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第三章『存在濃度』

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 格納庫にて、乗員視察――
「ああ、確か、これが貴方の専用空戦機甲・若葉専用ライゼッタのフル武装形態ではなく
って」
前に見た時と違って、全身武器と言った感じだ。
「こんなに重装備で空が飛べるの?」
その井出達は鬼神と呼ぶに相応しかった。
「それと、ビーム砲をこんなに搭載しても意味があるのか疑問が……」
「――用途が違う」
山城アーチェが説明する。
「この右肩に装着されているのは近距離から中距離を相手にする拡散砲で命中精度が高い。
左肩に装着しているロングバレルは長距離砲撃用、主に、艦船などのデカ物をブチ抜くと
きに使用する。バックパックから腰に装填されているのはヴェスバーと言って、距離に応
じてビームの太さを調整できる。近距離でバリアを貫通させる時に使用する。両手に装備
するのは量産期と同じライフルとサーベルで使い方も同じ。これを、アサルトバスター形
態と呼ぶ。任務に応じてアサルトとバスターに換装するが、各個撃破は求められていない
設計だ」
 このバックパックに装着されているのは、何だろうかと、若葉は疑問に思ったので質問
した。
「あー、これか。これは、光の翼といって、推進剤を直接に点火して放出する。少量の推
進剤に圧力を加える本来のノズルと違って攻撃にも使えるが、如何せん消耗が激しいぞ」
不知火が補足する。
「一応、エネルギーのチャージは不可能ではなくってよ。但し、エネルギー源と為る魔力
の純度には個体差が生じますわ」
と云う事は魔法の使えない自分の魔力を放出すれば……
「特異体質の封印の鍵を解く事に繋がりませんこと?」
 封印とは言い得て妙だと若葉は感じていた。宝剣ヴレナスレイデッカを抜いた時の精神
統一の感触を思い出す。
「すると、計算上は、推力も含め各種兵装は魔力の純度に比例して、性能が向上しなくっ
て?」
 両手に装備するとなると、宝剣ヴレナスレイデッカは不要なのだろうかと、若葉は疑問
に思った。
「――説明は、以上ですわ」
 テストを兼ねて試乗してみる事になった。格納庫から外へ出撃する為のゲートに移動し、
カタパルトデッキに脚部を固定する。
「若葉=秋雲、若葉専用ライゼッタ、行っきま~す!」
加速のGに、内心、ビビリながらブースターを点火し上空へ。あっという間に、首都エル
ケレスが一望できる高度まで上昇した。
「調子はどうだ?」
通信システムが頭部パーツに搭載されており、地上から山城アーチェが無線連絡を寄越し
た。
「凄いです、ドラゴンナイトにすら勝てると思います」
運動性能、反応速度。共に、申し分ない。
「唯、エネルギーゲージの減りが早いですね。稼働時間は三時間が限界だと思います」
射撃訓練は、今は、する必要がないので一通り動いてみた後、帰還すべく高度を下げる。
その姿に気付いた子供達が手を振っていた。
「姿を見られても、良かったんですか?」
帰還するや、否や、若葉は山城アーチェに尋ねた。
「空戦機甲製造の為の資源に需要が出て来るから、議会も承認する構えを見せている。言
ってみれば公共事業だな。起動実験さえ済めば問題ない」
先程のフライトデータによって空戦機甲の有用性が証明されたと見て良いのだろう。
「人類同士の紛争等で軍事転用されないよう、事態の推移を注視しなければならない」
シビリアンコントロールが人類の課題だった。
