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魔女と魔獣改稿、削除可能になり次第初期の物は削除します

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作品名:魔女と魔獣
作者:ミュート先生

レビュー作製日時、十二月十四日午後四時六分。
作品第一話・【覚悟】の時点で。

【世界観】
近未来? の様な世界観。

【人物】
魔獣のディンゴはオールバック、トップ絵みるとグラサンかけてる。
魔女の白夜はガスマスクがインパクト大。

【内容】
師弟であって相棒の二人は賞金稼ぎ。

【見所】
劇中の武器の描写が素敵に細かい(こういうの、好きな人には堪らないと思う)

そして、特徴的な台詞回し。
漫画で言うとブラックラグーンの様な感じかも。
引用させて頂くと(無許可です、作者さんすみません。問題ありましたらこの文章ごと削除願います)

例えばここの流れ↓
(前略)

 「可愛いだって、坊や。今、この私が可愛いと言ったのか? 可愛いから信じたいだって?」
 「はい、俺はそう言いました」
 ディンゴは震えていた。
 「そうか、私は可愛いか」
 白夜は可愛いという単語を始めて知ったインディアンのように繰り返した。
 
(後略)


この流れ、格好いいと筆者は思う。
インディアンの様に繰り返すって言う表現がまたグッド、読んだ時はニヤリとしてしまいました。


まだ一話のみで、今後の展開は解らないですが、台詞回しと武器描写だけとっても、筆者的にとても楽しみな作品です。



ミュート先生、頑張って下さい。



匿名筆者より。



なお、この文章はミュート先生に無断で書いてしまった物です。
筆者の文章が稚拙な事もあります、ミュート先生、並びにこの作品のファンの方々、気に入らなければ削除を願います。
様々な要因で気分を害された等の場合も、御手数ですが削除を願います。

駄文乱筆、失礼しました。



御意見受けて改稿:十二月十五日六時五十一分

なお、作品が進むに連れて本作のレビューを続けさせて頂きたいのですが。
もし宜しければ作者様、お願いします。
 僕は今日、散った。

 人の形を留められなくなったのか、それとも崩されたのか、そんなものは客観や主観で何とでも変わるらしいから、其処についての言及は勘弁して欲しい。とにかく僕は散って、そしてそれが現実としてあるわけだ。
 カフカの変身を結構前に学校の図書室で借りて読んだ。その話をクラスでしていたら、それを聞いていた女子が、虫になったのに冷静に仕事の心配してるのかよと笑った。そう、僕も同じく、自分が散ったこと異常に重大な何か仕事のようなものを抱えていて、それの所為でこれだけ冷静に居られるのかもしれない。
 その仕事とやらを簡単に説明するのは難しい。散る前の僕に確固たる敵が居なかったのと同じようにだ。あえて言うなら敵も仕事も、社会であり自分でありあの子でもある。
 そう、問題はあの子なのだ。僕のクラスメートで座席は僕の二つ右隣の廊下側の端。セミロングの、あの日カフカの変身を笑ったあの女の子、その子が僕にとっての敵であり仕事であるのだ。
 彼女には特別霊感があるわけではないし、ましてや僕は霊などではない。僕は散った僕であり、その存在も散っている。只の考える点だ。高さも幅も奥行きもゼロの点なのだ。僕は僕以外にあらゆる影響を及ぼす事は出来ないし、僕は僕以外のあらゆるものに認知されない。彼女も、例外なく。
 そしてその彼女に、僕は何かを言うべきだったのだ。
 それが僕の仕事で、最後の敵で、そして僕の社会なんである。

 彼女はふわりと宙を見、僕は彼女の視線に寸断され、そして彼女は僕に気づかない。
 僕は頭が、アタマに相当する部分が馬鹿になっていたことに気がついた。気のせいかも知れないが、どうも僕は懐古主義者らしく、彼女に触れられないはずなのに、あるはずもないはずの手を彼女に伸ばす。幻肢とはまた違った感触。もっとも、僕は散る前に幻肢を体感したことは一度もないから分からない。
 それに、失ったものは四肢ではないことに気づくにも時間がかかった。
 彼女は僕の気配に気付く事も無く、生活していた。
 彼女の生活に密着するのは……、いささか良心の呵責が加わったが、別に彼女の私生活を見たところで僕は何も感じなかった。
 彼女が何をしようが、散る前の僕のことを悪く言おうが良く言おうが、特に何も感じなかった。
 ただただ、僕は彼女を見ていた。
 そして彼女にも散る時が来た。
 法的な手続きを済ませて、正式に散るらしい。
 僕は笑った。

