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少年

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猥雑したリオ・デ・ジャネイロの街に溶け込む一軒の大きな教会があった
古びたカトリック系の茶色い外装ではあるものの、
あまりにも地味すぎて教会だと言われなければ
おそらく誰も気付かないだろう

だが、外部はその地味さとは反対で
石灰石で出来たマリア像の石像やキリストの復活を願う使徒たちの絵が
壁に描かれ、美しく光っていた
それらを前に膝をつき、礼拝する男が居た
中肉中背で、
半そでの黄金色のアロハシャツにベージュの長ズボンを来た黒人男性
スポーツ刈りで歳は3~40といったところだろうか
この国ではそう珍しくない風貌だ

その珍しくない風貌の男は、なにやら物騒な内容の言葉を
マリア像、絵に向かってつぶやく


「ヤツは今、スラム"ロシーニャ"の"デウスデッチ"という酒場にいる
 金持ち共を集めてドラッグパーティーだ」


フリをしているようであった
その男の狙いはその話を男の直ぐ右隣側の柱にもたれかかっている
少年に聞かせることであった

年齢は15~7ぐらいといったところだろう
ツンツンとした金髪、白人8:黒人1:インディオ1の割合と
予想される色合いの肌、ツリ目で無表情
どこか少年っぽさを残す顔立ち 決してガキ臭いわけでも無い
穢れなき少年の顔立ちと言うべきか

彼は
アメリカンストリート風の黒いサーフTシャツに、
青いジーンズを着こなしていた

第一印象で見れば
何処か寂しげな顔をしていスタイリッシュな少年といったところだろう

ともかく その少年は礼拝している男が事前に渡したであろう
写真の男を冷たく見つめていた

「いいか・・・…いつも通り
 ギャング同士の抗争に見せかけろ
 民間人も標的諸共・・・・・・殺せ」

その言葉に頷くことすらせず、少年はただ黙って
写真をくしゃくしゃに丸め、礼拝中の男の足元へ投げ捨てた
それは少年にとって同意を表すメッセージであった


少年は柱の影を経由して、教会の表玄関から外へと出て行った
教会から出て行く少年の周りをストリートチャイルドたちが
笑顔で通り過ぎて行く

少年は彼らを一瞥したが、直ぐに視線を下へと下ろし
そのまま夜のリオ・デ・ジャネイロの町を歩いていった
その様子をコルコバードの丘のキリスト像が顎で見下ろしていた

夜のリオの町を歩く度に少年が想うことがある
何でこんなにこの町はすす汚れているんだろうか?

元々ポルトガルの植民地であったためか、この街には
ところどころ中世ラテンヨーロッパ風の教会やアパートが
近代的なオフィスビルと同居している
そんな町並みが悪いわけではない
むしろ、その調和が少年は大好きであった
もし・・・この町を金色や白に染めたのなら 
きっと誰もがその美しさに目を奪われ、深呼吸をしたくなるに違いない
この町を見下ろすコルコバードのキリスト像のように
手を水平に広げ、胸に全ての空気を吸い込んで そのまま立ち尽くしたく
なるに決まっている

そんな美しいはずの町並みを台無しにしてしまっているもの
それは色であろう・・・黒をベースにした土色がこの町並みを
塗りつぶしてしまっている限り、本来の良さなど出ようハズもない

仕事帰りのホワイトカラーのサラリーマンや、ブルーカラーの労働者が
疲れた顔立ちでとぼとぼと通りを歩く一方で、
かたや売春婦やストリートチャイルドたちが金ヅルを
見つけようと徘徊していた

少年にとって、これはいつもの光景だった
愛とか希望とか未来とか そういう浮ついた気休めの言葉が
ろくに出てこなくなる雰囲気に満ち溢れた光景だ
昔も今もそうで、きっとこれからもそうだろう
少年はそんな町の"光景"に溶け込むような足取りで
リオ最大のスラム ロシーニャの麓へと歩いていった

バラック小屋、土を集めて固めて作ったような家、レンガ造りの家と
色々あるが・・・まあ、言うならそこら辺にあるようなものを
集めてある程度補強して作ったような家々が猥雑としたこの街は
スラムである。このスラムは「ホシーニャ」と呼ばれていた
「ホシーニャ」は数あるリオ・デ・ジャネイロのスラム街の中でも
最大のスラム街である

もともと自然公園だった場所に
行き場を失った黒人や、メスチソや貧しいヨーロッパ移民が住み着き、
どんどんスラムを形成していったため、
家のバランスも、並びを見ても規則性など無きに等しい
社会の規則から爪弾きにされた人間達が作った街なのだから
当然と言えば当然なのかもしれない

さらには上水下水、衛生施設などももあまり整っていないがため、
この街にはドロとゴミが散らばり、階段の横からは汚水が流れ出していた

そんな汚いスラムの麓でも、まだ都市部に近いだけあってか
少しばかり綺麗で、洒落たバーや小さなレストランはある
その店の中でもかなり大きい酒場 それが"デウスデッチ"であった
少年が見つめていた写真の男 つまりは標的がパーティーを
催している場所だ…

「……………………」

少年はデウスデッチとペンキで描かれた看板を
しばらく見つめると、そのままゆっくりと扉のノブに手をかけ、
客を装って中へと入っていった
2

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