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第四十三章『正義の疾風』

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ラティエナ王国、ブラナタス共和国に戦線を布告――
「私にも敵が見えますわ……」
(視力回復で再び見る世界は、塵と残像……そして、淡い影)
旗艦フリートエルケレス率いる残存艦隊で高雄へ侵攻。不知火のTS砲で敵陣を崩壊させ
突き進む。
「春風、桃花の頃に契りを結び、以来、大旱に雲霓を望み丸一年。今、乱世に、我が大王
の道を拓くのですよ!」
大淀葉月がクルーに気焔を焚きつけた。
 ズルド・フェニムス指揮所――
「流石、ファリーナ地上空母・零式。よく支えてくれている」
憑依していない空戦機甲の運用には、巨大な補給設備が必要だった。それを可能にしたの
が、この超弩級空母である。
「我々の魔力カートリッジの残数ならば、後、十年は戦える」
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 ラストタイケヌサ城の北十里――
 松風ストックウェル七軍が布陣、その数、約三万。
「霧島薙だー!」
「将軍、霧島薙が打って出て来ました!」
(この悪天をモノともせず、城攻めと野戦を繰り続け、まだ士気は下がらん……よくぞ、
ここまでラティエナは兵を練り上げたな! しかし、その士気も統率も、霧島薙よ、今や
貴様一個が御しているに過ぎんのだ!)
「――霧島薙撃砕!」
(霧島薙よ、この暴雨一陣に黒血を洗えい!)
『カキィィイン!』
機体の斜め、レーダーには映っているのであろうが、霧島薙の空戦機甲は巨体ゆえに、自
機を完全に把握する事が難しく、恐らく、死角部分。それでも、彼女は有線クローアーム
から繰り出すメガ・オーラ・ソード・ライフルで弾き返した。
「バード! 今、一度、貴様に忠義と孝悌を回復する機を与える!」
バードは戦慄した。敵の的が大きすぎる。重鈍に見えて、その、運動性能……そして、何
よりも、自らの渾身の一撃をなぎ払った、そのオーラで構成された刀身は、霧島薙の搭乗
する巨大空戦機甲と約同程度の長さを誇る、出力ッ!
「笑止! 我らは貴様、同様、二君を戴かぬっ」
戦のもたらす結果ほど不確かなものはない。勝利とは、新月の薄明の中で物を見るような
もの。ごく僅かの偶然が、百の策も万の備えも崩してしまう。おまけに相手は法則外に強
い戦の天才。
(でも、殺れるやも知れぬ……あの、足と足の間にある本体よりも長い、巨大なプロペラ
ントタンク。あの魔高炉さえ破壊できれば、ナノトレーダス合体できない物理属性のかつ
ての主君は張子の虎だ)
そう、首。猛将と矛を交えて首を刎ねられ戦場の屍となる。天下人でありながら、霧島薙
は……自分のそういう死に様を肯定していた人間。
(だから、霧島薙には、死よりも激烈な責め苦を与え踏み躙る。自分の力の悉くが崩れ落
ちてゆくのを味あわせ、辱める! しかし、それも、もう諦めた……むしろ、あの魔高炉
こそが本体! この場で嬲り殺す!)