「専用機は遺伝情報をトレースしてキーを解除するので、例えば、この若葉専用ライゼッ
タは貴方にしか動かせない仕組みになっていてよ。軍部が暴走しても量産型が束になって
も専用機には敵いませんことよ」
それがミリタリーバランスは正常に働いているという論拠だった。
 宝剣ヴレナスレイデッカの持ち主は勇者の血を受け継いだ、地上にたった一人だけ存在
する唯一無比の存在なのだ。そう易々と死んでしまっては適わない。
「人類が危機的状況でなければ、僕も歯車に過ぎないのか……」
自らの将来を憂いながら、若葉は自宅である学園の寮への岐路に着いた。
 空戦機甲の起動実験があった日の以降は、しばらくは平穏な日々が続いた。若葉は鳴り
モノ入りで転校して来たので、最初は、周囲も遠慮がちにしか話し掛けようとすなかった
が、共に、勉学を励む事で徐々にクラスに馴染んでいった。特に、実践で若葉と同じ班に
なると、周囲は心強かった。模擬戦では、常に、不知火とトップを争っていた。以前、通
っていた学校の様な在りきたりな青春と云った偶像群はここにはない。しかし、人類の未
来が懸かっている。充実よりも苦悩、苦闘の末に答えを見つけ出すことに、皆が必死だっ
た。
 そんな、ある日、召還の実践学習を行う事になった。レアリック・オーブの類には精霊
が宿っている。その精霊を呼び出すという授業だ。召喚の儀は一般的に、サモンサーヴァ
ントと呼ばれている。
「精霊を呼び出すとレアリック・オーブは消えてしまうんだよね? 良いのかな……」
若葉は宝剣ヴレナスレイデッカが失われた場合の事を不知火に問い掛けた。
「若葉専用ライゼッタのオーラブレードがあれば問題なくってよ」
今日のステップで、また、一つ経験を積む事になるのだなと、若葉は気合を入れた。
「それでは、召還の儀を行う。各自、順番に魔方陣に入れ」
山城アーチェ教官の立会いの下、召還の儀が始まった。レアリック・オーブに宿っている
精霊は使い魔が大半だった。
「けど、皆が全員、レアリック・オーブを所有しているクラスと云うのも凄いよね」
若葉は改めてラティエナ王国は本気なのだと思った。
「入試がウチのクラスはレアリック・オーブ装備者でなければ認められなくってよ。故に、
全員が所有していたのに気付いていなくて? けれど、今、思えば、普通は命知らずがこ
こまで集らなくってよ」
不知火と話している内に若葉の順番が巡ってきた。不知火は先に、召喚の儀を済ませ、オ
リハルコンコルドを肩に乗せて見ている。その手前、失敗はしたくない。意識を集中させ、
フォースを宝剣ヴレナスレイデッカに注入する。刀身が発光現象を起こし、そして、彼は
魔方陣にツルギを突き立てた。
「応えよ、宝剣ヴレナスレイデッカ!」
魔方陣が眩い光に包まれる。
「凄まじい精霊力を感じますわ。これは、勇者の器から、溢れんばかりの魔力反応ではな
くって――」
 不知火は、多少、感動していた。自分より強い人間を見たのが初めてだった。それは自
分が実力を認める基準を満たした人との初めての出会いでもあった。
 魔法陣が完全に閃光に包まれた瞬間、轟音と共に爆発が起きた。
「対消滅ッ……暴発だと!?」
 煙が覆っていてよく見えない。まさか死んだりはしてないと思うが、と山城アーチェは
冷静に辺りを見渡した。煙が周囲へ散って視界が晴れていく。見れば、若葉を中心に小さ
なクレーターができていた。
「あれ、精霊がいない……」
 若葉の発言の通り、確かに、そこには精霊の姿がない。周りの生徒達も周囲を見渡した
が、ドコにもそれらしき姿は見当たらない。
「失敗……なのか?」
