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BL、通称、ボーイズラブ。
それは男同士で【都条例】や【自主規制】や【アグネスを呼べ!】や【PTAに訴えられる】行為をするジャンルであり、およそ一般的な人から見たら何が面白いんだろうと思わざるを得ないジャンルである。しかしこの様なジャンルが確立されてるのは好きな人間が、支持する人間がいるからである。とはいっても好きな人のほとんどが女子であり、彼女たちは人として腐っているという敬称の意をこめられて腐女子と呼ばれている。もちろんその逆の腐男子も全くいないと言うことではないだろう。だが男がBLを好きになると言うのは差別的な意味ではないが珍しい。男が男を好きになっているのを見るのが好きと言う異様で異常で異質な光景を見たいと思うのが珍しいを通り越しておかしいのである。

● ●
「進路選択か……。ぶっちゃけどこでもいいんだよな……。」
ここに一人の人間がいる。名前を|立川攻《タテカワコウ》と言う。中学3年生の健全な男子で成績優秀、スポーツ万能、お金持ち、彼女がいる、イケメン、と世間一般で言われるリア充であり全く爆発すればいいのにと大半の人間に思われている。
「家で寝転がっていても何も思いつかないよな。遊ぼうかな。でももう夏だし皆受験勉強してるだろうしこんな時期に誘ったら俺超空気読めない人になるからな……。あー……。つまんねえ」
彼の言うつまらないという言葉は彼が先ほども述べたとおり万能すぎることに由来する。完璧すぎる属性しかないため彼には楽しみというものがない。欲しいものはすぐに入る環境で暇になったらゲームでも買えばいい、友達と一緒に遊びに行けばいい、彼女とデートすればいい。しかし中学3年生の夏、つまり受験シーズンにそんなことをする人間はいない。
「テレビでも見るか」
リモコンを手に取りテレビをつけようとしたその時、携帯の音が彼の部屋に鳴り響いた。
「秋葉原?」
「うん。親戚のおじさんがそこでお店やってて。夏休みの間にお手伝いしようと思うの」
彼女の名前は|加賀《カガ》|麗《レイ》。先ほどもさらっと述べた彼女の1人だ。
「だが何故俺を誘う?」
「立川くんにも一緒に手伝ってほしいの。中学生とはいえ、バイトなんておもしろそうじゃん? それにバイトって言っても名義はお手伝いだし、万が一見つかったとしても絶対に怒られない。話は通しておいたし大丈夫だよ!」
イマイチ納得できない理由を叩きつけられたが断る理由も特にないのでしぶしぶ了承した。
この時に
「ごめんちょっと無理だわ……」
とでも言っておけば俺の人生は少なくとも平穏にいけたはずだった。
● ●
早朝8時。秋葉原にて――
「彼氏か、麗?」
「うん。立川攻くんって言うの。優しくしてあげてね」
「はじめまして、立川です」
うーんと言いながら俺の知らない人――およそ、麗のおじさん――はヒゲをボリボリかきながらこっちをにやけた顔でみる。
「あんた男にもモテルだろう? ん?」
「いや……そんな記憶はないです……」
「まあいいや。じゃあ、攻くん。君には荷物運んでもらってもいいかな」
「その前に。この店って何の店ですか?」
「通称‘獅子の穴’。名前はかっこよく聞こえるかもしれないけど、同人誌とかフィギュアとかOVAとか、そういうのを専門的に扱ってる店だ。無論、普通のマンガとかもある」
ちょっと大規模なマンガ専門のおもちゃ屋さん……とでも思えばいいのだろうか? 認識としてはきっとそれでいいのだろうな。まあ秋葉原って言うのはパソコンと終始ニラメッコしてる人たちが唯一外に出かける場所、それが秋葉原。ってことはそういうの専門な店があってもおかしくないし、むしろ全然普通なわけだ。
にしてもさっきから本棚見てると、裸の、それもまだ小学生ぐらいの女の子が表紙になっている絵があるのだが……色々と大丈夫なのか?あれは?
「裸の女に興味が行くのは男として普通だ。だがあの娘たちは産まれてから500年が経っているという設定だから合法的に大丈夫なんだ」
なぜこの人は俺が見ていたと言うのをわかる。ってか産まれてから500年ってなんだ。聞いたことねえよ、そんなジャンル。新ジャンル『生まれてから500年』か?
「ちなみにジャンル名は『合法ロリ』だ」
だからなぜあんたは俺の考えていることが分かるんだ。
「でもまあ住まねえな。荷物を取りに行くにはこの場所を通るしかないんだ。今のうちに拝んでおけよ。なんなら1冊ぐらいはあげてもいいぜ」
「遠慮しておきます」
即答だった。幼女を犯す、俺にはそんな思想も趣味も全くもってない。
「ふう。じゃあこのダンボール20箱運んでくれ」
「20もですか?ってかなんですかこれ?」
「15箱は大人気魔法少女ゲーム『♪魔法うぃっち♪みらら』の特別版。残りの5箱はBLゲーム『俺を倒していけ。』だ。発売前から人気のゲーム……とは言われてるけど、大量に入荷しすぎても困るしな。とりあえず一箱30本×5の150本あったら腐っている方々は大丈夫なんだよ」
BL? 腐っている? 何を言っているんだこの人? でもまあ聞けそうな空気でもないし……とりあえず荷物は運ぶか……。
30分後。
「腰痛いな……」
「さすが、若いってのはいいね。じゃあこれを並べてくれ。『みらら』の方は俺がやっておくから『おれたお』の方を並べといてくれ」
おれたお? 俺を倒していけ。のことか?
まあこの人が開けた箱から女の子が書かれているって事は俺のこれが『おれたお』ってやつなんだろうな。
箱を開けて、パッケージを見ると、到って普通だ。
ちょっとかっこいい男たちが背中合わせになっている、そんな感じだ。
前面の男は見るからに筋肉バカと言わん感覚で手にはグローブのような手袋のような、とにかく手に何かをはめている。
BLってもしかして格闘ゲームのことか?
じゃあ腐っているっていうのはなんだ? パッケージが腐る、なんてのは聞いたことない。いや待て、腐っている方とあの人は言ってた。腐ってるのは人か?
にしても聞いたこともないゲームだな。発売前から人気だっていうんならどこかで聞くのだろうに……。ちょっとやってみたいな……。
なんてことを考えながら渋々と作業をやり、その日は無事に終わった。

