文藝作家のオフレポというものがどんなふうに書けば良いものかわかりませんでしたので、以下のようなルールで短編を書くことにしました。
ルール:以下のキーワードを何らかの形で全て使う。
『なまえをいれてください(先生)』『東京ニトロ(先生)』『精肉書房(先生)』『黒い子(先生)』『モモウ(先生)』『匿名希望(先生)』
それではスタート
東京に『トロリーバス』が現れたのは、雪が舞い散る12月の終わりのことだった。光り輝きながら雪と共に空から降下してくるそれは、人々の目にはただただ美しく映った。
まるでサンタからの気の早いプレゼントのようだ――。
人々がそう勘違いしてしまったのも無理はない。それほどにそれは神聖で、厳かで、害意など微塵も感じさせなかったのだ。
結局のところそれは害意の塊でしかなかったのにも関わらず、である。
少年シキは多くの人々と同じように、その日、それを見上げていた。その幻想的な眺めは、ろくでなしの父親と病気の祖父と、三人でのしがない生活を彼に一時的に忘れさせた。孤独に別れを告げられる気がした。
今にも朽ち果てそうな六畳一間のアパートの一室。その窓辺で、彼は冷気が入るのも厭わずに食い入るように開け放した窓の外を見ていた。
室内にはニセモノのブランド品が散乱していて、脚の踏み場もない。普段の彼は父親の商売道具であるそれらが大嫌いだった。ニセモノと分かりながら売りさばき、人を騙すことで生きていく。そんな父の生き方と、何よりもそんな手段で稼いだ金で自分が飯を食っていることが許せなかった。
ところが、部屋中に散らばった恨めしげな財布や、札入れや、バッグも、この日ばかりは気にならなかった。それほどまでに『トロリーバス』は彼に心穏やかな時を与えた。もっとも、この空からの贈り物が、その形を由来として『トロリーバス』と名付けられるのは、この日から三日間は後のことではあるのだが。
窓辺に佇むシキの背後で、ドアがけたたましい音を立てて開いた。開いたドアの向こうに立っていたのは、みすぼらしいコートに身を包んだ坊主頭の中年だった。男はずかずかと部屋へと足を踏み入れてくる。その足の下でブランド品が潰れた。
「なんだってんだ今日は……。あんなもんが空から降ってくるんじゃ商売上がったりだぜ。さっさとネットで地方の連中に在庫を売っちまわねえと……」
憎々しげにそう語る男は、右手で後頭部をボリボリとかきむしりながらシキに声を飛ばした。
「そこのやつ売るわ。シキ、札入れ取ってくれ。お前の足元にあるやつ。あ、あとその黒い小銭入れもな」
「……」
シキは男の命令に無言で従った。この男、シキの父親は札入れと小銭入れを持っていたコンビニ袋に放り込むと、入ってきた時と同じようにけたたましい音を立てるドアを閉めて部屋を出ていった。
男の閉めたドアの風圧で祖父の寝ている薄い布団がめくれ上がったが、それを直す気力がないのか、体力がないのか、昔は威勢のいい江戸っ子だった祖父はピクリとも動かなかった。
祖父は代わりに口だけを動かして、シキに語りかける。
「なあ……シキよ。今日はいくらか外が騒がしいみてえだが、何かあったのか」
「うん。なんか空からキラキラしたバスみたいなのがゆっくり降ってきてるよ。なんなんだろうね」
シキは相変わらず窓の外を見つめながら呟くように返答する。祖父は咳を一つして、苦しそうに声を吐き出した。
「空から降ってくるもんなんて、雪と、雨と、爆弾くれえのもんだ。いいもんが空から降ってくるなんてこたぁ、めったにねぇんだよ」
祖父はそれだけ言って布団をかけ直すと、また眠りに落ちていった。
続々と地面に降り立った『トロリーバス』のドアが、その晩一斉に開いた。
中に詰まっていたのは、星を浄化する薬。
人間という毒を。
一週間の後、誰一人としていなくなった街をシキは一人で歩いていた。
ゴーストすら死滅したようなゴーストタウンで、なぜか彼はただ一人生きていた。
父は死んだ。
祖父も、もういない。
わずか一週間の間に、死という文字がゲシュタルト崩壊するほどの別れを経て、彼は今一人だった。
あぁ、流刑みたいだ、と彼は思った。
看板が消灯したコンビニに、ふと目が止まる。自動ドアは永遠に手動化されていた。シキはどうにか店中に入ると、陳列棚を物色して腐っていない食べ物を探す。そうやってこの数日を生き延びた。
やがて彼は焼き鳥の入ったパックを手にして、レジへ向かった。当然ながら店員などいない。つい一週間前なら、レジの奥に声をかければ店員を呼ぶことができただろう。
そんなレジの前にたたずんで、シキはちらりとパックの表面のラベルに目をやる。そこには焼き鳥の値段、原産地、内容量が記されていた。
『298円、中国製、二串』
呼ぼうにも呼べない店員。金を払おうにも払うこともできない。彼はそれを改めて認識すると、パックに被さったラップを強引にはがして、焼き鳥を頬張った。
コンビニを後にした彼は、またしても街をブラブラと歩き続ける。
目的地は無い。
なにもすることが無いから、ただ歩いていた。
そんな彼の頭上で、何かが光った。
その光は、一週間前に東京中に降り注いだものと全く同じ光。最初は点くらいの大きさだったそれも、徐々にその影を大きくしていく。
段々と降下してくるそれは、それまでのどれよりも大きな『トロリーバス』だった。
シキも降りてくるそれに気がついていた。自分以外すべての人間を殺したそれに対しても、彼は特に恐怖を覚えなかった。ただあの日と同じように、綺麗だ、と思った。
光る物体は彼の目の前にゆっくりと着地する。
それは形こそ一週間前に見たそれと同じだったが、1つだけ大きく違う点があった。
車体の側面に、プラズマテレビのような大型のモニターと、パソコンにくっついているようなキーボードが埋め込まれていたのだ。
シキが一歩近づくと、モニターにぱっと光が灯り、日本語でメッセージが表示された。
『……なまえをいれてください……』
終わり
……予想以上にひどい出来になりました。なんだトロリーバスって。
オフレポに関しては絵のかける先生方がすでに素晴らしい物を書いてくださっているので、自分は少しだけ書かせていただこうと思います。
一言で言うと、すっごく楽しかったです!
……こんな小学生の夏休み絵日記くらいのことしか言えないくらいに、すっごく楽しかったです。
カラオケでは非常に絵のうまい精肉書房先生と東京ニトロ先生に挟まれ、その筆の動きに感動して!
なまいれ先生と匿名希望先生には素晴らしいFAをいただいて!
しかも何故かカバンすら持たずに着ていた僕は、いただいたFAを持って帰るためにニトロ先生にビニール袋をいただいて!(非常識ですいません!)
黒い子先生はあらゆるものを爆破して!
結局モモウ先生とはお話できず!(お話ししたかったです!)
まあそんなこんなでほんとうに楽しかったです。オフ初めてでビビリまくっていた僕でしたが、みなさん大人な方々ですんなり楽しむことが出来ました。
色々と失礼な言動が多い僕だったかと思いますが、どうぞお許し下さい。
また機会があれば、ぜひオフ行かせていただきたいです!
最後に幹事のなまいれ先生、ホントにお疲れ様でした!