしい。というかそうだった。
 妹は携帯電話を武器にしている。情報を携帯に取り込ませ具現化し、あらゆる攻撃を可能としている。いろんな種類があるので、いろんな敵にたいして対応しやすいのが売りだ。
 蘭子さんは鋏だった。ただ、剣みたいで長くて切れ味もすごい。どうやって戦うのかが不明だったけど、おそらく剣と同様だろう。植物系の能力ならではなのかもしれない。
 チカさんは戦ったことがないらしく、これといった武器がないらしい。とりあえず、お金を降らせれるみたいだったので、それをやってもらうようにした。

 あっという間の5分が過ぎ、戦闘が始まる。
「それでは、いまから模擬戦闘を開始します!」
 その合図とともに僕たちは攻撃を仕掛ける。
 まずは、試しに僕が速攻で銃を数発打ち付ける。そして、白露さんがやっていたこととまねして、筒を構えて一気に発射。
 あたり一面が爆風に巻き込まれる。
 しかし、そこで止めずさらに追加攻撃を行う。
 そこでみんなの出番だ。
 蘭子さんは植物をあたり一面に発生させ、ナナさんの行動を妨げてもらう。 周りへの行動ができなくなったところへ、チカさんに硬貨を降らせてもらった。すごいもったいない感じがするけど・・・。
 これは単純に目くらましにつかえたが、さらに有効に使わせてもらう。
 上空から降ってくる100円硬貨。それにむかってサーシャが携帯から出力した高圧放電を行う。これにより、空間全体に放電させどこにも逃げれないようにした。
 その間僕はn時間の能力を発動させ、最後のロケットランチャーを打ち込む時間を用意をした。放電が収まりそうな今、打ち込む。
 またも爆風が広がり、視界が失われる。
 今はただ、結果を待つだけだった。
 やがて、煙がなくなる。
 
 勝利を確信するのは、自分に溺れることだと昔両親に言われた。
 確信は結果ではない。この世では結果が全てである。確信はその序章でもなんでもない。ただの自己判断の一片だと。
 僕は正直理解できなかった。自身の蓋然収斂の能力故に、わずかな希望さえあればかならず勝てるともっておいた。昔見ていたテレビ番組の戦隊ヒーローも勝っているのではないか。

 ただ、僕の目の前に広がる光景は絶望であり、希望なんて0だった。
 蘭子さんとチカさんが倒れている。妹は大丈夫みたいだ。
「他人の心配をしていても大丈夫なのかな?」
 その言葉を聞いたとき、僕の目の前にナナさんの姿が。
 そして腹部に痛みを感じる。次第にナナさんの姿が遠くなって小さくなっていく。
 僕は飛ばされ後の壁面に衝突。だけどまだ戦える。
 もう一度n時間を発動させる。おそらく、これで最後だろう。この能力は消耗が激しすぎる。
 n時間を発動させる。そしてサーシャのもとへ近づいて体勢を整える。そうすればまだ可能性はある!
 そうシミュレーションを行い、最後のn時間を発動。極限まで時間を遅くし、サーシャのもとへ近づく。
 周りの景色が止まっている。発動は十分だ。
 ただ自分の体が重たい。あそこまで辿りつけるかどうかだ。
 あと10m。5m・・・
 そして、妹のもとへ到着した。
 よし、これで体勢を整えて―――。
 だが、隣にいるのは妹だけではなかった。
 妹の後には人影があった。
「自身の能力の過信はよくないよ」
 その言葉を聴いた直後に、腹部に痛みが。
 目の前が暗くなる。意識が持たない――。
 必死に抗ったが、その場に倒れ込み意識を失う。

「んっ・・・」
 意識を取り戻し、周りを確認する。
 壁で覆われた庭園
 ロイワラの人たち
 これまでのことを思い出し、立ち上がる。
「あ、ちょうど目覚めたみたいだね。今から結果を報告するから」
 ナナさんの周りにはメンバーが集合。いまから実戦の結果について話があるそうだ。
「みなさんお疲れ様。新人組は、まずまずかなぁ。もうすこし能力を生かした作戦が立てれるといいかもしれないけど、時間が早すぎたかもね」
 新人組の結果をいうナナさん。自分でもわかっていたが、あの短期間で身内を知り、作戦に生かすのは正直無理だった。これでも極限まで考えたものだが。
「能力は個性だよ。つまり長所もあれば短所もあり、同じ能力でも他人とは効果が異る。そのことをよく理解するように。自分の能力が優れていると思うのもダメ。それ以上のことを目指していくように」
 自分の能力を知るということか。自分でも理解しているつもりだが正確な数値として知っているものではない。その部分まで理解しろってことなのかな・・・。 
「で、けーちゃんとはーちゃんは良かったね。朝の時よりも無駄な動きがないし、威力も高まってる。これなら☆☆☆ランク相手でも3分以内で突破できるレベルかな」
「ありがとうございます」
 啓蟄さんが感謝の意を示す。
「最後に、そこの剣バカ2人。2人連結技がなってないよ。1人の時の行動では後ろにスキができてるし。まあ覇雁(はがん)が出せれるようになったのはよかったよ」
「どーもっす」
「ありがとうございます」
 2人ともお礼をいう。

 僕は結局、あれから30分程度気を失っていた。
 その間、他のロイワラメンバーが実戦を行い、それぞれ終了している。
 気になったのは、フミさん VS ナナさん
 この2人はギルド内のルールとしてペアを作ることになっているから、この2人で組んでるはずだけど、戦うらしい。そして、この戦闘時間が一番長く15分だったらしい。
 妹や蘭子さん、愛さんはそれを見てたらしいけど、見えなかったらしい。動きが早すぎて見れないのかと思ったら、空中戦だからだとか。お互いに魔力で浮遊し、上空で戦闘。そして爆発。
 いうなれば戦争状態だったらしく、見ることよりも自分の身を守るので精一杯だったようだ。ぜひ見てみたいものだ。
 その後、休憩を取るため洋館に戻る。その戻る中で、ナナさんに声を掛けられる。
「新人4人にここの方針を話してないと思うから、それについて一括して話すつもりだから、ロビーまで集めてくれる?」
「はい、わかりました」
「あとさっきの実戦だけど」
 まださっきのことで何かあるみたいだ。このことも後で一緒に話をしてくれると予想していたが。
「君はどうして光系の魔法を使ってる?8年前のあの時、君はどちらかというと闇系に分かれるほうだった」
 8年前・・・。
 ちょうど、僕とサーシャが故郷を離れた時か。親を失い、助けを求める中、ちょうどナナさんとフミさんに助けてもらっていた。
 その時は自分の属性は闇系でった。攻撃には炎属性、水属性、土属性、気属性、電気属性があり、それぞれ光系と闇系が存在する。どちらかの傾向に傾いた場合、反対側の傾向の能力は使うことができない。なので、光系を選んだなら闇系の技は使うことができない。属性としては全ての属性を使用することができるが、たいてい2~3つメインの属性を各個人で決めている。
 僕はナナさんにあこがれて光系にしていた。生まれた時点で、個人で使いやすいものは決まっている。でもその当時では僕も戦闘経験がなく、自身が何に向いているかも知らなかった。
「僕はあの時ナナさんに助けてもらって、それで―――――その、あこがれて―――――」
 つまりながら話す。いまだに、緊張する。
「なるほどね。しかし、私は例外だ。光系も使うし、闇系も使う。ただし、それぞれ純粋なものだから、属性は付かない」
「そう・・・なのですか」
 正直驚いた。光系と闇系の両方を使用したい場合、「属性の軸に乗らない=属性を持たない」という条件が必要となる。これは昔は低俗扱いされていて、非難の的であった。それだけ、普通より劣化した存在であり、それは昔から続いている。
 現在、☆☆☆クラスの人がその両系統の使用者である人はいない。それが現実の結果として出ている。
「で、君は闇系を使わないのかい?」
「僕は自分で光系があってると思っていましたから。それと闇系というのはどうも過去を思い出しそうになって」
 僕たち家族を襲った集団。それは闇系の魔法ばかりだった。おかげで、闇系の魔法はトラウマであり、自分でも使うことをやめている。光系の魔法を使う者としてはまったく無縁の代物だし、気にしてはいなかった。
「そうかい。でも過去を忘れるというのはかなりつらいものだぞ。それが楽しい過去ならともかく、つらい過去でも。それらは生きていくうえで必ずどこかで繋がり役に立つから・・・」
「難しい話ですね」
「ただ、君も自覚していると思うけど、君も私と同じ両系統を使う者。8年間、属性なんてものは付加しなかったでしょ」
「はい―――――」
 結局のところ、僕もナナさんと同等であった。サーシャが光系の電気属性、気属性、炎属性を有しているので、僕もなんらかの能力が附加されると思っていた。結果はこのざまであるが。
 それにも正直あきらめていた。やはり、この時代でも遺伝というものが続いてる。現代科学では修正も容易なレベルで、自分の子をこんな風な子にしたいとかいう親もでてきている。かなりおぞましいはなしだ。
 だが、僕たちの親はそんなことをしていないらしい。この両系統持ちは母の影響だろう。僕と同じ容姿をしていた母。どうしてこれを残しておいていたんだろうか。
「ナナさま。フィオさま。お話の中、失礼します」
 思い悩む中、フミさんが後ろから声を掛けてきた。
「ナナさま。お風呂が準備できておりますので、まずはそちらへ」
 そういうことらしい。僕も体をきれいに洗い流したいところだった。やはりメイドさんである以上、そういった気がきく行動はできるのはあたりまえか・・・。
 いや、この人さっきまでナナさんと戦闘してだいぶ疲れてるはずじゃ。顔を見ても疲れた感じは見られない。大丈夫なのだろうか・・・。
「それじゃ、フィオ君も同行で」
「えっ・・・」
 朝の命令が早くも実行された。
「了解しました。ではこちらへ」
 フミさんもそのつもりらしい。逃げようとしたら、腕をつかまれた。
 ちょっ!痛い痛い。
 だれか助けて―――
7, 6