 彼女はゼロの点になった。
 なったといっても、認知不可なものなので、彼女が存在しているかどうかも分からない。
 あれ……。
 じゃあ僕は一体何者なんだろう。
 ゼロなのに僕が存在しているってどういうことなんだろう。
 僕は自分を意識しているから僕が存在するのかな。
 じゃあ、僕は考えるのを今から止めよう。
 それで僕が消えたら、僕は僕であり僕の僕だから僕は僕なのだ。
 消えた後は、誰が僕が僕であり僕の僕だから僕が僕である事を証明してくれるのだろう。

 まあいいや。
 ゼロだから。












 僕について多くを語ることはあるまい。僕がそう判断したから、本当に”あるまい”なのだ。だから田中さんの話をする。
 田中さんは少しちんちくりんな女の子。歳は僕より一つ小さい16歳だが、それは単に遅生まれなだけで、学年は僕と同じだ。好きなものは良く分からなくて、結構特異な気質の人。ちなみに嫌いなものは社会。これは勿論教科ではなく、要するに「大学解体!」とか「権力が想像力を奪う!」とか「無期スト実施!」とか喚くのが好き、ということ。でも実際は大学進学希望だし、学校にも毎日来て勿論ストなんてやらかしたことも無い。バリ封鎖なんて考えたことくらいしかないだろう。これらをさらに要してしまうと、単に社会に反抗する事なんて、田中さんなりの必死の強がりに過ぎないのだ。
 僕はそんな田中さんが好きだ。常々その小さな肩を抱きしめてやりたいと思う。……と、いうのは嘘で、実際は好きでもなければ嫌いでもない、気の合う……事もあまり無い、只の友達……といっても語弊はあるだろうが、まあそういった関係なのだ。
 余談だが、田中さんのそのちんちくりんな、お世辞にも女子高生に見えないその容姿は、やっぱり可愛いと思う。皆もそういうが、田中さんにはそれがコンプレックスだ。

 そんな田中さんは、今日も反社会的な目つきで机に食いつくように向かい、今現在から二分後に〆切宿題が迫った宿題を必死に終わらせようとしていて、たった今あきらめたところだった。
 チャイムが鳴る。
 先生は適度に気だるく授業を始め、僕はなんだかキシリトール配合っぽい味のガムを噛みつつ適度に黒板をノートに写し取る。
 田中さんの方に目をやると、ノートに落書きをしていた。
 太陽が雲に飲まれたのか、教室が少し暗くなる。今日は雲が厚い。
 僕は携帯電話でニュースを確認する。先生は僕がそんなことをしているのに気付いているだろうが、適度に無視して授業を進める。「ソ連首相が米帝首相と対談」「剣菱重に工リコール殺到」「日本技研がフロギストンを証明」……、こんなニュースなんかより、僕が見たいのは天気予報だった。
 週間予報。
 ここ三日は晴れ。深夜に掛けて強い北風。気温はマイナス三十度まで低下する見込み。嘘。最低予想気温は10度。本当。
 田中さんは、机に食いつくように突っ伏して、寝息を立てている。

 五限目が終わると、田中さんは六限目をおっ放り出して僕を学校から連れ出した。勿論行く当ても無いから、僕は近所のカツサンドの美味しい喫茶店を紹介して、そこに行った。僕はサラダを注文して、田中さんはコーヒーとそのカツサンドを注文した。いささか、カツサンドは田中さんには大きすぎて、僕が半分くらいは手伝う結果になった。僕がカツサンドを頬張っている間、田中さんは僕のサラダをむしゃむしゃ食べていた。
 田中さんは、空になったサラダの皿、その底に申し訳なさそうに転がるクルトンをフォークで弄びつつ、独り言のように呟いた。
「美味しい? カツサンド」
「うん、美味しいよ。少なくとも僕は好きだ」
「よかった。舌の錯覚かと思った。私もとても美味しいと思う」
「サリンジャーのあいつ……、ほら、ライ麦の……」
「ほーるでん。ホールデン・コールフィールド」
「そうそれそいつ。ホールデン少年だって自分の味覚を疑うほどイカレてはなかった」
「イカレてるのはこのカツサンド。だって美味しいんだから」
 僕はカツサンドを飲み込んだ。田中さんはコーヒーをすすった後、神妙な顔をして、苦笑いをする。
「このコーヒーは、私の舌に合わないほど苦い」
「無理してブラックを頼むから。店員さんだって最初は僕がコーヒーとカツサンドをオーダーしたんだって勘違いしてたっぽいし」
「ねえ、カツサンド残りは食べる」
「あと三口分も無い」
「いいの。三口分だけ欲しかったから」
 田中さんは僕からカツサンドを奪い取り、むしゃむしゃむしゃと三口で食べた。

