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第三章『狩という字』

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1.

「タクマ、今日から狩りに行くぞ」
 この世界に来て一週間が経つ日、起き抜けにカンデラさんからそんなことを言われた。
 その言葉を言われた時の救われようといったら、言葉に表すのは難しい。とにかく、俺はエルスと子供達による精神攻撃から逃れられることが非常に嬉しかったのだ。
 朝食を食べ終わった俺とカンデラさんは小屋を出ると、いつぞやの試し切りした場所まで来た。
「さて、これから武器を選んでもらうわけなんだが、まあ、タクマの力ならどれでも好きなものでいいだろう。というわけで、好きな武器を選びな」
「あ、はい」
 と、武器を仕舞っているのだろう木造の物置に連れてかれる俺。中に入ると、見渡す限りに武器が並べてあった。壁も利用している辺り、なんとなく武器を集めることが趣味なんじゃないのかと思える。
 このまま立っているだけでは話が進まない。俺は物置に一歩踏み込むと、置いてある武器を物色し始めた。
 剣に斧、棘の付いた鉄球にナイフ、弓もあれば棍棒もある。選り取り見取りとはこの事だが、さて、俺は一体何を使えばいいんだ。カンデラさんは何でもいいとは言っていたけど、実際にこれだけの種類の武器を目の前に置かれると、どれを選べばいいのか迷ってしまう。
 無難にいけば剣だけど、それじゃあ遠くに居る獲物は狩れない。かと言って弓だけじゃあ心許ない。……そうか、剣と弓を二つとも持ってけばいいのか。頭いいな俺。
「じゃあ剣と弓を持って行ってもいいですかね」
「なるほど、迷った挙句両方選んだわけだな。ま、いいんじゃねえのかな」
 全部お見通しである。
 許可されたので、まず手にとってみた剣。重さは例の如くほとんど感じないが、鈍い光ながらも薄く鋭く研がれた両刃は切れ味に何の不安も抱かせない。それをカンデラさんお手製のベルト付の鞘に入れ、次に弓を取る。
 弓は木製で、俺の背より少し短いくらいの長さがある。取り回しにくそうだなあ、なんて思うも、両方持っていくと言ってしまった手前、俺も引き下がれず。これまたお手製の肩に掛けるベルトに弓を固定し、傍にあった矢筒を右肩から覗く位の位置に背負う。
 一通り俺の準備が終わったのを見計らってか、カンデラさんが口を開く。
「それじゃ早速森へ行くぞ。ああ、村の周囲に危険な魔物はいないにしても、タクマは初めてだからな。油断してたら、ニブル相手でも骨の一本くらいもってかれるぞ」
「やっぱり明日でもいいですかね、足の調子が悪いみたいですわ」
 震えてきた足。
 いや、初耳なんだけど。なんなの魔物って。……いや、エルスが世界には魔物が蔓延ってどうのとか話していたような気もするが、たぶん眠くて聞いてなかったな。悪いのは俺だ。
 しかしながらよくよく思い返せば、一週間前――もう一週間も経ってしまった――に俺の事を襲ってきたマンティコアもどきは間違いなくザ・魔物って外見だったしなあ。認識を誤っていたみたいだな俺は。てっきりウサギとかシカ的な人畜無害アニマルしかいないと思い込んでいたみたいだ。
 弱気な発言はもちろんカンデラさんに認められるはずも無く、岩のような拳骨を脳天に食らった後、森に向かうこととなった。



 濃厚な、それでいて清涼感たっぷりな森の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、俺はカンデラさんと二人で茂みに身を隠していた。それというのも、森に入って十分も経たない内にお目当ての『ニブル』とかいう生き物を見つけてしまったのだ。
 見た目は牛に近い。村の中じゃ翼の生えた牛っぽい生き物を見たが、いま俺達の前で無防備に草を食べている奴は背骨から鋭利な骨が生えている。合計五本にも上るその骨は、なるほど油断しなくとも刺されば致命傷は避けられまい。
 この牛もどきの唯一の欠点を挙げるとすれば、背中に生えている故に攻撃手段としては使いづらいというところだろう。なぜこいつが自然淘汰の中で生き残れたのか不思議でならない。
「見てわかる通りニブルって奴はどいつもこいつも大人しい。だが、一度怒らせたら殺すまでオチつかねえっつー面も持ち合わせた危ない奴でもある」
「それは結果的に危ない奴だと思うのですがどうでしょう」
「なに、攻撃しなきゃいいんだよ。しかしながら俺たちゃ狩人だからな、攻撃せずに狩ることは出来ねえ。なもんで、油断はすんなってこった」
 息を潜めながら静かに会話を済ませると、カンデラさんはおもむろに立ち上がった。もはや隠れる気は無いのか、草木の擦れる音をこれでもかと漏らした結果、ニブルは俺達のほうを見る。
 そのまま何秒か経つが、ニブルに動きは無い。……逃げないのか?