  

 ロイワラ館内 女風呂大浴場

 こんなのが存在するなんてここは旅館なのかと。
 たしか京都に位置するこのロイワラなら考えられることだが、建物外観から察するにして、そんな和風なものは感じられなかった。
 しかし、目の前に広がる大きな水面があるとすると、やはりそこは大浴場になっている訳で―――。
 そんなことを何度も考え、現実から逃げていた。
 目の前の光景はなんとも刺激的なのだ。



「じゃあ、ここで話そうかな」
背中からそのような声が聞こえる。おそらくナナさん。
 現在、僕の目の前には壁。
 みんなの裸姿を見ないために、浴槽内で一人だけ外側を向いている形だ。
 あの時、僕とナナさんだけになるのかと思っていた。いやそれでも十分ダメだと思ったけど、今の現状よりはマシだ。
 今はロイワラの女性メンバー全員がこの大浴場にいる。目のやり場が困るのですぐにでも撤退したいのだが、それもできそうにない。右手をサーシャに、左手を愛さんに掴まれている状態である。完全に拘束されている。
「こっち見ないと聞こえないよ?」
「いえ・・・だ、大丈夫ですから話を始めてください!」
 ナナさんが呼んでいるが、向いたらダメだ。社会的に悪いのは僕であることは変わりない。
「愛さん。最初の任務です。フィオ君をこちらに向けてください」
「はい」
 え、何でこんな意気投合してるの?昨日までは殺そうとしていたのに。
 その団結力に負け、結局前を向こうとする。
「なっ・・・!」
 一気に見慣れた壁のほうに戻る。
 みんなタオルとか巻いてないじゃないか!一体どうしろと・・・。
「フィオ君、日本のお風呂では湯船にタオルを入れてはいけないのだよ」
 見透かされたようにナナさんに言われる。
 完全に手図まりであった。どっちにしても、みんなの裸を見るわけにはいかない。
 仕方なく、みんなのいる方を向くが下向きにし、なるべく見ないように気を付ける。
「白露さんやサーシャはともかく、蘭子さんや愛さんは恥ずかしくないんですか!」
「私は別に大丈夫ですよ」
「私も平気」
 どうしてこう普通じゃない人ばかりなのかと思ったが、それも仕方ないと思ってしまった。なんせここは―――。
 考えるのをやめ、話を聞く。
「ま、ちょっと長くなるから湯あたりしないように。入学の時に、フミに説明してもらったと思うけど、ここ「ロイワラ」の目的は世界征服。これは冗談ではなく、本当に。サーシャ君、例えば世界征服という言葉に対してどのようなイメージを持つ?」
「んー、あんまりいいイメージはないかなー。敵役のよくある野望みたいで、悪のやることな感じです」
 サーシャが答える。確かに、ヒーローは悪の野望を打ち砕くために戦うのは定番のシナリオだ。そしてたいてい敵側は世界を支配しようとする。それを阻止するため戦うヒーローには僕もあこがれていた。
「そう。普通はそういうイメージだよね。じゃあ、正義と悪がたたかって、正義が勝つ。それで正義は何をしたことになる?」
「正義のヒーローさんたちは世界を守り、平和を守った!―――とか?」
「なるほどね。平和を守った。言い方とかえてしまうけどそれはつまり、世界の変化を止めたということにならないのかな?」
「どういうことですか?」
 愛さんが食いついてきた。実に珍しい。
「つまり、この世において世界を変えようとする者は敵とみなされ平衡を保とうとする物は正義とみなされる。人間、平和が一番と考えるもので、変化を与えようとするものを敵視する。現にこの日本帝国が民主主義を撤廃した際、様々な物に王は叩かれた。でも数百年でそのようなことはなくなった。それは国民にそれが正義だと植えつけたからだ。」
「難しい話ですね。それじゃあ、世界征服なんてまったくもって敵側になると思うのですが・・・」
 蘭子さんが問う。
「私は今の世の中を変えたいと思っている。現にこの日本帝国も素晴らしいと思っているし、ここに住みたいとも思える。けれども、その中にはいまだに格差があったり、犯罪や事件があり、平和なんて言葉にはほど遠い。だから私は完璧な世界を作りたい。そのためにこのギルドを作った。―――というのが本筋かな」
 ナナさんの目的は世界征服。ただ人民を虐殺や支配をするのではなく、完全なる平和を持つ世界を作るために、世界の支配者になるというものであった。
 普通、だれもこんなことは思いつかないだろう。各国にはその政府が存在し、それらを倒さないかぎりその地を得ることはできない。そしてその政府を守る国際機関が存在し、それも倒す必要がある。その鉄壁に立ち向かうことなど考えるだけ無駄だ。
 ただ、この人は本気でやろうとしている。そして僕もこの人ならついていける。そんな感じがした。
「まずは日本の政府を支配しようとおもっている。そのためにこれから1ッか月、練習して強くなってもらう必要がある。それでもついてきてくれると思って、私は君たちを選んだ」
「お、久しぶりに聞くねーその言葉」
 声から判断して白露さんだと思う。
「お、フィオ君やっぱりこっちに来たかったんだ。どうぞどうぞお姉さんのところにもぜひぜひいらっしゃい!」
「いえ、遠慮しときます」
 バシャっと水しぶきを上げて両手を挙げて誘っている。それだと完全に前が見えてるので下げていただきたい。
「そして練習内容に関しては、各個人で違うから後で伝えます。それとメンバーカードも作成しといたから、それもあとでフミから受け取るように」
「わかりました」
「はーい」
「了解です」
「―――はい」
 それぞれ返事をする。
「それと、愛君には言っておくけど、いずれ加越能のやつらとはかならず戦うことになる。そしたらもう二度と戻れないけど、それでもいいんだね?」「わかってます」
 そう短い返事を残して先に愛さんが浴室から出て行った。
「ありゃりゃ。14歳であれだけの判断力を持つとは。それとも、感情に身を任せたのか」
「一つ聞いていいですか?」
 気になったことをナナさんに聞いてみる。
「その―――愛さんはなんで夜遅くに一人ぼっちだったんですか?」
「ああ、彼女は家から逃げてきたのだよ。あの加越能は彼女を物として扱った。だから彼女は家から逃げた。ただそれだけのこと」
「親は心配しないんでしょうか?」
「きっとするだろうね。彼女がいなければ、資金力がなくなる。グループ企業として位置する彼らも彼女の能力なしではグループ全体の維持は不可能。企業なんてものはたいてい赤字のこの時代で、グループでいようとするなら必要となる」
 そして、予想していた現実を言われる。
「愛君は今も捜索中であり、捕まれば二度と外に足を踏み入ることはできない。それは確実だ」
 僕も深く考える。過去のことを思い出す。
「君は、あのマシュロマー家の長男、かつお菓子製造会社「マシュロマー」の現社長。それまでは合ってるかい?」
「どこで入手したんですかその情報は・・・」
 僕はそのマシュロマー家で生まれて、社長である父親の経営している会社についても幼いころから学んでいた。もちろん継ぐつもりだったし、現に社長として経営も行っている。
 一応、社長という立ち位置だが公で公開されているのは、父親とともに事業を立ち上げたご友人の方が全て行っている。公表している社長名もそっちのほうだ。僕が立場上本当の社長というのは内部しかしらないはず。
「フィオさんは社長だったんですか?」
「ええ。形だけですが・・・」
 蘭子さんにも聞かれる。やはり珍しいものなのだろうか。
 そんな生い立ちをとばし、ナナさんが言う。
「君は両親に愛されている。そう思うかい?」
「はい。とっても」
「うん。もちろん」
 サーシャも答えてくれた。
「それが普通の家庭であり、理想だ。ただ、彼女の場合は違う。親への意識はない。ただの名義のみの存在。そして自分が権力を持ったところで、加越能というグループからは逃れない。それが彼女の運命」
「愛さん―――。」
 話を聞く限りでは、僕よりもなんだか難しい生活をしているみたいだった。両親のことは僕は大切だったが、愛さんにはどうでもいいらしい。僕にはそんな感情なんて理解できない。
「加越能のグループ事業っていっぱいありますよね。便利なものもいっぱいありますし」
「蘭子君が言うには、加越能グループの店舗は良いということだね。しかし中身は金を収集するための道具にしかなっていない。結局は金で日本を征服しわが物にしたいというわけだ」
 ナナさんが湯船から出る、と思う。見えてない見えてない。
「悪とか正義とか。そんなものはあまり深く考えない方がいいよ。自分の考えを共感できる人間もいれば、まったくもって反対の人間もいる。表面だけ繕うことなんて誰でもできる。結局のところ政府の実態もそうなのだよ。中身は自己の利益を優先し、国民から搾取する。そして国際的に保護され、だれも手出しできない。国民も感覚がマヒしてこれが日常となっている。」
 浴室から出る直前、最後の言葉を残す
「私はこの偽りの平和を破壊したい。ただそれだけだよ」
「・・・」
 話のスケールが大きすぎて、処理が追いつかない。
 世界征服。それは人民を支配するものではなく、平和をもたらすというものだろうか。
「お兄ちゃん、もう出る?」
「うん―――そう・・・するか」
 浴室から出る。その時から考えることでに精一杯で、周りの環境なんか気にならなかった。
 