「おじさん、今日はありがとうございました」
「こっちこそ。大分たすかったぜ」
「立川くん、あたしはまだ用があるから先に帰っておいて」
「ああわかった。おじさん、少しいいですか?」
「ん?なんだ?」
「……その……『俺を倒していけ。』なんですけど……もらえませんか!?」
「え……? あ、ああ。ま、まあいいぜ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
ムチャクチャなお願いでもやってみるだけ、価値はあるんだな。
早く家に帰ってこのゲームやりたいな。


「麗、あの立川って子はホモじゃゲイじゃないよな?」
「何?もしかしておじさん気にいった? ……って図星みたいね」
「ち、ちがう!」
「まあおじさんがそうだとわかるからアタシも安全にお手伝いできるんだけどね」
「俺が聞いたのはそういう意味じゃないんだけどな……」

● ●
パッケージを開封!そして説明書を読み、やり方を覚える!
……格闘ゲームではなかった。だが言うのならドラクエみたいに自由に動き回る感じだな。で、主人公の男がさっき言ってた男か。
まあ説明書を読むよりも実際にやってみた方が早いな。カセットを入れて、テレビオン!

『あの日のお前との誓いは絶対に忘れないから――』
『どういうことだよアキラ! 俺はまだ』
『ごめんな……』
ピコーン
『俺を倒していけ。』
プロローグはおもしろそうな感じだな。全く何も伝わってこなかったけど。
とりあえずNEW GAMEと。
『名前を設定してください』
名前? 主人公の名前は……ねーのかよ。コウ、でいいや。