「もう一つ言い忘れていたが、ニブルは基本的に馬鹿だ。こっちが明確な攻撃の意思を見せない限りは興味のなさそうな目で見てくるだけなんだなこれが」
 端から生存する気ないだろコイツ。と、カンデラさんの言葉を聞いて呆れてしまう。
「ま、せっかくだ。タクマ、お前弓持ってきてんだろ、ちょっと射ってみろ」
「いいんですか?」
「ああ、どっちにしろ攻撃すりゃあ暴れるんだ。タクマにとっても、距離があったほうが落ち着いて対処出来るだろうよ」
「確かに、攻撃した瞬間いきなり近くで暴れられたら焦ります。わかりました」
 言われるままに、俺は背中にベルトで固定していた弓を左手に持ち、同じく背中に背負っていた矢筒から矢を一本右手で取り、そのまま構える。
 ここで気付いたんだが、俺は生まれてこの方、弓を触ったことがない。なんで弓なんて持ってきたんだ俺は。今更カンデラさんに「俺弓使えないんでここはパスで」なんて言える空気じゃないことは確かだ。
 仕方がない。
「ふう……」
 ゆっくりと息を吐きながら、未だに虚ろな目でこちらを見るニブルを狙う。正直な話、どこで狙えばどこに飛ぶのか、それすらもわからないものだから、とりあえず鏃をニブルの胴体に向ける。弓が限界までしなり、弦がはち切れんばかりに張られるのを感じながら、息を吐き切ったところで、俺は右手を離した。
 ひゅん、という耳当りのいい音を残しながら飛んでいった矢は、驚いたことに、ニブルの前足に刺さった。かのように見えた。
「あっ、あたっ、あ、え……」
 矢が前足まで吸い込まれるまでは良かった。俺的に百点満点をあげてもいいくらい綺麗に刺さったと思った。しかし、矢はニブルの左前足の半分以上を吹き飛ばしながら、地面を抉り、止まった。
 矢が、複雑骨折じゃ済まない有様になっている。
「おいおい……怪力にも程があるぞ……」
 横からカンデラさんの呆れたような声が聞こえてきたが、俺も予想していなかった結果なので、非常に動揺している。
 木を切ったときは、なんとなくハロンも余計なことをしてくれたなあ、としか思わなかったが、なあに、これは度が過ぎていると自分でも思うわ。
 哀れ左前足が使い物にならなくなってしまったニブルは、突然の攻撃に怒る間もなく倒れてしまい、すかさず飛び出したカンデラさんに首を切られ、絶命した。
「……まあ、初めてで獲物を狩れたんだ、もっと喜ぼうぜ、タクマ」
「ええ、はい」
 果たして、何の変哲もない弓矢で生き物の体の一部を吹き飛ばしながら喜んでもいいものなのか。それがもし人間だったら。そんなことも少しだけ思ったりもしたが、いきなり目の前で開始されたニブルの血抜き作業により、細かい考えは全て吹き飛ばされた。
2.

 初めて“狩り”というものを行った夜、俺は夢を見た。
 他愛もない夢である。俺が射止めたニブルとかいう獣が「マジいてえ」とか言いながら、俺に向かって意味深な色に染まった瞳を向けるのだ。痛いのは分かる。済まないと思う。しかし、言わせてもらいたい、俺の言い分も。
 それと言うのも、今回の狩りは、別に特別な事だとは思っちゃいない。ただ、日本に居た頃に存在していた何個かのクッションが全部吹っ飛んで、命を奪う工程が俺の目の前に飛び込んできただけなんだ。
 ああ、そんな目を向けるな。正直に言おう、お前は可愛くない。ぶっちゃけ、ブサイクもいいところだ。そんな、モンスター一歩手前――あれ、モンスターだったか?――のお前が死んだところで、俺は困らないし、悲しみもしない。これが猫とか愛玩動物だったら、今頃俺は異世界に来たことを後悔するばかりか、ベジタリアンに転向していたに違いない。そういう意味じゃ、ちょっとだけごめんと思ってるよ俺は。
 つらつらと思ったことを言っただけの言い訳だったが、目の前のニブルは納得したように立ち上がると、そのまま背を向けた。
 わかって、くれたのかね。これは。
 さすが夢だ、都合がいい。そう思ったところで、俺はいつの間にか“地に足を着けていなかった”。
 順序を間違えた。俺は、ニブルの背中に生えていた極太の背骨? に身体の正中線をこれでもかと貫かれていた。痛みはない。ただ、“してやられた”感だけが増していく。
 なんなんだコイツは。わかったようなフリして、その実これか。なるほど、ついに謎が解けた。お前が自然から淘汰されなかったのは、馬鹿の振りをしながら要所要所で、こうして騙まし討ちをしていたからだったんだな。ああ、汚い。ニブル汚い。
 もういい。実は色々言い訳したけど、お前が死んだくらいじゃ別に何とも思わなかったよ。なんも済まないとか思ってねえよ。というか晩飯で食ったけど、めちゃくちゃうめえから自ら率先して狩りたいくらいだわ。もう許さねえ。お前の本性はよく分かった。次、森で会ったら覚えとけ。吹っ飛ばしてやるからなホント。
「ほう、それは楽しみだな」
 そろそろこんな夢覚めてくれ、なんて思いながらボロクソに言っていた時、驚くべきことに、唐突にニブルが喋った。