 

 長い髪をドライヤーで乾かしながら、考える。考える。考える―――
 世界征服。両親はお菓子シェア世界一位の企業にした。それってやっぱり支配なのだろうか。他の企業を呑み込み支配し大きくなる。これもやっぱり自己の利益を大きくするためなのだろうか。
 僕にはそんな両親には見えなかった。とにかく自身の職業を天職として愛し、仕事をしてきた。そんなはずはない。
 ただ、これまで信用してきた政府自体が利益優先の悪企業であると知ってしまうと、ショックの反動が多きい、そしてそれに立ち向かうことも不可能であるというのもわかると、あきらめたくなる。
 これは完全にはめられていたのではないのだろうか。一体だれが、世界共通で帝国主義にするようにしたのだろうか。その人の思惑に全世界の人がはまっているのではないだろうか。
 自身に問いかけても何の解決にもならない。
 気分を変えようと、手元のカードを見る。
 あの後、フミさんからカードを受け取った。黒いカードで表には顔写真のついたメンバー証。裏にはなんか署名欄があった。どうやらこれはクレジットカードらしい。買うものがあるならこれで買うようにとか言ってたけど、本当にいいのだろうか。
 時刻は正午になる直前。とりあえず、昼の練習の準備をしなければ。
 
 自室に戻りクローゼットを開く。中には例のフリル地獄の服が多い。朝の戦闘時に気付いたが、自身が痛みを伴ったのに、服自体には何の損傷もなかった。どういう素材をしているのかが謎だったが、やはりただの衣装ではないらしい。
 とりあえず、一番右の服にする。選ぶ目安もないので、とりあえずスカートの丈が長いものを得らぶ。白と黒を基調とした衣装で、まさしくナナさん好みのものだった。大きなリボンまでついてるし。
 その衣装を片手に取ったらチャイムがなった。誰だろう。
 ドアを開ける。前には黒い衣装。
「失礼します」
 その黒色のドレスがしゃべっている。一体どういうことだ。
 前を見直す。黒色は変わってない。
 上を見る。そして目が合う。
「愛・・・さん?」
 自分よりも背が高い。というかここのみんなは自分よりも背が高い。
 そして、無許可で入ってくる。真ん中のソファに座る。ここから出る気はないみたいだ。
 僕には人を動かす力はない。それだけ無力だ。
 僕もソファに座り、話す準備をする。昼のまぶしい光が部屋に入って、広々と感じる。
「それで―――どうしたんですか愛さん?」
 まずはここからだろう。
「フィオさん。ちょっと話があるのですがよろしいでしょうか?少し長くなりますが・・・」
 本日2回目の長い話。今日は聞く側なんだろうか。
「私がここに来たのは、誘拐されたわけですが。私の願望でもあります。総長から聞いていると思いますが、私は加越能のところの令嬢であり、そこでの生活が嫌だったので、逃げてきたのです」
 それはお風呂の時に聞いたこと同じだ。
「それで昨日の夜、街中に逃げていました。この時期は家の警備も薄くなるので。その街中で歩いているところで、あの総長に連れ去られました。でもそういう経験は初めてじゃなく、何回もありました」
 あの人はなに堂々と誘拐をしているんだろう。さっき言ってた平和はなんだったのだろうか。
「でもあの人は違った。『この世界を変えたくないか?』とか言ってきた。普通じゃ考えられない。あんなことを言うなんて頭がどうかしてる。でも私はその時生きることがつまらなかった。うなずいただけだった。そのあと、何も言わずにつれて行かれたという訳」
「ナナさんを殺そうと思っているんですか?」
 知りえる情報は変えた。おそらくこの話題は終わっているので次の話題に変えてみる。
「私は総長が憎いわ。あんな自由奔放な人間、現代社会では邪魔にしかならない。社会に貢献しようとしない人間が私は一番嫌いです。そんなやつは殺してしまっても変わらない。社会的には一時的な変化だけで世間は何も変わらない。そういう影響力のない奴が何をやっても無駄。何も変えられない」
 相変わらず、複雑な考え方をもっている子だ。自分よりも年下なのに、生きる世界が違っている。
 ただ、そうさせたのはこの子の意思ではなく、親のほうだ。お風呂でナナさんから聞いた時から思っていたが、この子はあまり外の世界をしらない。
 大きな規模で動く社会に生きているから微弱なことが感じられない。結果のみが全て。そんなのは機械の生産ラインと同じだ。
「愛さんは自分のグル―プからは逃げられないと思っているんですか?」
「フィオさんはまだ何も知らないんです。加越能の裏側を。あれは絶対に崩れない砦をもう作り上げてしまった。だからみんなはそれに従うしかないのです。それは私も同じ。またお金を生み出す機械として働く」
「だったらそれ以上の砦を作って自分の思うように人民を従えればいい。壊せなければそいつらも逆に利用すればいい。この世に完璧なんてものはないんです。絶対に」
「・・・」
 なんか驚かせてしまったようだ。自分でもなんでこんなこと言ってしまったのだろうと後悔している。
「まったく、愛さんはもっと笑顔でいたほうがいいです。せっかく綺麗なんだから、もっと―――こう、スマイルスマイル」
 そういって愛さんの頬を人差し指で釣り上げる。口元が円弧になり、笑って見える。僕も初めて見た笑顔。
「フッ―――貴方は性格からして穏やかな人だと思いましたが、意外と率先的なんですね」
「えっ・・・」
 何を言うかと思ったら、そんなことを。今まで率先的なんて初めて言われたことなんてなく、戸惑った。
「そうですね。結果を見越してしまう考えはダメなのだと。そんな舵を無くした私はフィオさんの発言に懸けてみますとします。責任―――とってくれますよね?」
 な、な、何をいきなり言い出すのやら。なんだこの展開。一体どうしてこうなった―――。
「気が楽になりました。ありがとうございます。ただ、先ほどの質問『ナナさんを殺そうと思ってるのですか?』答えはYES。私は総長の真意を問いたい。そういうことでもしなければ、あの人は口を開かないから」
「それでもいいんじゃないかな。愛さんらしくて」
「以外です。貴方は総長のことを誇りに思っているのでは?それを殺そうとする私が憎くないのですか?」
「その答えもいずれ君自身が見つけ出せれると思うよ」
 そう言った後、愛さんが部屋から出ていく。
 あの発言で大丈夫だったのだろうか。
 理解してもらえたのだろうか。
 それだけが不安だ。
 自分には力がない。権力がない。何も変えられない。
 そんな自分だけど、今回だけは不思議なことにちょっぴり自信が持てた。 
「とりあえず仕事の一つでもやってもらうか」
 昼食時、総長から突然その言葉が出る。
「仕事というのは何ですか?」
 入隊前に聞いていなかったので、すかさず質問する。実際、このギルドは非合法で成立している以上、ちゃんとした仕事を受け持つのかどうかが不明確だった。
「何って、もちろん人助け。ロイワラは世間的には普通のギルドと同様、政府から仕事をもらい、施行し、報酬をもらう」
「でも、これからその政府を相手にするのに、そんなことしてていいんですか?バレるとかいうのはないのですか?」
「そんなことはとっくに向こう側も知ってるでしょう。飼い主よりも権威が上なペットがいれば、そんなの目をつけられているに決まっている。政府もそれなりの対策をしてくるはず」
 ナナさんはグラスに注がれたお茶を手に取る。容姿に合わず、随分と和食よりなんだと再認識。
「総長はどう予測しているのですか?」
 僕の隣の蘭子さんも尋ねる。これからの未来のことだ。聞きたくなるのも仕方がない。
「私の予想では、少しでも政府に手を出した瞬間、全員抹殺命令が下るだろう。向こうはそれだけ力に自信を持っている。実際に、☆☆☆ランクの奴が10人手ごまにある時点でそれは実現可能となる。もしかしたらそれ以上の奴がいるのかもしれない」
 場に沈黙。最初の部分は理解できたが、後半部分が謎だ。☆☆☆以上の強さを誇るというのはどういうことなのか。つまりナナさんみたいな存在がいるのだというのか。
「だけど、この1か月でそれを打破する力を君たちにつけてもらう。そして真向勝負だ。その時に約束してほしいことが1点、絶対に死なないように。ロイワラは家族みたいなものだから、だれ一人掛けないように。もちろんこの次の目的遂行のためでもあるけど」



