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第十四章『ブレイヴ・フェニクス』

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 そう言って、山城アーチェは再び職務に戻って行った。
「じゃあ、僕達の部屋を案内するぞ」
若葉と不知火の部屋へ案内されたが二人とも魔術の勉強が忙しく、あまり、片付けられて
は居なかった。途中、大淀葉月の部屋にも立ち寄ってみたが、留守だった。此処、以外に
行く宛てのない大淀葉月が外出とは珍しい。
「今日は不知火の部屋に泊まって、明日、帰るんだろ?」
「うん、そうするつもり」
自分達は明日から地獄の合宿が始まるだけに、こうして家族との再会の時間は素直に嬉し
かった。
「二学期から私様も此処で暮らすのね」
「まだ、受かると決まった訳ではないよ」
若葉が釘を刺した。
「大丈夫、自信はあるわ」
やれやれ、と若葉は思いながら艦内を案内した。まずはブリッジ、そして銃座に機関室。
何せ前長が四キロもあるので移動に時間が掛かる。エレベーターを使っていたのだが、大
方、見学が済んだ頃には夜を迎えていた。
「んで、ここが食堂だ」
三人は食堂で晩御飯を食べた。その後、若葉の部屋でTVゲームをして遊んで寝た。
「じゃあね。また、会おうね」
翌朝、ルリタニアは帰って行った。数時間後――
「それでは、全員揃っているな! これから合宿を始める」
まだ合宿の内容は発表さていない。嫌な予感がする……
「皆も知っての通り、宝剣ヴレナスレイデッカの憑依は失敗に終わった。この件を、この
まま終らせてはならない! 宝剣ヴレナスレイデッカは実体のある大淀葉月が変化してい
るにも関わらず召喚の後も再構築された」
そう。何故か、大淀葉月が空から降ってきて、宝剣ヴレナスレイデッカは力を減退したモ
ノの、存在していた。
「よって、理論上は劣化した宝剣ヴレナスレイデッカから、もう一体、フェアリーを抽出
する事が可能である筈だ。ここにバイオセンサーを作った後に残った、宝剣ヴレナスレイ
デッカの残骸がある」
まさか、合宿の内容は――
「そう。これから諸君には、この奇跡の残り香で、大淀葉月のホムンクルスを作ってもら
う」
若葉は合点がいった。それで昨日は留守にしていたのか。
「つまり、光属性の空戦機甲を、もう一体、作るんですね?」
「でも、作った所で、憑依できなくては話にならなくってよ?」
不知火の眉がピクンと跳ねる。
「その点は、恐らく、大丈夫だ。これだけ、少量ならば、人類の危機がそこまで差し迫っ
てなくても憑依は可能だ」
ラボに全員が入った。
「ホムンクルスって三日でできるんですか?」
若葉が不知火に尋ねた。
「ああ、多分な。分身の術の類で四身の拳と呼ばれる体術がある。それの応用だ。設計図
を書いてもらってきた。古代ルーン文字で書かれているから、翻訳しなければならないの
だが……」
「一応、私は古代ルーン文字を読めなくはなくってよ」
流石は、天才少女だ。
「大淀葉月の魔術回路のトレースは済ませてある」
「大淀葉月に何か影響は及ぼさないんですか?」
若葉は人体実験を恐れていた。
「案ずるな、何ら心配は要らん」
各員が作業に取り掛かる。
「培養液の搬入、終わりました」
「ご苦労」
 男子生徒は隣の研究塔へ移動する。ホムンクルスは、当然、裸だからだ。その間に、男
子は投与する薬品を開発していた。主に、ナノマシンの活性化を働き掛ける薬である。
「こう云うのは、1‐Aの方が主導権があるな」
直接的な戦闘よりも後方支援に長けている彼等が、もっとも、得意とする分野の一つであ
る。
 二日後――風になれるよ、きっと。そして、想いが剣になる。
