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5-6 二の刃(旧)

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 「『アフターペイン』……?」
 また新しい用語が出てきた。残党、と言うからには何かしらの組織で、既に壊滅したのだろう。
 「七年前、まだ灰塵衆が無名だった頃に暴れまわっていた組織よ」
 俺の呟きに霰が説明を始めた。
 七年前なら俺はまだ高校生になったばかり、霰に至っては中学生だ。
 一体こいつはいつから、こんな事をやってたんだろうか。
 「怪人を最初に生み出した人体改造の権威、蜷川外が率いる最凶の集団。
 その所業は語るのも憚られるほどの非人道的なものであり、被害者の数はゆうに千を超える……控えめに言っても、蜷川は狂っていたわ。
 彼には、芯が無いの」
 「芯?」
 「ええ。私は楽して儲けたいし研究が好きだからこの仕事をやってる。悪人だと言う自覚はあるわ。でも、あいつには無かった」
 一応自覚はしているのか。
 「正確に言うなら、『そんなこといちいち考えてない』のよ。どうでもいいから。
 自分がその時やりたい事をやるだけの行動力と頭脳を持ち、飽きたら別の事に移る。
 面白いからやってるだけで、矜持や信念、美学など皆無。逸話を少し聞くだけでもわかるわよ――


 ――あいつは、人間じゃない」

 霰の不健康そうな白い顔が、更に青ざめている。
 このどうしようも無い人間のクズ糞ビッチクズ女にここまで言わせるとは、相当のものだったのだろう。クズ二回言ってしまった。

 「そして研究と称す、人体実験……という名の遊びの果てに、彼は自分の作り上げた最高傑作の暴走により凄惨な末路を辿った。
 彼に弄ばれ殺された人達に比べれば、温情に溢れたものだったけどね。
 ある意味では柏木は英雄よ。蜷川と言う化物を退治した、ヒーロー。ただし自分も怪物になってしまったわけだけど」
 「奴も……被害者の一人だと言うわけか」
 「恐らくは噂の妹ちゃんも、ね」
 俺は、考える。
 改造される前の柏木が、どんな奴だったかは知らない。
 改造された後の柏木が、どんな心境で殺戮をしているかは……本人から聞いた。

 あいつは、俺だ。
 俺よりいくらか運が悪かっただけで、奴は狂ってしまった。
 誰かが止めてやらないといけないのではないだろうか。
 誰か、が。

 「霰」
 「……白金くん? どうしたの、そんな思いつめたような顔しちゃって」
 「その詳しい奴に聞いてくれ――


 ――柏木を倒すには、どうすればいいか」


 俺のこの力は、何のためにあるんだろうか。
 誰かをこの手で救えたら。誰かをこの手で守れたら。
 願わくば、俺はこの過ぎたる力を……正しい事に、使いたい。

 
 Arare-Chan:なんか白金くんが殺戮病を倒したいらしんだけどー

 Habakiri:あいつをか?

 isen:無謀だ。うちの『ミュータント』四体を無傷で倒してから言うんだな

 Kumikumi:うーん……新型怪人の物量で押して、やっと勝負になるかどうかってくらいだからね……

 MU-MA:ムリムリムリムリかたつむりよwwwwwwwお兄ちゃんに殺戮病は絶対無理よwwwwwwww


 「このMU-MAって奴ウザいな……」
 「優秀ではあるんだけど性格に難ありって感じね」
 類は友を呼ぶ、そんな言葉が頭に浮かんだ。

 
 Habakiri:奴は確かに強いが、スペック上なら灰塵衆にも上回ってる奴はいる。

 MU-MA:そりゃおめーんとこだけだよ

 Habakiri:『ストーム』の能力なら……勝ち目が無いわけでもない。

 isen:本気で言ってるのか? スポーツカーとF1カー、それもロケットエンジンを積んだようなのを比べているようなものだぞ

 Kumikumi:『ストーム』は確かに強いよ。高いレベルでバランスが取れている優秀な怪人で、今世代のシュターゼンの中でも最高レベル。でも、殺戮病はあまりに尖り過ぎてると思う……。

 Habakiri:ならばこっちも積めばいい。ロケットエンジンを、な。


 それは、一体どういう事だ……?