「……人語を解した!?」
「一体何を相手にしていたかは知らんがな、さっさと起きやがれ! 一日飯抜きにするぞこの野郎!」
 ニブルの顔がカンデラさんに変わったところで、俺はこれが夢だったことを思い出した。
 ある意味覚めて欲しくなくなった一瞬でもある。



「そういえば、なんでこんなにニブルを狩る必要があるんですか?」
 森の中。昨日に引き続きカンデラさんと共に狩りに勤しむ俺であったが、四匹目を狩り終わった時、思っていた疑問を口にした。
 普通に考えれば、ニブルを一匹狩れば俺とカンデラさんが少なめに見ても三日は肉に困らない大きさがある。それを、昨日の分も合わせればゆうに七匹目である。昨日見た夢のせい、というわけではないにしても、食べきれないほどのニブルを殺してしまうのは気が引ける。
「ああそれか、そういやタクマにゃ説明してなかったな。今は真っ白な月、十六の日。あと十五日もすれば、村じゃ収穫祭をやるんだよ」
「収穫祭、ですか」
「そうだ。一年に一度のでっけえ祭りでな、正直な話、ニブル二十匹くらいじゃ全然足りねえんだわ。だからタクマが住み込みで働くって言い始めた時だが、実を言うと助かったのは俺もなんだよ。ガハハ」
 なるほど。それなら、昨日からの乱獲っぷりも納得出来る。しかし、二十匹でも足りない、か。思えばこの村……ヤード村だったか。村人とは微妙な距離感があるし、どんな村なのか、どれくらいの人が住んでいるのか、どんな建築物・店があるのか、なんて当たり前のことすら知らないままだな。
 じゃあ何匹狩れば足りるのか、なんて単純な計算も母数が分からなきゃどうしようもない。
「しかも今年は、只でさえここ五十年の中で一番大きな祭りになるだろうって言われてんだ。こうして喋っている暇があったら、ニブルの一匹や二匹狩らないと間に合わねえぜ」
 やれやれ、といった具合にカンデラさんが肩をすくめる。すかさず、俺は今言われたことでも気になった所を質問する。
「なんでまた、今年が一番大きな祭りになるんです?」
「ん、何も知らねえんだな……と言いたい所だが仕方ねえか。かく言う俺も詳しい話はまだ知らねえんだが、なに、五十年ぶりにこの村から『勇者様』が出るんだとよ」
「勇者……って、あの魔王なんかを倒しに行っちゃう勇者だったりするんですか」
「ああ。なんだ、知ってんじゃねえか」
「いやいやいや、知らないですよ。え、というかこの世界に魔王なんて恐ろしい奴が居るんですか?」
「そりゃあいるさ。魔王が居なかったことなんて、俺が知ってる限りでも二千年間一度も無いだろうよ」
 な、なんだと……。魔法や魔物まではファンタジーということで十歩くらい譲って認めてやらんことも無かったが、魔王だと……。
 待て待て。俺のイメージとしては元の世界に戻る方法はゆっくりのんびり休暇だと思って旅でもしながら探そうか、なんて悠長に考えていたんだが。だが、魔王か。魔王はヤバイな。世界とかほっといたら滅ぼされるんじゃなかろうか。なにそれこわい。
  と、ここまで考えておいて、カンデラさんが言っていた内容を思い出す。二千年もの間、魔王が居なかったことは一度も無い、と。いまいち魔王やら勇者の役割が分からないが、二千年もあった割には特にこの世界は暗くないと言うか、あれだ、魔王の影響が少ないように感じる。
「あの、魔王って世界を滅ぼそうとしたりしてるんじゃないんですか?」
 非常に滑稽な質問だが、俺にとっては死活問題である。
「はあ? なんだそりゃ。魔王が世界を滅ぼす? なんでまたそんなことしなきゃなんねえんだ」
「え」
「あのなあ、タクマが言う魔王ってのがどういうものかは知らねえが、魔王ってのは俗称なんだよ。『フェルミ』って国があんだけどよ、その国を統べているのが魔王ってわけだ。これがまた性悪な国で、わざわざ大陸越えてまで色んな国を攻めまくっててよ。で、討伐軍の面々が俗に勇者って呼ばれてんだ」
「ああ……そうなんですか、よかった……」
 そういうことでしたか。要は一国の王ってだけなのね。そりゃあ滅ぼしちゃいかんよね。攻め入るってことはそれ相応の目的物があるわけだし。よかった、滅ぼされる世界はなかったんだね……。
「ま、世界を滅ぼすってんならそりゃ邪神くらいじゃねえかな。実際に居るかはわかんねえが」
「じゃあ居ないです。そんな物騒な名前の神は居ないことにしましょう」
 なんでこう上げて落とすようなことを言うんだこの人は。邪神? 魔王より性質が悪そうじゃないか。勘弁してくれ。
「居るには居るらしいんだけどな。そこら辺はエルスの嬢ちゃんがよく知ってるんじゃねえかな。俺はそういう歴史とかってのは“てんで”駄目でよ。ガッハッハ」
 そう笑いながら、カンデラさんは長話はやめやめと言って森の奥へと進み始めた。
 願わくば、平穏無事に過ごしたいものである。俺は切にそう思いながら、ちらつく邪神という言葉を無視してカンデラさんを追いかけるのであった。

10, 9

  

3.