 田中さんを語る上でとても重要な人物で、クラスメートの神崎って奴が居た。田中さんがこんなにも自分に疑心暗鬼になったのも、ブラックのコーヒーを無理して飲むようになったのも、僕がこの喫茶店のカツサンドが美味しいって事を知ったのも、全部神崎の所為だ。
 彼は田中さんの親友でもあり、僕の親友でもあった。そして田中さんは彼に一方的な憧れを抱いていた。それは全く以って恋愛感情とは別物であって、どちらかと言えば田中さんは神崎を師匠のように慕っていた。神崎は紘瀬という、田中さんとは全く正反対の、賢くてスタイル抜群の才女に恋をしていた。田中さんはそれを知らされていなかったが、本能的には勘付いていた様で、よく紘瀬には嫉妬しているのがバレない筈が無いような悪戯をしていた。紘瀬はその度に田中さんをなだめるのである。はいはい田中さん、わかったわかったから、オイタしちゃ駄目だよ。そう言われると田中さんは大人しくなる。僕や神崎が田中さんを田中さんと呼んでいるのは、紘瀬の影響だ。
 神崎は二週間前、紘瀬は三日前に霧散した。
 僕も田中さんも、彼と彼女を認知することは出来なくなった。

 コーヒーとサラダとカツサンドの会計は僕がした。田中さんは自分が奢ると抗議したが、女の子に、ましてや田中さんに奢られるようでは僕のプライドが泣く。だから無理やり僕が奢った。帰り道に田中さんは自販機に寄って僕にコーヒーを奢ってくれた。でも選択の余地はあたえてくれず、田中さんの選んだコーヒーはブラックだった。
 田中さんはコーヒーを一口で飲み干し、苦い、と言った。僕も、苦いと言った。



 その日の昼休み、田中さんは僕を屋上に連れ出した。僕は仕方なく彼女にパンを奢られて付いていった。パンを奢ったその理由は、昨日カツサンドを僕が奢った分の返しの心算でもあったらしい。
 田中さんは屋上で転げまわる用に風とじゃれ合っていたが、二分で飽きたのか、僕の隣に座り、購買で買ってきたカツサンドを齧った。

 しかしそれにも飽きたのか、まだカツサンドは三分の二も残っているのに顔を上げて僕に聞いた。
「ねえ知ってる? A組の佐藤が逮捕されたんだって」
「初耳だ。罪名は?」
「えーっと、あれ、なんとかいうやつ」
「僕の聞き方が悪かった。何して捕まったんだ?」
「妹の霧散を妨害したんだって。政府の霧散だったからそれで」
 田中さんはしみじみと言った。そしてカツサンドをまた一口齧った。僕はパック牛乳にストローを刺した。田中さんはカツサンドを美味しそうに租借している。
「ねえ、カツサンド、気に入ったの?」
「うん。前に連れて行ってもらった喫茶店のが美味しかったから、ここの購買のも美味しいのかなって思って買ってみた。でも、私の舌はあの喫茶店のほうが美味しいって言ってる」
 田中さんは、そう言いうと、またカツサンドを齧りだす。時節、ぽろぽろとパン屑を落とす。
 僕はパック牛乳を飲み干すと、それを握って丸めて屋上から中庭に投げ入れた。田中さんは一瞬怪訝な表情をしたが、僕なりの社会への反抗とやらの行動と取ったらしく、彼女もカツサンドを包んでいたプラ包装紙を中庭に投げようとした。しかし風の所為でどこかに流れていった。田中さんはそんなゴミに何か感慨深い物を感じたのか、またしみじみとカツサンドを齧った。
 因みに僕が田中さんに奢られたのは、妙にパサパサするカレーパンだった。その嫌にネチネチとしたルーがまだ口の中に残っている。牛乳を飲んだから確かに味は無くなったが、その嫌な感じはまだ口の中にあった。一方田中さんはカツサンドを平らげていた。

