トップに戻る

<< 前 次 >>

三途の川

単ページ   最大化   

今日も川に一掃の船
古ぼけた小さな小船にうめく人々
ここは三途の川あの世の川

三途の川  

川辺に死者たちが集まる
しかしそれは人が想像するような死人ではない
魂だけの体はいきいきとして死ぬ前姿とはくらべものにならない
わいわい騒いで人間は好奇心が旺盛だ
そこに小さな船が来た
しかしその船には不釣合いなものがのっている
あの世名物「鬼」だ
その大きさに死人は悲鳴をあげたり逃げ出したりしようとしていたが
鬼に軽くつままれて船に乗せられてしまう
それにしてもいろんなやつらが乗っている
船の上は人種のるつぼだ
この偉そうなひげを生やした男は私は社長だとか、もっといい船をだせとか騒いでいる
ここに来る人々は死んだ場所、生き方、なにも関係なくこの船に乗せられる
ただ死んだ順番で乗ることには決まっている
鬼たちがかってに決めたことだが
大きなくちから小さなため息をはくと船は出発した
言葉のわかる者どうしこれからの話をしていたが…
しまった、たまにあることだ通訳がのっていた
まあこのままなら大丈夫だろうが、余計なことを言うやつはいないか

三途の川って溺れたらよみがえるんじゃなかったっけ

まさか死んだ人間がこれまで生を欲するとは思ってもみなかったが
すぐにこの噂は小さな船の上できしめいた

ぼちゃん

だまって船を進めていた鬼は振り返った
そして叫んだ
「やめろ!やめろ!」
血相を変えた鬼を見てますます確信をえた人々が

川へ飛び込む
これ以上生きたいと思わない者もいたが大半は飛び込んだ
そしてあの世の水でもがいた
そしてほの暗い川の底へ次々と沈んでいった

鬼は必死で止めようとしたが無駄だったみたいだ
まあ私の仕事が減るだけだ

鬼はしばらくうずくまっていたがまた船を漕ぎ始めた

船の上には飛び込む勇気がなかった金持ちとか老人とかがいる
金持ちはなにかやましいことでもあるのか顔が青ざめている
老人は念仏を唱えたりしている
船の上で何をしようが勝手だもはや運命は変わらない

三時間ほどたっただろうか
船は白い門にたどりついた
未だに金持ちはうづくまり
老人は念仏を唱えて
鬼は落ち込んでいた

ゆっくりと門へと近づいている
鬼は門を叩いた
鬼もたいした大きさだが門は更に大きかった

門が開く

人々は固唾を飲んだ


そこには

そこには美しいはすの浮かぶ池
この世のものとは思えない世界いやあの世のものだが
暖かな光が死人をつつみこんだ

「天国へようこそ、神は全ての者を救われる」

そうひとこと言うと鬼は天国でもひときわ目立っている
白い十字架のもとへ行き
今日も手を合わせて祈るのだ
「どうか川へ落ちた者への慈悲を、アーメン」

まったくしつこいやつだ
お前がどう言おうが関係ない

三途の底は地獄だ



2

b9 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る