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eps11. 摂理の外            New

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 神奈河は横濱。
 ぬるい風が吹いていた。
 猛る鬼の気を沈めるには些か熱を持ちすぎた大気が逆巻く。
 国鉄の線路を駆る数百の妖魔は、澱んだ風を裂いていく。
 夜に溶ける墨色の狗の群れ。上乗するは着物持ちの妖魔達。下級妖魔とは思えぬ巨大な妖狗。静かな熱狂が迸りながらも、彼らの統率は一糸と乱れることはない。横濱の妖鬼を恐れされる所以。統率された鬼の群れの迅さは、一晩で易々と神奈河を横断しうる。
 群れの先頭を征く漆黒の鎧。真円と雄牛を象った兜。振りかざす戟は長大で、式者の首を首をまとめて跳ね飛ばしてきた。ここ二百年あまり、式者は横濱での厄介な戦闘の尽く避けなければならなかった、偏にこの鬼が居たからだ。横濱に長居をすれば、狗に乗った鬼がやってくる。その鬼を怖れない式者は誰一人としていなかった。
 それほどの妖鬼だ。自負があった。神奈河に大妖鬼と謳われるケンキには届かずとも、この国で指折りの妖鬼には相違なかろうと。
 それが現状をみればいかがなものか。
 鶴陵の巫女はホウキなど歯牙にもかけぬようで、神奈河に結界を施すなり行方は知れず。未だにその目的を捉えることも叶わぬまま、徐々に横濱の妖魔は数を減らし続けてきた。
 あまつさえ先の西洋魔術による超長距離狙撃はホウキの首を獲りかねないものだった。今夜が鶴陵殺しの夜でなければ即座に八つ裂きにするところを、それすら叶わぬ。一方的に狙われ続けるのはリスクが高すぎると、やむなく狙撃手にカイを送り込んだ。悪手だ。時間稼ぎに有能な妖魔を見殺しにするのとさして変わりない手を打った。打たされた。
 そしてできることといえば、カイの稼ぐ僅かな間に一刻も早くその場を離れ、鶴陵の座す釜倉に向かうことだけだ。そんな状況がホウキの群れに焦燥とも熱狂ともいえるような奇妙な熱をもたらしていた。
 だからもう、走り出した群れは止まりようがない。その熱に浮かされ疾駆する狗は涎を垂らし、殺戮の獣になる瞬間を待ち望んでいる。鶴陵の巫女の、うら若く柔らかい女の肉を喰らいしゃぶり尽くすことに飢えている。着物持ちにもその獣性が伝染している。そして、なによりホウキにも。
 明るすぎる月光。
 走り抜ける線路の鉄を冷たく照らす。
 そんな視界の良さが、映し出す。
           、、、、、
 轍のような線路の先にそれが居た。
 初めに目を引いたのは磔にされた女だった。木組みの十字架に吊るされた女は全裸に剥かれ、体中に淫虐の跡があった。
 闇夜の灯火が照らすようにほの赤い髪。
 見覚えがあった。
 ホウキの全身の血がざわつく。
 磔の女を妖姫だと認めた瞬間、鬼の血はかつて彼が感じたことのないほど冷えていき、そして刹那に沸騰するような怒へと流転する。
 辱められた妖姫、ユウ姫の下に、己が脂肪で醜く肥えた人間が嗤っていた。