 屋上へと出る扉は図書室の隣にある。司書の先生が、もうすぐ昼休みが終わる、と教えてくれたので、僕は教室に戻ろうとした。しかし田中さんは僕のシャツの裾を引っ張って、教室に戻りたくない態度を露骨に示した。また抜け出そうよ、と悪戯に笑ったが、僕はそう何度も授業をサボる訳には行かなかったし、それは田中さんも同じことだった。だから僕はそんな田中さんを半ば無理やり引っ張って教室に戻った。田中さんも結局、授業に出席するのはまんざらではない、という態度を示した。教室の空気はまだ昼休みの空気を保っていた。神崎と紘瀬の机の上には何も置いていなかった。
 次の授業は数学で、先生は三次元と四次元の違いについて喋った。昨日のあの時間の二十四時間後になったが、僕はそのころ机に突っ伏して睡魔と闘っていた。田中さんもきっとそうしていたと思う。そんな事を考えていると、睡魔に負けた。せっかく授業に出たのに寝ちまうなんて、とかいう後悔は、授業が終わって僕が起きてからからやっとやって来た。


 六限目の授業が終わり、ホームルームまでの十分間の休み時間に、田中さんは佐藤の一番の親友で理解者だった吉田と喧嘩した。僕はその頃他の教室に居たが、僕の数少ない友達の小林が教えてくれた。
 吉田はとても気前のいい奴で、皆に兄さんと慕われている。吉田の性別を考えると姉さんと呼んだほうが妥当だが、あまりにも性格が男前過ぎるので皆は兄さんと呼んでいる。
 そんな吉田に田中さんが噛み付いた原因は、どうやら佐藤のことらしかった。田中さんが、佐藤が逮捕されたことを馬鹿にしたそうなのだ。
 僕が小林の説明を聞いて教室に戻ってきた時には、もうあらかた喧嘩は終わっていて、半ば半泣きで無意味に強がる田中さんと、とても悲しい顔をした吉田が睨み合っていた。
 霧散ってどういうことか知ってるの、田中さん。皆表立って言ってないだけで、あんなの死んじゃうのと同じことじゃんか。妹が政府に殺されちゃうのを止めようとした佐藤の、何が悪いの。と、そんな感じのことを吉田が言った。
 それに対し田中さんは、くっと顎を上げて強い目つきで吉田を見た。只の強がりを通り越して、本当に怒っているようにも見えるが、その辺は誰にも分からないし、きっと田中さんにも分かってないだろう。そんな田中さんが、自分が言ったことを理解できるはずが無い。だけど田中さんは言ってしまったのだ。

「おめーらいいかげんうるせーんだよ! みんな散っちまえ!」

 とりあえず僕は、今にも吉田に飛び掛らんとする田中さんを後ろから羽交い絞めにした。田中さんの体は小さく、僕に羽交い絞めされると彼女の足は地面から浮いた。吉田は先ほどの田中さんの叫びを聞いて特に怒った様子は見せなかった。吉田を止めようと思い、二人の間に入った小林が拍子抜けするほどにだ。
 そんな吉田の態度が気に入らなかったのか、田中さんはまだ喚く。

「もー、おめーはぜってー殺す! 散る前に殺す! おめーらも殺す! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」

 小林は咄嗟に田中さんの口を押さえ、もう止めろ! と叫んだが、田中さんは小林の指を噛んだ。小林の指からは血が出た。僕は田中さんの頬を打ち、落ち着け! と叫んだ。田中さんはそこで、今や吉田や小林や僕が自分の敵になってしまったんだと、やっと気付いたようだった。
 先生はこの喧嘩のことをまだ知らない。誰も言いに行かなかったらしい。僕は田中さんの手を引っ張って、取り合えず学校を出ることにした。小林は吉田を心配そうに相手していた。クラスメートの殆どは、そんな僕たち四人を無視していた。教室を出るときに尻目で見た吉田は、いつもの彼女とは違いとても小さく見えた。


 結果的に、僕と田中さんは、放課まで残り30分も無いところで、学校を抜け出すことになった。田中さんは僕に手をひかれ、ずっと大人しくしていたが、少し学校を離れると大声で泣き出した。僕は田中さんの頭を撫でた。昔、紘瀬が田中さんを宥める時にやっていたように。