 昼以降は、自身の力を伸ばす練習が始まった。
 僕の場合は、蓋然収斂の能力をどううまく使えばいいのかを考えることと、n時間と使用する武器「夢幻銃」との相性を良くしろというものだった。
 蓋然収斂は確率の増減。相手の攻撃をよけるとか、明日の天気が晴れになりやすくするとかいうのはできない。自身が干渉するもの、ロイワラに入る時に受けたトランプを選択するときや、おみくじで大吉を引くというレベルだ。銃が当たる確率でも上がればいいのだが、これも相手が干渉するので効いてくれない。随分と名前負けな能力だ。
 n時間。これは時間操作だ。加速も遅延もできる。銃で連射ができない場合でも、時間を加速させて連射として扱うこともできる。こっちの方が非常に実践的だ。
 そして「自身の能力を過信すぎるな」ということ。僕は今までn時間を使用すれば、だれも僕の世界には入ってこられない。そう思ってた。だけど、今朝の実戦でそれは打ち破られた。今では、それは恐怖だった。自分の打つ手がなくなって相手に翻弄されるまま。何もできずに負ける。そして死ぬ。もしそうなった時のシチュエーションが頭によぎり、胃が痛む。
 この衣装も戦闘上ではかなり不便だった。ナナさんからもらった衣装。フリルが多くて見た目以上に重かった。そしてスカートになってるからそっちに気がいってしまって集中できない。だけどこの服のおかげか、夢幻銃の使用回数が大幅に増えている。
 とりあえず、フミさんい相手をしてもらっている。確実に銃を充てることができるように撃つ。とにかく撃つ。実戦あるのみと総長命令なのでそれに従い、僕は日が暮れるまで撃ち続けた。


 ★ ★ ★ ★ ★

 私はお兄ちゃんと一緒に練習できるかなぁ―――と思てたけど、結局むりだった。これも仕方ないなとすぐ切り捨てて、練習内容を確認。
 内容は単純で、ロイワラの情報室を管理できるようにしろ。ってことらしいけど、どういうことなんだろ。
 まずはその情報室というとこに行ってみる。
 扉を開けると、パソコン独特の臭いがこもった部屋。私はこういうのは好きなんだけどなぁ。
 中央のパソコンが電源が入っていたので、のぞいてみる。えーとなになにっと―――
 そこにはこう記されていた。

サーシャ君へ

 君の練習は特別なので、相手はこのパソコンとやってもらう。言っておくけど、パソコンを頭の内部にもっているような君と比較したら、このパソコンは断然処理が早い。そこで、君の課題は↓の2点
・電算処理をこれよりも早く行う。君は携帯でという制限付き。
・ここの部屋にあるパソコンをジャックするように
ということだ。システムはフミが考案している。今までこれができたのは考案したフミのみ。それ以外のやつらは頭脳が処理に耐えられない、もしくはこのパソコンに洗脳されて終了、そんな結果だ。
 では検討を祈るよ―――。君ならできる。なんせ私が認めたメンバーなのだからな。

ナナより

ということらしい。
 テキストの画面を閉じると黒い画面の部分があり、そこには「Ready?」と表示されていた。
 ポケットからいつもの携帯を取り出す。お兄ちゃんが誕生日とかで買ってくれた携帯。もう3年経つけど大事な宝物。2つ折りという古典的だけど、とても気に入っている。
 画面を開く。私とお兄ちゃんとのツーショット。買った時の写真で3年前だが、2人とも容姿が変わってないのを見ると笑顔がこぼれる。そしてパソコンにその携帯を向ける。
「上等!私よりも上をいくパソコンはこれまで何台もつぶしてきた。そしてあなたもその一つにしてあげる!」
 目を閉じ、携帯の決定を押す。
 頭の中で電算の海が広がる。そして飛び込み、長い長い旅行が始まる。