 纏う黒衣は狩衣。
 真紅の止め紐。
 肥大した腹が描くでっぷりと醜い弧。
 頭を収めることのできない不格好な烏帽子。

 醜悪だ。
 そしてあの醜い人間が、妖魔の中で最も高貴な存在である妖姫を陵辱した。激情が思考を白く染め上げる。人間に妖姫を辱められるのは、妖魔にとってほとんど唯一の、そして最上の侮辱だ。死ですら赦されない。
 それが。
 その見るも忌まわしい存在が、だ。
 あろうことか叫んだのは、
「わしは陰陽師!! 陰陽師の矢部彦摩呂だァ!!!! お主らに和平を申し入れたい! 礼としてこの妖姫を譲ってやろう!」
 あまりに巫山戯ていた。ホウキは今すぐにその生ゴミの声を脳に伝える自身の耳を切り落としたくなった。群れに殺意が伝染していくのが手に取るように分かった。
 その言葉は交渉? 譲歩? まさか。挑発と侮辱以外のなにものでもありえない。
 返す言葉などない。あるのは憤怒の号令だけだ。高く掲げた戟を、ホウキは醜い豚へと振り下ろす。
「殺せ。引き裂け。八つ裂きにしろ。肉片一つ、残すな」
 激怒を乗せた静かで重たい声は、しかし狂熱となって群れに染みこんだ。
「ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
 鬼の咆哮が激情を渦を駆り立てる。先駆のホウキを追い越さんと、着物持ちを乗せた狗が獲物を争うように駆け抜ける。
「おお!! わははははは!! 向かってるか! 良き哉良き哉!」
 豚は、陰陽師だと抜かしたそれは、その人間らしき形をした生き物は、妖魔の熱狂を心底楽しそうに見据えた。高笑い、その瞬きの後に、それは修羅の如き顔へと変貌する。
「かァ!!」
 一喝の怒声が呪力を爆発させる。線路上を疾駆する妖魔の眼前に、陰陽師の呪文陣。忌まわしき五芒星。
 予め仕掛けてあった矢部の護符に呪力が満ちる。青白色の巨大な結界が線路いっぱいに立ち塞り、次の瞬間には急加速しながらホウキの群れに突っ込んでいた。激突すれば相反する突進の勢いで、狗と妖魔は根こそぎ潰される。必然、ホウキの群れはどよめいた。