 田中さんを連れ出したのは良いとして、僕たちには行く充ては無かった。学校に戻るのもなんだかしっくりこないし、僕の家に連れ込むのもなんだか変な話だし、田中さんの家に送っていこうにも僕は彼女の家を知らない。
 当の田中さんは、時節鼻を啜るだけで、静かになった。
 ごめんな、さっきは引っ叩いて。でもお前も言い過ぎだしやりすぎだ。あとで吉田と小林に謝っとけよ。と、僕が言うと、田中さんは素直に頷く。でも頷いた直後に、私は悪くないと呟いた。
「悪くないって、そもそも僕には状況が良く分からなかったから何ともいえない」
「小林から……聞いたでしょ……」
「あんまり」
「……じゃあ、私も話すことは無い。……彼が何か言っていたなら、私は彼の間違いを訂正すべく……何か言っただろうけど、……彼がそうなら……私もそうする」
 僕はそれに対し、そうか、と一言だけ答えた。田中さんがそうするなら、僕もそうするしかない。
 田中さんはまた静かになった。静かになった田中さんは徐々に色を失っていき、この日本に沢山居ると思われる女子高生の中に埋没して行った。そして、時節僕の目を見て、引き上げを請う。僕はそれを無視する。そうすると、田中さんは自力で戻ってきた。
 戻ってきた田中さんは、幾分落ち着いて見えた。僕はそんな田中さんに一瞥くれてやった後、これからどうするかを真面目に考える事にした。喫茶店に行こう、と田中さんは言ったが、生憎僕は今お金を持っていない。
 なので結局は学校に戻る事にした。格好悪いが、鞄を教室においてきた事も考えると仕方無かったと思う。

 教室ではホームルームが終わりかけていた。小林は田中さんに目をやると、少しあきれた表情をした。吉田は僕たちのことを気にも留めないようだった。先生は何で遅れたのか僕に聞き、僕は保健室に田中さんを連れて行っていたと答えた。田中さんは、先生にそうなのかと聞かれると、小さく頷いた。僕と田中さんと小林を除けば、いつもの教室の雰囲気だった。
 先生が各々の席に着く様言った。僕は素直に従ったが、田中さんは先生の話を聞いていないフリを少しだけした。
 ホームルームが終わると、田中さんは僕のところに来て、吉田に謝るべきかと聞いた。
「……田中さんは吉田に対して暴言や暴力を振るったんだから、謝らなきゃならない。だけど、その暴言暴力が自分の信念とか良くわかんないものに基づくものだったら、その暴言暴力の事についてだけを謝れば良い。神埼なら、きっとそうする」
 僕がそういうと、田中さんは、少しうつむいて、結局自分は神崎から何も学べなかったのかもしれないと言った。だけどそれは田中さんの所為ではい。最終的に決めるのは田中さん自身だ、見たいな事を僕は言い返した。
 そうして、田中さんは吉田に謝った。吉田は快く仲直りを受け入れたが、それだけだった。僕は小林に吉田があの後どうなったかを聞こうとすると、その間に田中さんが割って入り、小林に頭を下げた。
「何について、謝るんだ?」
 と、小林は田中さんに聞いた。
「えっと……あの……手を……噛んだ事と、……暴言を吐いたことです」
「…………分かった」
 小林は田中さんの頭を撫でた。

 田中さんは珍しく、下校に僕を誘わなかった。きっとあの喫茶店に一人で行ったのだろう。だから僕も行くことにした。
 店内に入ると田中さんはすぐ見つかった。店員が声を掛けてきたが、待ち合わせです、と言って田中さんの向かいの席に座った。田中さんは、無礼ね、と小さく呟いたので、僕は今更ながら、前いいですよね、と聞いた。田中さんは小さく頷いた。
 田中さんはミルクたっぷりのコーヒーとあのカツサンドを注文していた。僕はサラダを注文した。カツサンドは、三分の一ほど齧られていた。
 僕が田中さんの目を見ると、彼女は目を背けコーヒーを少し啜り、角砂糖を掘り込んでかき混ぜて、まだ溶け切ってない打ちにもう一度啜った。とても小さくて気弱な動作で、いつまでも僕に目を合わせようとしなかった。
 僕は何かを聞こうと思っていたのだが、それは店に入った時点で忘れてしまっていた。結局目立った会話なく、僕と田中さんは店を出た。今回の会計は、田中さんが無理やり僕の分も払った。カツサンドは半分ほど、皿に残ったままだ。