山城アーチェ教官はポカーンとしていた。
「いえ、先生。儀式の最中にしっかりと聞こカマンダラです。『之から貴方の元へと行きま
す』って」
うーん……と、それを聞いた周りの生徒達も考え込む。
「ストレスのあまり幻聴でも聞こカマンダラじゃありませんこと?」
不知火は頭の病気とか言っているが、若葉は無視した。
 その次の瞬間――メビウスノ輪から引き寄せられて、幾つモノ出会い繰り返す。
「あーれー!」
と言う叫び声と共に、若葉の真上に青いロングヘアーの女の子が上空から降ってきた。
『――ドサッ』
 と言う、音と共に倒れこむ二人。その拍子に二人の角度が、丁度、運悪く――
「おや、まぁ」
山城アーチェはニヤニヤしている。
『ざわ……ざわ……』
周りは騒然としている。
「今のキスはノーカンだ! 角度とか!」
勇者は力一杯、主張した。
「ファーストキスだったのですよぉ!」
召還されたと思わしき可愛い少女は、頬を赤らめている。
「どうして、男らしく、責任を取らなくって!」
 ビシッって若葉を指差し、不知火は言い放った。そうだ、そうだ、と周囲も賛同する。
「えっと、名前を教えてほしいのです」
少しオドオドした様子で少女は言った。
「僕? 僕の名前は若葉=秋雲。一応、君を召還した勇者だ」
「あら? 自称、ナイスガイの色男が抜けていなくって?」
不知火は悪ノリしている。
「僕はそんなに自惚れてないから、適当なことを言わないでよ。それに、僕の方だって、
ファーストキスだった」
「えー!」
ラティエナの反応も面白そうだったから不知火に乗ってみた。それに嘘は言ってない。
「キス程度でガタガタ騒ぐな、みっともない」
山城アーチェが見かねて会話に割って入る。
「意義アリではなくって? 確か、不純異性交遊は校則で禁じられていなくって? 社会
のルールをこの変態に教えて指しあげなければならなくってよ」
不知火は引こうとしなかった。が、まさか自分に火の粉が降り掛かってくるとは思わなか
った。
「何だ? 生徒会長、やけに私の授業を妨害したがってるが……そう云うのは命取りって
言うんだぞ? ムキになるって事は、妬いていると勘違いされるても良いのか?」
山城アーチェ教官は、ふふん、と鼻を鳴らした。
「ど、どうしてそうなりますことっ!?」
『ざわ……ざわ……』
 周囲の生徒達がヒソヒソと騒ぎ始めた。
「あの、ボクを召還したのは貴方なのです?」
 少女は若葉の腰に下げた鞘に収まっている宝剣ヴレナスレイデッカを横目で確認して質
問した。
「召還と言う事は、つまり、君は妖精なの?」
等身大の生身の人型の妖精など、古今東西、聞いた事がない。
「ボクは、幻獣と人間のハーフなので実体を持った霊体なのですよ。あうあう」
流石に、伝説クラスとなるとスケールが違う。幻獣と人の恋物語とか……
「って、アレ……君が召還されたのに宝剣ヴレナスレイデッカがロストしていない」
召還の儀が終了したら、レアリック・オーブは消失する筈なのだが。
「恐らく、召還が完璧ではなかったからだろう」
山城アーチェが解説する。
「どうすれば完全に召還できるんですか?」
召還が不完全と言う事は、この少女も完全体ではないと云う事でもある。
「大抵のケースだと鍛錬を積んで、レベルを上げれば良いのだが……勇者の成長限界は人
口が減らないと無理だから、手の施しようがないな」
このままでは守護霊として扱うのは無理だ。実体では憑依させる事はできない。
「完全に召還して頂ければ、自在に実体と霊体を切り替えることが可能なのですよ」
「生徒会長、お前が世話をしてくれ」
山城アーチェの指示は的確だった。
