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第3話 夏の予兆と雄一郎の危機!?

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『結の依頼』から一ヶ月ほど経過したある日の昼休み。
 俺は相も変わらず退屈な時間を過ごしていたが、結と理沙はそうもいかない様子で、二人の面持ちは、あの依頼以降ずっと、どことなくどんよりとしていて虚ろだった。
 理解できないものだ。大切な人間を失った悲しみというものは、何ヶ月もの期間、人の心を支配し続けるものなのだろうか。
 そう思いながらも、俺は昼食である弁当を咀嚼していた。 

           ☆

 昼休みが終わり、今はちょうど五時限目。
 本来なら数学の授業が行われるはずのこの時間。今回は七月の、夏休みの間に行われる林間学校についての話し合いが繰り広げられていた。クラスの大半の生徒がその話し合いに積極的に参加していて、意見をいったりだとか文句をいったりだとかで、騒がしい声が教室中に響いていた。
 俺はといえば、話し合いに参加しようとする態度など微塵も見せていなかった。机の上に頬杖をつきながら窓の向こう側の澄み渡った青空をぼーっと眺めて、『数学の授業よりはいいなー』なんてことを思いつつ、たまに欠伸をしていた。視線はもちろん教卓ではなく窓ガラスの向こう側。

 が、そんな俺に、思わぬ危機が訪れた。

 きっかけは、うちのクラスの《林間学校実行委員》の 内原 明日香(うちはら あすか)による発言。
「じゃあ次は、活動班決めるから男女で五人組作ってー!」
 というもの。
 一見無問題な発言。しかし、俺にとっては無問題ではなかった。
 実は、内原明日香の言葉によって、俺は窮地に立たされたのだ。そう、クラスの“あまりもの”になってしまいかねないという窮地に。
 というのも、俺に友達と呼べる存在がいないからであって、五人組を作るということは、最低でも一人は気軽に話し掛けることが可能な存在が必要なのだ。
 しかし、俺には気軽に話し掛けることが可能な友達など一人も存在しない。それどころか、知り合いと呼べる人間すらも皆無だ。まぁ、厳密に言えばいないわけではないが。結や理沙も突き詰めて言えば知り合いなのだから。しかし、けしてあの二人と俺はそんなに親しいわけではない。そんな間柄で『一緒に組もうぜ』なんて言ったら断られて恥をかく可能性だって考えられる。
「くそ……!」
 俺は周りを見回す。俺以外の殆どのクラスメイト――いや、俺以外のすべてのクラスメイトは、仲の良い友達や知り合いなどに自ら声を掛けていた。
 そんな中、俺は、一人その場に佇立しているだけだった。
 ――完全に出遅れた。五月になれば自然と友達が出来るだろう……。そんなことを思っていた時期が俺にもありました。でも甘かったようです。証拠に、俺には友達が一人もいません。
 ……ちくしょう。
 中学校の時は何とか一人くらいは友達がいたが、今度はそんな救いの手は一切存在しない。完全に孤独だ。
 どうする!? 俺!! こんなところで恥をかくのか俺……!!

「ねぇ、雄一郎君」

 俺が右手の指を顎に添えながら視線を泳がせまくっていると、聞き覚えのある声に背後から名前を呼ばれる。
 俺のいままでの記憶の中で、自分のことを「雄一郎君」と呼ぶ人物はただ一人しかいない。
 振り向くと、そこには予想通りの姿があった。
「結城!! どうしたんだよ」
「どうしたって……、雄一郎君があまりにもキョロキョロしてるからさー」
「え……? そんなことねぇよ。ていうか俺――」
「組む人、いないんでしょ?」
 結は俺が言い訳をしようとするのを遮り、言葉をはさんだ。そして、その台詞は核心をついていた。
 なぜばれた。まさか結城が読心術を覚えていたとは。盲点だった。
「あたし達と組もうよ!」
 そう言うと結は、にこりと微笑みを浮かべて、俺の腕を優しく引いた。その時点で、俺は思った。
 ――やべぇ、惚れる。
 なんとも優柔不断な俺。しかし、こんなことで惚れるほど俺は甘くないぜ、結城。
 心の中でそんなどうでも良い独り言を漏らしていると、いつの間にか結に引っ張られて、いつも青空を眺めている俺の特等席から離れて、教室の後ろの方まできていた。
 俺の視線の先には四人のクラスメイト達の姿がある。きっとこの四人プラス俺、で活動班なのだろう。 
 一番左の小柄で可愛らしい容姿は理沙だ。
 その次は結。
 次がツンツン頭の生徒。どっかで見たことあるような……。あっ! 思い出した。結の依頼に携わっていた蔵崎という生徒だ。
 そして最後、“内原明日香”……か。
 明日香はこのクラスの《林間学校実行委員》だが、俺が知ってるのはそれだけで、彼女とは一度も会話を交えたことがないため、彼女について詳しくは知らない。他のメンバーもまたしかりだが。
 ていうか、蔵崎っていう生徒は同じクラスの生徒だったのか。じゃあ、あのとき廊下で必死に探してた俺、ばかみたいじゃねぇか……。待ってれば教室に戻ってきたのに。俺の労力返せ……。
 俺は後悔さながらなことを心で呟いていた。
 明日香は、俺の目を見つめながら口を開いた。
「坂上雄一郎君……だっけ? よろしく」
「ん、ああ……よろしくな」
 俺は上の空だった。それは、明日香の容姿に釘付けになっていたから。
 制服のスカートの下からスラリとはみ出した艶のある脚と、発育途中で絶妙に膨らんだ胸。さらに、冷静な性格を強調するかのようなきりっとした目つきと、頭の後ろで美しく束ねられたポニーテールの髪。
 大人っぽいなぁ、この人。
 俺がじろじろと自分の風貌を見てるのに気がついたのか、明日香は眉間にしわを寄せた。
「ねぇ、あんまじろじろ見ないでくれる? 気持ち悪いから」
 少し毒の入った明日香の物言いに、俺は引きつった笑いを浮かべながら「わりぃ」と謝った。
 とにかく、一緒に組む人たちが見つかってよかった。
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