「タクマさん、それは魔王を知らないなんて言ったら頭おかしい扱いされますよ。私だったらしますね」
「朝から強烈な毒を吐くのは止めてくれよ……」
 早朝からカンデラさんに狩ったニブルを持って行ってくれと頼まれ、やっとのことで――そんなでもなかったが――ニブル五匹分の肉をラザフォードさんの家まで運んできたら、これだ。
 最初は世間話をしていたつもりだったのだが、気付いたら俺の無知さが垣間見えるごとにエルスの無慈悲なツッコミが入るという繰り返しとなっていた。
「あのね、俺だって結構頑張ってるんだぞ。子供と混じりながらエルスに色々教わったり、子供と混じりながらボロクソに言ってくるエルスに耐えたりな」
「まるで私がタクマさんのことを虐めているような言い方じゃないですか。心外です、これでも心配してるんですからね、タクマさんのこと」
「心配してくれてるのなら、もうちょっと俺の心を労わってくれたっていいじゃないか。バチは当たるまいよ……」
 しかし、エルスも悪気があるわけじゃないのだろう。そう俺は信じてる。そうではなかったら、俺はどれだけ嫌われているんだ、という話になってしまう。出会って一週間程度でどれ程の事をすればここまで嫌われるのか想像も出来ん。いや、まるで俺が嫌われているような考え方は止めよう。
 誰が止めるでもなく場が静まったついでに、俺はニブルの肉――異様にデカイ葉っぱに包まれている――を何処へやればいいかエルスに聞く。
「あ、そこまでしてくれるんですか? 優しいんですね」
「ここまで来たらな。ついでだよ」
「そうやってまた私の部屋に入る口実を作るのが目的だったりしませんか?」
 何を唐突にこの子はそんなことを言うのか。
「止めてくれ、何でそんな回りくどい男になってるんだ俺は。入りたかったら素直に言うぞ。その“信じられません”という目も止めなさい」
「なんだ、違うんですか。そうですか。あ、肉は台所の方に大き目の台があるので、そこに置いといて下さい」
「お、おう……」
 なんで残念そうなんだ。すっかり手玉に取られながら、言われた通りの場所に肉を運ぶ。
 色々釈然としない部分はあるが、今のところ特に用事は無く、そろそろ帰ろうかと思っていた時のこと。
「タクマさーん、ちょっと来て下さいー」
 二階から俺を呼ぶエルスの声が聞こえた。何か他に運んで欲しい物でもあるのか、見当も付かないまま二階に上がると、そのままエルスが手招きする部屋まで行く。
「――しまった!? ここは、エルスの部屋だッ!」
「わざとらしいこと言うの止めましょうよ」
 その通り、分かっていた。
 ここはノってくれると思ったんだが、よくよく考えれば出会ったばかりの男女でそんな気の通じ合う真似をすることが無理な話か。その割にエルスは俺のこと結構けなすけどな。
「冗談は一先ず置いといて。どうしたんだ? なんか、他に運んで欲しい物でもあるか?」
「あ、置いちゃうんですか。そのですね、置かれちゃうと特に理由は無くなっちゃうんですよね。強いて言えば……ふふっ、呼んでみただけです」
「なにそれ……」
 にっこりと笑うエルスを見て、思わず溜め息が漏れる。
「それじゃあ、これも冗談ということにしておいてですね、お茶でもしませんか? 荷物を運んでもらったお礼ということにしときます」
「もうどれが冗談か分からないから、好きにして下さい」
 少なくとも本当にお茶が出てきた辺り、割と本気でお茶したかっただけなのかな、とも思ったりした。



 お茶を飲みながら――このお茶、緑茶に限りなく近い――話を続けること数十分。最初は、いつも通り俺が全体的に常識知らずの恥知らず扱いされて終わるのか、とも思った。しかし、蓋を開けてみれば意外にも和やかで。俺はこの世界に来て初めて、こうやってゆっくりしながらどうでもいい話をしていた。
「へえ、じゃあその今回選ばれた勇者? はエルスの幼馴染なんだ」
「そうなんです。マイルという名前なんですけど、昔から力だけは誰よりも強くて。口癖が、“俺が魔王を倒す”ですし、お似合いなんですよ」
 いつの間にか、もうすぐ行われると言う収穫祭の話になり、次にその主賓扱いでもある勇者の話になった。
 勇者か。エルスには悪いが、この世界で言う勇者は余り好きになれないかな。……そう、要するにこれは徴兵だ。勇者と言えば聞こえは良いものの、結局は魔王やその軍勢と戦う兵でしかない。とてもじゃないが、俺のイメージしていた勇者とは掛け離れている。
 さすがにそれを口に出すような真似はしないが、“戦争は悪”という教育の下で生きてきた俺にとっては、エルスの笑顔交じりに話される内容に違和感を覚えるしかなかった。
 そこで、何かボロが出る前に俺は話題を変えることにした。