 外には、少し冷たい風が吹いていた。田中さんのショートカットの髪はサラサラと揺れる。彼女の頬っぺたは寒さで赤くなっていて、スカートが翻るたびに寒さを訴えた。確かに寒そうだ、と僕は笑った。でも田中さんは笑っていなかった。
「お願い」
「何を」
「お願い」
「だから何を」
「お願いしてるの」
「僕には何も出来ない。少なくとも、用件を言ってくれない限り」
 田中さんは息を吸って、吐いて、吸って、言った。
「どういう風にお願いしたらいいか分からないけれど、私は、散りたくない」
「……、どういうことだよ」
「そのままの意味」
 田中さんは俯いたままだ。
 僕はそんな田中さんを撫ぜることもなにも出来ない。
「都会ではさ。大人になると脳みそに機械埋め込むんだってね」
 田中さんは顔を上げて、徐に言う。
「霧散についての法律が出来たときに、なんでこんなものできたんだって思ったけど、全部あの機械の仕業なんだよね。そうじゃないと、あんな変な法律が通るわけ無いもん。ねえ、何なの一体、霧散って」
「僕が知っている限りなら、それも神崎から聞いた話だけど、それでもいいなら話す」
「話して」
「やだ」
「何で」
「語弊があるから」
「そう」
「ただ、僕が言える事は、霧散は死じゃないって事。死は停止だけど、霧散は生だし、只互いに認知不可になったに過ぎない」
「…………」
 田中さんは再び俯いて黙り込む。
「吉田と喧嘩したのも、これが原因か」
 小さく頷く。
「だってあいつ、霧散は死だ死だっていうんだもん。そんなこと言うことも法律違反だって知ってるのに。それに、法律に従わないと……」
「神崎が死んだことになる……」
「……、私は神崎を絶対に殺さないよ。イカレた法律がまかり通る社会は大嫌いだけど、神崎が居ない世界はもっともっと嫌い」
 イカレてるのは田中さんなのか社会なのか神崎なのか、果てまた僕なのか、一体どうなっているんだろう。



 田中さんと吉田が喧嘩した日から、早くも一週間経った。
 吉田はあの後、誰が密告したかは知らないが、喧嘩中に言ったあの言葉の所為で逮捕されたらしい。田中さんはそれを聞いたとき何とも言わなかった。
 僕も田中さんも、勿論吉田も、霧散を死呼ばわりすることが駄目なことは知っている。散った人の尊厳もあるし、そもそも散るということは肉体が無くなるだけだからだ。ただ、幽霊とは別物で、何が何でも絶対にお互いに認知できない。それだけで、死んではいない。
 吉田は捕まる前に田中さんに手紙を書いていたらしい。今日の放課後に田中さんがそれを読んでいて複雑な表情をしていた。僕が手紙のことを聞くと正直に答えた。小林は、人の手紙を覗く趣味は無い、と言って何処かに行った。
 田中さんは、素直に僕にも手紙を見せてくれた。差当たりの無い言葉――「これから捕まりますが実感が沸きません」「なぜならこんな手紙を書いている余裕があるから」――で、始まっていて、これもまた差当たりの無い言葉――「この手紙は田中さん充てに書いた心算でしたが、きっと他の人も読んでいるでしょう」「でも小林君だけは読まなさそうだと思いました」――で、締められていた。
 僕は手紙を読んだ後、小林にその話をしようと思って彼を探した。小林は図書室で本を読んでいた。僕がその話をすると、彼は、密告者をどうするかと聞いた。僕は、密告者は田中さんじゃないと思うから関係ないと言った。それには小林も同意したが、僕と彼以外の生徒がどう思うかは少し懸念した。
 だが案外にも、誰も密告者のことは口に出さなかった。僕と田中さんと小林以外の全員がグルなんじゃないか、というような気までした。

 放課後、僕たち三人は喫茶店に行った。
 小林と田中さんはカツサンドを、僕はサラダを注文した。昔は何かあると、いつもここに逃げ込んだな、と小林は言ったが、当時は田中さんが居る場所に神崎が居た。他にも、紘瀬や吉田や佐藤が居たりもしたが、もう皆どこかに行ってしまっている。そして神崎がどうして田中さんにこの場所を教えなかったのか、僕には知る良しも無い。推測するのも結局は邪推にしかならないだろう。
 当の田中さんは、反芻するように手紙を何度も読み返し、その言葉を頭の中でも反芻していたようで、カツサンドには手を出していなかった。でも、料理に手を出していないのは、小林も僕も同じである。
「霧散が死じゃないなら、死って一体何なんだろう……」
 田中さんが呟いたが、僕も小林も答えなかった。田中さんは言葉を続ける。
「霧散が死だって認めると、神崎は死んじゃう。紘瀬も死んじゃう。でも、霧散って本当に生なのかな」
「未だ生を知らず、焉んぞ死を知らんや」
 小林が割ってはいり、田中さんは黙りこんだ。