 ★ ★ ★ ★ ★


「これはどういうことなんでしょうか?」
 私の問いかけを聞く目の前の2人。ロイワラの戦闘係である、神崎さんと柏尾さん。
 私の練習相手はこのJと10の人たちだった。
 マンツーマンの方が、こういったものは効率がいいのではないのかと思う。もしくは私のように教えてもらう方を人数を増やすのが普通だ。
「どういうことって、まぁそういうことさ!」
 柏尾さんはそう答えてくれるが、答えになっていない。
 あきらめて、神崎さんのほうに目を合わせる。
 それに気づいてくれたのか、丁寧に答えてくれた。
「これは総長命令なので、詳しくは私も理解できていないのだが。大まかに言うとすれば、君は知識は豊富。その点は私としても関心あるところだ。だが―――――」
 口が閉じる。その先が気になって仕方がない。
「君はその知識が戦闘には無縁とは思っているんじゃないのかな?」
 図星だった。この短期間でそこまで見透かされていると思うと、あの総長には感心する。あんな子供体系で正直、半信半疑であったけど、それはもうなしだ。
「朝の練習の時でもそうだ。あの時、新人組の指揮をとっていたのはおそらくフィオ君だろう。あれには私も驚いた。あの状況であれだけ率先して行動できる人はあまり見かけないからね。でも答えは×だった。結果として1分もつのが限界だった。それでも君たちは優秀なほうだったけど」
「つまりらんちゃんは、戦闘でその頭を使って指揮をとれと言うことだ。はい!説明終わり終わり。さよならさよならー」
「慎次、お前はちょっと黙ってろ。まあ、ようは慎次の言っていることで間違いない。そして、このポジションは言うまでもなくあれだ」
 あれとはなんだろうか。なにか問題となる部分なのだろうか。
「指揮は主役にはなれない。相手を倒すのも他人が行う。見方が苦しんでいるのも助けることができない。自分の意思をつぶすポジションだ。それでもいいというのなら、この役目を与えるそうだ」
 目を閉じて考える。
 主役という役目
 私には贅沢ものだ。ここにはあんな偉才な兄妹がいる。私の出番はおそらくないだろう。
 ただ、私も活躍したかった。自分が活躍できる場を欲しているのだ。
 指揮をとる。それで本当にいいのだろうか。
 力がない私に、それが許されるのだろうか。
 深く考える。
 でも、その答えはもう心中にあったのかもしれない。
「やります!私が指揮としてここを動かして見せます。私の唯一の優れた部分、学才。知識は無能であるこの世界を変える可能性があるのなら」
「上等上等。ではこれかららんちゃんは、俺たち狛犬の指揮もとるということで」
「え、どういうことですか?私が担当するのは、新人4人をまとめる係。そういうのじゃないのですか?」
 私の想像とはちょっと離れていた。あくまで、ロイワラの先輩は含んでいないものだと思っていた。
「いや、君にはこのロイワラ全体を指揮してもらうよう教育するように言われている。これは総長命令だ。私もそれにはむかうことはできない」
「ほいほい、ではでは蘭子指揮官、ご命令を」
 私の役目は大きかった。
 この犬猿の仲の間柄をどのように扱えばいいのか
 そして、先輩を扱うという曲面に早くもくじけそうだった。
 経験あるのみなのかもしれないが、その言葉に不審を抱くようになってしまったかもしれない。
 こんなもの。
 ただ、この面倒な2人組を預からされたに決まっている。


 ★ ★ ★ ★ ★


「まさか総長からご指導いただけるとは」
 少し嫌味を込めて私は言う。
 前日での発言もあるだろう。その仕返しでもするために、あえて私とマンツーマンにしたのだろう。
「ちょうど、啓蟄と白露は仕事に行かせているのでね。なんでも、超大物の護衛だとか。私は興味ないのだがね。それで、残ったのは私だけというわけだ。妥当だろ」
 勝ち誇った姿勢で、話を進めてきた。
「それで、私の練習はなんでしょうか?」
「私を殺すことだよ」
 そう話しながら頭に手でピストルの形を作り、人差し指は目の横に位置している。
「しかし、私は圧倒的な戦力不足。そんなの無理に決まっている。どうせ何もできずに終わるだけ」
「そんなことはないさ」
 目の前に無造作に日本刀が一本投げ出される。地面に当たり、少し回ってその場にとどまる。
「君の練習は私を殺すこと。そういったはずだ。私はこれから何もしない。君に背中を向けて立っている。時間は10分あげよう。ではスタートだ。好きなように切ればいい」
 そういって背を向ける総長。それ以降何も話さない。
 私は目の前の刀をとる。銀色に輝くその身は、鋭さが視覚から伝わってくる。その先端を背に向ける。
 まさかこんなすぐになるとは。
 私の中では勝ち誇っていた。
 あの夜の中で考えたこと。それは不意打ち。
 私のように圧倒的に戦力に欠けるものはその他の点で勝らなければ太刀打ちできない。その勝てる要素としての一つが隙を作らせること。
 これは総長と1対1でなければほぼ不可能だ。他の人たちは完全にあの総長の配下であり、いざとなれば敵になる。そして、ある程度親密になり気を許すところまで来て切る。そういうつもりだった。
 だけど、目の前にはその過程をとばした絶好のチャンスがそこにある。そしてこれは罠と見るのが普通。殺気が感じられるとか、そんなのは私には分からない。だから、与えられたチャンスは全て使う。
 刀を握る。構える。あとは振り切るだけ。
 そんなあとワンステップで完了するのに、手が震えてできなかった。
「どうした?散々殺すとか言っておきながら、まさかできないとでも」
 おそらく挑発だろう。怒りに身を任せれば切れるだろうか?
 もう一度、構えを直す。
 刃を相手に向ける。
 もう何も考えない。
 振り切るだけ

 そして―――――

 振り切る。





 目をつぶっていたからわからない。
 そっと目を開ける。光が入ってくる。
 そこには、いつもと何も変わらない姿がある。
 結局、私は何もできなかった。

「さて、これで君に足りないものは何か分かったかな?」
 ここまでシナリオ通りのような満足そうな顔で訪ねてくる。私はその通りに進められてしまったことに苛立ちを覚えたが。
「『死』に対する認識ですか?」
「まあそんなところかな」
 そう言って歩き始めた。どこかへ行くつもりだろうか。
 立ち止まって、こちらへ向く。
「君はまだ正式に入隊したわけじゃないでしょ。だから―――」
 また半回転。背中しか見えない。
「これからちゃんと手続きするんだよ」
 そう言って洋館の中に入っていた。
 この気持ちはなんだろうか。
 悔しいのだろうか。
 私はいつも有言実行。言ったことは全て成し遂げるつもりでいた。たとえ、人の命がかかわろうが関係なかった。
 だけど、そこには直接私が人を殺めることはなかった。必ず間接的に人を殺し、その仲介役はお金だった。
 結局、私も口だけの人間だったのかもしれない。
 そんな自分がはずかしかった。
 その状態で、家に帰ったらお父様もお怒りだろう。
 家にいても道具として扱われ、いないと捕獲。そして家へ。
 これ以上、私から自由を奪わないでくれ。ただそれだけが唯一の望み。それを叶えるためには―――――相手を殺せばいい。
 自分の手で殺すことができない以上、完全に詰まっている。
 そこでハッっとなる。
 あの総長はもう気づいているんじゃないのか。
 だからこのようなことをしたんじゃないのか。
 このなんともわからない気持ちはなんと表現すればいいのか。
 加越能 愛 14歳。やはりまだまだ子供なのかもしれない。悔しいけど、うれしい。初めての気持ち。
 そして、私は決心する。
 ここなら、この腐った世界の仕組みを変えてくれるのではないのかと。
 みんなが平和で誰一人苦しまない世界。
 そして、悪の概念がなくなることを。
 その意気込みが、洋館までの足取りを軽くしてくれた。
9, 8

  

