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5-8 再会

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「なーカイトー。こっち戻ってくる気ないんー?」
 隣に座ってきて寄り添い、上目遣いに尋ねるヒナ子。
 寂しそうな顔だけを見れば、どこかの令嬢か何かにしか見えない。
 まあ、お目当ては当然俺ではないのだが。
「お前が戻ってきて欲しいのは俺じゃなくてベル子だろ。甘えてくんな」
「そりゃ勿論、ベル姉に比べたらカイトなんて蟻のフン以下やけど……」
 想像以上にどうでもいい扱いだった。
(自分がそれなりに見れるツラだからって調子乗りやがって殺すぞ糞ガキ)
「冗談やて。あんたの殺すは洒落ならんから怖いわ……カイトのことも、ベル姉を任せられる程度には好きやで。一緒に帰ってきてくれたら、嬉しいよ?」
 怖い素振りなど微塵にも見せないどころか、ヒナ子は俺の膝に乗っかってきた。
 こいつは心を許した相手にはスキンシップが激しいところがある。ベル子なんていつも犬のように飛びかかってこられてるくらいだ。
「俺がよくてもインテリ糞ガキが許さねーだろ。俺もあいつ大好きだし」
 ジジイの孫だからって調子くれやがってる糞ガキだ。
 生前より孫バカだったジジイのせいで灰塵衆を自分の力だと思ってる勘違い野郎でもある。
「あんたほんっと羽々斬と仲悪いんね……。まぁ、確かに灰塵衆も先代の頃とは方向が変わったけど……うちはこだわりないしね、そこんとこ」
「方向性はまだいいとして上から口調がイラッとくる。何よりセンの野郎を自分の腹心かなんかみたいな扱いしてるとこが気に食わねぇ。ぶっ殺したいランキングTOP3に入ってるからな」
「じゃあもうあんたはどうでもええわ。ベル姉だけ灰塵衆で保護するとかどうや?」
 どうでもいいと言いつつ離れようとはしないヒナ子。
 首に手を回し、俺の体にすり寄りながらも正直なのは口の方だ。
「えっちな意味に取られ……てもまあ仕方ないけど、体も結構正直やでー。うち甘えられる相手ほとんどいないねん」
 そんなことより香水の匂いが気になって仕方ない。嗅覚が強いと、こういう時に厄介だ。
「俺に! 甘えて! いいんだよ!?」
 レイジが笑顔で何か言ってるのを、ヒナ子はガン無視する。
 相手にされないレイジは俺に殺気を向け始めた。ガン無視。
「あー……ベル姉といちゃいちゃして日々を過ごしたいわー……もう灰塵衆辞めてベル姉の妹として生きたいわ―……寝て起きたらベル姉が隣にいる幸せを噛みしめたいわー……ベル姉ベル姉ベル姉……! ベル姉!!」
 突如叫んで俺から離れて入り口へと走るヒナ子を見て、ついにあいつもベル子大好き病が手遅れになったかと心配になる。
 が、違ったらしい。扉を開けて入ってきたのはベル子であった。きっとヒナ子のESPが気配を察知したのだろう。
「ベル姉ーッ! ベル姉ベル姉ベル姉ー!!」
「あれ……雛ちゃん? お久しぶりです。おーよしよし。いい子いい子」
 数年ぶりに実家に帰った娘と、それに可愛がられていた犬の対面に近かった。
 ヒナ子に尻尾が生えてたら千切れそうな勢いでぶんぶんと振っていただろう。それほどの勢いだ。
 抱き合う二人を見てレイジが先ほどとは一転してご満悦な表情をしているが、死ぬほどどうでもいい。
「やっぱりうちベル姉がいないとダメや……ベル姉、うちを飼って下さい……なんでも言うこと聞きますから……」
 本当に犬になり始めるヒナ子。
 手遅れか手遅れじゃないかで言えば十二分に手遅れである。
 ベル子もベル子で、ヒナ子といる時は心なしか表情が柔らかい。
 あんな体だから、昔からベル子は友達もまともに作ろうとしなかった。そんな中で同じ怪人であり、歳も近いヒナ子にはベル子もかなり気を許している。
 灰塵衆にいた頃は、姉妹のようにくっついてたものだ。
「雛ちゃんは犬猫じゃないんですからペットにはしませんよ。寂しいなら、今日は私の家に泊まっていきますか?」
「泊まる! 泊まります!! ……ん……!」 
「俺も泊まる!!!」
 ガン無視。
「あの……ベル姉……友達、できたん……?」
 急に静かになったと思ったら、少し体を離してこわごわと尋ねるヒナ子。
 ベル子も、長い付き合いだ。ヒナ子の読心能力くらい知らないわけはない。
「……友達と呼べるのかはわかりませんが。まぁ、遊びに誘われたりはしました」
「そ、そっか……お、おめでとうな……」
 言葉とは裏腹に、表情は凍りついている。
 今にも泣き出しそうな、薄氷の笑顔だ。
「……大丈夫ですよ。友達ができても、雛ちゃんを蔑ろにしたりはしません。それに、どうせ長く続かないと思いますし」
 そんなヒナ子を慰めるかのように、ベル子は僅かに微笑んだ。それが、ベル子の精一杯の優しさだった。強がりでもあった。
 ――俺が助けられなかった、ベル子の。

「ベル姉……ベル姉ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!」
 わなわなと震えていたヒナ子はすごい勢いで泣きながらものすごい勢いで再度抱きつき、バランスを失って後ろに倒れたベル子が痛くないように自分の回転して下になり、頭を打ちながらもそれはもうすさまじい勢いで喚いた。
「うちを食べてや―!!! お好きなところからどうぞ召し上がってやーー!!! うちはベル姉の食用兼愛玩用奴隷やーーーーー!!!! 家畜やーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「雛ちゃんは豚じゃないんですから家畜にはできませんよ」
 完全に女の顔と化したヒナ子を宥めるベル子を見てレイジが慈しむ表情で勃起してたが、
「うちもやーーーーーー!!」とか言い出さないだけマシかと思った。
 って言うかヒナ子泊まんのかよ。だりぃ。

「そう言えば、雛ちゃん、相談が。実は……」
「ん……? ……! うん、わかったわ、後で話そ」
「?」
 今何か二人だけの会話があったな。まあ女同士だ。内緒話くらいあるだろう。
「それと、もう一つ」
 今の今までアホ面を構えていたレイジ。
 が、次のベル子の発言で現実に引き戻されたかのように。
 表情が、消える。



「ここの二階にいる人の目を覚ます事……可能だったり、しますか?」
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