松風ストックウェルは白銀の蝙蝠に向かって突撃した。
 ――霧島薙は霊力で作った大剣を構えなおした。魔高炉はエネルギータンクであり、精
霊憑依は属性レベルを上げる事ができる。直接、TS砲の様に魔力を放出する例は稀で、
精霊を増殖炉にしてエネルギー変換効率を高め、魔科学で武装するのが現代戦だ。しかし、
霧島薙は物理属性の為、属性レベルを上げる事ができない。物理属性とは『属性場に身を
置かない』と言う意味である。よって、彼女は純粋魔族の神官クラスが使う、アストラル
サイドからの直接攻撃を遮断する。しかし、同様に、霧島薙は魔科学戦において、異次元
空間全てからの攻撃も無効化する。因果律を全大気中まで満たす精霊元素が支配し、物理
法則に霊力が干渉する為だ。そうでなければ、ファンタジー世界に女剣士は存在しない。
11次元空間の演算処理をしても、掠りは擦れど、直撃には至らない。稀に、無属性と混
同されがちだが、無属性は『属性を有していない』に過ぎない。ただ、通常、物理属性に
巨大な魔高炉を外付けしても、稼働時間は長くはない。
「ならば、仕方あるまいよ……褐色の狂気がお相手する! 北上加古、妙高リオル、ジェ
ットストリームアタックだ!」
ドダイMK-Ⅱに乗った軽装魔道士のロイヤルガード二人。彼等は廃マジなので、特に武
装を必要としない。不知火と同様、黒魔術の魔力障壁と実弾防御のオーラバリア、そして、
地上に平行に飛べるだけの機動性を有した、詠唱の刻印を安定させる為の足場を確保する
飛行ユニットさえあればいい。不知火と違い近接戦はする必要がなく、後方援護、ミドル
レンジからロングレンジで相手の左右への動きを止める。言わば、牽制役。
『ドガガガガガガガガガッ!』
行き場を失った松風ストックウェルは霧島薙の駆る巨大空戦機甲の正面に向かって突撃し
た。大型ショルダーについた偏向オーラキャノンを減速することなく回避すると、一瞬、
白銀の蝙蝠の動きが止まった。ロングレンジ仕様の口径のメガ・カノンをこの距離で放て
ば、完全回避することはできない。しかし、仕留めるには至らないのは予測できた。
(ヤツはこの程度では墜ちない……フッ、しかし、これは罠なのだが!)
「甘い!」
松風ストックウェルが隙を突いて見事に巨大空戦機甲のがら空きとなった正面・懐に飛び
込んだ。そして、磨き上げられた剣技。純粋な剣術だけで勝負したら、この大陸でも、山
城アーチェ以外は勝てないレベル。人間の宿す霊力の限界。金剛吹雪は魔力を変換してい
るし――
(アレからは人外の生命力を感じずにはいられないな!)
松風ストックウェルは白銀の蝙蝠が向かって右のアームから繰り出した、最後のメガ・オ
ーラ・ソード・ライフルの横薙ぎを身を沈めて掻い潜る。
「獲った!」
しかし、彼の逆袈は空を斬った。あれだけの巨体が目の前から瞬時に消えたのだ。しかも、
相対速度はロイヤルガードの援護射撃で、接敵する直前まで、両者を足すと、お互いの速
度の倍近く。メガ・カノンを発射する瞬間だけ長距離砲の構造上、ジェネレーター出力が
下ってオーラ機関(コンバーター)が止まったが、そこにはいない。彼は『答え』を知る
由もないまま、次の瞬間には散っていた。
『ちゅどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん――』
(我等は神罰の地上代行者、私は一切の矛盾なく、貴様の夢を打ち砕く。さらば、我が友!)
肩アーマーに装着されている真横に向けた大型スラスターで、360度一回転しながら、霧
島薙は有線クローアームでバードを撃ち抜いていた。むしろ、旋回速度だけなら山城アー
チェや金剛吹雪より、このデカブツの方が弥生かに速い。通常空戦機甲と同じ速度では、
巨体ゆえに狙い撃ちされて被弾する可能性から、直線速度にやや難点はある。そして、剣
術や魔術の応用ができない。いや、むしろ、精神力が桁違いに高いが、出力する方法が生
身の状態では霧島薙にはない。オーラコンバーターに感応波を送って機体を支えている。
精神力の高い人間は感応波を元よりコントロールできる為、エネルギー効率を抑えられる。
 ――とは言っても、別段、伝承魔導師の子孫である不知火クラスの精神力が低いわけで
はないが、取得スキルの数の限界値とスキル合成。属性相性を考慮に入れると、燃費の良
い、小技を習得する訳にもいかなかった。人の脳は12歳までが最も柔らかく、そこから