 小林はその後、カツサンドを素早く平らげ、僕に自分の分の代金を渡すと早々に立ち去った。彼が店を出た後、田中さんも自分の分の代金をを僕に渡し、カツサンドにかぶりついた。かぶりつく度に涙ぐんでいく。また泣くのか、と僕が聞くと、田中さんは小さく頷き、神崎はこのカツサンドが好きだったんだよね、僕に聞いた。僕は、多分、とだけ答えた。
 そうして、田中さんはカツサンドを食べきった。美味しかったとは言ったが、表情は暗いままで、時節、鼻を啜る音が聞こえた。
 泣いてばっかりだと、神崎にも紘瀬にも小林にも吉田にも、僕にも示しがつかないと言っても、田中さんは頷きもせず、さらに深く頭を垂れるばかりだった。僕はコーヒー二人分を追加で頼んだ。片方はブラックでもう片方はミルクを入れた。田中さんはブラックを選んだ。
「神崎は……、ブラックは好きだった?」
「さあね。僕が知っていることといえば、彼はミルクがそう好きじゃなかったみたいだ」
「…………、霧散した神崎は、只の視点として私たちをいつも見ているのかな」
「そうおもうと?」
「少し恥ずかしい」
 苦笑して、言葉を続ける。
「でも、少し嬉しくもある。私の場合は、だけど」
 田中さんはコーヒーを飲み干して、一息ついた。とても深い一息だった。
 そしてじっと僕の目を見た。
「大人に成れなかった奴らは、大人に成りたくなかった奴らだ」
 僕がそういうと、田中さんは満更その解釈が嫌いではないようで、少し笑った。


 翌日は土曜日だったから半ドンで、僕と田中さんは昼から二人で町中を行く当てもなくブラブラすることにした。そうでもしないと、今度は僕たちがどこかに行ってしまいかねないからだ。ブラブラしながら、無意味なことを沢山した。
 乗りもしないくせに、一番近くの駅までの切符を買って、ホームでずっと電車を待った。
 電車が来ないときは線路に下りて、駅員さんに気付かれ怒られるまで遊んだ。
 駅を追い出された後はゴミ捨て場に行って、ドラム缶の中に爆竹を入れて発火した。
 それにも飽きたら、僕は其処に捨ててあったギターを適当に調律し、即興でコードを三つしか使わない曲を弾き、田中さんは即興で歌った。歌詞はとても滅茶苦茶で笑えた。
 ギターの弦が切れると、コンビニでコンドームを買って公園へ行き、そこでそれを水風船みたいにして投げ合って遊んだ。
 お互いずぶ濡れに成ってしまい寒かったので、公園の防災倉庫の中に入って身を寄せ合った。倉庫の中は暗かったが風が入らず暖かかった。
 ある程度身体が温まると、今度は濡れた服を乾かさなければならなくなった。田中さんは、服を脱いで、それを外に干している間、裸で抱き合おうと言った。そしてポケットの中からコンドームを取り出した。
 僕は笑った。
 それはとても無意味な笑いで、田中さんも釣られて無意味に笑った。
 コンドームは、また僕たちみたいな若者がここに逃げ込んだ時のために、ここにおいて置く事にした。これはきっと、この日に田中さんとした事の中で最も意味のある行動だと思う。
 大人になれない私たちは、大人になれない奴らだ、と田中さんは言った。
 近くの河川ダムから放流のサイレンが聞こえてきた。もう辺りは暗くなっている。
 僕たちはずぶ濡れのまま町を歩いて、各々の家へ帰った。
 案の定風邪を拗らせたが、日曜日一日を寝て過ごしたら、月曜日には治ってしまった。
 月曜日から、僕と田中さんは再び日々に忙殺されて、死体は日々に埋もれていく。




 週末に近づくにつれ、僕の周りの忙殺体は増えていく。今週は水曜日の時点で既にモルグと化していた。腐臭は眠気を起こし、僕はブラックガムで奴らと戦う。小林は死体組で、田中さんは既に居眠りを常習していた。僕は忙殺されたくもなければ睡魔にも負けたくなかったが、そう考えて行動しているうちに僕は忙しくなり、その反動で眠たくもなった。
 僕はその忙しなく揺らめく人のうねりの中に、一度だけ神崎を見た。一瞬だったから見間違えた可能性は否定できない。彼はまっすぐ僕を見ていたが、一刹那の間だけでも僕の視界が遮られると、彼はそこから消えていた。
 彼は僕に何を言いたかったのだろうかと考えたが、もしかしたら何も言えなかったのかもしれない。否、言うべきで無かったのかも知れない。
 でもそれは単に、彼が神崎でなく僕の見間違いであったとしたら、簡単に解決する事なのだ。
 この事は田中さんと小林には黙っておくことにした。
 黙っていれば、神崎がもう一度姿を見せてくれそうな気がしたからだ。
 もしかしたら紘瀬も顔を出してくれるかもしれない。
 僕の存在は、田中さんたちよりも、寧ろ神崎たち寄りだと思った。