「完成した、ホムンクルスが完成したぞ!」
『オーッ』と歓声がラボに木霊する。
「目覚めよ、ラティエナ=ツヴァイことるな=シャルロット=タイケヌサ!」
『プシュー』とカプセルから、蒸気が出る。『ウィィン』とカプセルの蓋が開いた。
「ここは……私は、一体、誰なのだ?」
「ようこそ、エルケレス魔法学園へ」
山城アーチェは彼女に生まれた経緯を説明した。
「む、私は戦う為に生まれてきのかな?」
「そうだ、それは否定しない。唯、普段は適当に楽しんで生活してくれて構わない。でき
る限りの事は、最大限、提供しよう。私は、お前に可能な限り自由を感じてほしい」
山城アーチェはるなの目を見ていった。ホムンクルスが、倫理的な観点から非人権的と世
論から中傷を受けるのは覚悟の上だった。
「分かったのだ、正義の為ならば協力するのだー」
るなは快諾した。
「これだけ多くのフェアリーに囲まれていると、なんだか懐かしさを感じるのだ……」
るなにはレーダーが搭載されている。前髪がその役割を担っていた。
「上出来だ」
山城アーチェはるなの頭を撫でた。劃して、合宿は終わり夏休みも終わりを告げるのであ
った。
 ――新学期早々、吉報が届いた。
「ツヴァイ用空戦機甲、ファリーキングの搭乗者がこのクラスに転校してくることになっ
た。」
「普通なら、適格者がこれだけ短期間では見つからなくってよ?」
片目を閉じて不知火が山城アーチェに尋ねた。
「ふふん。予め、軍の特務機関が探していたからな。」
山城アーチェが鼻を鳴らして言った。
「飛び切りの逸材を見つけた。どこかの無能な新入生達と違い、こう、何度も新戦力の転
校生を連れて来れると云うのは、教師として、私は、運が良い。此れから諸君に紹介する
のは、神器装備者で光属性の戦士だ。良いぞ。入って来い」
教室のドアが開き、一人の少女が入って来た。教壇の横に立って挨拶をする。
「私の名前は金剛吹雪=ストックウェル。強化ルクシーフェレンスのテストパイロットと
して、招聘されたのであります。ガイゼリック・ストックウェルの末裔であります」
黒髪ロングの転校生は、ニコニコしながら長州弁で自己紹介を済ませた。
「ふむ。男だと聞いていたが、どうやら軍のミスのようだ。聖剣ボルケナアッサプナの討
ち手と言えば円卓の騎士だ。覇王ガイゼリックが、この様な少女だったとはな」
山城アーチェは笑った。
「ああ、皆に説明するが、金剛吹雪が和服なのはまだ制服が届いていない為だ」
失礼だが、胸がないので和服がとても似合っている。艶やかな髪を靡かせながら、その井
出達は、方言からも伺えるように、まさに、大和撫子と言った具合だ。
「それで、金剛吹雪。球技大会を、この後、行うんだがどうする? 見学するか? その
格好だと動き辛いだろ。体操着の代わりに為りそうな物は持って来ていないか?」
涼し気な表情で金剛吹雪は答えた。
「丁度、良いハンデなのであります」
球技大会――それは、優勝チームにはエキシビジョンマッチとして教官チームと戦う権利
が与えられ、見事、これに勝利すれば単位が貰えると云う、エルケレス魔法学園の伝統の
イベントである。元々、戦闘力の高い者を集めて作られたカンプグルツペの2‐Aに、敵
はいなかった。順当に勝ち上がりエキシに駒を進めた。競技はバトルドッジボール。内野
に五人、外野三人が入り、内野が全滅したら、残りのクラスメイト三十余名が内野に補充
されるルールだ。
「よくぞ勝ち抜いてきた。我が、教え子達よ!」
相手は山城アーチェと白鷹がいる。2‐Aの生徒は見る見ると数を減らされていった。
「覚悟しろ、生徒会長!」
『バシッ――』
 山城アーチェから放たれたボールは時速二百キロを計測した。
(新幹線より早い!)
