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Plorogue

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仮面ライダー剣外伝 ――無限の祝杯――

第0話 ―Prologue―



 カードによる封印から解放された53体の生物。
 その解放により、人類は混沌の中に落とされることになった。
 生物の名はアンデッド。
 甲虫から虎、そして人間、すべての生物の祖である。
 そしてその世界を舞台に、人間を巻き込み、バトルファイトと呼ばれる戦いが行われた。
 勝者は如何なる望みでも叶えることが可能。
 それは、彼らを争わせるには十分な理由であった。

 それを黙ってみている者ばかりではなかった。
 死を持たず、カードによっての封印のみが相手を封じる手段。
 そんなアンデッドの力を用い、人間が作り出した存在。
 アンデッドを封印したカードの力により更なる力を得、そして戦う。
 仮面ライダーと呼ばれた彼らは、各々の運命を背負いながら、
 ついに世界をアンデッドの恐怖から救った。

 

 それから5年が過ぎようとしていた。






 本日は晴天である。雲はひとつもなく、ともすれば空の向こうさえ透き通って見えそうな、そんな午後。県立蔵西高校に通う18歳、井原洋二は窮地に立たされていた。彼を悩ませるそれは、非常に切ない現実である。と、いっても、別に恋愛とかそういうものではなく、原因は目の前にあるテストの点数を記した紙の存在だ。
「いやいや……いくらなんでもこれはやばいよな」と洋二はひとりごちるが、誰とて聞いているわけではないし、なによりこの点数がどうなるわけでもない。 
 彼の通う蔵西高校は、最近増えつつある単位を重視する高校であり、それゆえにテストの点数が悪ければそのまま留年につながりかねない。そして、洋二が今回取った点数は、その単位取得を不可能にするに値するだけの点数であった。だからこそ、彼はこの澄み切った空とは正反対に、非常によどんだ気持ちであるのだった。

 人間にも鳥のように、一種の帰巣本能があるという。彼は無意識の間にいつもの通学路を家の方向に、つまり帰宅する方向に歩いていた。ほとんど人も車も通らない寂れた道である。電柱にさえ気をつければ何にも激突せずに、家の玄関の前まで到達できるのだ。頭の中でテストの点数と格闘しながら、家から二つ手前の路地を歩いているときだった。
 何かにぶつかった。彼の無意識が、意識へと移り変わり、洋二はその激突の対象物のほうに視線を移した。
「いってぇな、なんだよいきな……り!?」
 最初は勢いのあった洋二の言葉が、完全に失われる。そして、そのまま5歩ほど後退りすると、洋二は腰が抜けたようにへたりこんでしまった。もっとも、それもそのはずである。
「か、怪物……!」
 洋二の言うとおり、目の前には怪物が、あってはいけないような存在が、息を荒げて彼の行方をふさいでいるのだ。 全身がやや緑がかった黒光り、そしてファーのような白い体毛、口と思しき部分は異様に長く延びて、まるで触手のようである。一言で表現するなら、蚊の化け物だ、と洋二は錯乱した頭の中で、無意味な分析をした。
 怪物は、一歩、一歩と洋二へと歩み寄る。
「うわ、うわあああ!」
 尻を地面にすらせ、腕と体の動きだけで逃げようとする。完全に腰が抜けてしまい、満足に足を動かすことすらままならない。と、怪物はノズルのような口を洋二のほうへと向けた。そして次の瞬間、洋二に向かって緑色の、粘り気のある液体を吐き出した。とっさに、体をよじらせてそれを回避し、その液体が来たほうを見てみる。それは酸のような液体で、地面のコンクリを溶解させていた。
 あれがあたれば俺は死ぬ……よな―――洋二はそう思いつつも、動かない自分の足に苛立ちを覚え、そして恐怖した。不気味なうなり声を一度鳴らした怪物は、ノズルを再び洋二へと向けた。ここまでか、と洋二は歯を食いしばり、目を瞑った。

