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第二十二章『メガネの価値は』

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 数日後、普岳プリシラ姫が失踪した、と云うニュースが流れた。世論の批判を削ぐ為に、
王室は、王立エルケレス魔法学園で学業に励んでいると、包み隠さず公表する事にした。
「たった一週間で、この騒ぎや。ホンマ、鬱陶しい野次馬や。清純派アイドルは伊達やな
い、せやけど、それは唯の夢や」
姫が週刊誌を何冊か教室に持ち込んで、読んでいる。
「不純異性交遊とか、蜜月とか、イヤラシイ話が書かれとる! 何でやねん! 王族にだ
ってプライバシーの権利はあるんやで」
情報を隠蔽すればするほど、マスコミは反発した。
「遅かれ早かれ、なのでありますよ」
金剛吹雪が普岳プリシラの顔に顔を近づける。
『パンッ――』
 普岳プリシラの平手打ちが金剛吹雪の顔を襲った。
「痛いのであります」
「当たり前や、己は鬼畜かっちゅうねん。よう反省し」
(何とか解決してあげたいのでありますが、こう晩熟では……)
「それでしたら、今度、目を患う不知火の代理に生徒会長を選出する予定なのですが、そ
れに立候補すると云うのは如何でしょう?」
山城アーチェが提案した。
「中々、名案やな。生徒総会には、マスコミ報道各社も講堂へ入れれば良いんや。考える
んは、スピーチと、推薦する生徒の応援演説やな」
「応援演説は、自分がその魔法少女の格好で校歌を歌うのであります」
勇者にも色々ある。
(それはウケルけど、金剛吹雪は何のコスプレか気付いてないね……)
後で、教えるべきか悩む変態紳士の若葉。
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 普岳プリシラが真実を語った。
「しかし、まぁ、何や。逃げ込むのが目的で、ぶっちゃけ、婚約の約束は反故にしたろと、
始めは思うとったんやけど、自分、見所があるで。ウチの恋人にしたい人ランキングの暫
定一位や。もっとも、親族が本気で結婚を許してくれるかと言えば、微妙やねんけど……」
「では、もし生徒会長になれたら、自分とその場でキスして欲しいのであります」
むむむ……と、普岳プリシラは悩んだ。この歳までキスなどした事がない。
「分かった、女に二言はない」
そして、生徒総会、当日――
「この、金剛吹雪=ストックウェルは普岳プリシラ姫を推薦するのであります。我が校の
ますますの躍進を願い、一曲、歌わせて頂くのであります」
某不人気魔法少女姿の金剛吹雪が校歌を歌った。
「――凛々しき姿を示すのさぁぁ」
綺麗な透き通った声だった。拍手喝采が起こる。
「続きまして、立候補者の演説に移りますわ」
議事進行役の不知火がそう告げた。
「只今、紹介に預かった、この国の姫であるラティエナ=普岳プリシラや。私が掲げるの
は正義の学園を目指す事。この曇りなき一点に尽きる。どうかウチに、この国に付いてき
て欲しい。手短やが、以上や」
他の候補者も演説を終えた。
「賛成の方は御起立願いますわ。まず――」
不知火が候補者の名前を読み上げる。が、誰も立とうとはしない。女生徒は抗議すべく、
不知火と川神、後、ルリタニアを除いた全員が欠席していた為だ。
「ラティエナ=普岳プリシラ」
生徒全員が起立していた。
「後任は普岳プリシラ姫に決まりましたわ」
『ウオー!姫様ー!』
野太い歓声が沸き起こる。
「姫、こちらへ……」
不知火が講堂の壇上で、自らの万華鏡千里眼を普岳プリシラに託した。
「これを貴方に差し上げますわ。次期、生徒会長にも我が校の伝統として、引き継がせて
は如何かしら?」
山城アーチェが壇上の下からマイクを持って叫んだ。
「それでは誓いのキスをお願いします!」
『ワーッ!』
と冷やかしが起こる。金剛吹雪が普岳プリシラの腰に手を回し、抱き寄せる。二人は短い
間だったが、接吻をした。しかし、それは、二人の心の距離を縮めるに充分過ぎる時間だ
った。歓声に金剛吹雪が手を振って応えた。
「ふむ、天晴れじゃ」
そこへ、とある来訪者が現れた。
「あ、国王陛下。着て居られたのですか」
山城アーチェがその姿に気づき、駆け寄った。
 こうして、魔法学園は強固な組織へと生まれ変わっていく
「陛下が御出で下さいましたわ。生徒は、速やかに左右両脇に分かれて、二人に陛下まで
の花道を、御作りになって」
(本当に目が見えてないのか疑わしい。後で聞いてみようかな)
若葉はステージの舞台脇から二人を見送った。
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ご老公は目を細めて言った。
「ワシにも再び、我が子が生まれたような気分じゃ」
ラティエナ王は普岳プリシラを見て言った。
「学校は、楽しいか? どうじゃ?」
普岳プリシラは答えた。
「これからは、眼鏡を掛けて生徒会長さんのお仕事が始まるんや!」
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