 時刻は15時。
 いつの間にか昼を過ぎ、練習は終わった。
 フミさんと戦闘をして5時間。僕は一度も攻撃を与えることができなかった。
 一回ぐらいはできると思っていた。そのつもりで練習したが現実は異なる。
 これまで僕が生きてきた中で、学校にいるときも、会社の社長になってからも、自分の能力に自信は持てていたし、最低でもどこかへ逃げて生存するレベルはあると思っていた。
 この5時間で数百回は死んでいたと思う。フミさんは攻撃は全く当ててこなかったが、当たっていたらたぶんそうなっただろう。
 世界基準の強さを示すランク付けがあるにしても、力に最弱と最強の値は存在しない。やろうと思えばどこまでも強くなれる。
 この練習で自分の視野の狭さがだいぶわかった。そして世界征服することがどれほど難しいことなのかもわかった。
 学ぶことも多く、それを整理しながらホールへ進む。
 そこにはソファに倒れる妹。
 となりで眠る愛ちゃん。
 そしてそのとなりで眠っている蘭子さん。
 そして柏尾さんと神崎さんはとなりでもめている。なにかあったのだろうか。
 みんながみんな疲れているみたいだった。それぞれ何を練習しているのかよくわからないけど大変だったのだろう思う。
 すごく無防備な姿勢なので、見えるところが見えるのでなんとかしてもらいたい。 そんな事よりも疲れのほうが上回っているのでどうでもよかった。
 うしろから足音が聞こえてくる。
 コツコツと単調なリズムで近づいてくる。
 2人いるけど同じリズム。
 ナナさんとフミさん。
 2人とも疲れが全く見えない。
「あれ、みんなお休み中だったかな」
「よろしければお飲み物をお持ちしますが。フィオ様」
「あ、じゃあコーヒーをもらっていいですか?妹もそれでいいと思いますが、できれば甘いものがあればそれで」
「はい、了解しました。蘭子様と愛様の分も用意しますので、起こしておいてくれますか?」
 そう言ってフミさんは裏のキッチンへ入っていく。柏尾さんと神崎さんの分はいいのだろうか。
「それじゃあ、今日の結果報告するよ」
 ナナさんの手元から画面が表示される。空中に浮かぶプロジェクターの映像。それでもテレビと同じほどの鮮やかさを出している。
「まずフィオ君。本当は5時間もやらないつもりだったけど、よく持ちこたえたね。普通なら無理ゲーとわかるとあきらめがつくころだと思ったけど」
「正直3時間耐えた後の記憶があんまりないんですけど・・・」
「そうだったのか。このグラフを見てみると3時間たった後、午後1時か。フミの動きに全部対応している。」
 グラフを見てみると、戦闘中に急所を狙われ死亡となる攻撃が午後1時から0になっている。それまでは1時間に60回。自分は1分しか耐えることができないのか。
「そして同時に全部攻撃が闇属性になっている。それまでは光属性が7割、闇属性が3割。これについて思い当たることは?」
「まったくないです。基本的に光属性の攻撃のほうが得意なので、そんな闇属性しばりにするようなことはしないと思います。そんなことやっている場合じゃなかったですし」
「へーお兄ちゃん5時間もやってたんだ」
 サーシャが起きたみたいだ。手にはオレンジジュースだろうか。
「私は3時間とちょっと。愛さんはよくわかりませんが寝てるのでがんばったと思いますけど」
 蘭子さんも起きたみたいだった。愛さんはまだ隣で寝ている。
「おい柏尾。おまえは蘭子さんの命令が聞けなかったのかときいているんだ」
「あの時はそういう場合じゃないだろ!どうすんだよここで死んだら意味がないんだよ。総長との約束忘れたのかよ!」
 こっちの2人はまだ続いていたみたいだった。
 視線をナナさんのほうに戻す。
 しかしそこにはフミさんしかいなくて。
「馬鹿2人。ちょっと静かにしろよ。」
 2人の間にナナさんが入る。
「すみません総長。ちょっとこの馬鹿が行動無視したもので」
「総長。こいつが危険が迫っているのでなにもしなかったので」
「まったく。おまえら2人はもうちょっとお互いを理解しろと言っただろ。そんなんだから蘭子君があんなに疲れるんだろ。それに私は君たちにはちゃんと今日の内容説明しただろ」
 口ごもる2人。それから2人とも何もしゃべらずソファに腰をおろす。
「すまないね。では結果報告の続きを。」
 そういってフミさんのいるところにナナさんが戻る。
「能力の使い方はまだまだ改善余地ありだね。建物内に資料室があるからそこに君と同じ能力の人のデータを参考にして勉強するといい」
「それって、他人の技とかを利用するって事ですか?あんましコピーというか他人のものを使うのはいけない気がしてやってないのですが」
 この点に関しては特に思う。
 他人の努力を奪う気がして正直やりたくはなかった。自分の考えを理解してもらうのは好きだ。でも自分の考えを利用されていくのはいやである。考えであっても自分の所有物の1つ。だから自分のことは自分でやることにしていた。
「パクリは恥ずかしい事かもしれないが、それは知識の一つにはなる。それを元に新たに生み出したり、改良することで向上することができることもある。悪いと思っているのならそれはその人を批判することかもしれない」
「そういうものなのでしょうか?」
「まあ答えは一つじゃないけどね。1つの回答例、もしくはヒントとして見ればいいんじゃないのかな。資料室は君に妹がよく知ってるからあとで聞くといい」
「わかりました。ありがとうございます」
 とりあえずコーヒーのおいてるテーブルへ戻る。まずは頭の整理を。
「あとみんなもそうだけど、あとで各自に渡したいものがあるから最後まで残っているようにね。じゃあ次、サーシャ君」
「はーい。疲れました」
 その台詞的には疲れてなさそうに見える。物理的ダメージを受けている様子も見られなし。何をしてたのだろうか
「どうだった。あのパソコンは?」
「ちょっと予想外でした。お兄ちゃんの会社の電子系の管理はすべて行っているから、1台なんかすぐに自分のものにできると思ってました」
「あれはそんなものじゃないからね。人間にはまず突破できないそういう世界だし」
 空中に浮かぶ結果のグラフ。挑戦回数200回弱。すべてメイン部分に到達できずに自身のほうに浸食してくる。浸食と言ってもどういう感じになるのかよくわからない。妹に聞いても眠くなるような感じとか、全身に電流が流れるような感じとか言うけどよくわからない。
「あれはコンピュータなんですか?」
 ・・・えっ?
 あれそういうものじゃないのかなぁ。人が使うものではないようにみえるからパソコンにしないのはわかるけど、コンピュータではないとなると、人工知能か何かなのだろうか。
「なかなか鋭いね。あれはコンピュータが使うための機械と言えばいいのかな。詳しくは作ったフミに聞くといいけど。」
「ですがナナ様。あれの中身を教えてもいいのですか?」
「そこはフミに任せる。あれはフミのものだし判断は任せるよ。たまにはそういう事も任せてみたい」
「了解しました。ではサーシャ様、あとでお時間よろしいでしょうか?」
「はーい。対策練って考えときます」
「それじゃあ次は蘭子君」
「はい。よろしくお願いします」
 サーシャと入れ替わり蘭子さんがナナさんのところへ行く。
「まずはごめんなさい。まさかもう侵入者が出てくるとは思わなかった。おそらく、愛君のところの奴らだろう。おそらくかぎつけてきた」
「いえ、私もなにもできなかったのですみません。2人にどうしてもらえばいいかよくわからなかったので。」
「それはこれから身につければいいことだね。目的はわかってると思うけど、あの2人が協力して戦闘するようにできること。あいつら2人は自身に過剰な自信を持っているし、目的も持ってる。ちょっと面倒かもしれないけど頼むよ」
「いろいろ方法も考えたのですが、何か制限とかありますか?」
「死ななければ問題ないけど」
 あっさりと答えるナナさん。あの2人に対する扱いがほかのひとたちとずいぶん違うのだがいいのだろうか。
「わかりました。また明日がんばります」
 そう言ってソファに戻る蘭子さん。
 そして次はおそらく愛さんなのだろうと思うけど、まだ寝ている。
「愛君のはなしでいいよ。それよりも渡すものが。フミ、みんなにあれを」
 フミさんから薄いノートみたいなのが渡される。
 これは・・・タブレット端末?
 紙のノートと同じ重さなので描き心地の問題なのだろうか。今はこれがなくても空間上に呼び出すことができる。世界が端末化したこの世界では、タブレット端末なんて骨董品のようなもので物好きしか使わないものだ。
「その中にそれぞれ読んでもらいたい書籍が入っている。世界征服を始める1ヶ月後までには全部読んでおいてほしい」
「あのー、私だけそれないけどー」
 サーシャには配られていなかった。手元にはお菓子しかなかった。
「サーシャ君に読んでもらいたいものはデータ総量が多すぎたので後であのパソコンが置いてあるところに行くように」
 とりあえず手元のタブレット端末に電源を入れる。いろんなアプリが入っているが、本を読むアプリを選択。