15歳ぐらいまでは、思春期(反抗期)によってコンセントレーションが乱れる為、12
歳までの知識を土台に中学時代に不安定なアストラルサイドを制御して飛躍的に伸ばすの
は難しく、16~18が正念場。魔法学園の高等部はその為に存在する。そして、18か
ら頭が固くなり始めて20で完成する。そこから先の年齢は、魔法や新技を覚えても脳が
忘れる。民間の仕事の場合は、それでいいのかも知れない。一般的に30代が余計な事を
考えなくなるから、反って集中できる――40~50が働き盛りという人もいる。
 しかし、彼等は軍人なのだ。霧島薙は幼少より属性を会得しなかった。そして、この年
齢で強靭な精神力だけを手に入れた。今は小学生だが、既に精神的に成熟を超えて、老成
すらしているので、中高でも一直線に伸びるだろう。人間の脳細胞の寿命は130年だが、
霧島薙の精神年齢は脳の限界である130を軽く超える計算になる。もっとも、高齢者の
精神年齢は退化の表れであり、ボケがはじまる40手前までしか精神力は維持できない。
通常の人間のいう強靭な精神力とは、30歳ぐらいを指すだろう。つまり、柔らかい脳を
中高時代は自制心が弥生かに超越する為、20まで維持できる。最早、神の領域と言って
良い。何故ならば、本能すら、特に何も意識することなく、精神力が自然体で自制するの
で、30歳まで、見た目がロリのままである。唯一、問題があるとすれば、飛躍的に破壊
力を増すスキルを会得する為の、今やTS砲に代表されるようなスキル合成はデキない。
「……認めたくないモノだな、若さゆえの過ちというものは」
人生に回り道は許されない。自らを高尚な人間だと思っているからではなく、軍隊は人殺
しでしかない。だからこそ、犠牲者を最低限に抑える為、迂回ルートの選択の余地はない。
先制して叩く。不知火は自分を利用しているつもりかも知れないが、霧島薙は本心から不
知火の作戦立案及び彼女中心の指揮系統を受け入れていた。
(そういう意味では、コヤツも焦っていたのかも知れんな……死に急ぐとは、年寄りにし
ては見上げた根性だっ!)
 ――松風ストックウェル元帥、戦死。
それは、国手であった自分の責任でもある。
「これぞ、武門の誉れなり。さらば、義の烈士よ!」
彼女は自分なりに刃を交えた敵に弔辞を述べた。殺すか殺されるかの戦場で、これ以上の
言葉を敵には語るに及ばず。然れども、一時ばかり『ふーっ』と息を吹いた後、霧島薙は
黙祷した。
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 フリートエルケレス飛行看板――
「敵襲! 先鋒三千、両翼五千。陣形は錐行!」
空中神殿に高雄軍、二万が布陣。
(陣形を変えようが、艦は動かん。そろそろ、繰り返す攻め手に微妙な馴れが生まれる頃
ですね――その馴れを衝けばッ!)
「俺様の出番だ。先鋒武将を刎ね士気を一気に下げてやるぜ、ガハハハハハハ!」
この雷暗、生まれは尾張のうつけと当学園では評判だが、実は表裏が激しい人物である。
 そう、思案していた雷暗の背後から、意外な人物の声がした――
「この艦は王国の艦隊の要、不沈は絶対っス。自分はその指揮官……だが!」
「ヴィクトリア将軍!?」
振り返ると、そこには、空戦機甲を装着し、フェアリーのパーフェクト・メトロノームを
憑依させたヴィクトリアの姿があった。天使の翼を開き、カタパルトデッキに脚部を固定
している。金色の翼で、敵を蹴散らさんと……
「変われ、雷暗中尉――」
(愛天使の怨と弔を知れい!)
出撃していったヴィクトリアのゴースティカル・シャルドゥエ機甲・ゼロ・カスタムは、
あっという間に先陣を行く隊長機を叩き落した。
「おお、瞬く間に先鋒の将を!」
(もどかしいっス……こんな将兵を幾ら斬り殺そうと、自分の弔意が蚊の涙ほどにも表せ
ない!)
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 ヴィクトリアは敵陣に向かって叫んだ――
「高雄!」
(まさか、ここで議長と!?)
「カマンダラ=高雄!」
一騎討ちも城攻めもあくまで、自分の原則。それを敵にまで強いるヴィクトリア。
(艦隊戦の攻防は個の武で決するものではないですよ……しかも、凡庸空戦機甲どもにと
っては、今こそ兵を動かし、艦を囲む絶好の機! オイオイ……戻ってくだされ、ヴィク
トリア閣下。議長が応じるとは、思えん!)
