トップに戻る

<< 前 次 >>

第四十二章『無題』

単ページ   最大化   

 ラティエナ城、王の間――
「先代の死を無駄にする訳にはいかなくってよ。それこそ、ラティエナ家の沽券に関わっ
てよ。国民の士気を高め、この尊い犠牲に報いねばないのではなくって? 断然、国葬を
以て、遇するべきですわ……そう、お考えになられませんこと? 姫様。いえ、女王陛下」
「不知火……ウチはなぁ、唯、父上の事を……」
女王となった普岳プリシラの落胆は大きかった。
「遅れたのであります」
金剛吹雪と霧島薙が部屋へとやって来た。
「陛下、さぞかし無念でありましょうなぁ。高雄軍の、新兵器にやられたと聞くが、ナン
とも残念だ! ラティエナ王こそ、この、余……じゃなくて、私さえも使いこなしてくれ
る大将軍になろうと、楽しみにしておったのに」
心にもない事を霧島薙は言っている。全く、悲しみが顔に出ていなかった。むしろ、戦争
狂が嬉々としているようにも、普岳プリシラには聞こえていた。しかし、子供の相手をし
ても仕方がないのがホンネだ。これは、普岳プリシラが王族として育てられ、アイドル経
験を積んで、一端の社会人として成長していた証拠でもある。
「霧島薙殿、過ぎたことを悔いてばかりいても、仕方がなくってよ。今は、唯、この試練
を越えて、如何にして戦いに勝利するかを考えるべきなのですわ!」
金剛吹雪も頷いた。弔い合戦は望むところ、と言った具合だ。
「無論、その通り――だが、不知火女史。あの、物分りの良いご老体が逝去された、この
気持ち。そう綺麗に御せるモノではあるまいよ!」
不知火は霧島薙を調子付かせた。理由は三点。子供である事――利用価値があること――
そして、最強の巨大空戦機甲を専用機として所有している事。スペックはこの場の面子で
は霧島薙以外は知らない。フェアリーを憑依させることなく動く、という噂が飛び交って
いるが、真相は定かではない。
「霧島薙の、言うとおりや……思えば、教皇庁を相手にしたこの戦いは、ブルジョワ=シ
ュークリームの高き理想を受け継いだ聖戦であったが……父上を失って、今、改めて思う。
払った犠牲があまりにも大きかったのではないかと――だから、不知火。心して欲しい。
どうか静かに丁重に、父上の冥福を祈ってやってくれへんか?」
孤独と絶望に胸を締め付けられ、普岳プリシラの声は、震えていた。
 国葬、当日――
「お気持ちは分かりますが、女王としての、お立場がございます。お役目だけは、果たし
て頂けませんか?」
山城アーチェに急かされ、普岳プリシラは自室を後にした。
141, 140

  

 そして、国葬――
「我々は、一人の英雄を失った。これは、敗北を意味するのか? 否っ! 始まりなんや! 
教皇庁全土と比較して、我が、王国の国土は三十分の一以下である。にも、関わらず、今
日まで戦い抜いてこられたのは、何故や!? 諸君、これは、我々、ラティエナ王国の戦
争目的が正しかった故に、他ならない! それは、浮遊大陸に住むメガロポリスの民意に
反映されていると言う事を、諸君等が、一番、知っている。我々は、教皇庁を追われエク
ソシストでありながらルーン・ミドガルド大陸から捨て去られそうになった」
世界中を相手にした、歴史的な大演説は続く。
「金儲けと利己主義に凝り固まった一握りのエリートが、人工島の浮遊大陸という新天地
をも含む、教皇庁全域を支配して五十余年。悪霊と前線で戦う、我々が、正当な権利と自
由を要求して、何度、教皇庁を裏で操っていた圧制者どもに踏み躙られたことか! 嘗て、
古鷹ゼウスは、人類の革新はスダドアカ・ワールドの神民たる転生者から始まると言った。
その言葉の通り、機が熟すのを我々は待ち望んだ。そして、遂には、過酷な浮遊大陸を生
活の場にしている弱者救済という本懐に手をかけたのだ。共に練磨して、今日を築き上げ
てきたんやないか! 我が、ラティエナ王国初代国王古鷹ゼウスの夢と理想は、まさに、
形あるものとなったんや! ラティエナ王国の掲げる人類一人一人の究極の自由の為の戦
いを! 神が見捨てるわけがないっ! ウチの父、諸君らが愛してくれた先代は死んだ。
何故や!?」
この模様は、共和国内でも放映されていた。
(ハンッ、暁の大帝に比べれば……坊やだからさっ)
「新しい時代の覇権を、我等、選ばれたエクソシストが得るのは、傲慢ではなく、歴史の
必然やで、ホンマ。常に、魔王ゲルキアデイオスとは戦わなければならないと言う事を、
留意して欲しい。ならばこそ、我々は先代の前に襟を正し! 士気を高め! この戦局を
打開しなければならへんっ! 人類全体の、明日の為に!」
霧島薙は国葬を欠席していた。これにはラティエナ本営も賛否両論だった。どう、事態が
推移するのが、読めないからだ。
「マスター」
「それは、私に、奢らせてもらう。宜しいですか?」
彼女は未成年なのにバーテンで一人で飲んでいた。
「親衛隊のモノだな?」
「流石ですな……分かりますか、陛下」
霧島薙は転生者ではないが、仮にも、暁の血を引くものだ。
「匂い、だな……松風ストックウェルの手のモノの」
「閣下はお話を訊きたく思っておられます。御身の為かと思いますが……弁明をなさった
方が」
霧島薙はTVに目をやった。
「まぁ、待て。今、いいところだ……」
演説も佳境に差し掛かった。
「しかしながら、共和国のモグラどもは自分達のみが人類の支配権を有するとして、我々
に攻撃を加えた。諸君の父も子も、その無分別の暴力の前に、死んでいったんやで? 当
然、この悲しみと怒りを、忘れてはならへん。それを先代は、死を以て、我々に示してく
れたんや!」
『オオオオオオー!』
一際、大きな声が地響きの様に起こる。
「我々は、今、この怒りを結集し、共和国軍に叩きつけるべきや! そうしてこそ、始め
て真の勝利を得ることができる! この勝利こそ、戦いに斃れた者達への、最大の慰めと
なる。国民よ、悲しみを怒りに変えて、立て! 国民よ! 我等、ラティエナ王国の国民
こそ、聖戦を戦う使命を負った、神に選ばれた民であることを、決して忘れてはならない! 
優良種の選別を行うエクソシストの大義こそ、人類を救い得るるんや!」
142

片瀬拓也 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る