 昼休み、田中さんは久しぶりに放送室に行き、レッドツェッペリンをお昼の放送として校内に流した。僕も弁当のおかずだけを食べて、放送室に行った。そこには小林も居て、田中さんとジョン・ボーナムがどれほど天才かを語り合っていたが、僕はツェッペリンのメンバーで名前を知っているのはジミー・ペイジだけだったので、二人の間に入って、ヤードバーズにおけるジミー・ペイジを語った。意外にも、田中さんはヤードバーズを知らなかった。
 放送が終わった後、スタジオの隅に古いギターが置いてあるのを小林が見つけ、ランブル・オンのイントロを弾いた。僕は、勿論歌詞なんて知ったこっちゃ無いが、適当にそれにあわせて、それっぽく歌った。午後の授業の始業チャイムが鳴ったが、僕たちは授業をほっぽりだしてそのまま放送室に居座った。
 田中さんは放送ジャックをやりたがったが、小林がやんわりと止めた。
 そして、トランプド・アンダーフットを歌ったあと、コードを三つしか使わない曲を即興で何曲か弾いた。あの土曜日のように、僕と田中さんはそれに合わせて適当に歌った。
 そのまま帰りのHRにも出席せず、十七時ごろまで放送室にいた。
 最後に皆で蛍の光を歌ったが、勿論歌詞は滅茶苦茶だった。


 学校を出て家についた頃にはもう十八時に近かった。
 母は夕食の準備をしていた。父は僕が帰宅して三十分ほど経った頃に帰ってきた。
 夕食は焼き魚とご飯と味噌汁と漬物と煮物で、特に会話なくそれを食べた。
 食後すぐに自室へと行き、ベッドに突っ伏した。深呼吸をしようとすると、毛布の埃が喉に入り少し咽た。そしてインフレーション宇宙のことを考えた。
 インフレーション宇宙のことを考えていると急に睡魔が襲ってきたので、デカルトの性癖について考えることにしたが、結局デカルトの性癖も睡魔には勝てなかった。
 夢の中で、僕はまた神崎に会った。だが、もしかしたらそれは紘瀬だったかもしれない。只、僕の中にある、散った人間の記号で代表が其処に居たのは確かだった。そしてそいつは、目を醒ませ! と叫んだ。僕が、せっかく寝たのに起きるのは癪だと返すと、そういう意味じゃないと突っ込まれた。
「生が生たらしめる部品は死を死たらしめる部品より多いと思うか?」
 そいつは僕に聞いたが、そいつは僕の夢の中の住人である限り僕の一部にすぎないので、答えは知っているはずだ。だが僕は答えを知らない。
「答えの無い答えというのは、ある種の答えだと思わないか?」
 そいつは続ける。
「内向的に完結した物語、それが所謂死なのかもしれない。モノローグがある限り物語は続く。だがここで一つ問題が起こる。独り言とは、単なるモノローグのアウトプットなのだろうか?」
「全てはインフレーションから始まって、そしてデカルトの性癖のように終わるんだ」
「一気に膨大した後は、人形に魂が宿る?」
「デカルトが人形に性愛を抱いていたかどうかは知らないけどね」
「人形は完結的?」
「人形が生きているかどうかは、そもそも僕らが生きているかどうかはどうやって判別すればいい?」
「霧散は?」
「生だ」
「死は?」
「停止だ」

 母が僕の名前を呼んだ所為で目が醒めた。どうやら田中さんから電話らしい。
 僕が寝ぼけた声で電話に出ると、ノイズの奥で田中さんは苦笑した。
 そのノイジーな苦笑は、僕の脳味噌を叩きおこし、田中さんが僕に電話を寄こすということは割りと重大な事が起こっているのであろう事を気づかせた。
 でも、田中さんは只、何にも無い、声が聞きたかっただけ、としか言わなかった。何か重大なことを考えていた僕は拍子抜けしたが、田中さんの言葉に嘘はないようにも聞こえた。
 差当たりの無い言葉を少し交わし、田中さんから一方的に電話は切られた。僕の脳はまた数分前のように鈍くなり、身体はベッドに倒れこんだ。夢を見ることはなく、目が醒めたら二一時を回っていた。
 月や星は生憎曇って見えなかったが、空を行きかう飛行機や、道路の街灯が天体のように見えた。
 その中でも、一際月の様にも輝く大きな建造物がある。政府の施設で、霧散の管理を行っている施設らしい。戦後に統治軍の団体との共同出資で建設されたという事も昔聞いた。
 二四時間眠らないのか、それとも寝るという概念が存在しないのか、一体どっちなのかと考えさせるほど、煌々と輝いている。
 眠気を誘う光だ。



3, 2

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