 Habakiri:もう味方でもない。奴の一番の武器『超能力』の秘密を明かしてやろう。
      結論から言うぞ。あれはフェイクだ。超能力なんて一切使っていない。


 「は!?」
 「え!?」
 モニターの前で同時に驚声をはもらせる俺たち。
 そんな馬鹿な。あれはどう見ても念動力な何かにしか見えなかったぞ……!?


 Arare-Chan:いやいやいやいやいやいやいやいや私の目の前で『ミュータント』が一瞬にして液状になったんですけど

 isen:そんな事になってたのか!?

 MU-MA:なにそれこわい

 Kumikumi:よ、よく無事だったね……

 Arare-Chan:その後二体が殺戮病の手の動きに合わせて一歩も動かずに輪切りにされてたんですけど

 MU-MA:なにそれ超こわい

 isen:ニナカワとしてもクサナギとしてもレベルが高すぎるぞ。『ミュータント』級の怪人を纏めて殺せるクサナギなど、幹部どころか首領だってそうはいないはず……

 Habakiri:いや、奴は純粋なニナカワだ。柏木が普通のニナカワと一番違う所は、エネルギー球を五個貯蔵している点だ。
      普通のニナカワの球数は一か、せいぜい二。変身用に必要な一と、予備、再生用の二だな。
      奴は、変身中に更に同時に二つ潰す事により、更にもう一段『変身』できる。見た目は全く変わってないがな。

 isen:五だと……? 身体が持つのか?
 
 Habakiri:そこは天才蜷川と言うところだな。奴の技術は今なお我々の数歩前にいる。
      それでも副作用は免れんがな。いや、奴の事だ。きっと副作用も抑えられたことだろう。
      話を戻すぞ。奴はエネルギー球を同時に三つ使うことにより更に『変身』したかのように力が溢れ、短時間だけ動きが別物になる。

 MU-MA:ああ、なるほど

 Habakiri:そういう事だ。奴の超能力のカラクリ。それは『速度の爆発的上昇』だ。
      『ストーム』にも見えないほどの、な。


 「「マジで……!?」」
 モニターの前で愕然の声を重ねる俺たち。
 「白金くん……見えた?」
 「いや……いや……」
 全然、見えなかった。
 『銃弾を避けることができる動体視力を持ちながら、全く目に映ることが無かった』のだ。
 疑うはずもなく、あれは超能力だと完璧に思い込まされていた。
 あの口上も、意味ありげなポーズも、全て自分の能力を誤認させるだけの罠だったと言うわけか。
 いや、まだ信じられない。『超能力』の間、奴は微動だにしてなかったぞ……。
 
 
 Habakiri:膂力も格段に上がるが、速度に比べればそれなりと言った所だ。
      一回の使用につき効果は十秒程度、奴の体感時間は知らないが、ずっと長いだろう。
      これが奴の切り札だ。対策としては、スタミナ切れしてから挑むのが最善だな。

 Kumikumi:…………それ、下手したら超能力よりもよっぽどタチが悪いんじゃ
 
 isen:本当にスペックで勝てる奴がいるのか……?

 Habakiri:奴の置き土産が大量に保管してあるからな。完全再現とはいかないが、流用は可能だ。


 置き土産? 流用?
 何を言ってるのかはわからないが、灰塵衆には奴を相手にできる何かがあるらしい。


 Habakiri:見てるか『ストーム』……いや、白金信次。


 突然、Habakiriが画面を通して俺に話しかけて来る。


 Habakiri:お前がどういう理由で柏木を倒したいかは知らない。
      奴はこちらにとって裏切者だ、倒したいと言うのなら協力してやってもいい。
      ……だが、前もって忠告しておく。やめておけ。
      どのような対策を取るにせよ、あれと対峙するのはリスクが大きすぎる。
      それは奴に殺される可能性だけではない。
      お前がもしも正義の味方を気取っているのなら。……それ自体は別に勝手だが。
      ありとあらゆる面において、奴と戦う力を手にすべきではない。
 

 俺の考えは見透かされていた。
 確かにこれは、ちっぽけで、うすっぺらい正義感かもしれない。
 だが、指を咥えて見ている事が正解だとは、俺にはどうしても思えないのだ。
 

 Habakiri:まだお前に協力はしない。下手なことをして、柏木に……
      それにお前にも恨みを買いたくないからな。
      今すぐに来ても門前払いだ。もう一度、二度でも三度でも考えろ。
      少しでも迷いがあるならやめろ。
      
      それでもお前が力を望むなら。
      灰塵衆は……いや、俺はお前を歓迎してやる。
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