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第三十章『渦巻く若人の熱き血汐』

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 不知火は、怪訝そうな顔をした。
「やられる前に、やらなければならないのではなくって?」
戦争回避は避けられるかどうかを、最後まで模索するのがジャーナリズムではあるが、生
徒総会長の指摘は厳しかった。
「そうか。あまり気は進まないが、フリートエルケレスで蹴散らすのが、やはり、ベター
か」
クラスのHRで話し合いの場を設けた。議題は、北方で展開する部隊を攻撃するか否かだ。
「こちらの善行を逆手にとって、討っては出られないと足元を見られているのですよ」
「外交手段の延長線上に武力行使があるとは、到底、考えられないと思うのであります」
 兎にも角にも、この国を、崩壊させる方向にもっていきたい層が存在することは、敢然
たる事実でしかなかった。植民地支配は、利益が出ることだけは確実だからだ。どちらか
と言えば、コングロマリットは対モンスター用兵器開発に投資してきた故、ラティエナ王
国議会の軍産複合体の社会的地位は高い。だが、対人用に向けて、直接、新兵器を戦争で
運用するかどうかは、今回のケースが初めてだった。
「しかし、どう計算しても、大勢、死人が出るな。悩ましいぞ」
「もし、起こってしまった場合には、あらゆる手段で、二度と戦争など起こしたいと思わ
なくなるほど、圧倒的に敵を叩くのが常套策や。ならば、緒戦こそ……やな」
その為には、むしろ大スウィネフェルド帝国の動きに同調して、ラティエナ包囲網が、あ
る程度は形成される方が、見せしめになって良いのかも知れない。
「相手に先制攻撃をさせなければならず、このままだと、正規軍が犠牲になる必要がある
よ?」
良いのかな、それでも……と若葉は疑問を口にした。
「水際防御線は捨てて、幾らか、自領土に引き込んでから空戦機甲で殲滅する。確かに、
その際の撤退戦が正念場だな」
「もし、軍が従わんかったら、ウチが統帥権の干犯だと突っぱねれば、ええ事なんやけど、
な……」
(まぁ攻めて来た場合だからねぇ。まだ、一戦、交えると決まった訳でもないし……)
若葉は、できれば人間同士で殺し合いはしたくないと、願っていた。
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