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第二十六章『命を賭けて次代を残す』

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 ――新年。若葉と不知火とルリタニアは、若葉の実家へ帰省した。前回のような茶番は
なく、月並に新年を祝っていた。年賀状に目を通し、正月番組を見ながら小豆雑煮を食べ
る。不知火の住所録も既に若葉の家に変更している為、不知火宛の年賀状も届いていたの
は、良いのだが――不知火の親戚の貴族と対面するのは少し気後れする秋雲家の一同だっ
た。
「ところで、お前ら。クリスマスはどうだったんだ?」
「クラスでクリスマス会を開いたよ」
「いや、そうじゃなくて二人でどこか行かなかったのかって話だぜ?」
不知火と若葉は顔を見合わせる。目が見えていないのに顔を見るのはヘンな話ではあるが、
眼球以外からでも、第六感で視覚情報が得られる術を持つ不知火は、自然と若葉の顔を見
た。
「どこか行こうにも、酔っ払ったクラス担任の先生と、フェアリーの二人が、一晩中、飲
み明かしてるのに付き合わされたんだよ」
(――イメージ映像)
『今、私はガイアと一体なのだ』『なのですよー!』『大淀葉月とツヴァイで聖夜も最高に
ハイ! ってヤツだぁぁ!』
 ……回想モード終了。最終的には山城アーチェ教官が暴れ始めたので大変だった。自分
だけ独り身だ、とか何とか主張していたが、一睡して酔いが覚めたら、記憶がないとか言
っていた。
「初詣にも行った事だし、私様は明日には学園へ帰るわ」
「まさか追試があるとか?」
「そんな訳ないでしょ。部活よ、部活」
(ほー……)
若葉は感心していた。
「一年の計は元旦にあり。部活に承認された事だし、早く良いスタートを切りたいの」
「気になってはいたんだがさ、お前、空戦機甲から降りるつもりはないのか? 例えば、
空戦機甲科だと大学はエスカレーター式だ。音楽がやりたいなら、音大を目指すとか違う
選択肢もあるぜ」
 ナタルは、娘をできれば戦場から遠ざけたいと考えているのだろうか? 真意は、若葉
には読めなかった。
「姫様だって、公務とアイドルを兼任しておられるわ。私は、姫様の様になりたいの」
「別に、戦う事に反対している訳ではないんだ。唯、人生は一度きりだからな。後悔して
欲しくはないのが、親心だ」
戦争馬鹿の自分や不知火には、全く、縁のない話だった。
(それ以前に、敵前逃亡は山城アーチェさんが許してくれないよ……)
「戦場に吹く、一陣の癒しの風。それが私様の目指すマイスタイるなのよ」
「それもカッコよろしくはなくって」
 妹はプロになれるレベルとかではないので、自分のポジションは弁えているんだなと、
若葉なりに理解した。
「くれぐれも、民衆扇動罪で捕まらないようにな」
「何それ? 馬鹿ね、適用されるわけないじゃない」
 歌には人を動かす力がある。ラブ&ピースを歌うミュージシャンは数多いるが、外部か
ら幾ら泣き叫んでも無力なら、内部で吠えて、変えれば良い――しかし、後世で彼女が戦
場の歌姫として語り継がれることはなかったと言う。
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