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第二十七章『失政』

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 年明け早々、婚約の是非について論議すべく臨時国会が召集された。
 転生体と王族が子孫を残すのは、質の低い遺伝子を減らすので意味がある。望ましい特
徴を持った優秀な人類が系譜に多く重複して発現する事により、子孫にその特徴が伝わる
可能性が高いのだ。近親配合の遺伝学的な効果は、ホモ接合体を増やす事である。理論上
では同じ祖先が系譜に多く現われれば現われるほど、その祖先から伝わった遺伝子型はホ
モ接合体になる確立が高くなる。近親配合はアウトクロスよりも遺伝子の組み合わせの数
が少ない為、祖先の性質を伝えやすい。他、遺伝的に均一になりやすい。以上が、仮に普
岳プリシラ姫が若葉との間に子を設けた場合のメリットである。
しかし、此れにはデメリットも存在する。例えば、ホモ遺伝子が全て望ましい性質を持っ
ている訳ではなく、望ましくない性質が近親配合によって表に出てくる事がある。つまり、
以前は王族の良い優性遺伝によって隠されていた劣性遺伝子がホモ型になり、発現する場
合である。よって、悪魔や魔人と人間の混血が転生前の勇者の雛形である王族は、慎重に
ならざるを得なかった。両親は人間であるので、最悪の事態である鬼子が宿って母体を食
い破る可能性はないが、負の感情を吸収するために、性格的に瘴気を好む様では王の器と
して欠陥があると考えられていた。
他にも、劣性遺伝による遺伝病になる可能性や、長所でもあるが、均一になる遺伝子は反
面、勢いが弱い。所謂、近交弱勢の問題。後、繁殖力が弱いだとかは、普岳プリシラは、
余計なお世話だと思って聞いていた。で、婚約の決まっている金剛吹雪の場合。
「科学的なアウトクロスの効果をまとめると以下のようになるっスよ」
普岳プリシラは、大臣のヴィクトリア=千歳に手渡された資料に目を通す。第一に、健康
で丈夫な子供が生まれやすい。第二に、繁殖力が強い。
(また、セクハラかいな……)
 これには、普岳プリシラは頭を抱えたが、最も重要なのは、近親配合と比較して遺伝子
の組み合わせが多いので多様性に富んでいる事だった。
「ここまでが利点っス。次のページに短所を記載しました故、目をお通しください」
大臣に促されて普岳プリシラは次のページをめくる。資料にはこうあった。ヘテロ接合体
の遺伝子型を持つ比率が高いので、遺伝力が近親配合よりも弱い。遺伝子の組み合わせが
多いので、均一性がなく、性質がバラバラである。
「ここまでをまとめますと、近親 配合は性格、体質への悪影響がありますが、アウトク
ロスなら、これらの心配は一切ありません」
「せやったら、何ら問題はなし。っちゅーことやな」
この場の決定権は普岳プリシラにある。しかし、水面下では若葉を擁立しようと言う動き
が起きていた。
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