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第三十五章『カウンターアタック』

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 ――これは戦争ではない……殺戮だ!
「何だ?」
「伝令です、閣下」
ヴィクトリアはジステッドとの最前線で戦っていた。
「山城アーチェ大佐がお呼びです。直ちに、大佐の座乗艦フリートエルケレスに御出でく
ださい」
「フリートエルケレスだと? 魔法学園がこちらの戦線へ来たのか」
ヴィクトリアは山城アーチェの元へと向かった。
「応、来たか。艦対戦の初戦は完勝だ。『法王』 NATO・ルーン・響の鼻をあかしてや
ったゾ」
「それは、どーもっス……」
ヴィクトリアは、精神的にやつれていた。
「何だ? シケた顔だな。戦勝を喜べんのか?」
山城アーチェは嬉しげだった。
「願わくば、そっちの戦闘に参加したかったっス。先手を討てば、ジステッドの防衛隊な
ぞカタチだけのもの。宣戦する必要すらなかった……」
「それを言ってくれるな。ジステッドの戦力は取るに足らなくても、教皇庁の拠点となれ
ば侮れん。他の浮遊大陸郡に示しが付かんということもある」
ヴィクトリアは艦橋から見える浮遊大陸に目をやった。
「天道宮・改……ですな。無傷で残ってるのは、あのバンチだけです。指令があれば半日
で落とせますが、まだ、その命令がないというのは……やはり、アウト・ローと呼ばれる
民間のゲリラ組織が立てこもっているのが難点っスよ」
「それよ! 貴様を呼んだ用は」
何か策があるのだろう。ふふふ……と山城アーチェは笑みを浮かべた。
「不知火は私と違って頭が良いから、妙案を考えた。巧くいけば、戦争を我が軍、勝利の
うちに決定的に終らせる案だ。暗殺の件も絡む故、私も、賛成した」
山城アーチェは人払いを命じた。作戦会議室はヴィクトリアと二人となった。
「ライフラインを遮断する!?」
「ゲリラの巣窟を相手にしているのに、民間人の巻き添えを避けろ、等とは口が裂けても
言ってくれるな。何だか……悪い事をしようとしているように、思えてくる。意図的に退
路を作り、事情の許す限りは被害を出させない方針だ」
山城アーチェは語気を強めてヴィクトリアに説明した。
「そもそもだな、いいか? これは、戦争なんだぞ? 我々は、正当に宣戦布告して、敵
国となったジステッドと戦い、勝利しつつあるのだ」
「しかしっ!」
ヴィクトリアが言葉を挟もうとしたが、山城アーチェは黙らない。
「まてっ、もっと言わせろ! よく見ろ、生徒総会長のプランはこうだ。住民の避難が粗
方、済んだ浮遊大陸のバンチの一つに外部エンジンを取り付け軌道から外し、地上の引力
圏まで運び……クックルーン大聖堂の真上に、落とす! 判るな? 大聖堂は、ぺしゃん
こだ」
ヴィクトリアは黙って聞いていた。いや、言葉が出なかったと言う方が正しい。
「厚さ千メートルの守護方陣に護られ、ビッグバンにも耐えられる大聖堂もこれならもた
ん。一撃で崩壊、教皇庁の指揮中枢は即死して、戦争は、終る!」
「それを、やれと?」
モニターに表示されたデータと照合して、山城アーチェはご満悦だった。
「左様、正規軍の空中艦隊を使い――」
「お断りするっス! 敵艦隊は確実に阻止行動に移り、作戦は失敗するのが目に見えてる
っス! 市街地に浮遊大陸の破片が雨霰と降り注ぐともなれば、営々と築いてきた過去を
無に帰するようなことをして何の真実か! 未来か!?」
ヴィクトリアはバンッと机を叩いた。
「……なるほど、不知火殿なら考えそうなことだ。大方、こちらのゲリラ掃討作戦におけ
る民間人の虐殺を、相殺して帳消しにするには、打って付けの世論操作になるっス……だ
が、武人の貴方が口にすべき計画ではない。それは悪魔のすることっスよ!」
ヴィクトリアはハッキリと言い放った。
「例え、この戦で負け、仮に、落ちぶれたとしても千歳家の家名を継ぐ者。そこまで堕ち
たくはないっス」
「よく言った、悪魔か……では訊こう――お前は悪魔ではないのか! 数千の敵兵の血に
塗れた貴様だって、もう既に悪魔の片割れだ、違うと言うのかぁ!?」
頭に血が上った故、大声を出してしまった所為で喉が渇いたらしく、山城アーチェはよく
冷えた麦茶を一杯ほど飲んだ。
「ぷはー……よく考えてみろ、ヴィクトリア。天道宮・改の連中は、どの道、皆……死ぬ
んだぞ? 降伏を拒み、教皇庁の援軍を待つ連中を生き延びさせることはできん! 占領
政策は失敗し、恒常的にテロが起こるならばっ」
山城アーチェは神妙な面持ちで言った。
「やつらの死で戦争を終らせるのは、やつらを無駄に死なせないだけ、却って理性ある行
為だと思わんか?」
「……思いません!」
「なんで思わんのだぁ!」
山城アーチェは怒りに任せてガチャンとモニターを拳で叩き割ってしまった。
「先輩、狂っているっスよ、この戦争は。とてもトラブルシューターの命ずる戦争とは思
えません……自分は降りるっス」
こうして、ヴィクトリアは会議室を出て行ってしまった。
 天道宮・改、外壁――
「耐相転移エナジーコーティング作業、順調です。進行状況、五パーセント」
「遅い、もっとピッチ上げろ」
山城アーチェ自らが現場指揮を取り、檄を飛ばしていた。
「敵です! ビッグバイパー(丙)二機、妨害に出てきました」
相手はコナミコマンドの使い手らしく、フル武装していた。
「来たな、ブタども!」
山城アーチェは気を吐いた。彼女にとっては、そこまで脅威ではない相手だったので、ア
ッサリ片付けることに成功した。数時間後――
「ブースター到着しました」
「装着、急げ! 作業、遅れているぞ!」
(これも戦争を早く終らせえる為だ。恨むなよ……)
「抵抗は微弱になってきています」
「徹底排除しろ――但し、外郭には極力、キズをつけるな!」
浮遊大陸の慣性降下軌道を計算に入れると、あまり、時間的猶予はない。
「コーティング作業終了しました」
「よし、作業班は離れろ!」
(どうやら、間に合ったようだな……)
「ドッキングベイ内で散発的な抵抗がありますが、とるに足りません」
「ブースターの取り付け作業順調です。現在、三機まで完了!」
これも、全ては暗殺組織から普岳プリシラ姫を守る為。冷徹な判断は、らしいと言えば、
らしいのか……なぞと思うは、武人として逃れられぬ、彼女、自らの業である。
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