「よろしくってよ」
(そもそも、霊体化が可能となっても、四六時中憑依してもらう訳にはいかないよな。異
性である以上は、一緒に暮らすには障害が多すぎる……)
「君の名前は?」
霊体に名前があるのか微妙な質問だったが、若葉は敢えて聞いてみた。
「大淀葉月と言うのですよ」
どうやらマイペースな性格の持ち主のようだった。
(まぁ、まだ会ったばかりだから性格を決め付けるのは早計だよね)
「大淀葉月さんか、分かった。良いかな、大淀葉月さん。君が、之からお世話になるのは、
当、学園の生徒会長にして、僕にぞっこんな不知火=・R・スカーレッドさんって言うん
だ。恐らく、さっきのキスに嫉妬して君を亡き者にしようと企んでいるから、くれぐれも、
気を付けるんだゾ?」
変態呼ばわりしたお返しをと、ここぞとばかりに捲くし立てる若葉。
「ちょ、何で、この私が、貴方のことを好きにならなければならなくって!」
そんなに、自分では不満だと面と向かって言われると寂しい、男として。
「これが、所謂、ツンデレってヤツだ。今、彼女はツン状態なのさ」
外野がツンデレ萌えー、などと騒いでいる。良い気味だった。これは天罰だ。
「これ以上、その人の相手をすると、馬鹿がうつる様な気がしなくって? 寮に住んで頂
かなければならなくってよ。これから案内しますわ――で、よくって? 山城アーチェ教
官」
「うむ……各自、解散。今日の授業はここまでとする」
予鈴が鳴り響き、夕陽が空を茜色に染めていた。
 学園側の配慮もあって、大淀葉月の寮の部屋は若葉の部屋の隣に決まった。
「お前に課題を出す。大淀葉月を霊体化させる方法を模索するのだ」
山城アーチェ教官も無茶を言う。これ以上、レベルを上げられない以上は、手の打ち用が
なかった。
「別に、実体のままでも僕は困ってないんだけどなぁ……」
とある朝、通学中に不知火に相談していた。寮から学園までは五百メートルほど離れてい
る。二人は諸事情の関係で一緒に登校する機会が多かった。
「霊体化させなければ、空戦機甲のラプラス演算機に意思を宿す事ができなくってよ」
 そもそも、成長限界が上がれば霊体化するのは本当なのだろうか? 何にせよ、ウチの
クラスは憑依が必須科目なので、このままでは落第してしまう……親に何て言い訳して良
いのやら。
「今日は空戦機甲の実戦テストを行う」
 担当教官の山城アーチェが作戦概要を説明する。
 東の森のレッサーデーモンを退治するらしい。移動は前回同様、飛空艇を使用する。三
十名弱の生徒に併せて空戦機甲も三十機運搬するので、ちょっとした、商隊規模に見える。
(エンシェント・ゴブリンの次はレッサーデーモンか。手強いかも知れないね。まぁ、効
果測定にはお誂え向きかな……)
若葉が気を引き締めなおしていると意外な姿を見つけた。
「大淀葉月も付いてくるの?」
不知火に理由を聞いてみた。
「山城アーチェ先生に連れて行って面倒を見るように頼まれましたわ」
何故、私がそのような役目を……等とブツブツ、文句を言っている。
「ひょっとして、お邪魔だったのですか?」
おずおずと大淀葉月が聞いてきた。
「全然、問題ないよ。アレは、気にしなくて良いから……彼女、ちょっと、生理前でイラ
立ってるんだ」
指を差されたアレはキッと若葉を睨み付ける。その、熱い視線を注がれた若葉は冗談が通
じない事を理解して、そそくさと二人の傍から離れた。
(おー、怖……)
前回の討伐と同じ様に初日は移動して陣地を設営するだけだった。
 毛布に包まりながら、若葉は考えていた。
(どうすれば大淀葉月が憑依できるんだろう?)
