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第六十九章『大和大掾』

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 『それは、初代の藤原正則作で本見一振り400~900万円、地方行政などが指定す
る有形文化財である。時代は慶長から元和――しかし、桃山期に分類される。折りしも、
大坂夏の陣の直後が元和元年である為だ。この、何の変哲もない一振り。時代の流れと共
に作者の迷剣と化した。発端は、うた沢の創始、笹本彦太郎が歌沢大和大掾という名を嵯
峨御所より受領するに始まる。掾号を受けて一流を樹立した後、幕末期、色葉韻歌沢大全
なるものを完成させござ候――その中に、因州いなば節という舞がある。内容はイケメン
に限る(調べたが余には意味が解らぬ……)と言ったモノで、はじめて、殿方と寝たとき
の感想を(以下略……後で、もし、二人が見たら、しかと、如月八房を殴るように。雷暗
は許されるなるほど、こういう意味か?) ……しかし、この唄。鳥取川と表記があるが、
これは千代川支流等も含めると解釈できる。理由に、鳥取砂丘とは一般的に千代川の東側
を指す(中国山地の花崗岩質の岩石が風化し、千代川によって日本海へ流されたあと、海
岸に集まったものが砂丘の主な砂となっている)しかし、西側はどこで途切れているかと
いうと、日本で最も大きいとされる池(正確には池と言う区分はない)から流れる小川を
挟み、白兎海岸の手前、伏野海岸で途絶えている。白兎海岸の砂浜は造成されたもので、
砂を他所から運んできた物であり、恐らく、砂丘を眼前にして、伏し目で(嫁が)見下ろ
す野という意味で、伏野と呼ぶ。湖山池は江戸時代、地主の水田だった史実があるが、一
方で、砂丘地帯を耕作していた農民は、田畑を耕すのがおとおの仕事、水を撒くのはかか
あの仕事と呼ばれ、これを指して、嫁殺しという言葉が郷土史に残っている。そこから派
生したのが、ご維新の後、士農工商が廃止され、嫁殺しから開放された喜びを表現したの
が、因州いなば節であると推測される。
 最後に余が補足しておく。因幡の白兎を赤兎と掛けて、隠岐諸島に結びつければ、出雲
神話は高野山に類すれど、雲伯地方は確かに弥生時代の古墳の形が合致する。しかし、あ
まり知られていないが、大社(大赦)から出土した最古の鳥居はスサノオが存命していた
時代のモノだ。中海という言葉は尼子の方言で、雲伯方言と島根半島の方言は全く異なる。
文法は同じだが、既に、喋る人はいない。徐々に、なかったことにされている。上記した
嫁殺しも、言葉狩りの対象だ。尼子は鹿野城(山中の鹿の一文字)まで攻め込んでいる為、
鳥取にも以前は、中海という地名があった。中海には大根島という島があって、牡丹祭り
毎年行われている。八犬士の牡丹の痣の由来は、ここで間違いではない。年間約180万
本が生産され世界でも有数の牡丹の産地でもある。 そして、中海分校と伏野小学校が合
併して尋常小学校が設立されているのは、蝦夷に屯田兵を送る為のプロパガンダで、釧路
には鳥取村があった。これは、討幕運動に因幡の国は加勢し、最初の県庁は城郭後に立っ
たほど。県庁所在地と県名が島根は違うから、説明は要らないな――千姫に掛けられた秀
頼の呪いが、里見家取り潰しになったのは、こういう理由だ』
 霧島薙の書いた文(ふみ)に書かれていた内容だ。これは、天女の文ではないから、火
遁で燃やさず読めと仰せだった。そして、出撃時刻に間に合う五稜郭からの撤収、ギリギ
リまで、ルリタニアは村雨を探すつもりだった。後は強化するだけだ。
「融合遺伝子は証明されるかもしれないが、本当にそれでいいのか?」
ルリタニアは如月八房に答えていた。
「これが、最も筋がいいわ」
その大和大掾藤原正則には細工がして合った。
「やっぱり、その刀身の彫刻か?」
「ええ」
龍の彫り物が施してあった。
「全く、呪力を感じないが……」
雷暗は呟いた。
「むしろ、逆よ?」
如月八房は聞いた。
「どういう意味だ」
見れば解る。
「これはね、本物だと確信があったからこそ、鑑定書がなかった代物なの」
「あー、なるほど。税金を支払うのが惜しかったのか」
正解であり、この『作者』は相続税を払うのを嫌った。しかし、税務署が持ち主亡き後、
この刀を調べた。民間の骨董品屋で日刀商の判を鑑定書に捺して貰うと、450万ずつ課
税されるなら、先祖代々の家宝にはできない。
「本土で税法を撤廃した以上、ここのマルサが『組織』であっても、それこそ不思議じゃ
ないわ」
「三次元から二次元を攻撃する方法。自分達を舞台役者に見立てて、大宇宙の意思が創造
主たる筆者になる」
この世界を作るには、ビッグ・クランチを起こす必要があるが、魔術体系の実験場として
異世界が必要になる。その時、無から有を生み出す力を使い、大量の位相空間を作る。そ
して、最終的には虚無から新たな世界を創造するのではなく、龍田フィリアが無限に『注
水』して『運命』を排除した。
「大宇宙の意思を破壊する為には、こういった『イデア』が必要なのよ」
『作者』は伝統工芸の匠ではなく、死んだ祖父の知人であり、個展を開いている方に描い
てもらった龍をプリントアウトして、研磨しても『消えない深さの傷』を――強度的に問
題がない刀身の根元に、工業用ダイアで掘った。
「値は落ちたらしいわ、遺言で脇差以下の値では売るなって」
ルリタニアは精巧に描かれた龍を見て、そう言った。
「とてもじゃないが、桃山期の技術ではないですね」
雷暗は如月八房と違って、一目で、そのレリーフが科学技術であって、古典美学ではない
と察した。
「この世界の唯物史観であり、あらゆる形而上学に対する侵食を可能にするわ」
しかし、魔術体系とは『創造』であり、創造論は唯物論に反目する。そして、雷暗は別の
角度から反論した。
「それは、言い換えれば『逆説』も成り立ちます。私に言わせれば、だからこそ、この世
界には四大元素と五行が存在が肯定されるのです」
ルリタニアは確信して言った。それは、旦開野が女田楽師に変装していた為だ。
「唯物弁証法……遂に見つけたわ。稗史のヒエラルキー闘争を可能にする『架空』の剣! 
革命の代数学!」
その時、彼女の出した答えと、大坂へ向けて出立した霧島薙の考察は一致していた。
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