「そういえばさ、エルスは邪神って知ってるか?」
「邪神、ですか?」
 首を傾げるエルス。その仕草自体は愛玩動物を彷彿とさせる可愛さなのだが、如何せんその視線が頂けない。“出たよ、またコイツってば非常識発言しとります”という視線が、俺の全身に降り注ぐ。
「知っているには知ってますけど、私も詳しいことは分かりませんよ?」
「ああ、俺もそんな深い所まで知りたいとは思ってない。ただ、邪神ってやつは本当にいるのか、とか。どんなことするのかってことが知りたいんだ」
「そうですね……居るか居ないかで言えば、居ます」
「あ、居るのね……」
 マジか。マジで居るんか。
「でも、邪神なんて神話の中でしかその存在は伝わってないんです。『シュメール』ぐらいじゃないでしょうか、名前が伝わっているのは。その邪神も、神話では何もせずにこの世界をうろついていたら、ベルスタ様に立ち入り禁止にされた、という記述しかありません」
 なんだそれ、全然邪神っぽくないぞ。何もしてないのに追い出された挙句に出禁とか、逆にこっちの神様のほうがおっかないわ。
 しかし、それだと邪神はもうこの世界に居ないことになっちまうが、どうなんだろうか。
「じゃあ、もうこの世界に邪神はいないってことか?」
「そうなります。でも、神話でパーセク様は“一と十一の邪神は世界を隔てたすぐ傍に在る”という表現をされる箇所があるんです。そこから、邪神は居るという説に繋がっています」
「ほー……よく分からん」
「だと思いました」
「それはそれで心外だ」
 等と。適当に笑いあったりしたところで、急に寒気が全身を襲った。日本じゃニブイタクマと“もじられて”いた俺でも、さすがに三度目ともなれば分かる。分かってしまう。
 このプレッシャーは――。
「これはこれはタクマ君じゃないか。朝から女の部屋に入り浸るとは、中々いい生活を送っているようだね」
 ほらね。
 なんてことはない、いつも通り、ラザフォードさんが背後に立っていただけだった。……だけ、ってことはないか。見るからに怒りを隠そうともせず、こめかみにはミミズでも飼っているのではと勘繰りたくなるような太い血管が浮き出ている。
「あ、俺帰ります」
 諦めた。
 そもそも、ここで踏ん張ったところでラザフォードさんの心象を悪くするだけだし、かといってそれに見合うものが得られるのかといえば、若干エルスに気まずい思いをさせたまま会話を続けるぐらいの事でしかない。ああ、諦めよう。
 そう思うが早く立ち上がった俺は、そのままラザフォードさんの隣を通ろうとして、止められた。何故だ。
「諦めるのかね?」
「ッ!」
「君がこの村に来てから、ほぼ毎日エルスの部屋へ通っていたのは影ながら見せてもらっている。君の気持ちは、父である私も何割かは理解出来るだろう。だからこそ、もう一度聞こう。君は、私に少し威圧されたくらいで諦めると言うのかね?」
 おかしいぞ。一瞬、ほんの一瞬だけ俺の心を見透かされたような気になったが、気になっただけだった。影ながら見ていた、の辺りからこのオッサンが何を言っているのかよく分からない。
 そこまでして俺にエルスと会話して欲しいのか、このお父さんは。もしかしてエルスって友達居ないのか? いや、それは無いだろう。
 話が今一つ見えず、ひとまずは落ち着いてもらおうと口を開く。
「あの、ちょっと待っ」
「そんな軽い気持ちでエルスを娶れると思うなよ小僧ッ! 父親の一つや二つ黙らせてみろ!!」
「お……っ父さんの、バカぁ!」
 と、ラザフォードさんの気迫が俺に届く前に、エルスのボディブローが炸裂した。さすがのラザフォードさんもこれには黙るしかなかった。
 しかし、今日のエルスはここで止まらなかった。割と分厚い腹筋から右拳を素早く引き抜き、今度は左拳を振りかぶり――。
「うましか!!」
 入ったッ! 二発目! さっきの右拳が収まっていた場所と寸分違わない所に、左の鋭い打ち込み。
 もはやラザフォードさんに声を出す力は残されていない。心なしか目に光が無い気がする。
 今日は機嫌が悪かったのだろうか……ふと、心配になる。再度右拳を振り被るエルスを見て、俺は唐突に日本で味わった社会の理不尽さを思い出したりしていた。
「収穫祭で一緒に食べられちゃえばいいのよ! ふんッ!」
 決まった。一つや二つどころじゃない。オヤジ三人は黙らせるほどのボディを一人で受け止めたラザフォードさん。俺は悪くない。そう思っていても、この惨状を見てしまうと悪いことをしてしまったような気持ちになってしまう。
 床に転がるラザフォードさんを汚物を見るような目――こんな表現現実でしたくはなかった――で一瞥すると、そのままエルスは一階に降りていってしまった。
 ……俺も帰ろう。


4.