 雷暗の予想とは打って変わって、議長は名乗り出た。
(先代……彼奴でも貴方の命の見合わないっスが)
「暗黒大将軍、ヴィクトリア=千歳。呼ばれれば必ず応じねばならぬ名だ」
ジリジリと互いの間合いを計る。
「一対一の格闘など、所詮、匹夫の蛮技。将たる者として、むしろ、恥ずべき心得だが…
…己の力で道を拓くのが、武の真髄なれば!」
高雄が、気を吐いて構えを取る。
「天下に仇をなし、馬鹿げた夢想を仄めかす! これ以上、民草を煽動するのであれば、
容赦はしないっスよ!」
(霧島薙殿、曰く……一撃目は必ず受ける。それが高雄の武! その尊大な余裕を、この
先代の遺刀で突く!)
『カキィイン――』
「然りだ、ヴィクトリア。共和国議長のポストは重い……が、重いが故に問いとなる」
青龍刀がヴィクトリアの羽にカスった。
「世界を統べる転生者に抗う民族自決の本義こそ、打倒、王制復古という民主主義を掲げ
た聖戦を呼び水とし、今、改めて教皇庁に答えを迫る!」
両者は睨み合う。
「そうっスか――やはり、議長。既に、お前は時代錯誤の老害っス」
ここは落とせない一戦。ヴィクトリアの方が若干有利とはいえ、退路が相手にはある。高
雄を引っ張り出す為に、ヴィクトリアは、少々、敵陣に踏み込んでいた。
「まるで、唯の屍の様っス」
一騎打ちでケリがつけたい。ヴィクトリアは、そう腹をくくって出てきた手前、罵ったが
『フフッ』と自然と余裕の笑みが出た。武者震いだ。取り分け、自分が突出して一騎打ち
を望めば、議長が応じる確信もあった。最高権力者同士である為、この一騎打ちで一切合
財終わるので、余計な死人が軍人に出ない為だ。議長は応じなければ高雄軍の士気は落ち
るし、脱走や造反も増える。各方面で投降する部隊も出てくるだろう。それが解らない山
城アーチェの教え子である雷暗を馬鹿にして、笑ってしまっていたのかもしれない。
(我ながら呑気っスよねー……)
先代が死んだ以上、王政復古は否定しない。多少、強引なやり方で議会を掌握する必要が
ある。場合によっては、自分は陸相でしかないが、クーデターを起こして軍事政権を発足
させるハメになる。
(あの小娘の業と業は表裏一体)
ヴィクトリアは不知火を思い出していた。別に単なる高校生を法で裁こうとは思っていな
い。恨みはすれど、霧島薙も同じで幼すぎる。ただ、魔力が強いのだから仕方がない。
(しかし、考えがまとまらないのに、目の前の敵には集中できている)
この一騎打ち、単純に戦闘力を比較すれば、風水や星座、何座生まれ何年、何月生まれ―
―そういったものから運勢を瞬時に判断して未来予知の近似値を導き出す『スラッシュ・
ゼロ・システム』を搭載したヴィクトリアが有利。議長の空戦機甲は精霊憑依を確認でき
る。部隊化して実戦配備できないのは精霊が宿った武具・アイテムを集められないのだろ
う。
「ふむ……古事を准えば、盟とは人と人が己の本体を明らかにし、天神に誓って結ぶもの
――だが、貴様はその誓いを、何故(なにゆえ)か詭弁で汚して戦いの具とした上、姑息
にも、我らの背後を忍び侵したっス」
ヴィクトリアは、通信で敵味方・全軍に聞こえるように回線を開いて言った。
「詰まる所、カマンダラ=高雄には、義なく実なく心もなしっ。然も在りなん、貴殿は凡
そ民の上に立つ器に非ず! そして、如何な乱世であれ、この、邪な所業を罷り通すこと、
ワシが眼の黒いうちは、絶対に許さぬ!」
何故(なにゆえ)~とヴィクトリアが言った理由は、高雄の狙いが読めないからでもある。
そして、元国家元首の霧島薙=スウィネフェルドは何も喋っていない事を敵軍に知らしめ
る狙いもあった。事実である。これは、戦に負けた場合、最悪、霧島薙を助ける名分も成
り立つ。捕虜になった場合、もしくは、休戦後、責任の追及。そういったケースで救える。
イマイチ、ラティエナ王国を彼女は信用していないから引っ張り込むのも狙いだ。信頼を
勝ち取ろうとする反面、霧島薙が間者であった場合、情報の漏洩がない事を敵に、態々、
教えてしまうリスクもある。そもそも、何も情報を喋ってない宣言がブラフ……というか、
安いハッタリにも聞こえるが、かく乱になるかも知れない。だが、最も憂慮すべきことに
通信回線を開いて怒鳴った後に彼は気づいた。霧島薙が母国の情報を軍に提供しない理由
が、議長や教皇庁に弱みを握られている可能性も否めないことだ。
(ハッ!? もしかすると、大量のパツキンロリ美少女クォーター日本人の11歳のロリ画
像が……)
『ブッ!』
ヴィクトリアは言ってから妄想して鼻血を吹いた。自分が数万の兵士相手にロリコン宣言
した様なものだと、
そう考えたら、不覚にも興奮した。ヴィクトリアは放置プレイに目覚めた!