タイトル:世界の真実
著:O.G.O
※この書籍は電子版のみ販売されております
※本書籍を読むに当たり、項目ごと各人読める領域があらかじめ制限されております

 真っ赤な表紙に白文字でタイトルと著者名が書かれている。
 制限は知能制限や個人の経験からレベルが自動的に算定されるようになっている。この書籍以外でも一般的につけられているもので、子供がアダルトを読めないようにするなども、この機能によって保たれている。
 また、読んだ後に知って後悔したことを避けるためであったり、禁書を簡易に読めるようにしないためにも用いられている。
 読めるレベルの単位は「セクター」で、僕の場合は16歳で152セクターである。一般のこの年代だと100弱なので、相当高い。これもいろいろ過去の生活が原因になっているのかもしれない。
「私の本は、本というよりは図鑑ですね」
 蘭子さんのは植物図鑑らしい。こういうときに電子書籍は図を立体表示できるのでよくわかりやすい。
「サーシャ君の本は1冊じゃないから説明は省略。フィオ君のは制限がかかっているけど、それを超えて全部読むように。蘭子君のは図鑑の内容を覚えるように」
 そう告げて今日は終了。それぞれ個人の部屋へ戻っていった。
 僕は部屋へ戻りもらった本を開いてみる。
 世界の真実
 2300年に刊行されたこの世のすべてを記した書物。電子版しかないので実際の書物にしたらどれだけの厚さになるのかは想像がつかないが、ページ数が4桁まであるので相当な厚さになるだろう。
 この書物は以前僕が学校に行っていた頃、5年前図書館で見つけた。その頃は50セクターしかなかったので基本的な部分しか知ることができなかった。「生命の誕生」「歴史」などの堅苦しい内容から「明日の天気の予想方法」「ネットワーク」といった雑学要素まで。
 とりあえずページをめくる。
 歴史の年表が書かれたページ。これは以前も見た。だがそこに書いてあることは依然とだいぶ異なっていた。
 追加された内容。その出来事の詳細。そして未来予想まで書かれている。
 今は2500年だが、年表は2600年まで記入されていた。さすがに未来のことなので確定的なことしか書かれていなかったけど。それでも、秘密裏に行われている活動が載っているなど、一般には知られないものばかりだ。
 そこからどんどんページをめくり過去に迫っていく。一応このあたりは追加されていなかった。
 だが、途中で手が止まる。
 2100年。魔法技術が確認された時代。学校ではそう教えられた。なぜ発見できたのかが謎だったけど当時はそのままにしていた。
 だけどそこにはこう書かれている。

 →2050年。人類は崇拝の対象および架空の存在とされていた天使および悪魔の存在を確認した。彼らは我々人類を生み出した張本人であり、人類は機械を生み出した。この際、天使と悪魔は人類への付加として魔力の充填を行い、その供給源として地球の衛星として存在する「月」を魔力発生点であることを人類に宣告。人類のみにしか使えないことを条件としているのもこの時点である。

 なんだ・・・これ。
 天使とか悪魔とかは人間の想像物ではないということなのだろうか。
 そんなことがわかっているのなら、世間的に知られてもおかしくないはず。なぜ知られていない。
 どうも信用しにくい。文字だけの羅列は信じられなかったが、付属の写真を見て一気に確信に変わる。
 その写真には3人が写る。というかこの場合は人と呼んでいいのだろうか。
 おそらく白色の服のほうが天使側、黒っぽいのが悪魔だろう。このあたりは想像していたものと同じである。ただあきらかに人と異なる要素がある。翼がはえていたり、角らしきものが出ている。
 そしてその天使と悪魔の間に人がいる。その人は首輪をされていてそれが天使と悪魔の手元につながっている。

 この画像が本当かどうかもわからない。合成の可能性もある。あとでナナさんに聞いてみようかな。
 さらに過去に戻る。
 2012年。人類減少の基点。
 現在の地球の人口は12億人。全盛期がこの2012年で70億人というのはよく知られている。この年から人口は減少していった。
 でも説明には続きがある。
 
 →2012年12月21日(現13月18日)。この日、様々な方面から人類滅亡の日とされていた。その日、世界中で人々がヒューマノイドに殺される事件が多発。テロレベルの規模でその日の24時間で約1億の人が殺された。
 このヒューマノイドは女性の人型で長髪、身長170cm程度。殺傷の対象としたのは過去に犯罪行為を行った者などであるが、軽微な違反(泥棒やいじめなど)を行った者も対象とされていた。どのようにしてその履歴を調べていたのかは不明。
 その後、日付が変更されると同時に殺戮行為は終了。彼女の存在は確認されていない。人口の急激な減少によって世界は混乱するかと思われたが、数ヶ月後には平穏を戻している。

 新たなる事実。
 今まで知っていた事実を根底から覆す事実に翻弄された。
 これまでの自分の人生において偽りの情報で生きていたと思うと同時に、恐怖の真実を知ることは精神面を大きく削らされた。
 電源を落とし、ひとまず落ち着く。
 たった少しの項目でこんなにも冷静さを失われる。
 これを全部読み切ると思うと、自分の自我が保つのが不安になる。
 とりあえず戦闘の疲れをとるためお風呂に入る。
 まずは落ち着かないと。
 
 ★ ★ ★ ★ ★

 情報室。
 多くの機器が並び、わずかながらの作動音を出している。
 ずっと同じ音。冷たい空気。機器の独特な臭い。
 私はこの環境は大好きで、戦闘の疲れもあったけどすぐここに直行した。
 隣には朝からにらめっこを続けた大きな機械。
 というよりは機械を支配する機械。
 私たちの生活空間では人間とヒューマノイド。まあロボットでもいいけどこの2種類が頂点に立っているはず。正確にはヒューマノイドは人間に従うことが決められているので、人間が頂点に位置するけど。
 機械を人が操作する必要がないので、人間が衰退して機械の世界はおそらく永遠に続いていくのかな。
 一応、人間と動物。自然に存在し繁殖するものの世界を霊界。機械のように作り出した生命で生きるものを機界と区別している。
 そんな感じで人間と機械は密接につながっていて、1人に1体のロボットがつくのは普通である。昔の場合は携帯電話で置き換えられていた。
 情報室まで連れて行かれるということは相当量の本を読まされるのだろうと思うけど、私にはそういう本を読むという行為はしたことがない。
 正確には読むというよりも一瞬で記憶してしまうため、知識に一部に含む行為を行う=読書となってきた。
「それではサーシャ様に読んでいただくものがこちらになります」
 フミさんが私に示したのは朝の機械。
 どんな書物でも一瞬で読めるのでたいした期待はしていない。私のように人間の体に機械を含んでいる場合は記憶容量に制限もでるので、吐き出しも必要になる。でも人間の脳の記憶力と比較すれば容量的には優れている。
「この中にあるのを読めばいいのですか?」
「はい。ですがこの中には本は一冊も記憶されておりません。サーシャ様に記憶していただきたいのはこの世の情報すべてです」
「この世の情報?情報社会で存在するすべての情報という事ですか?」
「そうです。ですが情報量が多すぎてさすがにサーシャ様の記憶容量では1%も記憶できない。そこで記憶媒体としてこの機械を利用し、外部からのアクセスにより知識の共有を行うようにしています。そのために今日の朝の練習ではこの機械の仕組みを知ってもらうようになっているはずです」
 なるほど。そういうことなのか。
 だから「支配できるように」とか条件があったのか。
 でも朝の時の思ったけど、データ量が多いとアクセスするまでに自分がパンクしてしまうから手詰まり状態になってしまう。なので、毎回自分の中の記憶を消さなければならない。人間の脳のようにさっと読む事ができない。見た物すべてが記憶となる。その点が機械式記憶の欠点かも。
「あのー」
「何でしょうか?」
「なにかヒントを下さい!」
 正直悔しかった。電子機器に関して自分が劣勢になるこがほとんどなかったし、なっても自分で解決法を見つけることができていた。
 でも今回のは自分の思っていた規模とは全然異なっていた。自分の力量はかなり上位のレベルまできていたと思ってたけど、まだまだみたいだった。まだ16歳だしもっと向上できるとは思うけど。
「では私と一緒にこの機械・・・【Artemis(アルテミス)】と友達になってみますか?」
「へっ?」
 友達か・・・。
 今までそのような関係を気づいたことがなかった。
 その・・・まともな生活をできていなかったこともあったし、周りとの立場の違いなど、孤立する場面が多かった。お兄ちゃんがいればそれでよかった。
 人とはつきあうことができない。その能力をもう身につけることができない・・・と思う。幼少期の成長方法が歪すぎたのかな。もう私は人間性の成長はできないと思う。けど、この機械なら。
「フミさんはおもしろいことを言いますね」
「そうでしょうか?」
「はい。失礼かもしれないけど・・・」
 ここにきてからの推測をぶつける。
「フミさんは・・・本当は人間ではないですよね」
「ふふふ。やはり一番乗りはサーシャ様でしたか。ナナ様の予想通りでしたね。確かに私はヒューマノイドです。詳しいことはいえませんが。存在としてはナナ様のペアとしての位置づけです」
「でもフミさんはJOKERの立場で誰とでもペアになって活動しているけど、ナナさん一人にしていいの?」
「それはナナ様がそうしろと言ったのでそうしてるのです。私にとってはナナ様の命令は絶対ですので」
「それは法令として主人に従うという意味で?」
「それもあるかもしれないですが、私にはナナ様に従う義務とちゃんとした理由がございますので」
 法に縛られず、自分の意思で従う。
 そのような信念を持てるのはすごいと思う。
 人間でさえそのような考えを持つ人は少数だ。人は魔力を持ち始めてから、他人を信じるよりも自分を信じたほうが有利であることが大きいことがわかってしまったから。
「それでは、詳しくはこの中でしましょうか」
「はい。いろいろとよろしくお願いします!」
 フミさんの手を握る。相手への干渉をする際に接触は干渉速度を向上させる。
 目を閉じる。気持ちを落ち着かせ目の前のアルテミスと意思をつなげる。
 そして、体がふわっと軽く浮きアルテミスの中へと進む。