 この世界に来て、ちょうど二週間が経つ日の事。
 人間の適応能力は凄い、なんて表現をよく目にする事があるけど、なるほど確かに凄かった。なんせ文化も違う、人種も違う、言葉も違う、物理法則も違うこの世界に、たった二週間居ただけで“慣れた”と感じることが出来るのだから。ちなみに狩りは三日で慣れた。実は俺って逞しかったのかもしれない。
「おいタクマ、ボーっとしてんじゃねえ。さっさと血抜きして、次探すぞ」
「あ、はい」
 言われるがままに、俺は携行していたナイフを取り出すと、そのままニブルの最も血管が太い場所に突き入れる。すぐさまナイフを抜き取り、大げさなくらいの血が噴出するのを確認。
 次にポーチから六メートル程のロープを出し、ニブルの後ろ両足を縛る。あとは適当な高さにある枝にロープを引っ掛けると、持ち前の怪力――持ち前でもないか――でニブルを地面から少し浮く程度まで引っ張り上げ、ロープの端末を木の幹に縛着。
 これで血抜きの作業は終了だ。本当は持ち帰ってから安全な場所でやったほうが良いらしいのだが、数が数なので仕留める度に行う必要があるとかないとか。
 この工程、やっぱり一週間も続ければ、それなりの動きは出来るようになるわけで。力が有り余っている分、下手な初心者より使える、とはカンデラさん談。現代人としては、血抜きが上手くなったところで何に活かせるのか見当も付かないところが痛い。
 ロープの緩みがないか確認して、俺は先に行ったカンデラさんに気持ち足早に追い付いた。
「カンデラさん、血抜きの作業終わりまし――」
「しっ」
 黙る。
 見ればカンデラさんは茂みに隠れるようにしてしゃがんでいる。俺も慌ててそれに習うと、声量を最低まで落として再度カンデラさんに話しかける。
(あの、どうしたんですか。ニブル相手に隠れる必要なんてないんじゃ……)
(わかってんじゃねえか。要はニブルじゃねえんだよ。見ろ)
 そう言ってカンデラさんの指がさす方向を見ると、なるほど納得がいった。確かにアレはニブルじゃあない。
 ニブルの大きさは日本で言うところの牛と同程度か、それより一回りほど小さいくらいである。重さはこっちに来てから怪力になりすぎたので判断し辛いが、大体二百キログラムもないくらいだろう。
 対して、今俺とカンデラさんの目の前で木の枝を食っている奴と言ったら、目測にして全長五メートルは下らない。ニブル三匹分くらいだろうか。しかも、ニブルは脊椎骨に当たる部分から角のようなものを生やしているが、コイツはそれが全身に生えている。
 見た目で判断するのは憚れる現代だが、正直に言わせてもらおう。
(なんだよコイツ……見た目怖すぎだろ……)
 急にあんなのが目の前に出てきたら、泣きながら逃げるわ。
(コイツは“キントルニブル”だな……)
(キントル? というか、こいつもニブルなんですか?)
(ああ、ニブルには違いない。だがコイツは級詞持ちだ。級詞持ちは珍しい、俺でも今のところの人生でコイツが三匹目だ)
 きゅうし? なんだ、称号みたいなものか?