 が、それを片手で受け止める武神が降臨した。
「下がってほしいのであります、不知火」
金剛吹雪は飽く迄、涼し気な表情を崩さない。
「不知火を狙って少し手を抜いたが、それが災いしたか」
 若葉は今ので手加減したと聞いて呆れていた。金剛吹雪が投げ返す。山城アーチェは余
裕で受け止めた。
「む……」
「目標を変えよう、お前だ。金剛吹雪……一撃で仕留めてやる」
山城アーチェの目付きが変わった。之は、単位をくれる気は、全く、ないと思い、残り四
人は金剛吹雪から離れた。山城アーチェが本気モードで投げるッ。そのフォームに合わせ
て、金剛吹雪はタイミングを合わせて渾身の力でボールを殴り返した。一瞬にして跳ね返
ったボールが、山城アーチェが投げたままの体勢を起こす前にヒットする。
「両者、外野へっ」
 山城アーチェに当たった後、ボールは2‐Aの外野が拾った為、その後は一度も教員チ
ームに渡る事無くゲームセット。球技大会が終了した後――教室では金剛吹雪の武勇を2
‐Aのクラスメイト達が称えていた。
「身長もあるから、運動部とか入ってみたら?」
金剛吹雪は百七十センチを越えていた。
「見事な左ストレートだったよ。外野に出た後も、意表を突いてカーブを投げたり、スポ
ーツが好きなんだね」
「真っ直ぐゴーなのであります」
金剛吹雪は左ストレートをしてみせる。
「あー、金剛吹雪はいるか?」
今日は丸一日、球技大会で授業はない。つまり、今は、放課後なのだが山城アーチェが2
‐Aの教室へやって来た。
 ここは2‐Aの教室――
「何か御用でありますか? 教官殿」
ズカズカと教室に入って来た山城アーチェは、金剛吹雪の前に立った。
「お前、ちょっとこっちへ来い」
山城アーチェに言われるままに、金剛吹雪は付いて行く。
「入れ」
そこは進路指導室だった。
「自分の進路について、何か?」
「取り敢えず、だ……」
山城アーチェは真剣な面持ちで言った。
「脱げ」
「……は?」
金剛吹雪は困惑した表情を見せた。
「服を脱げといっている」
山城アーチェは、金剛吹雪の着ている着物の襟を掴んだ。
「女同士で、そんな淫らな真似を」
金剛吹雪が山城アーチェのその腕を掴み返した。
(くっ……動かない)
「はしたないのであります」
着物を肩まで、肌蹴させながら、山城アーチェの耳元に、ふぅっと息を吹き掛ける。
「ば、馬鹿! やめろ!」
山城アーチェは顔を真っ赤にしている。
「可愛いのであります。ふふふ……」
ニヤリと邪悪な笑みを金剛吹雪が浮かべた。
「やっぱり、貴様、男だったのかッ」
「夕暮れに校舎が佇む中、葛藤と背徳の末に二人は教師と生徒の一線を越え、男と女にな
ってしまうのでありますよ」
『ドサッ』と金剛吹雪が山城アーチェを押し倒す。
「嗚呼。教官殿から良い匂いがするので在ります。男勝りな性格とは裏腹に、雌の匂いが
……」
金剛吹雪は山城アーチェの瞳をじっと見詰める。
「い、いい加減にしろ!」
山城アーチェは膝でローブローを繰り出した。
「……ッ!?」
金剛吹雪が悶絶する。
「初対面の女性にそんな怖い目で襲い掛かるからだ。反省しろ!」
『ガララ、バタン――』
 山城アーチェは進路指導室を後にした――翌日。
「えー! 男の子だったの?」
クラス中から驚きの声が上がった。
「質問、金剛吹雪君には彼女とかいるの?」
クラスの女子の一人が金剛吹雪に尋ねた。
「いえ、フリーなのであります」
(……男は狼なのであります。がお)
「私、立候補しちゃおうかな」
「ズルイ、抜け駆けはダメよ」
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 女子が、何だか盛り上がっているようだが、僕の不知火には関係なさそうだ。今も、目
も繰れず、魔道書を読み耽っている。若葉は安堵した――
「全員、揃っているな。それじゃ授業を始める」
 鬼にとって唯一の天敵――
「質問なのであります、教官殿」
昨日の今日なので、山城アーチェは怪訝そうな顔をした。
「何だ? 金剛吹雪、言ってみろ」
「自分のフェアリーは授業に参加されないのでありますか?」
うーん、と不知火は腕組みをして考え込む。
「まだ調整段階だからな。もう暫くは、力を解放するのに時間が掛かる」
(だが……)
「また良からぬ事を考えているのではあるまいな、貴様」
フンッと顔を背ける山城アーチェ。
「心外なのであります。自分は教官殿をお慕いしているだけなのであります」
金剛吹雪はニコニコしている。
「慕っているって、どう云う事なんですか!」
クラスの女子の一人が、バンッと机を掌で叩いて、ガタンッと席を立ち上がった。
「どうもこうも、お前が思っているような事はなかったから安心しろ。良いから落ち着け、
そして、席に座ってくれ」
クラスの女子はキャー、キャーと言ってる。
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