――その先頭の鬼を除いて。

「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
 振るう戟には朱色の燐光。鬼の『崩』を舐める戟刃が閃く。水平に一閃する刃跡は陰陽師の結界を容易く拓く。
 その一閃で運命を悟る。
 激情で増幅された妖気の巨大さ。殺意を象ったように鋭く編まれた妖術。
 そのいずれもが一線級。大妖鬼にさえ迫る一刃が醜い陰陽師へと迫る。
「んなっ……!?」
 間抜け極まりない矢部の顔は、彼らには酷く滑稽に映ったはずだ。
 妖魔は常々思い至る。力を過信した人間ほど愚かなものはない。
 逼迫した矢部の顔面は妖鬼の力の前に硬直していた。
 鬼の咆哮が迫る。振りかぶった戟は未だ呪術破壊の『崩』を宿したまま。速度は弛むどころか加速を続け、激憤と共に迫り来る巨体が矢部の視界を覆い尽くす。
 矢部の硬直した顔が歪んだ。
 あまりの醜さ故に、それが嘲りの表情だと分かる者はいない。
 狩衣の陰陽師が翳す一枚の符。陰陽の符ではない。その魔力が開放された瞬間、一群を白の閃光が覆う。
      、、、
 顕現するは鶴陵の結界。妖鬼すらその内に閉じ込める神奈河の大結界、その模造品は鬼の進行を阻むに十分すぎる代物だ。
「チィッ!!」
 鬼の形相が歪む。だが突撃する自身もその群れにも、もはや止まる術はない。
(忌々しい!!! 鶴陵の符術か!! おのれ……おのれええええええ!!!)
 ホウキの戟が『崩』の呪文陣の中で光輝を纏う。止まることができないのなら、切り拓く以外に道はない。
 渾身の妖力をもって鶴陵の結界に振るわれたホウキの戟は、しかし一撃の後に刃先を粉砕される。続いてホウキを乗せた狗が結界に激突。ホウキ自身も結界に突っ込み、その背後から同じく勢いを殺せなかった狗と配下の着物持ちが殺到した。折り重なった妖魔の苦悶の声が連鎖する。
 矢部によって開かれた鶴陵の結界は、ホウキの群れの勢いを殺し、押しつぶし、そして微塵も揺らぐことはない。
 完全に突撃の勢いを潰された妖魔を前に、醜悪な豚男の哄笑が破裂した。
「くは、ぐはは! はははははははははははははは!!!!!!!」
 鶴陵の結界に阻まれ、堆積した妖魔達を眺めながら、矢部は心底楽しそうに笑っていた。
 左手に、陰陽師の人型の紙が踊る。
 式神。施された呪力は決して小さくない。
 矢部の手にした式神が、弾けるように消えた。その刹那、折り重なった妖魔の群れの下に、真紅の呪文陣が描かれる。
 妖魔の呻き声は、一瞬だった。
 爆発するような火柱が、堆積して身動きの取れなくなった妖魔を飲み込む。業火に灼かれて炭化していく妖魔の姿を、矢部は心底可笑しそうに眺めていた。
「鶴陵殺し、ここに破れたり! ぐはははははは! くはっ! ぐふ! ははははははははははははは!!! 愉快愉快!」
 接敵から、ホウキの突撃、鶴陵の結界の展開、激突、そして焼却まで、わずか数十秒。
 この場所に陣を敷いた矢部は、その鮮やかな手腕で、ホウキの群れのほとんどを壊滅させるに至った。
 そう、ほとんどを。
 この醜男は知っている。この程度で、決して鬼が倒れないことを。
 だがもう十分だった。十分すぎた。
 彼の役割はケンキとの挟撃を防げば良いだけなのだから。群れを失ったホウキ単体ならば、並の術者が寄るだけで十分過ぎるほどの足止めが出来る。幻惑、結界、罠。多対一の、それも一時的な防衛戦において、式者が妖鬼に出来ることは無数にあった。鬼の足を奪うことなど造作もない。
 あとは逃げるだけで良い。式神の焚き火の最下層で下敷きになっているホウキが、炭になった妖魔達の中から這いだし、鶴陵の結界を迂回するまで、十分過ぎるほどの時間がある。

 矢部彦麻呂は傲慢だ。傲慢でありながら、計算高さと慎重さを併せ持つ異端者だ。
 その計算高さ故に、傲慢さを隠そうともしない。
                    、、、、、、、
 おごり高ぶるその醜悪な姿が、彼の実力を過小評価させることを骨の髄まで知っている。
 その醜さ、その傲慢さ、その巫山戯た振る舞い、それらからどうして彼が一線級の式者だと知れるものか。
                    、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
 そして彼はその強かさ故に気付いている。自分にとっての事態はまだ、決定的ではないことに。
「『報』」
 その耳に届いた、呟くような静かな音。今生の別れを告げるような、重い音霊(おとだま)。
 ホウの音。それは鬼の字(あざな)を成す音。鬼の妖術を為す鍵。
「はははははははははははは! まァ……そんな簡単に帰しちゃくれねぇよなァ!!!!」
 爆裂する妖気に風さえ震う。なおも陰陽師は顔を歪めて嗤い続けていた。
 式神の炎が掻き消される。炭になった妖魔達も雲散霧消していた。
 長い戟を持った鬼がいた。甲冑は漆黒。突撃に砕けた兜は脱ぎ捨てられ、その容貌が露わになる。憤怒と悲哀の入交じった、悪鬼と形容すべき苛烈な表情。
 爛々と輝く双眸は決して矢部から視線を逸らさない。
「ぐふくはっくふふ、そうかそうか。通りで人間どもが手を出せないわけだなァ。もう随分と横濱の『報』復鬼なんていう名前も聞かなくなったが。鶴陵をして先手必殺でしか手を出せぬと言わしめた鬼の実力は、こうもバカげたものかァ……!」
 鶴陵の結界越しに、矢部は笑んだ。爆発的に密度を増した妖気を前に、矢部は思考する。さてどうやって逃げたものか、と。
 逃げれば勝ちなのだ。倒す必要など微塵もない。馬鹿げていると断言して良い妖力の上昇は、まず間違いなく一時的なものと見て良い。必要なのは時間稼ぎだ。
 そもそも倒せない。こんなものは。
            、、、、、、、、、、、、、、
 なにせ眼前の鬼の妖力は神奈河の大妖鬼すら優に超えている。
 もともとホウキとケンキの妖力は伯仲する。いまや何倍にも膨れ上がった鬼の妖力は鶴陵の魔力にすら匹敵しかねない。
 矢部が即座に逃げ出さないのは、単にそれが不可能だと知っているからだ。迂闊に背を見せれば、鶴陵の結界ごと切り伏せられるという色濃い予感があった。
 束の間の膠着状態は、悪鬼の一刃に消し飛んだ。
「『崩』れろ」
 逆袈裟に切り上げられた戟。
 刃の軌跡に朱の残光。
 咄嗟に首を傾けた矢部の烏帽子が、直線で切り裂かれた。それを鏡に映したように、鬼と矢部を別つ鶴陵の結界が斜めに崩れ落ちる。
 矢部は思わず吹き出した。
「ははは、鶴陵の結界がまるで紙切れだなァ!」
 彼我の力の差は歴然だった。
 鬼が地を蹴る。線路の砂利が爆発したようにはじけ飛び、レールがひしゃげる。
 矢部の目にはそれらが全てスローモーションに見えた。
 過集中が体感する時間を歪めている。
 走馬燈のそれと同じだった。