 いまいち分からないが、ニブルの突然変異のような物なんだろう。そう思えば、確かに角といいブサイクな所といい、面影が少なからずある。……それにしたって、この大きさはないだろう。
 それよりも、珍しいのは置いとくとして。なんで隠れなければならないのか。
(なんとなくわかりました。……それで、大きさと角の数以外で、コイツに大きく変わったところってあるんですかね)
(そうだな、強いて言えば――)
 不意に、形容しがたい感覚が全身を襲った。この感覚は覚えがある。そう、確かこの世界に来たばかり、あのマンティコアもどきに襲われた時と同じような……。
「それってやばくね?」
 思わずいつも通りの声量で喋ってしまったが、そんなことはもうどうでもよかった。
 俺は慌てて立ち上がると、そのまま横に転がるようにして飛び込む。遅れて、一瞬前まで俺が居た場所をデカニブルが通り過ぎていった。地面を見れば、角によって無数の穴が開いている。天然スパイクかコイツは。
「おいおい無事か、タクマ!」
「なんとか大丈夫です。危うく色んな穴が増えそうでしたけど」
 カンデラさんは俺よりも早く“アレ”の進行予定地から逃げていたようで、余裕綽々といった具合に少し離れた場所で笑っている。
「ガハハ、大丈夫そうだな。で、話の続きだが、級詞持ちの大体は元より凶暴になっちまうのさ。ガッハッハ」
 がはは、じゃあないだろう。道理で隠れるわけだ。というか、まずその情報を第一に話してくれるべきでしょうよ。
 しかし、いやはや、死ぬかと思った。棘付の超重量ボールが突っ込んでくるようなものだ、アレは。運良く避けられたものの、完全に不意を突かれていた。 
 デカニブルを視界に入れたまま、ゆっくりと体勢を立て直す。見ればデカニブルは、ニブルよりもさらにブサイクになった顔をこちらに向けていた。そう、俺に向けていた。なんでだ。やっぱりあの夢を根に持っているのか。
 今のところ突っ込んでくる気配はないので、今の内に作戦を練ることにする。と言うのも、ああいう猪突猛進系のモンスターに共通して言えることがある。一つ目は、不用意に近付かないこと。二つ目は、ああいった突進の後には必ず隙が出来る。
 ひとまず、背中に固定してある弓を左手に持ち、右手で矢筒から一本矢を取り出す。この動きに合わせるように、デカニブルは前足で地面を蹴りだした。あからさまな突進予告である。
「タクマ、どうやらアイツはお前を狙ってるみたいだからよ、死なねえ程度に逃げてくれ!」
「え、逃げるんですか?」
「あたりめえだろ! 級詞持ちなんてのは、それこそギルドで討伐以来が出るほどの奴だ。二人、しかも素人を一人含んで対処出来る相手じゃあねえんだよ!」
「ま、待って下さい! コイツもニブルなんですよね!?」
 と、ここで閃いた俺は、デカニブルを警戒しながらも疑問を投げかける。
「てことは、コイツを仕留めたら収穫祭の分、賄えちゃったりするんじゃないでしょうか!」
 そう。一週間ニブルを狩り続けた結果、あと五匹も狩れば足りると言う状況まで来ていた。しかし、俺達が狩り過ぎたのか、それとも流石のニブルも警戒し始めたのか、ここにきて全く狩れなくなっていた。先程の一匹を含めて、このデカニブルを含めることが出来れば、どうにかノルマは達成出来るのだ。
「タクマ……お前、たまには頭良いこと言えるんだな……! だが、俺達じゃ対処出来ねえってのを聞いてないあたり、まだまだパッパラパーだよおめえは!」
「ぐ、ぬ……」
 ここで、またも強烈な悪寒が襲ってきた。意識が若干離れた瞬間を狙われたのか、デカニブルがそこまで迫っていた。そう、すぐ“そこ”まで。はっきり言えば、今更横に飛び退くどころの話じゃあなかった。今さっきまで「猪突猛進系モンスターは云々」とか考えていたことが全てパーだ。そりゃあ頭がパーとか言われてしまうのも無理は無い。
 物凄い勢いで突っ込んでくるデカニブル。額から生えた最前に位置する角が俺に届こうとしているのが見えた時、俺は反射的にそれを握っていた。……そう、握った。俺の頭の中では、握ろうとするも勢いに負けて弾かれ、そのまま俺の身体もグロい意味で弾けてしまうという光景を予定していたのだが、予想外にも普通に握っていた。
「た、タクマァァァァァァ!! 死ぬなぁぁぁぁぁぁ!!」
「今の状況確認してから言わないで下さいよ!」
「すまねえ、俺としたことが動揺しちまって、叫ぶつもりだった内容をそのまま叫んでしまった。ガハハ」
「そんな予定立てる暇あったら危ないの一言くらい叫んでも罰は当たらんでしょうよ!」
 そうこうしている間にも、デカニブルは何が起こっているのかよく分からないのか、未だに地面を蹴り続けている。
 ああ、しかし、ハロンがくれた――たぶん――この馬鹿力、改めてこういうことをしてしまうと、嫌でも異常だと分かってしまう。五百キログラム以上あるだろうその巨体、助走を含めての運動エネルギーは凄まじい事になっていそうなものだが、それを俺の足が動いていないところを見る辺り、腕の力だけで衝撃すらも防いでしまっているのだ。
