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プロローグ

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 この世界には、一人だけ選ばれた勇者がいた。人々は彼のことを勇者と呼んだ。物心が
付き始めた頃より自らにはまだ大き過ぎる光の剣、宝剣ヴレナスレイデッカを振るい、三
万のジャイアント・オークを倒した。ジャイアント・オークだけではない。人に仇なす存
在ならば、全てを排除した。人類の為ならば何の躊躇いもない。しかし、彼はバーサーカ
ーなどではない。人も、斬った試しがない訳ではないが、別に好き好んで戦う純一戦士で
はなかった。
 魔物達が闇より現世に這い出る現象には、ある法則があった。環境汚染……この世界が
汚染されると、人口を減らすべくして魔物が闇より生まれ来る。魔物達はこの惑星の絶対
防衛システムなのだ。そして、ある一定数まで人口が落ち込むと、魔物を倒滅すべく、救
世主がこの世界には現れる。このサイクルを人類は幾度となく繰り返していた。自然との
共存を提唱しても、競争原理によって淘汰される。勇者は思った。何故、自分の手は血塗
れなのか……例えば、シャドウ・ウェアウルフは数が増え過ぎると食料に困窮し、山から
里に下りて人を喰らう。当然、殺さなければならない。が、彼等もまた、生きている。
「生き延びるのだ、この裁きの時代に……」
 之は戦争などではない、生存競争なのであった。誰もその運命に諍う事などできない。
そう教えてくれた今は亡き師の言葉を胸に、彼は良心の呵責と戦いながら、今日もまた剣
を振るう。
「戦わなければ、生き残れない!」
 彼の名は古鷹ゼウス。後の初代ラティエナ王である。
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