 それはつまり、死の予感に他ならない。

 飛散する砂利の一粒が地に落ちるより早く、ホウキは矢部の前に肉薄した。陰陽師の眼はまだ鬼を追い切れていない。
 振り下ろされる戟。
 男の頭を真っ二つにするその斬撃が、止まった。
 戟刃に人の手があった。
 古びた人間の、脂肪と膨大な呪力を纏った腕があった。
 戟の向こうに、醜く嗤う男。
「ぐふっくはは。死んだものかと思ったわ」
 男は、鬼の戟を両の掌で受け止めていた。
 それもまた馬鹿げている。
「……何者だ貴様」
 受け止められた戟を振り払いながら、鬼は激するまま問うた、問わずにいられる理由はない。陰陽師は式神を扱う式者だ。紙に術を施し、結界と束縛、封印などの援護補助と、火炎を初めとした多様な攻撃を得意とする者達だ。所謂“符術”師の類型だ。その性質上、接近戦闘は最も不得意とするはずだ。だからこそホウキはその懐に切り込んだ。それを一介の陰陽師が受け止めるなどあり得ない。鶴陵の懐刀、鳴神晶のような魔力運用を身体強化に特化させた一族とは根本から違うのだ。その鳴神ですら鬼の斬撃を素手で受け止めようとはしないだろう。
「だははははははははは!!!! 『ティッシュに十五インチ砲弾をぶち込んだら跳ね返ってきた』こともある世の中だ! 鬼がこの程度の不可思議を受け入れんでどうする? 運命など到底逆らえぬぞ」
 矢部の挑発的な答えに、横薙ぎに振るわれた鬼の『崩』が返される。伏せた矢部は紙一重にそれを躱す。
「わしが何者かだと? 言うたではないか。わしは陰陽師だ! 見て分からんのかこのど阿呆がァ!!」
「お前のような陰陽師がいるものかこの痴れ者があああ!!!」
 振り回される『崩』の戟を矢部は寸でのところで躱すが、もはや逃げることもままならない。物理的な斬撃は受け止められても、妖力を纏って超強化された斬撃には何の手だてもない。劣勢は明らかだった。
(さて、どこで撃って出るかなァ……!)
 次の一手が必須だった。
 鬼の眼、あるいは足をどうにかする痛恨の一手が。
 その一撃離脱をもって、さらに『奥の手』を使なければ逃避すらできない。
 一瞬の思考。一瞬の呼吸。弾指の間より微かな隙。