「要するに、貴公等は此方の勧告を呑む気などないのだな……」
議長は動揺しているヴィクトリアが腑に落ちない様子だったが、とりあえず、相槌を打っ
た。
「勧告するのは我等の方っスよ」
再び、ヴィクトリアが高雄に斬りかかった。再度、交錯する二人。
『――パキィイン』
「貴様に青龍刀は十年、早い……武技が、紙一重で生き残る足しになったっスよ?」
高雄が手にした青龍刀は真っ二つに折れてしまっていた。
「明らかに八分の力となったものを斬り殺せば、武が廃るっス。神殿に戻り、守るがよい」
ヴィクトリアは血反吐をペッと吐いた。口の中を噛んだ様だ。
「病人は少し黙れ。戦はこれからだ――」
鼻血を病気と勘違いした高雄議長は、ゆくっりと、自陣へ後退していった。
(……ここは、鼻血の『真実』を周りに悟られぬ為にも、政治的アクションが必要! ピ
コーン!)
「全軍に通達……敵が幾千ありとても、突き破り、突き崩せ! 戦列を散らせ、命を散ら
して、その後方へ、より後方へ。ヤツの眼前に立って見せろ、俺の様に。死んで逝った、
あの年老いた、唯の人間の男のために。あの男の代わりにに、あの男の様に、ヤツの心の
臓腑に銃剣を突き立てて見せろ!」
幼き頃にヴィクトリアの見たラティエナ王の背中は、とても大きかった。色褪せた記憶だ。
『別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?』
人間とのハーフ故に天界では鬼子と忌み嫌われ、人質として人間界に捨て去られた自分が
消されそうになった時、助けてくれた若き日々の王の声が、今でも、心に語りかけてくる。
 その後、深き悲しみの中、少年は翼を願った――声を殺し泣いた、遠い記憶。自分の翼
が全て黒く染まった時、世界は崩壊すると恐怖していた。今では一人で立てる……が。
「良いやろ。せやったら、皆、ついて来い。これより、地獄へまっしぐらに突撃するさか
い! いつもの様に、ついて来んかい!」
ラティエナ王国による総攻撃の命令が下った――と、同時に。
「ヴィクトリア、お前は激している時が最高や」
女王はそう付け加えた。
『どうやら、ヴィクトリア君は、最近、友達が増えました』
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 山城アーチェ率いる魔法学園の空戦機甲部隊と、白鷹の軍がバレンヌを挟撃! 時を同
じくしてビッグブリッジより金剛吹雪、ルリタニア――別道より不知火、若葉がセイルー
ンを急襲! さらに北からはマタンゴ族の大群が侵入し、セイルーン北部を占領! ミル
マーナ・アリアハン各地で賊徒が叛乱! 次々と官舎を襲って金品をばら撒き民衆を煽動
しておりまする! クレルモンフェランより急報――ッ! 霧島薙、五千のスウィネフェ
ルド義勇軍が松風ストックウェルの包囲軍を撃破! 共和国の将軍らは次々と霧島薙に首
を刎ねられ、高雄は本拠、ファンダリアに撤退いたしました――ッ! その後、霧島薙は
奪還したアルマムーンの兵に加え、松風ストックウェルの残兵を併呑し北上、ノースシテ
ィの軍と再び合するや暴終空城を突破! ヴェーンからはヴィクトリア、二万が合流。霧
島薙、暴徒を糾合しつつ合流ポイントへ、その数、二十万!
