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1-3 隠れ家にて

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「いらっしゃいませー……なんだカイト君ですか」
 扉を開いた俺を迎え入れたのはウェイトレス姿の女子高生だった。
 名前は倉谷鈴奈(くらたにすずな)。ベル子だ。
 客商売だと言うのに愛想の欠片もない、黒髪眼鏡の三白眼。
 おまけにチビで体はこの上なく平坦と色気も皆無。
 不細工ではないのが救いだが、こんなのを雇う喫茶店なんてここ以外に存在しないだろう。

 都会からやや離れたカフェ『Hideout』。
 落ち着いた雰囲気とわかりにくい場所、無愛想な店員とやかましいマスター、更に誰が淹れたかによって味が全く違うロシアンコーヒーが評判になっている。主に閑古鳥の間で。
 俺は奥にあるソファ席に陣取りテーブルに足を投げた。
「まさかご注文はありませんよね?」
 面倒そうな態度を隠そうともしないベル子。仮にも客の前でだ。
 金を払った記憶は無いが客には違いないだろう。
 こんなんで給料を貰っているもんだから、俺は就職難と言うのがいまいち信じられない。
「コーヒー無糖、お前が作れ。あのバカに淹れさせんな」
「レイジさんなら買い物ですよ……」
 めんどくさ、と呟き、長髪を揺らしてベル子は奥へと向かっていった。
 俺は安堵のため息を吐く。

 レイジの淹れるコーヒーは泥水だ。
 あいつの淹れるコーヒーと本物の泥水の違いは、実際に泥を使っているか否かだけだ。
 俺も最初に飲んだ時は、コーヒーに毒を混ぜて客を殺害する悪人と勘違いして殺しそうになったものだ。
 あんな腕でよく喫茶店のマスターになろうと思ったもんだ。
 就職難とは何なのか問いつめたい。

 背中の方で、扉が開いた音がした。
「ただいまー。あれ、お客さ……って、何だカイトか。仕事はもう終わったのか? じゃコーヒー飲むかコーヒー。飲むな? よし、ちょっと待ってろ」
 俺が就職難の話をする前にレイジはもう厨房へ向かっていった。
 レイジ。名字は……忘れた。とにかくレイジだ。
 高身長でアイドルか何かと見間違えるほど端正な顔をしているが、バカでやかましくて変態で、おまけにコーヒーを作るのが趣味という残念極まりない男だ。
 この店の制服がやたらヒラヒラしているのもこいつの趣味である。
「……ってちょっと、なんで鈴ちゃんが淹れてるの! 俺が淹れるからいいって! 代わるって! 熱っ! ちょ、やめっ、熱いって!」
 どうやら熱湯をかけられたようだ。ベル子も随分この職場に慣れたらしい。
 犬を踏んづけたような悲鳴が聞こえた数秒後、キッチンからカップを持ったベル子と頭から湯気を出しながらもまんざらじゃ無さそうな顔をしているレイジが出てくる。変態め。
 俺はそのコーヒーを一口啜って、
「まあまあだな」
 と感想を口にした。



「で、どうだった?」
 カウンターの客席に座るレイジは俺に今回の成果を訪ねてきた。
「お前の予想通りあそこで張ってて正解だったな。のこのこ現れたんでアジトまで送ってもらってサクッと皆殺してきた。数はそれなりにいたが怪人級すらいなかったから楽勝だったぜ。ありゃ悪の組織と言うよりはタチの悪いマフィアだな」
 俺は足を組み、首を左右に鳴らす。
「そんな事はどうでもいい。戦利品の話をしてくれよ」
「ああ、とりあえず金は全部回収してきた。まあまあため込んでたな。50万ドルはあった」
「おお、さっすがカイトさん! いい仕事するねぇ!!」
 満足そうに笑うレイジ。対してベル子の反応は薄かった。勝手にやたら大きいキャラメルパフェを作って食べ始めている。

「残念ながら洗脳装置は無かった。ヤツらの目的はガキの臓器売買だったからな」
「! …………そうか」
 スッ、とレイジの表情が消える。ベル子と同じ無表情だが、こいつのは生気を感じさせない、不気味な顔だ。
 ベル子の反応は尚も薄いが、先ほどよりはまともに話を聞いているようだ。
「まだ生きてるガキが何人かいたから警察と救急を呼んどいた。だから機械類はあまり持ち帰る暇は無かったが……文句はあるか?」
 そう訪ねると、レイジは軽く笑う。
「あるわけないだろ。また今度探せばいいさ。……鈴ちゃんの分は?」
「ああ、ちゃんと持って帰って来た。パクった車の中に入ってる。感謝しろベル子」
 ベル子はようやく食べる手を止め、俺の方を向いた。
「……どうも、ありがとうございます。何人ですか?」
「生身っぽいのを五人ほど。しばらくは問題ないだろ。ガキは持ってきてねーぞ」
「……いりませんよ」

 そう言って、服も着替えずに外に出ていった。早速車に取りに行ったのだろう。
「……大変だな、お前も、鈴ちゃんも」
 レイジはその姿を見送りながら呟く。
 俺は別に、大したことはない。大変そうなのはお前ら二人だ。
4

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