トップに戻る

<< 前 次 >>

第二十五章『日々のいとまに』

単ページ   最大化   

 不知火の目の回復も卒業までには間に合いそうだ。しかし、大淀葉月と山城アーチェと
の間で交わされた約束は、果たされなかった。
「いや、本当にスマンな」
「良いのですよ。あの時は、切羽詰った状況だったのです」
山城アーチェは大淀葉月に謝罪した。
「今度、何か美味しいものでも奢らせてもらう」
「私だけが良い思いをするのは悪い気がするのですよ」
山城アーチェは苦笑した。
「それを言い始めるとクラス全員に飲み食いさせなければならないからな」
「未成年の飲酒は駄目なのです」
ふふん、と鼻を鳴らす山城アーチェ。
「?」
大淀葉月は不思議そうな顔をした。
「お前の戸籍は私が軍を通して申請しておいた。来週辺りには、正式な大淀葉月国の一員
だ」
「ありがとうなのです」
そう、もう自分達は一人ではない。掛け替えのない仲間と共に、掛け替えのない時間をす
ごす。
(もっとも、生業は戦う事だから戦士の休息は、一時だが)
「む、望月先生。どうですか、今晩、一杯やりましょう」
 ルリタニアは本物のアイドルを兄の紹介で会わせてもらえて、心底、嬉しそうだった。
「自分、軽音楽同好会なんやってな。学祭のビデオを見せてもろうたんやけど、カッコ良
かったよ?」
「見て頂けたんですか! ありがとうございます!」
最近、妹が大人しくなったな、と若葉は思った。
(やっぱり、魔王ゲルキアデイオスとの戦いで誰もが胆を冷やした為だろうか……それと
も精神的に成長したからかな?)
子供染みた駄々を言わなくなっていた。
「しかし、不知火も、けち臭い。同好会やなくて、ウチが生徒会長として部に正式に認め
てあげよと思うとるんやけど」
「本当ですか!」
(音楽に熱中しているのが良い方向に出ているのかも知れないな)
歌っている妹の姿は、輝きを放っていて、本当に楽しそうだった。
94, 93

  

と、ある早朝――
(金剛吹雪は朝の鍛錬を怠らない。それは、何時もベストな状態である事が難しいからな
のだ)
「金剛吹雪君、しばらく休んだ方が良いのだ」
るなが話しかける。
「まだ、もう少し続けるのであります」
金剛吹雪は、朝の鍛錬を怠らない。
「でも、そのペースだと学校へ行く前に、きっと疲れきってしまう。主力が抜けて気負う
のは判るけど、もう少し自分を労ってほしいのだ」
金剛吹雪がるなの元へと歩み寄る。
「そう言ってくれるのは、るなだけなのであります」
金剛吹雪はるなの頭を優しく撫でた。
(もし、このまま金剛吹雪が普岳プリシラと結婚したら、自分の居場所は、何処にあるの
かな。その時は、もう一度、問おう、貴方が私のマスターか……)
穏やかな日々が続く。
「母さん、今度、あいつらが帰って来るのは、いつになるんだ?」
「そろそろ、冬休みだから、お正月になると思うけど」
(魔王ゲルキアデイオスを倒したか……ま、いっか)
「それじゃ、ちょっと仕事に行ってくるわ」
ナタルはメネシスにそう言って、出掛けて行った。二人は何ら普段と変わらない日常を送
っていた。
96, 95

片瀬拓也 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る