 鬼はそれを見逃さない。

 戟は鋭く水平に振るわれた。
 宵闇に置き去りにされた朱の軌跡。
 仄暗い残光が踊り。
 斬撃は妖気に乗って彼方へ至る。矢部は跳んで避けた。素早く次の切り返しに備えようとした矢部は、鬼を見て息を飲んだ。
 独楽のように、鬼が回った。
 戟は加速したまま一周する。
 それまでの切り返しより僅かに早い斬撃がやってくる。
 矢部の着地の数瞬前に。
 想定が狂った。
 矢部のくるぶしから下を、妖気の斬撃が吹き飛ばす。
 鮮やかな血飛沫は地に。
 棒きれになった脚が地に着き、激痛が身に奔る。
 足をなくした矢部が崩れ落ちる。
「なっ……」
 その声は途切れ。 、、、、、、、、
 瞬きの二閃の後に、鬼独楽は宙へ舞う。
 巨大な鬼の体躯が捻れる。
 独楽の回転軸は縦に。
 倒れ伏した矢部は仰ぎ見る。
 跳躍した独楽の先、戟が降り落ちてくる。
 幾度目かの死の予感は色濃く。
「かァ!!!!!!!!」
 時を止めるかのような大渇。
 陰陽師の呪力が膨れる。その腕に一片の呪符。
 真白の呪文陣が燦めく。
 迫る戟刃を前に、展開される陰陽の大結界。
 それを、
「『崩(くず)』――
 渾身の斬撃に告死の音霊を重ね、
    ――れろ!!!!」
 叩き割る。
 砕いた結界ごと矢部の身体を真っ二つに切り裂いた。
 頭蓋が開き、脳漿がこぼれ落ちる。腑(はらわた)が吹き出し、赤黒い血液に砂利に吸われていく。
 勢いを殺しきれなかった戟が地を抉り、鬼の巨体が轟音を上げて大地に落ちた。
 のろりと立ち上がり、無惨に切り伏せられた男を見る。
 どう見ても終わりだった。
 けれどそこに勝利の余韻などなく、ただ慚愧の念だけが渦巻いた。
「…………」
 声なき声で呻く。
 仲間は一人残らず焼き尽くされた。鬨(とき)の声を共に上げる者はもはや残ってはいない。
 大狗もない。移動手段がない。鶴陵殺しには間に合わない。
 残されたのは、この膨大な妖力だけだ。

 ……膨大な?

 意識が、凍り付いた。
 『報』の妖術は殺された仲間の数だけホウキの妖力を増加させる。ただしそれはほんの十分の間、それも仲間を殺した仇が生きている時に限る。
 つまり。
「馬鹿な……」
 鬼が陰陽師だったものを見据える。
 切り裂かれた肉塊からは、みちみちと触手のようなものが生えて互いに絡まり合い、零れた血液はじゅくじゅくとスライムのように蠢動している。
 ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ……じゅくじゅぐぐちゃげじゃぐぢぁ!!
 生理的な嫌悪を催す水音を上げ、肉塊は触手と赤黒の液体で結合されていく。
 不快、不愉快、不可解。
 理解を、条理を、その他一切合切のあらゆる許容を拒絶する。
 摂理を外れ、道を外れた人ならざるものは蘇生する。
「馬鹿な……馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!!!!」
 鬼でさえ狼狽える。
 それは醜く。
「ぐは、くふ……くはは」
 嗤っていた。
「なんだ、お前は何だ!?」
「くはっ、ぐっふふひ」
 奇妙な音で、何か面白いものを見たように。
「言うたではないか」


「陰陽師、矢部彦麻呂である」


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