「サーシャ様。私と同じ能力ならできるはずですよ。あの時の私と同じ立場なのですから」

 ★ ★ ★ ★ ★

「植物図鑑かぁ・・・もう見飽きちゃっけど」
 私は家の環境から植物とくに花には精通している。幼少期からその手の知識はたくさん入ってきたし、自分からも図鑑などを読むのが好きであったので、今では見なくてもおおよその事はわかる。
 私の場合は書いてある以上の情報を必要としなければならない。植物と会話する上で参考となるものは自分の経験、ただそれだけである。
「私の探してきた図鑑はどうかな?」
 うしろから総長の声。
「申し訳ないですが私、図鑑はもたくさん見たのでもう必要ないと思うのですが」
 率直な感想。でも遠回しに言うよりもそう言った方が総長もいいのかもしれない。そんな正確してるし。
「ちゃんと中も見た?私の友達の持っていた本で、たぶん参考になると思うけど」
 中もたいてい同じなのではないのか。図鑑は複数よんでも書いてある情報はたいてい同じものが多いので、2冊目以降は説明よりも画像に目が行きやすい。
 この本のタイトルは「しょくぶつずかん」となっていて、ずいぶんと子供向けな表紙となっていた。とりあえず1ページ開く。
 そこにはさっきの表紙とは全然かけ離れた文字の羅列が並んでいた。まるで論文のような配置。そしてその中に書いてある内容がすごかった。
 普通の図鑑のように画像とその植物の説明。ここまでは通常通り。そしてその続きには植物が持つ魔力特性、合成によって得られる効果、そして植物の言語など通常は載せられないことばかり。このあたりの内容は世界政府によって規制されており、今ではその情報を載せることはできない。
「悪いね。本というか他人の研究成果なんだけど。実はそれ、私の友達の研究論文なんだよ。表紙の字がへたくそなのは彼女がまだ幼かったころのだから許してくれ」
「この、鷲見という人ですか?」
「そうそう。たしか9歳の頃だったかなぁ」
「9歳でこの内容って・・・」
 この内容を幼少期からまとめるなんて相当な天才さんだろうなぁ。これくらいやらないと学問の分野で認めてくれないのだろうか。私くらいの知識では力がすべての世界では無意味なのだろう。
「彼女は27歳で亡くなった」
「えっ・・・」
「世界政府に殺されてしまったんだよ。彼女はいろいろ知りすぎてしまった。その本は彼女が殺されるちょっと前にもらったものだ。いつか使えるときがあるって。私には無縁の世界なので利用方法なんてなくずっとしまったままだったけど、君には彼女の伝えたかった事がわかるのかもしれないね。」
 世界政府。世間的には世界を統治する機関。おそらくたいていの人は彼らの恩恵によって安心して暮らしていけるのだろう。でも、その秩序をすこしでも崩す要素が見つかると、彼らは消しにかかる。
 この鷲見さんもきっとその点に触れてしまったのかもしれない。
 そして私もその内容をこの本で知ることになるのかもしれない。
 つまり、死の可能性がかなり近づくことになる。
 それを見越して私にこの本を渡したのだろう。
 ロイワラの一員としてはいずれそういうことになる。ただそれが近づくだけだ。
「とりあえず蘭子君にはそれを読むように。もう1冊あるけどこれはまたいつか渡すよ。。これは今は使えないからね」
「使えないのはなぜですか?私の力量不足ですか?」
「それもあるけど、これは「人間には使うことができないから」というのが最大の理由。詳しくはフィオ君にでも聞くといい」
「はぁ・・・」

 ★ ★ ★ ★ ★

「で、蘭子君はどうだった?」
 新人組がいなくなり、総長とバカ2人組が残る。
「予想以上ですよ。やっぱり彼女は人を支配する側の人間だよ」
「そうですね。今日一日でこれだけ私たちを動かせていたのは関心ですね。てっきり植物と話すとかの能力だったので、おとなしめの性格だと思っていたのですが」
 結果報告。
 蘭子は能力のせいでおとなしめな性格だと思われがちである。
 実際、彼女もその能力に則り自分を偽って性格を演じ続けている。
 ただ、今日の侵入者が現れたときに本性を現した。
 普段とは違いズバズバと物を言う。そして目の前の減少を必死に現実戻そうとする。まるで、恐怖から逃れるように。
 結果としては柏尾と神崎は彼女の言うままだった。なんというか恐怖が迫っていたからとでも言えばいいのだろうか。
「彼女の指示は的確だった。というか俺たちの目線から見ているかのように前方をよく理解してたな」
「しかし、その後は謝罪していたがな。悪いことをしたのだと思ったのだろうか」
「まあ組み合わせとしてはよかったかな。明日は愛君もそちらに含めようかと思っているけど。組み合わせとしては愛君をメインの攻めにして君たち2人がそれのサポート。。そしてそれをまとめるのが蘭子君の役割ということで」
「まあそのほうが俺たちもやりやすいんで、大丈夫です」
「了解しました。愛さんに伝えといたほうがいいですか?」
「一応伝えてはいるけど、顔を合わせ得るということであった方がいいかもね」
 明日の方向性が決まり、各自部屋へ戻っていく。
 そして最終的には総長1人となるはずだった。
「で、いつまでそのカーテンにくるまってるの」
「・・・。」
 カーテンのふくらみがもぞもぞと動く。
 そこから出てきたのは黒髪をまとう少女。
「明日の内容わかった?」
「わかりましたけど、あなたを殺すことも同時作業なので」
「はいはい。末永くまってるからいつでもどうぞ。それよりも、自分の身を大切にするように。今日の襲撃にもあったように、もう場所は割れているから」
 今日の蘭子&バカ組をおそった敵。逃げられてしまったが加越能グループであることは確かなようだ。
「別に私がいなくなっても困るのは私の親だけだからいい」
「私たちを忘れてもらっても困るよ」
「・・・。」
「そういうこと。わかったらとっとと部屋に戻ってあの本読んできて」
 その後愛は何も言わずに去って行った。
 何か言いたそうだったけど、結局何も起こらないまま。
 そう、なにも。
11, 10

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