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BE(救いの無い話)

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 未来にタイムマシンが完成して、未来の私が過去にタイムワープしたら、今の私に何て声をかけるんだろう。生半可な気持ちではなかったけど、いや、多分真面目な人から見たら生半可だったんだろうけれど、私なりの努力は今報われないことを悟った。
 帰りの電車に揺られて、震える手を同じく震える手で押さえつけた。マイナスは二乗したらプラスになるけど、加えるだけじゃマイナスのままだ。一人で見に行った大学の合格発表は、案の定落ちていて、一人でその光景を目に焼き付けた。番号を飛ばされるというのは、意外に心に来る。お前は必要ないと言われているのと同じだからだ。けれど、ネットで見るより現実的で良かった。
 目の前に立っている人の隙間から向こう側の窓が見える。この通学路を使う予定だった。実家から通える距離が魅力的で、当然ブランドも魅力的で、校舎も古いけれど広くて魅力的で。目に涙が溜まりそうになって俯く。自分の太ももと鞄が目に入って更に泣きそうになった。高校の指定鞄は、茶色で、それに好きなキャラクターを付けて、形が作られているのをボコボコに机に叩きつけてこなれた感じにして、高校のマークを同じくキャラクターで隠した。有名進学校に通うというのは、私にとっては恥ずかしいことだったのだ。恥ずかしいことだと思っていた。けれど、違った。私は私の学校に誇りを持っていて、それを見せびらかすようなことが恥ずかしいだけだったのだ。存外プライドの高い人間だ。
 鞄の上の手は変わらずに小刻みに震えている。
 結果なんてわかっていた、私だって覚悟もなく今日来たわけじゃない。試験日に失敗をしたこともわかっていたし、模試だってAとかBとか取れたことないし、自己採点をした結果は散々だった。そんなわけだから、実際は落ちて当然なのだ。でも、理解することと、受け入れることとは話が違う。
 顔を上げると窓の風景はあまり変わっていなかった。ずっとビルと人と看板。微かに見える空は白く、何の色もしていなかった。透明の先は白なのかもしれない。ぐしゃりと視界が濁りそうになる。周りの人間だってきっと気付いてる。私は変な顔をしているから。今にも泣き出しそうな顔をしているから。
 雨でも降ってくれればいいのに。
 何も、変わりない景色は、私の心情を何も現さなくて、私がこの地球に居ても居なくても影響が無い事を確信させるようだ。別に、死のうなんて思わない。受験失敗で死ぬなんて本当に負けたみたいに思うから。乗り換えの駅に着いて私は立ち上がった。
 きっと気が抜けていたのだろう。膝の上にあった鞄は床に転がった。何を馬鹿な事を、本当に馬鹿だ、馬鹿だ。
「…………っぅ……」
「大丈夫ですか、はい」
 目の前のおじさんが鞄を拾って渡してくれた。ありがとうございますと口篭りながら、私は急いで電車を降りた。皆と同じ方向に歩く。家族や友達に報告するのが気が重い。
 あの!ねぇ!と声が聞こえてきて、私の肩に誰かが触れた。振り向くと人のよさそうなお兄さんが立っていた。
「これ!君のじゃないの?チェーン外れちゃったみたいだね」
 彼の手に私の鞄に付いていた筈のキャラクターが握られていた。私は再びありがとうございますと口篭ると、彼のジャージが目に入った。私が落ちた大学の名前がローマ字で書かれていた。キャラクターを毟り取るように掴むと、私は本日三度目のありがとうございますを言って、皆の流れに乗った。運が悪い。どうしてあんな男に拾われるのか。酷い、大体そんなジャージで人前を歩いて恥ずかしくないのか。自分の大学名を知らしめて楽しいのか。
 エスカレーターの列に入ると少しだけ後ろを振り向いた。拾ってくれたお兄さんはホームで電車を待つ列に並んでいた。
 ああ、あの人は私のためだけに電車を降りたのか。……私はあの大学に選ばれなくて当然なんだ、成績でもそうだし、全てにおいてそうなのかもしれない。エスカレーターに乗りながら、ぼろぼろと涙が零れて、さっきのキャラクターを握り締めた。
 バッドエンドって言えば響きはいいけれど、現実社会でそうなった時にどうすればいいんだ。私のあの努力はバッドエンドなんて言葉で終わらせられるのか。
 足は私の脳内と関係なくエスカレーターを降りて乗り換えのホームに向かう。涙を流す私は奇異な目で見つめられるけれど、もう止める気力も無かった。
 だから雨が降ってくれればいいのに。私はお気に入りのキャラクターをホームのゴミ箱に捨てた。
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