「しかしおめえの馬鹿力もここまでとはな。……で、いつまでそうしているつもりなんだ?」
「その、どう対処しようかな、と」
 カンデラさんからの的確なツッコミを頂いてしまったが、こんな状況になったことは人生で初めての経験なので、次にどう動けばいいのか全く分からない。頭の中が真っ白、とはこういう状況で使うに違いない。
「あー……んじゃあ、そのまま抑えててくれ」
 と、動きかねているところで、カンデラさんが腰から剣を抜くと、言うが早くそれをデカニブルの首辺りに突き刺した。そのまま下に斬り抜けると、続くようにして血が大量に地面へ降り注ぐ。
「どうやらニブルと身体の構造は似てるみたいだな。出てくる血の量はトンでもないが」
「うわあ……」
 グロテスク、いやスプラッタな光景に思わず手の力を緩める俺。そうすると、完全に事切れたデカニブルは自身の内から作られた血の池に倒れる。何百キログラムもの物体が液体に落ちたらどうなるか。そりゃあ飛び散る。俺とカンデラさんに凄い量の飛び散った血が襲う。
 もうちょっと考えろ、だなんて怒られながらデカニブルを小屋まで運ぶことになったのは仕方が無いことなのだろうか。



 デカニブルを引きずりながら、なんとか進路上の邪魔な木を殴り倒して森の外に出た頃、空はすっかり夕焼け色に染まっていた。得体の知れない生き物が空を飛んでいるが、そんなものよりも、俺は小屋のすぐ傍に立っている人達を見て、首を傾げていた。
「あれ、なんでラザフォードさんとエルスが……」
「やべえ、ラザフに魔法で伝えたままだったこと忘れてたぜ」
「え?」
 隣で俺と同じくラザフォードさん達に気付いたのだろうカンデラさんが、しまった、と額を叩く。
「ああ、さすがの俺も級詞持ちは相手に出来ねえと思ってな、すかさずラザフに伝えたのよ。返事も来てたけど、全然聞いてなかったぜ。ガハハハ」
 そうカンデラさんが笑っていると、ラザフォードさん達は俺達に気付いたのだろう、血相を変えてこちらに走ってきた。そりゃあ血相も変わるだろう、なんせ俺達二人とも血塗れだもの。
「おい! 大丈夫なのか! それに、その、でかいのは……」
「おう! 伝えるのが遅くなっちまったが、無事も無事。それどころか、うっかり仕留めちまった! ガハハ!」
「な、なんだそりゃあ……。って、そんなわけがあるか! 級詞持ちなんだろう、お前達二人で仕留められるような相手じゃあないだろうに」
 ラザフォードさんが笑っているカンデラさんに怪訝な目を向ける。
 そういえば、俺ってば自分が馬鹿力だってことをカンデラさん以外に話してなかった気がする。まあ発揮する場面が森の中くらいだったし、しょうがないっちゃしょうがないのか。
「あ、それなんですけど……」
 別に話して困ることも無いだろう。と、俺はラザフォードさん達に自分の怪力がどの程度の物なのか、それでどのようにデカニブルを仕留めたのかを説明した。話し始めた時は二人とも半信半疑といった顔をしていたが、具体的な話と目の前にある成果を見てか、段々と信じてくれたようで。
「ふむ、なるほどな。……タクマ君、君に一つ忠告をしておこう」
「なんですか?」
 話を聞き終わったラザフォードさんが、いつもとは違う空気をまとって口を開く。
「君の力だが、それは余り人に話さないほうがいいだろう」
「え? どうしてです?」
「いや、普通に考えて記憶喪失の男が非常識な怪力を持っていてうろついてるとか、危ないだろう……」
「あ、ああ……確かに……不審者通り越してますねそれ……」
 しまった。俺は確かにこの二週間で慣れてきたと思っていたが、それはこの怪力にまで慣れてしまっていたということであり。今改めて考えてみると、トンでもない男だ俺は。よく今までのほほんと生活出来ていたものだ。そんな男を野放しにしておく村長が不憫でならない。俺が村長だったら間違いなく追放するレベルの犯罪者予備軍だ。ひどい肩書きになってしまったものである。
「そ、そんなことないですよ。タクマさんは、ちゃんと行き過ぎたとしても不審者止まりというのは知ってますから!」
 俺が黙ったことで落ち込んだと思われたのか、急にエルスが俺を励ます。励、ます……?
「ありがとう、エルス。でもそれはどう考えても励ましてないよな」
「わかりました?」
「わかってたよ」
 落ち込んだと思われる段階だった俺は、このやり取りで完全に落ち込んでしまったわけで。
 その後、カンデラさんとラザフォードさんから暑苦しい慰めの言葉をもらい、そこでニブルを一匹森に放置したままだったことに気付いた。俺がなんとしてでも一人で森に行くと周りに言い切り走って行った後の地面には涙の跡があったとかなかったとか。


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