「待て!」

 思いもかけぬ後方から、洋二よりは年上の男のそれと思われる声が聞こえた。とっさに後ろを振り向くと、そこには皮のジャンパーを着込んだ二十台前半の男が立っていた。思ったより若く、頼りなさ気だが、怪物を見て怖じる様子はまったくない。
 そして、怪物の姿を確認すると、男はおもむろにジャンバーを脱ぎ捨てた。長袖の服にジーパンというありがちな格好だが、一つだけ普通と絶対に違うもの……それは紫色のバックルがついた、とてもじゃないがセンスが良いとは思えないベルトだった。さらに、男は右手の平を顔の前に持っていき、そのひじを左手で支えるように構える。
「変身っ」と、男が叫び、ベルトのバックルをおもいきり両側に開く。内からトランプのクラブのようなものが姿を現すと同時に、ベルトからという声が響いた。それに呼応するように、男の前に一枚の光の壁のようなものが現れ、それは男をすりぬけて通り過ぎた。その瞬間、男は普通の人間の姿から、緑色の金属のようなものでできたスーツにつつまれた姿へと変わった。洋二には、何が起きているのか、一瞬把握できなかった。だが、次の瞬間に頭の中に「仮面ライダー」というものが浮かび上がった。というのも、彼は以前、『仮面ライダーという名の仮面』という小説を呼んだことがあったのだ。その仮面ライダーたちは、ベルトによって変身し、怪物たちと戦い、世界を救った、という、ファンタジー小説だ。
 しかし、そのファンタジーな存在が今、なぜか彼の目の前にいて、怪物も目の前にいて、そして対峙している。洋二がライダーと怪物とを逡巡している間に、ライダーは彼のすぐそばまで歩み寄っていた。
 ライダーと怪物の目が会った……ように見えた瞬間、ライダーの拳が怪物の胸部に叩き込まれた。
 吹き飛んだ怪物が、体を起こそうとしている間にライダーは怪物へと急接近し、さらに強烈に蹴りを叩き込む。
 先ほどまで威圧感のあった怪物が、弱弱しくうめく。が、すばやく起き上がると、ノズルのような口をライダーに向かって伸ばし、液を吐き出した。しかしライダーはそれを軽やかに回避すると、伸身でバック宙し、地面に着地した。
「悪いが早めに終わらせてもらう!」とライダー。どこから取り出したのか、虚空から、三つ葉のクローバーのような刃が先端に付いた杖を、大きく二回振り回した。
 さらに柄の描かれたカードのようなものを三枚取り出し、すばやく杖の柄先の部分のスリットに通しこむ。

――スタッブ

――ラッシュ

――ブリザード

 変身のときに聞こえたのと同じような声が響くと、ライダーと杖は冷気に包まれた。

――ブリザードスラスト

 さらに重ねるように声が響き、ライダーは大きく雄たけびをあげた。
 と、次の瞬間には怪物に大きく接近し、冷気を纏った杖の先端の刃で袈裟、逆袈裟から水平へと斬り、さらに一歩引いて力をため、大きく突き刺した。その衝撃たるやすさまじく、怪物の体は大きく貫かれると、そのまま吹き飛び、さらに傷口から凍り付いていき、そのまま声もあげずに、ぐったりとしてしまった。

 一瞬、ライダーが疲れたようにため息をつくと、さらにカードをとりだした。今度のカードには柄は描かれていない。そしてライダーはそれを怪物にむけて放り投げた。と、次の瞬間、怪物は光につつまれ、カードに飲み込まれるようにして、姿を消した。
「封印完了、と」
 ライダーはそうつぶやくと、元の男の姿に戻った。

 洋二は、その一部始終を呆然と眺めていた。使っている能力と言い、姿といい、そしてカードといい、目の前にいるのはまさに仮面ライダーである。彼の心には畏怖とともに大きな好奇心が抑えきれずに、存在していた。


 これが、洋二―――後の仮面ライダーブレス――と、仮面ライダーという存在との最初の出会いである。



 第1話へ続く
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