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第七十七章『全知全能』

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 王宮は霧島薙を居城として、若葉の両親が警護。西へ赴けば、回廊にはルリタニアと如
月八房が分校でガルムス・デラス隊を士気。北はタイケヌサ城を主として、機動部隊で議
長勢と鍔迫り合い。東はウィルザッポル魔工兵団を6師団ほど編成して、浮遊大陸で外洋
諸国との接触を防衛。そして――
 年明け、ここはクックルーン大聖堂。
 不知火は王立魔法学園をトップで卒業して、神官の検定が受けられる学部を、前期試験
にて受験していた。
(無理が通らば、道理も通る……ですわ!)
 没落貴族である彼女は、お家再興を目的とした試験となる。そして、彼女が合格した後、
クックルーン教皇庁は税務調査会を行う手筈となっている。試験の為に下宿地に滞在する
ビザは3日間。
「ふぅ……」
流石に難関だけあって、一筋縄とはいかない。
(――ここが正念場ですわね)
与野党合意の税務調査会となれば、議長は偽証罪に問われる。軍国主義において、この予
罪は免罪符にならない。その為の治安維持法であり、治安維持法の元、浮遊大陸落としの
統括者は処断される
 結局、学園に残ったのは若葉と大淀葉月だけになった。望月が高等部、カシスが中等部、
望月タキジが初等部と、教員も本来の形式になった。
 キーン、コーン、カーン――
『それまで!』
試験時刻が終了した。不知火は昼食を摂る為、受験室を後にした。そして、近くのファミ
レスで昼食を食べている時に、不意に、声がした。
「君がアレか……そう、空戦機甲の魔女」
見知らぬ声だったので、顔を上げて振り向くと、そこには、最近、見知った顔の人が居た。
「あら、お初にお目にかかれて光栄ですわ。柿寄中将殿」
「今の私は長官代行だ」
霊的無能ではないので、不知火が愛想を振り撒いたにも関わらず、やや、連れない返事だ。
「安心し給え。議長は『私』が、必ずや、社会的に抹殺してくれよう」
「大した自身ですこと」
相席を許した積もりもないのに、准将は同じテーブルでサラダとコーヒー牛乳をフロアス
タッフに頼んだ。
「ここは私が持とう」
「結構ですの」
拍子抜けをして、中将は『ふむ』とだけ言った。
「ちなみに、自信の程は? 受かりそうかな?」
「誰かさんと違って、学業をサボった経験はありませんことよ」
はっはは……と、柿寄は乾いた笑いをした。
「私も資格試験の最中なのです」
うだつの上がらない青年が、レタスにフォークを付き立てムシャムシャと食べている。敵
陣と言うのに、まるで、緊張感がない。不知火は気が散ると思ったが、准将は無神経だっ
た。
「議長を攻め滅ぼせば、教皇猊下、大元帥と並んで大将閣下に昇進なさるのでは?」
「それに並んで、陛下が居わすべきなのだが……」
敵意と早合点した不知火は『キッ』と睨みつけた。
「うーん」
しかし、どうやら勘違いだったらしく、柿寄は普通に悩んでいる。不知火の敵意を感じ取
った彼は訂正した。
「あ、いや。申し訳ない。私は――その、ナンだ。自由主義者だから忠誠心という物に乏
しくてな」
面倒くさそうに准将は前髪を掻き揚げた。
「本当に冴えない方ですの」
「人類哲学というものだ。陛下という言葉は波風が立つ」
ここに来て、出会ってから始めて、マトモなことを言う。席を離れるには行かなくなった。
「今度の議長討伐は新たな議長を選出する、重要な弾劾となる」
辺りがザワついた。
「そうなんですの?」
「君達のやり方では埒が明かない。私にはそういう情報が、何故か舞い込んで来る」
大きな時流に巻き込まれているに過ぎない。不知火は腑に落ちない顔をしていた。
「安心し給え。学生は学業に勤しんでいればいい。学生の本分は勉強だ。取り分け、貴方
に限っては、落第も面倒を見よう」
「それはどういう――」
不知火の発言を遮って、明細を持って准将は席を立った。
「それだけ、言いに来た。試験の方、頑張ってくれ給え」
「あ……」
しばらくして、午後の試験が始まった。彼女は、自分なりにベストは尽くせたと思った。
思い残す事もない。帰国後、若葉と再開して、互いに勉強に励んでいた。
 そして、数週間後――
 前期試験の発表と共に、不知火は若葉と大淀葉月を連れて合格発表を確認する姿があっ
た。それは、長かった高校三年間の終わりを告げていた。
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