 結論を出せぬまま彼は眠りに付き、そして朝を迎えた。パンを齧りながら、しばし、熟
考。
(ダメだ、何も思い浮かばない)
滅亡した超科学文明が生み出したシステムなら、そこに、手掛かりがあるような気がして
いた。しかし、文献を読み漁っても、それらしいヒントは得られなかった。何より、今日
の、出撃までには、全てに、目を通す時間的猶予が圧倒的に足りなかった。
(一日が二十四時間以上あればなぁ……)
現実逃避していると号令が掛かった。空戦機甲部隊、総勢三十一名。想定されるレッサー
デーモンの数、五百匹。
「全機、出撃ッ」
 一斉に、森の中へブーストを掛けて突入する空戦機甲部隊。が、憑依できない約一名は
居残りとなった。
「ま、当然だな」
山城アーチェ教官が本陣に留まる様に采配を下したので、若葉は暇だった。遠くから、偶
に、聞こえる爆発音に耳を傾けながら山城アーチェと共に、レーダーと睨めっこしていた。
「それに、越したことは無いのですが誰もが無事のようですね」
「今のところは、な」
山城アーチェは、軍でも前線で戦って昇進してきただけあって歴戦の猛者らしく場馴れし
ている。計算尽くで各人に指示を出した――が、我、先にと戦功を焦る生徒達は次第に山
城アーチェの指示通りには動かなくなっていった。
「クソっ、馬鹿共めが……おい、若葉。出番が来るかも知れないぞ、厄介な事にな。アカ
シックレコードラインの準備をしておけ」
アカシックレコードラインとは憑依できない若葉の若葉専用ライゼッタに、直接、魔力を
送り込むケーブルの事である。若葉がレーダーを確認すると、各人が、本陣から離れすぎ
ているのが判った。
「深追いしていますね。これって陽動だったりするんですか?」
「見れば、解るだろ。常識的に考えて……」
流石は歴戦の兵、この状況下でも。沈着冷静だ。
「量産型とは、形状が違いますけど先生のも専用機なんですか?」
その、外見は重厚な装甲に覆われ、機動性を犠牲にしたシルエットだった。山城アーチェ
がフェアリーのイノラッサーパルガを憑依させる。ちなみに、彼女の所持していたレアリ
ック・オーブの名はチョバム・アーマーZ。
「いや、専用機ではない。パーソナルカラーが塗られていないだろう? 之は、次期主力
空戦機甲の試作型だ」
周囲に邪悪な気配がざわめき立つ。
「来たな、ブタ共ッ!」
森の茂みから一匹、二匹……
「百匹以上はいるな」
若葉が構える。
「お前は、まだ、空戦機甲に繋がれたアカシックレコードラインの届く範囲内でしかエネ
ルギー供給ができない。森の中に入っても自由に動けないから、なるべく、持ち場を離れ
るな」
更に、大淀葉月を守りながら戦う必要があった。
「あの、ボクはどうすればよいのです?」
大淀葉月はうろたえている。
「僕の後ろから離れないで! 殲滅の方は先生に任せますっ」
山城アーチェは格好のテストケースだとか言いながら、ライフルの調整をカチャカチャし
ている。若葉の方はアカシックレコードラインを外しても戦えるよう、エネルギーを使用
しない物理攻撃を試みるべく、宝剣ヴレナスレイデッカで打って出るつもりだった。
(魔法力を使う訳にはいかないよね!)
ブースターを使わなければレッサーデーモンの攻撃力は防ぎきれない。
 しばらくして、一斉にレッサーデーモンが襲って来た。
「はぁ!」
若葉は気を吐いた。
(まずは一匹ッ)
そう、思った。手応えもあったが、レッサーデーモンの皮膚は厚過ぎた、何より、宝剣ヴ
レナスレイデッカの威力が劣化していた。
「若葉、その剣は既に神器であってレアリック・オーブではない。過信するな!」
だとすれば、オーラブレードを使うしかない。
「――けどッ! エネルギーが保てませんよ、教官」
オーラブレードを使う訳にもいかず、防戦一方に陥った。同時に、数匹のレッサーデーモ
ンを相手にするのは辛い。体格的に見れば優に三倍はある。斬り付けられ、怒り狂うレッ
サーデーモン。巨大な腕が若葉を捕らえた。
「ぐはっ!」
吹き飛ばされ、辺りに生えていた木に叩き付けられる。このままではマズイ。アカシック
レコードラインの範囲まで退却を考えなきゃ……と若葉は思案した。しかし、ここで引い
たら前線に残された仲間達が孤立無援になってしまう。
(……どうする!?)