「よしっ、ほんなら、ミッドランド始まりの都、ウィンダムを返してもらいに行こか!」
決戦の時だ。普岳プリシラは気を引き締めて言った。
「これより、本艦は離陸する。総員配置につくように――これが最後のクルーズや、今度、
地上に降りる時は、我々は、ラティエナ本土に帰還しておるやろう! 発進!」
 時を遡ること、数日――
「アサティス、アスワン。左右両脇!」
「は!」
ここは、霧島薙陣営。
「北上加古、妙高リオルと二段に構え付き従え! 全軍に通達。十字を背負い、死ぬ気で
炎を駆けろッ!」
敵将松風ストックウェルを討ち取った後も、数倍の包囲網を前に霧島薙軍は奮闘していた。
「御意!」
「御意!」
(ありがたや。北上加古は、この道を御伴する為、生きてきたっ)
「見よ! 義侠の兵どもよ!」
(普岳プリシラ姫を戴く霧島薙様の道は――至純にして永遠不滅!)
「天道は何処までも燦爛と光り輝いておるぞ!」
(目映いばかりに清く、そして、強い! お仕えいたそう、私の宝だ――)
152, 151

  

 山城アーチェは夢を見ていた。彼女は、先の戦いで自らが庇った霧島薙について考える
事が、この戦の合間に多くなっていた――
(輝く美しさと深い闇を持つ少女――ラティエナ正規軍の軍監がどう講評するかは知らん
が、私の評価では、ヤツは……満点だ!)
 元来、理性の少女が、理では計れぬ侠に身を捧げて、侠、そのモノになり、やがて、侠
を越えてゆく。それは『霧島薙』としか呼べぬものだ。それでも歴史は、一人で万の兵を
屠る、その武を以って霧島薙を語るのか? あくまでラティエナの臣下として、その名を
語るのか?
(――霧島薙、私がお前を表すぞ!)
 仁、義、礼、智、忠、信、孝、悌……古より聖人達が億の言葉を連ねて説いてきた人の
美しきモノ。武人の精神。だが、屹立する霧島薙の姿は、クレアバイブルの写本よりも雄
弁ではないか! この肉体から発現するモノは大陸の人間を揺さぶり続ける――いや、更
にだ。この姿を尊ぶ者は、人類を越え、エルフ、ドワーフなどの妖精界、神族の住む神界、
悪魔達の巣食う地獄へと、人類の経験領域を更に拡げてゆく――
(無数の人間がお前を欲しているのだ! ……私や若葉の生命は、今、この時代に全てを
使い切り尽き果てるべき生命。だが、霧島薙! お前は時空を超え、無数の生命となって
蒼天を飛翔し続けろ!)
「あの……山城アーチェさん?」
望月の声で目が覚めた。
「あらあら、うふふ……貴重な一睡を妨げてしまいました?」
「いや、貴重な夢だ」
(しかし……一人の霧島薙でさえ、こんなに可愛いのに――私は何千もの霧島薙を殺した
のだ。聖職者失格だな)
 後戻りは、もうできない。
 終戦――
それでも、ズルド・フェニムスは難攻不落だった。
「この戦争が終ったら、ウチ、国に帰って金剛吹雪と結婚するんや!」
(無茶しやがって……)
誰しもがそう思ってる中、大勢は引き分けと決まった様だ。
「流石は天下の名城、落ちないか」
山城アーチェが、むむむ……と軍略図を睨む。霧島薙軍が数に任せて突撃を繰り返すも、
中々、突破口すら開かない。
「ソーラ・レイは既に破壊済み。一度、退却すべきっス」
 現に、教皇庁は、新たな『法王』 NATO・ルーン・響の選定を始めていた。こうし
て、第一次ラティエナ・高雄大戦αは、幕を閉じたのである――が、しかし。戦に終わり
はなく、いつ、再び、第二、第三のソーラ・レイ・システムが建造されるかは見通しが立
たない情勢、故に! 世界の平和を守る為、頑張れ、魔法学園! 負けるな、若葉!
 
 『僕等の戦いはこれからだ!』

――中編(完)
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