『第1章 契られた鎖』

『俺の名前はコウ。この荒れ果てた地、アルカストにおける生存者だ。あいつらが現れたのはずっと昔だったな――』

名前のところ以外は全部喋るんだな。思ったよりもクオリティとか高そうだな

『おーいコウ!何してるんだよ』

『アキラ。もう体は大丈夫なのか?』

『あんくらいのケガへっちゃらだって。それよりもコウ、聞いたか?隣町の噂?』

『疫病――ダストウイルスのことか?』

……長い。世界観の設定説明だけでもう10分はあるんだけど。

主人公は唯一ダストウイルスにかからない体質で、疫病にかかり助かりはしたものの性格が変わってしまった友達のアキラを助けるために旅をしてるという設定だ。

しかし説明シーンの中でよくアキラと主人公が肩を組んでたりするシーンが山ほどあったんだけど、そんなお色気サービスは全く持っていらねーんだよな。

とか思っている間にもう移動とかできるみたいだな。

『アーーオーーア……』

『悲しいな。君たちがダストウイルスに感染する前は人間だったということを思うと。ごめんね』

直接的なシーンは流れなかったものの結構グロい感じの作品だ。だが刺激がありそうでおもしろそうだな。

そんなこんな言ってる間にこのゲームをやりこんでいってた。自由に動き回れて敵が出た時には場面が変わってそこでバトルをする。いたって普通でシンプルだがどこかいい。

やり続ける事およそ7時間――。

ついにダストウイルスの製作者『クレイ』のもとへたどり着いた。その隣にはアキラもいた。

『久しぶり。コウ』

『なんで!なんでお前は簡単に人を殺せるようになったんだよ!?』

『人? お前さあ、前言ってただろうが。感染する前は人間だったって。つまり感染したら人間じゃないんだよ』

『ッ……』

『それに無くなったんだったらまた手に入れればいい。そうだろ?』

『もう元のアキラはいない……のか……?』

『アキラのその性格を元に戻してやる方法を教えてやろうか? 誰とでもいいしキスをすることだよ』

『クレイ、あんた何を言って……』

『アキラの性格は今俺様が支配している。だがこの世界に万能なんてものはない。お前がダストウイルスに感染しないように。おとぎ話みたいだろ? キスをしたら元に戻る――なんて』

待てクレイさん。これが王子さまとお姫様だったら確かに素敵だ。でもこいつら男同士だぞ。それに、キスなんてするわけ……

『コウ? 何をしているんだ? 俺は一体……?』

コウさん、何をやっているんですか。なんで俺自分の名前つけたんだろう。気持ちわる……。しかしこれはギャグか? いやようく考えたらここに着くまでに男同士がハグしたりする場面がそれなりにあったよな。……まさか……な。でも不思議と嫌じゃないような、むしろ受け入れられるような、そんな感覚が何故かある。

『俺を倒していけ。---主人公編---終了。アキラパート、クレイパートが追加されました』

クリアしてから別の視点の物語が楽しめるのか。それはおもしろいな。

にしてもこんなゲームがあるんだな。

BL。これ、結構好きになれそうだな。

● ●

翌日 秋葉原 獅子の穴にて――

「いらっしゃ……こ、攻くん! どうした?」

「この前貰ったゲームおもしろくて……。他にもああいうのありませんか?」

「面白い……。そ、そうだな。これとかどうだ?」

「GATE:DEVIL。どんな作品ですか?」

「悪魔同士が『合体』したり魔王に仕える悪魔どうしの『絡み』が見れたり、本当に面白いぞ」

絡み……っていうのはバトルシーンのことか?なんにせよ面白そうだ。

「じゃあこれください!」

「あいよ。それと、メアド教えてくれね?」

「いいですけど、何でですか?」

「麗のことについて何かあったらな……って。別に攻くんが好きとかそういうのじゃないぞ!」

「むしろ男の人に好きになられても困りますよ」

軽く笑いながらその場は上手くやりすごした。

だが俺はこの時本当に後悔しまくった。

『絡み』という言葉の本当の意味をしっておけば、普通でいられたのに……。



「あ、ダメです! 魔王様、やめてくだ……ンッ!」

「無理だ。お前もこんなところでやめてほしくないだろ?」

「……」

「お前の中本当に気持ちいい。いきそう……」

「ハァハァ……」

「嫌がってる割にはこいつ、反応してるじゃねーか。一緒に行こうぜ?」

「「イックッ!ンッ!」」

何だこれ。

男の尻の穴に【アンアン】が入ったり、口に【アンアン】入れて動かしたり、男同士の【うふふ】を何で俺は見ているんだ。

そして何で今寒いんだ。

そして何で今疲れているんだ。

そして何で今ティッシュが散乱しているんだ。



いや、待て落ち着け。

俺はゲイではない。試しに今男同士のそういうサイトに言ったがグロ画像にしか見えなかった。続いてこのGATE:DEVILを見る。【バベルの塔】が【建設】されていく。

どういうことだ……?



「攻です。このGATE:DEVILってなんですか? それとBLについても詳しく教えて下さい」

麗のおじさんにメールを送信!待つこと3分。返事が返ってきた。

「GATE:DEVILは説明下通り悪魔たちのBLゲームだよ。あ、BLっていうのは、Boys Love、男たちの恋愛を楽しむゲームだな。『おれたお』もそうだな。基本俺の仕入れるものは、幼女ものかBLもののどちらかだ。もしかしてBLで抜いたとか? だとしたら、ようこそ。こちらの世界へ。ちなみにBL好きの女子の事を腐女子って言う。男子の場合は腐男子だな」

だとしたら俺は今、腐男子ってやつなのか?

いや、認めない!そんなの絶対に認めない!



【第一話 俺はもしかしたらBLというものを知ったのかもしれない】

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