山城アーチェの方は何とか対処していたが、如何せん、数が多過ぎる。約五十匹程、倒し
た所でライフルの残弾が切れた。
「陽動に気付いて味方が引き返すのを待つしかないな」
レッサーデーモン達の人海戦術に押されて徐々に後退する二人。ダメージが蓄積され、若
葉の方は満身創痍だった。
(何か手はないのか……)
そのとき、烈風が巻き起こり、真空波が一匹のレッサーデーモンの身を刻んだ。魔法の起
動から、真空波の発生地点をバイザーのセンサーで割り出して確認すると、そこには大淀
葉月の姿が……レッサーデーモン達もそれに気付いてしまった様で、数匹が大淀葉月に向
かって突撃していく。大淀葉月は魔法で応射するも、レッサーデーモン達の勢いは止まら
ない。慌てて駆け付けた若葉が横薙ぎに一閃を浴びせる。一匹はよろめいて倒れたが、後
続のレッサーデーモンが、割り込んできた若葉に痛恨の一撃を放った。
「痛――」
血が流れ出す。意識が薄らいでいく。
(僕はこんな所で死ぬのか?)
大淀葉月が駆け寄ってくる。
「あうあう、大丈夫なのです?」
心配そうな顔をする大淀葉月。
「君だけでも……逃げろ。今なら間に合う」
傷口から血が流れ、表情には苦悶が浮かぶ。
「いいえ、ボクも戦うのですよ」
 大淀葉月の瞳に決意の炎が灯る――
「でも、どうやって?」
「憑依するのですよ」
無理だと言おうとした間に、レッサーデーモンに退路を防がれてしまった。こうなっては、
彼女の言う通りにする他なかった。
「きっと、できるのですよ! だって、若葉はボクの勇者なのです!」
大淀葉月は瞳を閉じて意識を集中し始めた。若葉の存在を感じ取る。それはまるで、とて
も大きな輝きを放つ原石の様で、間違いなく勇者の器だった。
「私と彼の間に紡ぐ力……神の導きにより勇者に、一筋の光を天空より授けるのです」
閃光が二人を包み込む。輝く光が地の果て照らし、奇跡を呼ぶ。
「――この光こそ、明日の人類の希望なのだ」
山城アーチェは身をよろけながら呟いた。未来を託す二人の姿を彼女は目を細めて見詰め
た。
「二人は一体、共同体!? ……成功したのか?」
8, 7

  

 体中に気が溢れてくる。背中のウィング状のブースターから放波状に光が放出されてい
る。その威圧感に気圧されて、レッサーデーモン達はたじろいだ。オーラブレードを引き
抜き、若葉は構える――
「さあ、相手になってやる。どこからでも掛かって来い」
「ウガッ――」
レッサーデーモン達は一斉に襲い掛かってきた。その、刹那、一瞬にしてレッサーデーモ
ン共が倒れる。
「凄いっ、これが勇者の力なのか!」
山城アーチェは驚愕した。これならば残りのレッサーデーモンも直ぐに片付くだろう。
 一匹、また、一匹と若葉はレッサーデーモンを倒す。山城アーチェも対峙していたレッ
サーデーモンにトドメを刺す
10, 9

  

 いける、此の調子なら全員、助かる!
 そう山城アーチェが思ったとき、無敵モードだった若葉がよろめいた。
「出血で意識が朦朧とします。先に休んでも良いですか、教官」
「フッ、馬鹿を言うな。ここまできて諦める訳にはいかないだろう? 地ベタを這ってで
も倒せ。お前が死んだら、その子も死ぬと云う事を忘れるな」
11

片瀬拓也 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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